通信ログ
国公私立大学通信 2003.07.13(日)
--[kd 03-07-13 目次]--------------------------------------------
[1] 渡邊信久氏ウェブサイト:日記風雑記 より
http://castor.sci.hokudai.ac.jp/~watanabe/diary/2003/index.html
[1-1] 2003/07/08 火曜日 国会
[1-2] 2003/07/09 水曜日 法人化と大学の自主・自律 - ひとつの幻想
[1-3] 2003/07/12 土曜日 ブラウンレポート
[2] 読売新聞大阪本社編「大学大競争」:白川英樹氏インタビューより
[3] 梨戸 茂史(教育評論家)「国営?民営?」
『文部科学教育通信』2003年7月14日号 No.79 教育ななめ読み 26
[4] 新聞報道
[4-1] 共同通信 2003年7月8日付
国立大法人法案を可決 自主性重視で委員会決議
[4-2] Nikkei Net 2003年7月8日付
国立大学法人法案、9日成立
[4-3] asahi.com 2003年7月8日付
89国立大法人、来春に誕生 9日に法案成立へ
[4-4] Mainichi Interactive 2003年7月8日付
国立大学:法人法案などが参院委で可決 9日成立へ
[4-5]『産経新聞』2003年7月9日付
国立大法人法案 きょう可決、成立 授業料など固まらぬまま
[4-6]『西日本新聞』社説 2003年7月10日付
「独立性」が問われている 国立大学法人
[4-7]『高知新聞』社説 2003年7月10日付
【大学法人化】羊頭狗肉とならぬか
[4-8]『沖縄タイムス』社説 2003年7月10日付
国立大法人法成立 独自性の発揮は難しい
[4-9]『徳島新聞』社説 2003年7月11日付
国立大学法人法成立 公正な運用が望まれる
[4-10]『読売新聞』社説 2003年7月11日付
[国立大法人化]「ギルド体質からの脱皮が必要だ」
[4-11]『愛媛新聞』社説 2003年7月11日付
国立大法人法成立 大学の自主性を尊重すべきだ
[4-12]『佐賀新聞』論説 2003年7月11日付
国立大学法人化 懸念解消し、自立促せ
[4-13]『南日本新聞』社説 2003年7月11日付
【国立大学法人】自主性を発揮できるか
[4-14]『琉球新報』社説 2003年7月12日付
国立大法人化・自主性発揮できる環境を
[4-15]『山陰中央新報』論説 2003年7月12日付
国立大学法人/文科省は大学の手足を縛るな
[4-16]『日本経済新聞』社説 2003年7月13日付
国私大間の競争格差是正を
[5] 『週刊新潮』2003年7月17日号 146〜147頁 日本ルネッサンス第76回
櫻井よしこ「国立大学を潰す"遠山"文科省」
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[1] 渡邊信久氏ウェブサイト:日記風雑記 より
http://castor.sci.hokudai.ac.jp/~watanabe/diary/2003/index.html
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[1-1] 2003/07/08 火曜日 国会
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非常に残念ながら,国立大学法人法案が参院文教科学委
員会で採決されてしまった.
野党委員が疑問点を質問しても,文科大臣や高等教育局
長らは問題無いと言い張るか,論点をずらした答弁を繰
り返す.議論は決してかみ合わず,問題点だけが次々と
積み残されていく.野党側が,まともに法案の問題点を
追求しても議論にならないから,野党側の出来ることは,
政府側答弁の矛盾点を突いて審議を止めることくらいし
かない.最終的には,議論を避け続けた与党・政府側が,
粘り勝った.
23項目もの付帯決議を付けないとダメな欠陥法案なら通
すな.6年ぶりに国会傍聴をしたが,国会での議論の仕
方は全く変わっていない.国会こそ「改革」が必要では
ないのか...
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[1-2] 2003/07/09 水曜日 法人化と大学の自主・自律 - ひとつの幻想
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残念ながら,国立大学法人法案が参議院も通過し,成立してしまった.
我々が,この法案になぜ反対していたのかの理由を如実
に示す記事が2003年7 月9日付日本経済新聞夕刊の『国
立大法人化「時間ない」』にある.
「交付金や中期目標 空振り覚悟で準備」という記事だ
が,その中でも気に入らないのは,例えば,
大阪大の宮西正宜副学長は情報不足を嘆く。国会審議の
中断で「中期目標の書き方を文部科学省に問い合わせて
も、返答が来なくなった。急に方針転換されたら対応で
きない」と困惑する.
や,
中期目標の達成状況を評価するため有識者らでつくる
「国立大学法人評価委員会」の発足は今年十月だが、委
員の人選や具体的な評価基準も示されていない。九州大
は「情報を待っていては物理的に間に合わない。非効率
かもしれないが、評価の対象とならない可能性があるも
のも含め"空振り"覚悟で大学の特色を中期目標に盛り込
む」(事務局)という。
だ.
いったい何処に,法人化による大学の自主性,自律性の
高まりがあるというのか.我々「ゴマメ」どもが,精一
杯危惧を表明し,反対活動をしていたのに,大学の「責
任ある」上層部はいったい何を考えているのか.憤りを
通り越して馬鹿馬鹿しさすら感じてしまう.
「反対者」の多くはまっとうな教職員だと私は信じる.
そういう多くの教職員を白けさせて,いったいどうやっ
て大学を「改革」して行こうというのだろうか.政治家,
行政屋の考えることはさっぱり理解出来ない.
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[1-3] 2003/07/12 土曜日 ブラウンレポート
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結晶学会の評議員会に出席する途中の電車・飛行機で読
んでいた「何が科学をつぶすのか?」井口和基(200
2,太陽書房)に,「ブラウンレポート」が紹介されて
いた.第二次世界大戦後のアメリカの看護婦不足を改善
するための調査報告だが,その中に以下の記述があるこ
とが紹介されている。
「民主社会においては,いかなる個人も,個人の集合体,
もしくは任意団体たることを問わず,何人といえども突
然の根本的な変革を命令する力を与えられてはいない.
