通信ログ
国公立大学通信 2003.06.05(木)

--[kd 03-06-05 目次]--------------------------------------------
[0] 「国立大学法人法案」に反対する意見広告の会:第三次 意見広告の案内
[1] 田中広允「新しい大学の創成に向けて−大学改革論文集−」2003
[2] 6月6日午後2時より教育法学者 記者会見:於文部科学記者会 
  [2-1] 植田健男氏からのメッセージ抜粋
[3] 6/4東京新聞、岡田智弘「国立大学法人法案 国策にこびた研究・教育へ」
[4] 6/4「参院委:教育研究になじまない、大学法人法案 参考人から批判」
[5] 6/4 東京大学職員組合から佐々木毅総長への抗議文
[6] 京都大学再生医科学研究所所長 中辻憲夫氏からのお便り
  [6-1] 編集人から中辻氏へ
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[0] 「国立大学法人法案」に反対する意見広告の会:第三次 意見広告の案内
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#(広告の会から「一部の「呼びかけ人」の高額の資金提供によって基金を準
備しています。少しでも負担を軽くする意味で、どうか皆様の浄財をご提供下
さいますよう、お願い申しあげます。」と有りました。)
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□掲載紙 6月10日「読売新聞」朝刊 東京本社版
□内容
 ・各界著名人で「法案大反対」の方々に自由に反対意見を述べてもらいます。
 ・5/21の「毎日」掲載の「説明・意見」を基調とします。
 ・呼びかけ人氏名は掲載しますが賛同者氏名は掲載はしません。
  (氏名掲載希望の方は「呼びかけ人」にお加わり下さい。
   「呼びかけ人」に特別の義務はありません。)
□申し込み先
    メールの宛先   houjinka@magellan.c.u-tokyo.ac.jp
            campaign@sbp.fp.a.u-tokyo.ac.jp
              信頼性を考慮し、上の2箇所に登録メールをお送り下さい。
    FAXの宛先  03−3813−1565 電話兼用
□申込記入事項
   氏名    「漢字」  
   氏名    「ひらがな」  
   所属機関  
   連絡先住所  
    連絡先メールアドレス
   醵金の口数(一口5千円)
□振込について
  ・実際のお金の振込は、まだ必要ありません。
  ・郵便振替口座は新設して、メール便などでお知らせ致します。
□注意
・第三次は過去2回の「意見広告」と一応切り離されたプラン。
・実際の入金は、少々後でも構いません。
・第二次広告までの振替口座への振込みは、過去2回の「意見広告」への賛同金
  として扱いますのでご了承ください。
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[1] 田中広允「新しい大学の創成に向けて−大学改革論文集−」2003
   #(入手等の連絡先:fax:099-252-0129、メールの場合は編集人へ)
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[2] 6月6日午後2時より教育法学者 記者会見:於文部科学記者会 
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【声明】

国立大学法人化法案は、明らかに憲法23条及び教育基本法10条に抵触する
          −同法案の廃案を訴える−

                      日本教育法学会会員有志

1

去る2月28日、小泉内閣は国立大学法人法案を閣議決定し、同日、国会に上
程した。この法案の特徴は、国立大学を独立行政法人化することで、その研究
教育に対する国家財政支出のあり方を一変させる点にある。

  この法案においては、文部科学大臣が個々の大学の中期目標を決定し、個々
の国立大学法人がそれを実現するための中期計画を策定して、同大臣の認可を
受け、計画期間終了時に個々の国立大学による目標達成度を文部科学省に設置
される評価委員会と総務省に設置された評価委員会によって評価されることに
なっている。そして、その結果に基づき、大学組織の改廃に関する実質的な決
定が行なわれ、また、運営交付金の額が決定される。

  私たちは、国立大学法人法案が、憲法23条の「学問の自由」を根本から否定
し、教育基本法10条2項に規定された「諸条件の整備」を逸脱し、それによっ
て禁止されているはずの教育研究に対する統制権限を行政機関に付与するもの
で、大学のあり方を根本的に規定しているこれらの条文に違反しているものと
判断し、この法案の廃案を訴える。


