2010-08-20 鈴木元氏から立命館理事への書簡

学校法人立命館の理事ならびに関係者の皆さんへ

2010年8月20日 鈴木 元

学園の将来構想の合意もないいまに、数百億円を投入して茨木市に第三キャンパスを確保し、経営学部と政策科学部を移転させるという構想は拙速に決めるべきではない。

はじめに

私は2008年度末(2009年3月)まで、学校法人立命館の総長・理事長室室長を務めていた鈴木元です。その期間私は、理事会、常任理事会、常務会、部次長会議などの機関会議の全てに出席し、しかるべき提案と意見を述べていました。

2009年度は大阪初芝学園の副理事長の任に事実上専念し、立命館へは打ち合わせに来る程度で正規の会議に一切出席していませんでした(2010年3月末で定年退職)。しかし学園を取りまく重要な問題についは、長田豊臣(以下、長田)理事長に忌憚のない意見を申し上げていました。しかし残念ながらいくつかの問題では適切に対応されず学園は不利益をこうむりました。

例えば、最近の問題で言えば、慶祥高校の足羽氏への特別手当支払(年間九百数十万円)について、私は昨年(2009年)の年末にその存在を知り、再々に渡り*****に「当初の主観的意図がどうであれ、私学法の趣旨からから言って間違であり、ただちに止めるべきです」申し上げていました。しかしながら*********常務理事(以下、**常務)など**部の「特に問題はありません」との意見を採用し4月以降も支払を続けてきました。ところが文部科学省から呼び出しを受け「ただちに止めなさい」との強い指導を受け6月から取りやめざるを得なくなり、理事会に報告し了承されました。しかしその際、私が「止めるべき」と申し上げていたことも、文部科学省から「止めなさい」との強い指導を受けたことも報告せず、**常務(彼の担当期間だけで、支払うべきでなかったお金約5000万円が支払われていた)を含め誰一人としてこの問題の責任を取っていません(詳細は別途報告する)。

私の反省は、*****に言ってもダメな場合は理事の皆さんに直接きちんと伝え、理事会として正しい判断ができるようにしなかったことです。

今回、夏期休暇にはいる直前の7月21日ならびに7月23日の常任理事会において、突然、大阪府茨木市にあるサッポロビール茨木工場跡地(衣笠キャンパスとほぼ同じ面積の12ヘクタール)を購入し、政策科学部と経営学部を移転させ立命館大学(以下、立命館)の第三キャンパスを設けるとの「提案」がなされ夏季休暇中の9月に論議集約、10月に契約に持ち込みたいとされています。

現在学内では「2010年から2020年にかけての立命館の中期計画」を設定するための議論が5つの部会に分かれ、約200名の教職員が参加して議論がされてきましたが、いずれの委員会においても新キャンパス確保、ましてや茨木市に数百億円をかけて経営学部と政策科学部を移転させるなどは全く議論されてこなかったことであり、関係している一部の人を除けば、まさに「寝耳に水」の「提案」でした。

私は、在職中に、この問題について多少の情報を得、*****等に意見を申し上げていた関係者の一人として、理事をはじめとする皆さんに情報と意見を申し上げる責任を感じ文章をまとめ届けさせていただくことにしました。

詳細は、常任理事会の皆さんに提起しました諸点を読んでいただければ良いすことですが。中心的ポイントは以下の五点です。

1. 衣笠キャンパスが狭隘でかつ清心館や存心館が老朽化しており、建て替えのためのリザーブペースを含めて、問題を解決できる校地となるしかるべき土地があれば購入するという点では学内関係者の意見はほぼ一致している。

2. しかし、そのことと茨木市に衣笠とほぼ均しい面積である12ヘクタールの土地を購入し、立命館大学を衣笠、BKC、茨木の3キャンパス体制(各12000名体制)にするというのは別次元のことである。衣笠とBKCの二拠点でも様々な問題に直面しており3拠点にするなどは教学、課外活動、財政、管理運営など多面的に検討する必要があり「9月論議集約、10月契約」というのはあまりにも拙速すぎであり「なぜそこまで急ぐのか」との疑問の声が上がっている。