そのような変革の行われる場合には,全国的または,州
または地域看護団体やその他関係機関,あるいは各州の
看護試験委員会などに諮って,長期的かつ慎重な計画を
経た上ではじめて行われる.より重要なことは,そうし
た変革は看護学校や地域社会において活動する何千人の
看護教育者たちの絶え間ない勇気と努力から生ずるもの
だということである.著者自身の意見では,現在,学校
の将来にとって,変革がどのような意味をもつかもっと
も心配するその人々の中にこそ,今後何年かの後に積極
的に,かつ成功裡に,自らの学校・施設に変革をもたら
すような人々が多数出てくるにちがいないと思われる.」
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[2] 読売新聞大阪本社編「大学大競争」:白川英樹氏インタビューより
2003.6.10 発行
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−−大学に対する研究費が競争的資金にシフトしていますが
「確かに競争的資金の充実は必要です。しかし一方で何
にも縛られないお金も特に若手研究者には大切です。こ
れは国立大だけのケースなので、強調するのはやや気が
引けるのですが、国立大の教授に 経常的に配分される
『教育研究基盤校費』のことです。私がノーベル賞を受
賞するきっかけとなった研究は助手時代に行ったもので
すが、その研究は昔の『講座費』、今の『教育研究基盤
校費』を使いました。非常に使い勝手がいいし、そのお
金を使ってアイデアが生み出せる。科研費などに申請す
る以前の研究にはなくてはならないものです。日本の基
礎科学の層が厚いのは、このお金のお陰ではないかと思っ
ています。総合科学技術会議議員の時にも、校費の充実
を文科省に要請しました。
文科省には米国と同じように100%競争的資金で、とい
う意見もあるようです。なぜ私が校費の大切さを強調す
るかというと、共同受賞者のアラン・マイクダイアミッ
ド・ペンシルバニア大教授によると、アメリカにはそう
いうお金はないが、ある目的で補助金を取ってきても、
その一部を研究費の申請書には書いていなかった別のア
イデアのため使うことが暗黙の了解のうちに行われてい
るそうです。私が彼に『年百万円か二百万円だか、全く
使途を限定されないお金で、ポリアセチレンの研究もやっ
た』と言ったので、『アメリカにも同じようなものがあ
る』と言いたかったのだと思います。」
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[3] 梨戸 茂史(教育評論家)「国営?民営?」
『文部科学教育通信』2003年7月14日号 No.79 教育ななめ読み 26
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「国営?民営?」
教育評論家 梨戸 茂史
四大銀行のひとつ「りそな銀行」が公営資金の投入で
実質的な国営化だそうだ。一方、国立大学はその反対の
方向に向かっている。この国はどこかで何かが壊れてき
ていると思うのは私だけだろうか。
国立大学が法人化されその行き着くところに「私学化」
があるかも知れない。
この私学化論の変遷をたどってみたい。まず、昭和六
十二年ころ、故香山健一氏が提案したのは、大学の個性
化、多様化の推進のため設置基準などの規制や許可を緩
和して国公立大を学校法人に移管、分割民営化、私学化
を促進、私学中心の高等教育体系にしようというもの。
もっぱら「規制緩和」が念頭にあったようだ。次は元慶
応大学教授で現在は千葉商科大の加藤寛学長。三年ほど
前の平成十二年三月のテレビ東京に出演したときの発言
では、「・・・国立大学が研究をし私学が教育を担当す
るということも考えられますね。そうなると私学も助か
る。・・・私が国立大学を私学にしろと言っているのは、
これからは財政的にも苦しくなるからです。」とある。
多摩大学学長で有名になり今は宮城大学の野田一夫学長
の意見は過激だ(平成十二年五月六日のテレビ東京の番
組での発言)。「今の国立大学は全て廃止し、新たに
一〇〇%財政で世界に冠たる二〜三の大学を作り、研究
や教育の評価を厳正に行えばいい。後は全て私立にしちゃ
う。」とのこと。政治の世界を見てみると、自民党衆議
院議員の熊代明彦氏は、平成十二年五月のウエッブ上の
政策提言で、国立大学は公務員という枠組みにしばられ
自由度が制限されており、また巨大な無責任の集積、と
断言。個々の大学毎に独立行政法人形態を採用し五十年
後には完全な私学となることを主張する。やりかたは毎
年国の予算を減らし五十年でそれをゼロにすることで無
理なく私学化できるそうだ。今の政治の責任者、小泉純
一郎総理の答弁(平成十三年五月十一日参院本会議)を
見よう。「・・・思い切って国立大学の民営化を目指す
べきだというご指摘でありますが、私はこれには賛成で
あります。国立大学でも民営化できるところは民営化す
る、地方に譲るべきものは地方に譲るという、こういう
視点が大事だというように私は思っています。」と答弁。
まあ、色々な思惑があるのだろう。国立大学関係者の思
惑は予算も含めた自由度を高める手段という側面が見え
る。私学側では、全大学生の教育を私学が担当すれば倒
産の心配はなくお金のかかる研究もしなくてすむメリッ
トが透けて見える。国の財政の観点からは支出を少なく
するには国立をやめて勝手にやってくれたほうがいい。
総理の発言は「改革」推進のための脅しだ。一般に考え
られる根拠は、わが国では私学の学生が八割以上と圧倒
的であり、なぜ国立大学に(私学の学生の親が払った)
税金で”援助”しなければならないのかということ。私
学は月謝(授業料)が高いがそのため常に学生やその父
母のことを意識しながら教育研究を行っている。国民と
ともに歩んできたのは私学であり国立大学ではないとい
うもの。
今まで国立大学が担ってきたのは何だったのだろうか。
ひとつは国の求める人材養成。明治の始めは産業を興す
ため欧米の技術の導入が必要だった。また国家の運営に
優秀な官僚も必要だっただろう。学校の教員の養成で近
代日本の人材を作ることも求められた。世界に伍して学
術研究を進めていくことは先進国のひとつとしてわが国
の大学に求められた使命ではないだろうか。人類の福祉
や文化に貢献することも必要だろう。それにはお金がか
かるのは当然で国が措置する必要がある。私学ではでき
ない研究もあるのではないか。そういった「国立」を維