2

教育基本法10条は、教育は不当な支配に服することなく、国民に対し直接に責
任を負って行なわれなければならないと規定し、これを実現するために、教育
行政の任務を教育の目的を遂行するために必要な「諸条件の整備」に限定して
いる。教基法10条が、初等中等教育行政のみならず、高等教育行政にも適用さ
れるものであることは、戦前の中央集権的な教育行政が教育のみならず、学問
にも深刻な否定的影響を与えていたことの反省に基づいて起草されていたこと
からも明らかである。高等教育行政もまた教育行政である以上、教基法10条に
言う「不当な支配」の禁止と、教育行政の条件整備義務は、当然に、大学行政
にも適用されるものである。

  大学において、教育基本法10条は具体的に何を意味するのか。憲法付属法律
として制定された教育基本法のいかなる条項も、憲法の関連条項と一体的に理
解されるべきものである。殊に大学行政についてみる場合、教基法第10条は、
憲法23条の定める「学問の自由」と関連付けてその意味が理解されなければな
らない。

  無論、「学問の自由」はすべての国民が享受する自由であり、大学人の特権
的な自由ではない。しかし、「学問の自由」は、大学人にとって、次のような
特別の意味を持つものと理解される。すなわち、およそ何人であれ、大学にお
いて職業的研究に従事しようとすれば、大学の設置者に雇用され、それが提供
する施設設備を利用するという形態をとらざるを得ない。市民法秩序をそのま
ま適用すれば、被雇用者として研究に従事する職業的研究者は雇用者の命令に
服さなければならない。しかし、学問が目的とする真理の探究には、研究者の
自発性を必須とし、設置者ないし雇用者との関係において個々の研究者の自律
性を確保することが不可欠である。それ故、「学問の自由」の中核的な意味は、
市民法秩序に修正を加えて、被雇用者である研究者の自由の確保を、雇用者な
いしは大学設置者に対して義務づけた点にある。

  このような「学問の自由」の意義に照らせば、教育基本法10条が教育行政の
任務を「諸条件の整備」に限定したことの中には、大学設置者ないし雇用者で
ある国が、その金銭の支配力をもって研究教育に介入することを禁止するとい
う意味も含まれていると理解することができる。

  そして、戦後における大学法制と政策は、紆余曲折があったとはいえ、教育
基本法10条のこのような意味を踏まえ、次のような仕組みを維持してきた。す
なわち、大学の組織編制、規模、講座名・学科目名、を法令により決定し、積
算校費を配分したところで行政権力の及ぶ範囲はストップし、それから先の研
究教育内容と財源使用に関する決定は個々の研究者および研究者コミュニティ
に委ねられ、彼ら・彼女らの自発的な創意に基づいて、研究と教育が自律的に
発展させられてきたのである。

  そこでは、行政権力による一方的な組織の改廃が一貫して否定され、また、
研究教育の短期的成果や国策に対する有用度に応じた財源配分はあくまでも上
乗せ的措置としてのみ許容されていたに過ぎないのである。

3

国立大学法人法案は、憲法23条・教基法10条に基礎を置くこれまでの国立大学
法制の仕組みとはまったく性格を異にした仕組みを提案している。文部科学大
臣による研究教育の目標設定と、目標達成に関する国の評価に基づいて、大学
組織の改廃が決定され、あるいは財源の増減額を決定することが予定されてい
る。これは、大学組織と研究費配分を、研究教育の成果に対する行政権力の一
方的な評価に基づいて下される決定に委ねるものである。