持する論陣が張れなかったのは関係者みんなが反省しな
ければなるまい。
まあ、法人化は進む。その行き着く果ては「私学化」
かもしれない。そして破綻したら公的資金を注入しても
らって「国営」化してもらいましょう。さすればまた
「国立」大学に戻るでしょう。」
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[4] 新聞報道
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[4-1] 共同通信 2003年7月8日付
国立大法人法案を可決 自主性重視で委員会決議
国立大学を国の直轄から切り離す国立大学法人法案など関連6法案は、8日
午後の参院文教科学委員会で、与党3党の賛成多数により可決された。6法案
は9日午後の参院本会議で可決、成立の見通し。
来年4月には89の国立大法人が誕生。55の国立高等専門学校は1つの独
立行政法人に統合される。
同委員会は付帯決議で、大学の自主性を重んじるとともに、運営交付金の算
定根拠などを公表することなどを求めた。
法案は、学長のトップダウンによる学校運営を目指し、役員会や経営協議会、
教育研究評議会の3つの組織を新設。経営協議会には学外の有識者を半数以上
入れることを求めた。
予算の基本となる運営交付金は、文科省に設置する「国立大学法人評価委員
会」が中期目標をどの程度達成したのかを評価し、反映させる。
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[4-2] Nikkei Net 2003年7月8日付
国立大学法人法案、9日成立
国立大学を国の直轄から独立した法人にする国立大学法人法案など関連六法
案が8日、参院文教科学委員会で採決され、与党三党などの賛成多数で政府原
案通り可決した。9日の参院本会議で可決、成立する見通し。
8日の参院委で民主党は、法人化後の大学の運営指針となる「中期目標」を
文部科学相が策定するのではなく、大学が作成して文科相には届け出だけにす
ることなどを柱とする修正案を提出したが、否決された。また委員会は、23項
目の付帯決議で、大学の自主的・自律的な運営の確保や、地方の大学の整備・
充実に努めることなどを求めた。国立大学法人法案など関連六法案は当初、6
月中旬の成立が見込まれていたが、6月初旬に国会審議が中断。同月下旬に再
開したが、国会の会期延長もからんで成立がずれ込んだ。法人化後、国立大学
は文科相が定める期間6年の中期目標に沿って中期計画を策定。文科省が10月
に新設する「国立大学法人評価委員会」が目標や計画の達成状況を評価し、国
が配分する運営費交付金の額に反映する仕組みに変わる。
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[4-3] asahi.com 2003年7月8日付
89国立大法人、来春に誕生 9日に法案成立へ
国立大学を法人化して国の組織から独立させる国立大学法人法案とその関連
法案が、8日の参院文教科学委員会で、与党の賛成で原案通り可決された。9
日の本会議で成立する見通しで、来年4月、全国に89の国立大学法人が誕生
する。各大学に学長のリーダーシップを生かす運営組織をつくり、学科の編成
や授業料などを独自に定める裁量や、使い道を自ら決められる資金を与える。
より自由にして「個性化」を進めるのがねらいだ。
文部科学省による「護送船団」方式での運営からの大きな転換。国立大の歴
史上、1886年の帝国大学令公布や1949年の新制国立大発足以来の改革
といえる。
法人化により、大学運営は学長を中心としたトップダウン型に変わる。これ
までは教授会を軸としたボトムアップ型で、「意思決定に時間がかかりすぎる」
「思い切ったことができない」といった指摘が絶えなかった。「国立大は閉鎖
的で意思決定も不透明だ」との批判にも応えるため、役員などに学外の有識者
を必ず加えることになる。
文科省が各大学の細かな予算要求をたばねていた仕組みも変わる。大学ごと
に運営費交付金を渡し、その中で自由に使うことができるようにする。有識者
らによる文科省の「国立大学法人評価委員会」が業績を評価し、その結果が交
付金の額に反映される。
学校間の競争も激しくなることが予想され、それぞれの大学には、自主性や
自律性を高めて教育や研究を活性化することや、国際的な競争力を付けること
などが強く求められる。学長の責任は格段に重くなり、経営手腕が問われる。
国立大は短大、大学院大を含めて計99校あるが、今秋に20校が10校に
統合するため、来春は89校が法人化する。各大学と関連する機関の教職員ら
13万人余は公務員ではなくなり、それぞれの法人職員になる。
野党側は、各大学の運営の指針となる「中期目標」を文科相が定めるとの政
府案に「国の統制を強める恐れがある」などと反発。民主党は中期目標を大学
側が届け出る制度にする修正案を提出したが、否決された。
採決後、委員会は法の施行にあたって、文科省と大学側のやりとりを公表す
るなど透明性を確保することを主眼とした23項目にわたる付帯決議をした。
関連法案には、全国に55校ある国立高等専門学校を一つの独立行政法人の
下に設置して法人化する独立行政法人国立高等専門学校機構法案も含まれてい
る。
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[4-4] Mainichi Interactive 2003年7月8日付
国立大学:法人法案などが参院委で可決 9日成立へ
国立大学を来年4月から独立法人化し、国の行政組織から切り離すための国
立大学法人法案など関連6法案が8日、参院文教科学委員会で賛成多数で可決
された。9日午後の参院本会議で可決・成立する見込み。
法案では学長の権限が強化され、学外委員を過半数とする経営協議会が新設
されるほか、業績評価に基づいて運営交付金の額が算定されることも盛り込ま
れ、従来は一律だった授業料も横並びではなくなる。
昨年度末で99校あった国立大は今秋までに89校に統合されるため、来春
から法人化するのは89大学となる。【横井信洋】
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[4-5]『産経新聞』2003年7月9日付
国立大法人法案 きょう可決、成立 授業料など固まらぬまま
全国の国立大学を国の機関から切り離して独立法人化する国立大学法人法案