このように、法案が想定する仕組みにあっては、行政権力は研究教育内容の評
価と一体となっている組織改廃権限および財源配分権限によって、国立大学に
おける研究教育を全面的にコントロールすることができる。これは、憲法23条
の「学問の自由」の中核的な意味である大学研究者の設置者ないしは雇用者に
対する自由を根本から否定し、さらに、教育基本法10条2項に規定された教育
行政の固有の任務である「諸条件の整備」を逸脱し、それが黙示的に禁止して
きた行政権力の権能、つまり、組織改廃と財源配分による研究教育のコントロー
ルを作動させるものであるといわざるを得ない。


4

私たちは、国立大学法人法案は憲法23条および教基法10条に違反し、なかんず
く、教育行政の条件整備義務から明白に逸脱するものであると結論する。そし
て、国会に対しては、この法案を廃案とするよう強く求める。すべての大学人
に対しては、法案を廃案とするためにあらゆる必要な行動を起こすよう切に訴
える。


			 呼びかけ人(19名)

 代表:成嶋 隆(新潟大学教授)

 姉崎洋一(北海道大学)、井深雄二(名古屋工業大学)、今橋盛勝(筑波大学)、
植田健男(名古屋大学)、小野田正利(大阪大学)、小林武(南山大学)、榊達雄 
(名古屋大学名誉教授)、佐久間正夫(琉球大学)、佐藤修司(秋田大学)、中嶋哲
彦(名古屋大学)、仲田陽一(熊本大学)、林量俶(埼玉大学)、成嶋隆(新潟大学)、
星野安三郎(東京学芸大学・立正大学名誉教授)、堀尾輝久(元中央大学・東京
大学名誉教授)、松浦克(神奈川県立足柄高校)、三輪定宣(千葉大学名誉教授)、
森英樹(名古屋大学)、世取山洋介(新潟大学)



		      法学会会員賛同者(58名)


 足立英郎(大阪電気通信大学)、青砥恭(上尾高校)、新井章(弁護士)、新井秀
明(横浜国立大学)、荒井文昭(東京都立大学)、荒牧重人(山梨学院大学)、石井
拓児(名古屋大学) 、磯村篤範(大阪教育大学)、伊藤秀明(社会教育主事)、大
橋基博(名古屋造形芸術大学短期大学部)、大村恵(愛知教育大学)、尾山宏(弁
護士)、加藤文也(弁護士)、嘉納英明(琉球大学教育学部附属小学校)、川口彰
義(愛知県立大学)、喜多明人(早稲田大学)、北川邦一(大手前大学)、窪田眞二
(筑波大学)、久保富三夫(神戸市立楠高等学校)、小島喜孝(東京農工大学)、木
幡洋子(愛知県立大学)、小林和(民主教育研究所)、佐野正彦(大阪成蹊短期大
学)、三羽光彦(岐阜経済大学)、杉山和恵(名古屋大学大学院)、高野和子(明治
大学)、高橋哲(東北大学大学院)、田村桂子(愛知県立大学)、田沼朗(身延山大
学)、俵義文(立正大学・非常勤講師)、土屋基規(神戸大学)、坪井由実(愛知教
育大学)、中村雅子(桜美林大学)、浪本勝年(立正大学)、南部初世(名古屋大学)、
丹羽徹(大阪経済法科大学)、永井憲一(法政大学)、平塚眞樹(法政大学)、平原
春好(神戸大学名誉教授)、福長笑子(日本子どもを守る会・三多摩高校問題連
絡協議会)、藤岡恭子(名古屋大学大学院)、藤原四郎(神奈川教育問題懇話会)、
船寄俊雄(神戸大学)、舟木正文(大東文化大学)、松元忠士(立正大学)、松元善
郎(自治体問題研究所)、細井克彦(大阪市立大学)、本多滝夫(龍谷大学)、松原
信継(名古屋大学大学院)、三上昭彦(明治大学)、南新秀一(鹿児島国際大学)、
光本滋(北海道大学)、室井修(和歌山大学名誉教授)、室井力(名古屋大学名誉
教授)、山本健慈(和歌山大学)、吉岡直子(西南学院大学)、米田俊彦(お茶の水
女子大学)、渡部昭男(鳥取大学)。