が八日、参院文教科学委員会で賛成多数で原案通り可決された。九日午後の参
院本会議で可決、成立の見通し。各大学の独自性を高め、競争を促すなど大学
改革の進展が期待される一方で、受験生にとって志望校を選択するうえで不可
欠な授業料など細かいことが固まっておらず、「もっと受験生の立場に立って
積極的に情報を示してほしい」といった声も聞かれる。
授業料について、遠山敦子文部科学相は「経済状況に左右されないと同時に、
各大学の自主性に留意して決める。予算もからむので、最終的決定はできてい
ない」と従来の見解を繰り返した。
国立大学の授業料は現在、大学や学部にかかわらず一律五十二万八百円。独
法化後は「国が標準額を示し、それにもとづいて各大学が一定の範囲内で決め
る。標準額は現在の授業料がベースになる」とされている。
文部科学省は「学部別で標準額に差をつけることはない」としているが、一
定の範囲内ならば大学側の裁量で授業料が決められる。このため各大学の授業
料はもちろん、「同じ大学の学部間で格差がつくかどうか」「大学で決められ
る授業料の上限や下限はいくらなのか」「入学後の学費値上げは許されるのか」
といった受験生にとって不可欠な情報が入試まで約半年の現段階で固まってい
ない。
予備校関係者は「独法化で大学が将来、何がどう変わるのか具体的なイメー
ジがわいてこない。さらに、肝心な授業料もこの時期に決まってないなんて、
あまりに受験生をないがしろにしている」と戸惑いをみせている。
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[4-6]『西日本新聞』社説 2003年7月10日付
「独立性」が問われている 国立大学法人
大学と学問の自由は果たして守られるのか、とあらためて不安を募らせた大
学関係者は多いのではないか。
国立大学を法人化する国立大学法人法が、参院本会議で与党三党の賛成多数
で可決、成立した。
これにより、国立大は国直轄から切り離され、来春から八十九の独立した国
立大法人として生まれ変わる。明治の帝国大学設立以来、国の護送船団方式で
運営されてきた国立大の大きな転機である。
とはいえ、その実態は「独立」とは、ほど遠い、といわねばならない。
教育研究や組織運営など大学の中期目標を文部科学大臣が策定し、それに従
い大学がつくる中期計画も文科相の認可が必要になる。その達成度も文科省の
下にできる機関の評価を受け、結果が予算配分に反映されるなど、従来より
「文科省の介入が強まる」との懸念が強い。
法人化ではなく、「文科省立大学化」とやゆされるゆえんである。
国立大法人の役員会のメンバーである監事(各大学二人)も文科相が任命す
るため、文科省官僚が大量に天下りするとの見方が強い。大学は官僚の天下り
は認めないくらいの姿勢を示してほしい。
大学自治の独立を貫き、自主自立の精神を発揮することこそが、「大学の自
主性を高め、個性化を図る」とした法人化の目的にも沿うのではないか。
法人化を、大学は個性ある教育・研究の創造につなげ、社会的貢献をいっそ
う果たすための試練と受け止め、大胆な戦略を構築し、行動してもらいたい。
そうした覇気がなければ、「文科省支配」の懸念はいつまでもぬぐえまい。
図らずも参院では、法人化をめぐる文科省の大学への「介入」が判明して委
員会が空転、イラク支援関連法案による国会の会期延長に救われたが、一時は
審議未了・廃案の可能性もあった。
法律も成立していないのに、文科省が法人化後の中期目標・計画策定に関す
る詳細な資料を国立大に求めるなど“予行演習”を始めていたことに、野党が
「事前関与だ」とかみついた。
参院の委員会が「大学の自主・自律的運営」「中期目標で文科相は個々の研
究に言及しない」など二十三もの事項を与野党の賛成で付帯決議したのも、文
科省支配への懸念が強いことの裏返しだ。
文科省の過剰介入を戒める付帯決議は衆院でも行われている。文科省はこれ
を肝に銘じ、法人化後の大学との関係は透明性・公正性の確保に最大限努力し
なければならない。国会の監視も必要だ。
また、六年間の中期計画を軸に大学の評価が行われるため、短期的に成果が
上がり、国策におもねた教育・研究がはびこる、との指摘も少なくない。
大学が本来担うべき長期的な学術研究が軽視されないよう文科省は十分配慮
すべきである。地道な基礎研究などが先細りになっては、国力の衰退につなが
る。
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[4-7]『高知新聞』社説 2003年7月10日付
【大学法人化】羊頭狗肉とならぬか
きのう成立した国立大学法人法は看板の「自主・独立・自己責任」とは裏腹
に、国家統制の色が濃い。野党からは羊頭狗肉(ようとうくにく)との辛らつ
な批判もあり、法の運用がそうあってはならない。
大学法人化は一昨年の遠山文部科学相による大学の構造改革「遠山プラン」
に基づいている。市場原理の導入によって公務員として甘えてきた教職員の自
覚を促し、大学の活性化を図る狙いだが、経済の視点と教育は相いれない部分
があり、効果には多くの疑問がある。
学部の教授会が仕切ってきた大学運営の形態が変えられた。理事、監事らで
構成する「役員会」、委員の半数を学外有識者が占める「経営協議会」、教育・
研究面を審議する「教育研究評議会」の3機関を設置し、いずれも学長が議長
を務める。
学長の権限は強まり、改革は進めやすい体制だが、各機関の委員構成によっ
ては「自治」が遠ざかる恐れがある。
新たに選任される理事、監事は全国で500人を超えるといわれる。昨年度
に50を超す独立行政法人が生まれたが、常勤理事のほとんどが省庁から天下
りした高級官僚だったため批判を浴びた。それと同様の図式になりかねないだ
ろう。
事務の効率化は職員の研修に積極的な私立大の方が進んでいるとされる。後
れを取った国立大の中には、文科省からの天下り官僚を採用する大学も既にあ
り、人材の取り合いの様相が見え始めている。天下りの温床となっては本末転
倒だ。
国の関与は研究内容にも及ぶ。文科省が各大学の「中期目標」を立てて、達
成度評価も文科省内に置いた法人評価委員会が行う、となっている。遠山文科
相は審議の中で「学問の自由が侵されることはない。個別の研究の評価は行わ
ない」と答弁しているが、それは法で保障されているわけではないのだ。
評価委員会の裁定に基づく運営交付金も国の財政難で多くは望めない。少子
化時代に入り、人気のない大学、地方の大学では勢い現行標準額52万800