			     非会員賛同者


 中川ひろき(千葉大学)、野崎浩成(愛知教育大学)、佐藤廣和(三重大学)、冨
岡茂雄(東京大学)、園田貴章(佐賀大学)、勝山吉章(福岡大学)、大和田勝久
(九州大学)、中村郁(北海道大学)、中溝幸夫(九州大学)、苅米一志(筑波大学)、
近藤義臣(群馬大学)、(愛知教育大学)、藤井啓之(愛知教育大学)、藤田昌士
(元立教大学教授)、山村滋(大学入試センター)
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[2-1] 植田健男氏からのメッセージ抜粋
        (名古屋大学 f43864a@nucc.cc.nagoya-u.ac.jp)
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「・・・呼びかけ人はもとより、賛同人の皆さんにもできる限り参加して頂き
たいのです。

 できれば何か一言、その場でマスコミに向かってご発言下さい。もちろん、
同席して下さるだけでも力になります。

 期日は、6月6日(金)午後2時から2時半までと決まりました。場所は、
「文部科学記者会」です(文部科学省三階)。なお、同日午後6時から、東京大
学の安田講堂でシンポジウム「国立大学の法人化を考える夕べ」が開催されま
す。国大協総会を前にした時期でもあり、国会審議との関係でも、このシンポ
を内容的にも規模の面でも成功させることは、きわめて重要です。こちらの方
にもご出席をお願い致します。
  ・・・・・・
 あらためて、現時点での賛同者を掲載します。記者会見までにもっと拡げて
頂き、ご報告頂ければさらに力が増します。
 呼びかけ人と賛同者は着実に増えており、現在、合計77名の会員の方から
賛同を得ることができています。」
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[3] 6/4東京新聞、岡田智弘「国立大学法人法案 国策にこびた研究・教育へ」
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国立大学法人法案
国策にこびた研究・教育へ

京都大学教授

岡田智弘(京都市左京区)

 国立大学法人法案が、衆議院で与党の数の力によって可決され、参議院に送
られた。衆議院での議論を見る限りこの法案で、政府が掲げる大学の自律性が
確保できる保証はなく、むしろ国立大学本来の責務が果たせなくなるのではな
いかという疑念のほうが深まったといわざるをえない。大学が成り立つ基盤で
ある財政の問題に絞って、私見を述べたい。

 日本政府が支出する高等教育費は、対GDP費で見ると先進国中最低、しか
もほぼ半分の水準である。

 今回の法人化によって、高等教育費の主要部分を占める国立学校特別会計が
無くなる。代わって、授業料や医療収入といった自己収入のほかに、国から運
営費交付金が支出されその不足分を補うことになる。

 しかし、その交付金の算定基準や授業料水準はすべて政府が決めることになっ
ており、そこに大学の自律性が入る余地はない。しかもこの交付金も行政コス
ト削減計画の対象となって、今まで以上に高等教育費がカットされる恐れもあ
る。

 さらに、法人化にあたって、多くの国立大学にある医学部付属病院の施設整
備のための累積債務も継承することになる。これまでは一般会計からの繰り入
れで返還してきたが、法人化を機に、債務の返済責任を各大学に振り分けると
いう。

 債務返還額については交付金で措置すると答えているが、先発の独立行政法
人国立病院機構の交付金を見ても既に交付金を依存しない経営体質をつくるこ
とが目標として示されている。

 そうなれば、病院の経営効率化 (人員削減や保険単価の低い医療の抑制など) 
や、学費の引き上げへの波及も危ぐされる。

 しかも、交付金については、文部科学省の下におかれる評価機関の評価によっ
て配分がなされる。さらに六年間の中期計画終了後、総務省の評価期間によっ
ても評価され、その勧告次第では大学あるいは学部の縮小、廃止、民営化もあ
りうるという。