円の授業料の値上げへと向かいかねない。貧しくともエリートになる道を開い
てきた国の最高学府は、確実に変容するだろう。
忘れてならないのは地道な研究を支えてきたのも国立大である点だ。素粒子
ニュートリノの天体からの観測でノーベル賞を受賞した小柴昌俊氏の例もある。
そうした基礎的研究の確保の問題も残されている。
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[4-8]『沖縄タイムス』社説 2003年7月10日付
国立大法人法成立 独自性の発揮は難しい
国立大を独立した法人にする国立大学法人法など関連六法が九日、参院本会
議で可決、成立した。
これにより、明治以来国の機関だった国立大は国の直轄から切り離され、来
年四月には八十九の国立大学法人が誕生することになる。
法人化には懸念が残るが、「いかに独自性を発揮するかの勝負だ」(森田孟
進琉大学長)と前向きに受け止める声もあり、大きな転機を迎えたことには間
違いない。
国立大学法人では、学長の権限が格段と強化され、大学運営形態が学長中心
の「トップダウン」経営に転換される。
経営を審議する協議会には過半数の学外委員を置き、「開かれた大学」を目
指す。
予算の基本となる運営交付金は、文部科学省に設置する「国立大学法人評価
委員会」が中期目標をどの程度達成したのかを評価し、反映させる。
授業料は現行の五十二万八百円を標準額とし、一定の範囲内で各大学が決め
る。
おおむねそんなことが柱である。
だが、本当に大学が自立し独自性を発揮できるのか、むしろ国の介入が強ま
るのではないか、大都市と地方の大学の格差が拡大するのではないか―などと
いった疑問は消えない。
例えば各大学の意見を聞いて最終的には文科相が中期計画を決定、文科省に
置く評価委員会が研究実績などを評価し、交付金に反映させるというのもそう
である。
大学の目標を国が決め、その通りにやったかどうかを国の機関が審査する、
ということになる。これでは、大学が自主性を発揮できる余地はほとんどない
のではないか。
大学の自主性を重んじるとともに、運営交付金の算定根拠などの公表を求め
た付帯決議が盛り込まれたのもそのためだと受け止めるべきである。
文科省は決議を重く受け止め、独自性を発揮しやすくすることが大学改革の
狙いであることを忘れてはならない。
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[4-9]『徳島新聞』社説 2003年7月11日付
国立大学法人法成立 公正な運用が望まれる
国立大を国の直轄から独立した法人にする国立大学法人法など関連六法案が、
与党三党の賛成多数で成立した。
来年四月には県内の徳島大、鳴門教育大を含め、全国に八十九の国立大学法
人が誕生する。国家公務員だった約十二万三千人の教職員も非公務員となり、
国立大学はかつて経験しなかった競争時代に突入する。
戦後の新制大学発足以来の大改革である。遠山敦子文部科学相は「自主、独
立、自己責任の大学運営」を掲げた同法を「素晴らしい中身」と自画自賛する
が、逆に大学関係者の「官僚支配が強まる」との懸念は払拭(ふっしょく)さ
れないままだ。
大学の自治や学問の自由が侵されることのないよう、適正な運用を望みたい。
大学側が最も疑問視してきたのは、大学の運営方針を定める六年間の「中期
目標」を文科相が決定する点である。
「中期目標」に沿って大学側が経営や研究などの「中期計画」を作り、目標
達成度や研究業績を文科省に置く第三者機関「国立大学法人評価委員会」が評
価、国からの運営交付金配分に反映させる。
そのため、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東大名誉教授らは「中期目
標」について「大学の自主性を尊重し、届け出制にすべきだ」とする緊急アピー
ルを発表。徳島大学教職員組合なども「国からの大学運営交付金が減らされれ
ば授業料の値上げや(付属病院の)患者負担の増加、教職員人件費の削減が避
けられない」と法案に反対してきた。
大都市と地方の大学格差がさらに拡大しかねないことを懸念する声も強く、
運営交付金の公正な配分が望まれる。
また経営上、外部資金導入も検討しなければならなくなるため、産業界に受
けのいい研究がもてはやされ、基礎研究の衰退を心配する声もある。運営交付
金の配分に当たっては、地道な教育と基礎研究がきちんと行われているかどう
か、適正に評価すべきだ。
どの大学、学部でも一律に年間約五十二万円だった授業料は、文科省が定め
る範囲内で各大学が決めることになる。先日、共同通信社が行った全国の国立
大学長アンケート調査では、学長の半数が授業料の上昇を予想しており、値上
げの可能性は十分にある。
学生の学力低下が深刻化した昨今、文科省は、高等教育予算を現在の国内総
生産(GDP)の0・5%から先進諸国並みの1%にするくらいの検討をすべ
きだ。運営交付金が従来より減るようだと、行財政改革のための法人化と批判
を浴びても仕方がない。
法人化後は大学の運営方針を決める学内組織として、学長、理事、監事らで
構成する「役員会」などが設置される。この監事を文科相が任命するようにな
ることも、官僚支配の強化が懸念される点だ。文科省からの天下り人事などは、
厳に慎むべきである。
少子化が進む中、法人化によって大学間の競争が激しくなるのは確実だ。う
かうかしていると、地方の大学は取り残されてしまう危険性が十分にある。
さまざまな問題があることも確かだが、法人化を大学改革のチャンスととら
える視点も大事だ。徳島大、鳴門教育大とも、生き生きと個性あふれる大学に
なるよう、懸命に取り組んでほしい。
優れた人材の育成も、徳島県の活性化も、すべてはそこにかかっている。
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[4-10]『読売新聞』社説 2003年7月11日付
[国立大法人化]「ギルド体質からの脱皮が必要だ」
ボールは大学側に投げられた。しっかりと受け止め、投げ返せるかどうか。
国立大法人法が成立した。
来春には、八十九の独立した国立大学法人が誕生する。国から運営費交付金
は配分されるが、会計や人事の裁量は大学にゆだねられる。
目的は、国立大学の教育、研究の向上であり、地域への貢献、産業との連携
の推進である。それによって、国際的に優れた評価を得ることも狙っている。
大学改革の契機とせねばならない。