 これでは、短期間に成果があがり、その時々の国策に媚びた研究・教育ばか
りがはびこることは目に見えている。その半面で、国立大学が本来なすべき長
期的な学術研究や人材育成は軽視されざるをえないだろう。

 このように、法人化は、決して自律的な大学をつくるものではなく、財政措
置と評価によってがんじがらめにされて、これまで以上に大学を政府のコント
ロール下に置くものである。そうなれば、本来の役割を果たせないばかりか、
国民にも負担を強いることになる。 国家百年の大計というのであれば、徹底
的な審議が必要である。良識の府である参議院の賢明な判断に期待したい。」
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[4] 6/4「参院委:教育研究になじまない、大学法人法案 参考人から批判」
      しんぶん赤旗  2003年6月4日
    http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030604akahata.html
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「参院文教科学委員会は三日、国立大学法人法案について、六人の参考人から
意見を聴取しました。

 法案賛成の参考人も含め、さまざまな疑問や懸念が出されました。

 東京大学社会科学研究所教授の田端博邦氏は、国立大学法人化の動きは大学
改革の必要性からではなく、国家公務員の削減という「行政改革」の議論が発
端だと指摘。その結果、今回の法案は、“中期目標・中期計画を文科相が決定・
認可する”など、教育研究になじまないものになっていると批判しました。

 大阪大学社会経済研究所教授の小野善康氏は、自らの研究所が「規模が小さ
い」「外部のカネをとってこない」との理由で廃止の対象とされ、それに反論
する資料作りに五カ月間忙殺された体験をリアルに証言。「文科省による評価
がちらつけば、現場は研究はほどほどに、カネをとってくる対策や文科省対策
に追われるようになる」と述べました。

 お茶の水大学学長の本田和子氏は、法案を「了承する」との立場ながら、
「小規模大学はトータルの論文数では勝負にならず、どういう基準で評価され
るのか不安だ。学外からの資金導入も難しく、評価が運営交付金の配分に連動
するのも不安だ」と訴えました。

 日本共産党から林紀子、畑野君枝両議員が質問に立ちました。」
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[5] 6/4 東京大学職員組合から佐々木毅総長への抗議文
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030607toudaisoutyoukougi.html
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[6] 京都大学再生医科学研究所所長 中辻憲夫氏からのお便り
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「国公立大学通信 編集発行人
辻下 徹 様

 国立大学の独立法人化に関わる問題点についての貴重な情報源として、国公
立大学通信の配信を受けて毎号目を通させて頂いております。ご努力に対して
お礼を申し上げます。しかしながら、6月2日に配信された「国公立大学通信
2003.06.02(月)続き」の内容に関して、私どもの京都大学再生医科学研究所が
深く関わっている問題が含まれておりますので、無視するわけにはゆかず、一
言意見をお送り致します。私からのこの文書についても、同様に配信して頂き
たくお願い申し上げます。

 国公立大学通信は、我が国の高等教育の将来にとって重要問題である独立法
人化に関連する情報や意見の配信サービスを行っており、配信を受けることを
了承した主として大学人のメンバーの間での、我が国における大学の将来に関
する議論を助けることを目的としていると理解しております。その中で、教官
の任期制の問題が取り上げられました。そして今回の配信の中で、「[8] 阿部
泰隆氏(神戸大学法学研究科教授)からの便り」、については、概ね任期制全
般に関する問題点指摘であり、国公立大学通信の目的にも合致したもので、私
から特に意見を申し上げることはありません。私どもも、任期制の導入には、
適切な運用と公正な手続きを整備することが不可欠であると考えております。

 しかしながら、それに続く、「[9]阿部泰隆「大学教員任期制法への疑問と
再任審査における公正な評価の不可欠性」」の内容が配信されたことには大い
に疑問を感じます。この文書の内容は、京大再生医科学研究所と前教授の間で
起きている訴訟に関するもので、前教授の立場を一方的に説明する文章になっ
ています。阿部氏も書いておられるように、この文書は阿部氏個人のホームペー
ジに掲載した文章をそのまま国公立大学通信に送付したものですが、このよう
な特定の個人に関係し現在係争中の問題を、大学人の間である程度の公共性を
もつ配信サービスとしての地位を獲得している国公立大学通信という場に、そ
のまま配信したことは、極めて不適切と考えます。

 なお、前教授の再任問題については、これまで再生医科学研究所の立場や反
論を公表することは控えておりますが、今後の裁判の場で明らかにしてゆくつ
もりであります。このように、両者の立場や意見が真っ向から対立している係
争中の問題について、具体的で一方的な意見を配信することは、我が国の高等
教育の将来を憂える立場で活動されている国公立大学通信を、異なる目的のた
めに利用される結果になったと言わざるをえません。

 以上、今回思いがけない内容の配信を受けられた方々に対して、京都大学再
生医科学研究所の立場から疑問と注意を喚起する文章をお送りさせて頂きまし
た。

2003年6月4日
京都大学再生医科学研究所
所長 中辻憲夫

追伸:私としては、係争中の問題について、このような場で具体的な内容につ
いて議論するつもりはありません。」
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[6-1] 編集人から中辻氏へ#(加筆修正しました)
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「京都大学再生医科学研究所 所長
中辻 憲夫 様

お便りありがとうございます。

この「京大事件」は、「業績的には問題がなくても再任されない例」として、
大学関係者の大半が強い関心を持っていますが、2月に報道されて以降、全国
的には何も報道されていなかったため、阿部教授の許可を得て[kd 03-06-02b]
[9]を掲載しました。実際、情報はほとんど伝わっておらず、地位保全の仮執
行処分申請が行なわれたことは報道されましたが、それが却下されたことは風
聞で知っただけですし、また、本訴が開始されていること、支援運動があるこ
とも、報道されていないと思われます。

従来、人事問題は当事者・関係者にしかわからない事情があるとして、部外者
は静観するのが大学の伝統であったと思います。しかしながら、国立大学全体
への任期制の広汎な導入について強い行政指導が行われていると推測される現
在、京大事件は最初の再任拒否例として、具体的な事情とは独立した歴史的意
味を帯びていることは否定できません。

その見地から、阿部教授の文書は再任拒否された側の状況についての報告であ
るがゆえに、通常考えられている理由とは異る理由によっても再任拒否が行な
われ得る可能性があることに大学関係者の注意を喚起する契機となる点で、
「公共的」意義を持っていると判断しました。

個人と公的機関との係争は、日本では個人がきわめて不利であることはよく指
摘されており、形式的「公平性」は、決して公平とは思えません。外部評価結
果と正反対の判断をした理由は裁判の過程でしか明らかにしない、という方針
を述べられていますが、訴訟が起きない限り再任審査の情報公開はしないとい
う慣習が形成されることにならないでしょうか。今後、これまでの大学とは正
反対のトップダウンな意思決定が大学でも行なわれ、その意思決定が不透明な
ものとなることが危惧されている現在、その先駆けのような事例が出きること
を多くの者が懸念しております。」(編集人)
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・記号#(−−−)は編集人の挿入。

・連絡等は以下を編集発行人へ
     配信停止の場合(配信停止まで数日かかることがあります)は
       no-kd
     停止するアドレスが発信アドレスと異る場合は
	no-kd-1
     二度目の配信停止連絡の場合は、
	no-kd-2
とSubject欄と記して御送りください。

・転送等で間接的に受信された場合の直接配信申込は
       sub-kd
とSubject欄と記し、本文にご氏名とご所属を記載してください。

・転載・転送等を歓迎しますが、その際、ログページのURL 
  http://ac-net.org/kd
を併記してくださいますようお願いします。
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
国公立大学通信ログ:http://ac-net.org/kd
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配信数 27691