大学は、運営面の自主性、自律性を認められる代わりに、六年間の中期目標、
計画の原案を文部科学省に提出し、目標の達成度も評価される。「アメとムチ」
の政策と受け取る大学関係者もいる。
法成立間際に基礎研究分野の教官らから反対する動きが出たのは、「国の介
入が強まる」との懸念があったためだ。中期目標の最終的な決定権を文科省が
持っており、研究内容も評価の対象になることが、その背景にあった。
税金で維持される以上、巨大施設の重複などは避けなければならない。その
ためにも、最低限の国の関与は当然だ。
評価にしても、イギリスのように、国の外郭機関が研究内容などを判定し、
助成金交付額決定の材料にする評価システムをとっている国は少なくない。
日本でも、大学にカリキュラム編成の自由を与える代わりに、自己点検・評
価の実施が強く求められた時もあった。だが多くは自画自賛の報告に終わった。
評価を予算に反映させるシステムがなかったため、そうなった。しかし、こ
れからは、中期目標の達成度評価が大学の存亡にもかかわりかねない。優れた
研究チームに予算を重点配分する「21世紀COEプログラム」が昨年から実
施されるなど、研究評価は定着しつつある。
これからカギになるのは、大学側が自校の今後の姿について明確なビジョン
を打ち出せるかどうかだ。すぐには結果の出ない基礎研究分野を安易に切り捨
てれば、大学の見識が問われる。同時に、各大学が得意分野に力を入れ、特色
を作っていくことも大切だ。
中世のヨーロッパの大学は、教師や学生のギルド(同業者組合)によって運
営された。大学の自治の模範とされた。だが、構成員の利益だけを考える閉鎖
的な面もあった。
日本の国立大学にも、ギルド的な、大学、学部自治、学科本位の体質が抜き
難くあった。それでは、国際的な競争に勝ち抜けない。国立大学もギルド的な
集合体から脱し、社会的使命を自覚した、有機的な組織に転換すべき時である。
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[4-11]『愛媛新聞』社説 2003年7月11日付
国立大法人法成立 大学の自主性を尊重すべきだ
国立大学を国の直轄から独立した法人にする国立大学法人法が成立した。こ
れに伴い、国立大学は来年四月から八十九の国立大学法人に移行する。
高等教育の大きな転換期だが経営方針を定める「中期目標」は文部科学相が
策定し、運営交付金の配分も研究成果の評価に基づくなど国の過剰な関与が懸
念されている。法の施行にあたっては、大学の自主性や意向を十分尊重しても
らいたい。
国立大学法人は(1)学長、理事、監事からなる「役員会」(2)委員の半
数を学外有識者が占め、学校経営の方針を決める「経営協議会」(3)教育・
研究面を審議する「教育研究評議会」―の三つの組織で構成する。
これまで教授会に委ねてきた学校運営を学長中心のトップダウン型とし、予
算執行やカリキュラム編成で自主性を高めるとともに自己責任を明確にしてい
る。
中期目標は大学の意見を聞き、各校ごとに六年を期間として決定する。大学
はこれに沿って、経営や研究などの中期計画を作成し、文科相の認可を受ける。
そして、文科省に置く第三者機関の評価委員会が目標達成度や研究実績を評価
し、国が交付する運営費の配分に反映させる仕組みだ。
文科省は「大学の裁量が増し、研究などが活性化する」と強調する。だが、
大学関係者の間には、中期目標の策定を通じて文科省の介入が強まる、と懸念
する声が根強い。利益を生む産学連携事業などが優先され、ただちに結果を生
み出さない基礎研究は、なおざりにされる可能性があるからだ。
ノーベル物理学賞受賞の小柴昌俊・東大名誉教授は「基礎科学は成果を出す
までに五十年、百年かかることもある」と警鐘を鳴らしている。基礎研究と応
用研究は基準を分けて評価するのも一つの方法だ。
この評価委の人選や評価基準について文科省は「検討中」としている。早く
大学側に明らかにすべきだ。また評価は各大学の存亡にかかわる。公平・妥当
な評価を強く求めたい。
学生や父母にとっては授業料が気がかりだろう。授業料は大学側の経営判断
に基づいて、独自に設定することになる。現行は全学部一律で約五十二万円。
これを標準額とし、一定の上下幅を設けて決めるという。
共同通信が実施した六月の国立大学長アンケートでは、将来の国立大全般の
授業料について半数の学長が上昇を予想している。医学部や理学部など教育経
費が高い学部は、応分の負担を求める判断も出かねない。
こうした状況では「個々の経済的状況にかかわらず、広く国民に進学機会を
提供する」という国立大の本来の役割を維持することは難しい。学生側、大学
側の不安感は募る一方だろう。
参院の文教科学委員会は運営交付金の算定根拠を公表するなど二十三項目に
わたる付帯決議をした。国立大学法人化は明治以来の大学制度の大改革だが、
来春のスタートまでに詰めるべき課題は多い。
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[4-12]『佐賀新聞』論説 2003年7月11日付
国立大学法人化 懸念解消し、自立促せ
国立大学法人法が成立し、来春には八十九の国立大学法人が誕生する。一連
の大学改革の柱となるもので、大学の自立による活性化と運営の効率化が主眼
だが、懸念も残る。文部科学省は大学評価や交付金の仕組みなどで「統制」と
ならぬよう歯止めが必要だ。
行政改革論議から浮上した国立大の改革案。一方では少子化に伴う再編・統
合の動きもある。明治の学制以来、国の直轄だった国立大が国から切り離され
ると考えると、大きなエポックといえる。
新たな法人では、学長が明確に組織のトップに位置付けられ、強いリーダー
シップを発揮できるようになる。重要事項の迅速な意思決定を図るため、学長
と理事で構成する役員会を設ける。管理運営に学外者を大幅に登用し「開かれ
た大学」を目指す−というのが骨格だ。
これまで国が細かく管理していた交付金を大学が自由に使えるようになるの
は大きな前進だが、国立大が自立した法人にふさわしい主体性を発揮できるよ
うになるか、という肝心の点で疑問も残る。
法人化法案反対を訴えてきた佐賀大学教職員組合は(1)文科省官僚の統制下
に置かれ学問の自由が阻害される(2)政府が優先する研究、教育への予算偏重
になる(3)官僚の天下りを助長する−などの問題点を挙げる。
国のコントロールに対する懸念の第一は、各大学が掲げる中期目標を最終的
に文部科学相が決めるとした点だ。
目標に基づいた中期計画も文科相が認可し、計画終了時には、文科省の評価
委員会が評価して大学の交付金に反映するという。大学の目標、その結果を国
の機関が審査するというものだ。
目標については「大学の意見に配慮する」としているが、関与の度合い次第
では「国の下請け機関になりかねない」と危ぐする声があるのも、うなずける。
法人化は、あくまで大学の自主性・自律性を高めて活性化を図るというのが
目的のはずだ。目標も計画も大学に任せ、結果については厳しく責任を問うと
いうやり方こそがふさわしいのではないか。
文科省の評価委員会の評価への懸念も見逃せない。
計画達成状況を評価して交付金の配分に反映するというが、そのメンバーや
評価基準については依然不明のままで、はっきりしているのは評価委員会が文
科省の手にあるということだけだ。
共同通信が全国の国立大学長を対象にしたアンケートでは、75%の学長が
「適切に行われるか不安」と答えている。大都市と地方の大学の格差拡大を懸
念する学長も53%に上る。強いリーダーシップで大学を率いることになるは
ずの学長が不安を抱くというのは、やはり問題だ。
法人化が授業料の値上げにつながるのではないかとの指摘もある。学生たち
にとって気になる問題も、文科省が示した標準額の一定の範囲内で各大学が決
めるとしており、具体的にどうするかは明らかになっていない。
法が成立しても、改革の行方は評価や交付金、授業料などについての文科省
の出方が鍵を握っている。国会では「大学の自主性を重んずる」という付帯決
議がついた。懸念を解消し、本来の目的に沿うよう力を尽くすべきだ。
大学の自立、自らの裁量によって競争力をつけるという法人化の理念は、時
代の要請にかなったものだ。各大学も改革を前向きにとらえ、社会の期待に応
えていく努力が求められる。(田中善郎)
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[4-13]『南日本新聞』社説 2003年7月11日付
【国立大学法人】自主性を発揮できるか
国立大学を法人にする国立大学法人法が成立し、来年4月に89の法人が誕
生する。明治以来、国の機関だった国立大は大きな転機を迎え、自立と競争を
迫られる。
これまで学部の教授会が運営を仕切ってきた形態を改め、学長の権限を強化
する。同時に管理運営や審議機関に学外者を大幅に登用し、民間経営の手法を
導入するというのが新法の骨格だ。
文部科学省に一元管理されてきた予算は交付金として一括して大学に渡され、
大学が自由に使えるようになるのは前進だ。しかし、自立した法人にふさわし
い自主性・主体性を発揮できるようになるかという肝心な点では疑問が残る。
新法によると、大学の経営方針を定める中期目標は文科相が策定し、目標に
基づいて各大学がつくる中期計画も文科相が認可する。しかも、計画の終了時
に文科省の評価委員会が業績評価して交付金配分に差をつけるという。これで
は組織として国から切り離されても、国の過剰関与を招く恐れがある。
国の関与・介入の恐れや競争原理の導入については田中弘允・前鹿児島大学
長ら地方の国立大学関係者が「かえって大学の自由や創造性を阻む」などと懸
念を表明していた。こうした声は果たして十分に生かされたのか。
大学の自主性や主体性を高めて活性化を目指すというなら、中期目標も計画
も大学に任せるというやり方こそふさわしい。中期目標を大学が策定し、届け
出制にするとした民主党の修正案が取り上げられなかったことにも不満が残る。
文科省の評価委員会もだれがどんな基準で評価するか不明だ。交付金算定の
中身も明らかにされていない。共同通信が全国の国立大学長を対象にしたアン
ケート調査では75%の学長が「適切に評価が行われるか不安」と答えている。
新法には「大学の自主性を重んじる」という付帯決議が盛り込まれた。文科
省は付帯決議を重く受け止め「統制色」への懸念解消に努力してほしい。
大学側も「大学はつぶれるはずがない」という意識や横並び意識を捨てて改
革を進めないといけない。
鹿児島大学に求めたいのは地域に存在する意義を一段と鮮明にすることだ。
地域社会に貢献しながら世界にも通用する教育研究に力を入れてほしい。鹿屋
体育大学も唯一の体育系単科国立大学法人としてどう生き残るか、危機感を持っ
て取り組みを強化してもらいたい。
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[4-14]『琉球新報』社説 2003年7月12日付
国立大法人化・自主性発揮できる環境を
国立大学を国の直轄から独立した法人にする国立大学法人法など関連六法が
九日成立した。来年四月には、琉球大学など全国八十九の国立大学法人が誕生
する。帝国大学設立以来、国の機関であった国立大学が、初めて切り離され、
大きな転換点を迎えることになる。
法人化で大学は大きく変わる。これまで学部や教授会を中心にした運営形態
が、学長中心のトップダウンとなり、迅速な意思決定ができる。交付金も大学
の判断で自由に使える。さらに、学内には学長が議長を務める「役員会」「経
営協議会」「教育研究評議会」の三機関が設置され、運営方針が決められる。
とりわけ「経営協議会」は半数以上を学外有識者が占め、「開かれた大学」を
目指すという。運営面の自主性、主体性が認められるわけだ。
国立大法人化は教育、研究の向上はもちろん、地域への貢献、産業との連携
推進を図るのが狙いだ―関連法の条文をうのみにすれば、そういうことになる。
だが、不安がなくもない。むしろ「アメとムチ」の条文から、文部科学省の
統制が巧妙に強化されることにならないかが心配だ。
例えば、交付金だ。自由には使える。が、各大学が六年で達成すべき業務運
営指針の中期目標は、文科省が策定し、達成度などを「国立大学法人評価委員
会」が評価する。その評価が交付金に反映されるというから、文科省の顔色を
うかがいながらの運営になりかねない。
その評価委員会は第三者委員会というが、メンバー次第では文科省の意を反
映させやすくなる。メンバーも不明、評価基準も示されない。そうでありなが
ら、交付金の配分には反映される。おまけに交付金算定の基準さえ明らかにし
ていない。
もう一つ指摘すれば、「業務運営の目標」も、大学でなく文科省が策定する
のでは、大学は国の「下請け機関」にしかならない。これでは、独立した法人
の姿にはなるまい。法人化の大きな目的である大学の自主性、自律性の発揮が、
どこまで期待できるというのか。
さらに天下りの不安もある。大学の管理運営に登用される学外者が、文科省
OBによって占められることも危ぐされるからだ。
われわれ国民は法人化で、大学改革が促進されることを期待する。硬直化し
た組織が改められ、地域と連携するなかで社会的使命を自覚し、国際的評価を
得られる大学になってほしい。だから、法人化に隠れて、官僚の支配が強まる
ことだけは、排除すべきだと考える。大学の自主性、自律性を発揮できる環境
をつくるべきだ。その結果について、もちろん大学自らが責任を負うことでな
ければ、大学改革は程遠いものになる。
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[4-15]『山陰中央新報』論説 2003年7月12日付
国立大学法人/文科省は大学の手足を縛るな
国立大学法人法が成立し、来年四月から八十九の国立大学法人が誕生する。
明治以来、国の機関だった国立大がようやく法人格を得て国から切り離される。
歴史的な一ページである。
新たな法人では、学長の権限が格段に強化され、リーダーシップを発揮でき
るようになる。学長と理事で構成する役員会を設け、トップダウンによる迅速
な意思決定を狙う。管理運営に学外者を大幅に登用し「開かれた大学」を目指
すというのが骨格だ。
国が細かく管理していた交付金を大学が自由に使えるようになるのは大きな
前進だが、国立大が自立した法人にふさわしい自主性・主体性を発揮できるよ
うになるか、という肝心の点でさまざまな疑念が残る。
その第一は、各大学が掲げる中期目標を最終的に文部科学相が決める、とし
た点だ。
目標に基づいた中期計画も文科相が認可し、計画終了時には、文科省の評価
委員会が評価して大学の交付金に反映するという。
大学の目標を国が決める。決めた通りにやったかどうか国の機関が審査する
というものだ。
法人法では目標については「大学の意見に配慮する」としているが、国が口
を挟もうとすれば歯止めはないに等しく、「国の下請け機関になりかねない」
という危ぐの声ももっともなところがある。
法人化は、大学の自主性・自律性を高めて活性化を図ろうというのが目的だっ
たはずだ。目標も計画も大学に任せ、結果については厳しく責任を問うという
やり方こそふさわしい。
その意味では、中期目標を、大学の届け出制にするとした民主党の修正案が
取り上げられなかったのは残念だ。
文科省の評価委員会の評価への懸念も見逃せない。
計画達成状況を評価して交付金の配分に反映するというが、どんなメンバー
が、どんな基準で評価するか、依然不明なまま。はっきりしているのは、評価
委員会が文科省の手にあるということだけだ。
共同通信が、全国の国立大学長を対象にしたアンケートでも、75%の学長
が「適切に行われるか不安」と答えている。大都市と地方の大学の格差拡大を
懸念する学長も53%に上っている。
管理運営に登用される学外者に、官僚OBの大量天下りもささやかれている。
交付金や大学評価などを握る文科省との折衝に、即戦力として期待できると
いうのがその理由だろうが、国とのパイプの太さがモノをいうようなことでは、
大学評価は形ばかりということになりかねない。そんなことになれば、法人化
の意義そのものが失われることになる。
法が成立したといっても、改革の行方は、評価や交付金、授業料などについ
て文科省の出方がどうなるかが依然カギを握っている。
文科省は、これでフリーハンドを握ったと高をくくるようなことのないよう
に願いたい。
「大学の自主性を重んずる」という付帯決議がわざわざ盛り込まれた重みを
受け止め「統制」の懸念解消に力を尽くすべきだ。
大学同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、競争力をつけるという改革の原点
に返り、大学が自主性・自律性を発揮できるような一段の工夫を求めたい。
[4-16]『日本経済新聞』社説 2003年7月13日付
国私大間の競争格差是正を
国立大学の法人化へ向けた6つの関連法が国会で可決、成立した。一律的な
国の予算配分の下で競争原理の働かなかった国立大学が、それぞれの法人が掲
げる中期計画の達成度を第三者機関が評価して運営交付金に反映させるなど、
新しい仕組みの下で来春から生まれ変わる。
これらの新法では、学長権限を強化した上で、学外からのスタッフを含めた
協議会による自律的な経営の仕組みを導入しているほか、産学連携へ向けて大
学の技術移転機関(TLO)への出資を認めている。
大学債を発行して資金調達への道も開くなど、戦後護送船団体制で守られて
きた国立大学がそれぞれの自己責任に基づき自律・自主の原理で再生する道筋
が示されている。
当初早期の法案の成立が見込まれていたにもかかわらず、大幅にずれ込んだ
のは、法人化後の国立大学の運営の根幹というべき中期計画の策定や第三者評
価の仕組みに文部科学省が深く関与する懸念が広がったからである。大学関係
者などから「改革という名目で実質的な文部科学省の支配が強化されるのでは」
という批判が高まり、野党を中心に法案の修正を求める意見が相次いだ。
制度の運用で法人化後の大学がなお文科省の強い支配下に置かれるならば、
法人化は改革の精神と逆行する官僚のための再編にすぎない。
これとあわせて重要なのは、法人化がひとり国立大学のみならず、私立大学
を含めた日本の大学全体に大きな影響をもたらすことである。
法人化以降の国立大学は、基本的には運営資金のすべてをなお税金に仰ぎな
がら、規制から解かれて経営面での大幅な自由を手にする。
国からの研究資金の額では私立大学の5倍、学生1人あたりの国費の投入額で
は私学の17倍ともいわれる国立大学の現状を考えると、法人化後の大学全体の
競争の基盤は国立大学と私立大学との間の格差をますます広げることが予想さ
れる。
学生数での7割以上を占める私立大学は人材の供給基盤として大きな役割を
担ってきたが、少子化の下で生き残りへ競争を強めている。国立大法人化に際
して、大学の設置形態を超えてアンバランスな競争の構造の是正を考える必要
がある。
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[5] 『週刊新潮』2003年7月17日号 146〜147頁 日本ルネッサンス第76回
櫻井よしこ「国立大学を潰す"遠山"文科省」
小見出し 50年前に否定された学説/国を滅ぼす法案の成立
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