3. いま立命館が直面している焦点は教育・研究の質的向上であり、その現状分析をきちんと行い、それに基づき必要なキャンパス整備を行うべきである。ところがそうした教学論議をしている最中に、まず「茨木を購入する、3キャンパス体制に移行する」ということを突然提起し、結論を急いで迫るやり方は、学内に無用な混乱、新たな不団結を持ち込むだけである。

4. 関西の私学で最も、広いキャンパスに相対的に最新の設備のBKCにある経営学部を、何百億円かけて茨木に移転することが、立命館が今、急いで重点投資すべきことなのか。立命館中高等学校の移転経費を含め、積み立ててきた基本金(ストック)を使い果たす危険がある。なにを重点とし、次の世代にどれだけ残して置くのかきちんと論議する必要がある。さらに近年、立命館の財政は硬直化しつつあるが3拠点にすれば、それだけで、日常の経常経費が20-30億円余分にかかり、財産の食いつぶしだけではなく、経常経費の硬直化を一層深めることになる。

5. 同志社大学(以下、同志社)は、文系の学部をすべて田辺から衣笠より狭い今出川キャンパスを中心とした京都市内に移転させる構想を打ち出している。その時、立命館は茨木市に移転することを行うのか。立命館は京都の地にあって同志社と切磋琢磨し共存共栄するのか、北摂の地で関西大学との競争に力点に置くのか、学園の戦略目標の明確化が求められている。

いずれにしてもあまりにも唐突でかつ拙速な提起であり、「まず土地ありき」の感が拭えないが、学園の将来を既定する問題となるので多面的な検討の上に慎重な審議する必要がある。

ここに理事ならびに関係者の皆さんに、私が掌握している情報と率直な疑問を報告し、皆さんの正確な判断をお願いする次第です。

なお立命館では一時期「学内優先の原則」ということが言われましたが、私は、これは学校法人の理事会の運営原則から言って正確な表現ではないと思っています。「学外理事」も「学内理事」も理事会構成員として、その決定と執行にかかわっては同じ責任を負っています。

あえて言えば常駐している「学内理事は提案と執行にあたってより責任を持って臨むべきであるという自らへの戒めであり、また教学の実情について良く掌握していない「学外理事」は個々の教学改革などについて意見を述べることについては慎重にしておこうということだと思います。

しかし今回のような数百億円を投入して立命館の将来構想を決めることになる第三キャンパス構想に関しては、自治体や企業の運営に関して責任をもって当たってこられた「学外理事の皆さんも、大所高所から意見を述べられ、理事会がより正確な判断下す責任があると思っています。

私・鈴木元は、現在、日本ペンクラブならびに日本ジャーナリスト会議の会員のノンフィクションライターであり、中国(上海)の同済大学アジア太平洋研究センターの顧問教授を務め、超党派の国会議員約70名が参加した日本モンゴル経済懇話会の理事の任にある社会的責任を持った人間です。

私は、母校を愛する校友でもあるジャーナリストとして、憶測や推測また匿名で文章を書いたりしません。母校の発展ために必要であると思うことについて、理事の皆さん方に事実に基き、忌憚のない意見を署名入りの責任を持った文章で報告・提案するものです。

なお今回の文書で記載していることは、多少の表現の違いはありますが7月27日付で学内の常任理事会の構成員の皆さんには提出しています。しかしその後の学内論議を通じてより鮮明となった問題もあり、多小の変更をしていますので、この文書についても再度、常任理事会構成員の皆さんにも送付することにしています。

以下の詳細については7月27日付の常任理事会の皆様に提出した文書を多少補正したものです。

(1) 学園の将来構想の戦略的合意もないままに、莫大な資金を投入しての茨木での第3キャンパス展開は慎重にすべきである。

立命館は1970年代に衣笠と広小路に分かれていたキャンパスを衣笠に一拠点化しました。1990年代には科学技術の進行に追いつく理工系の拡充のために、滋賀県と草津市の協力で土地と整備費を補助されてBKC展開を行った。つづいて21世紀を展望し、大分県と別府市の協力の下、校地のみならず校舎の提供も受けてAPUを創設しました。また附属校高の新展開のために滋賀県守山市から市立守山女子高等学校を無償で移管され立命館守山高校として開設しました。

これらの実施にあたっては全学にわたる論議での戦略的合意に基づいて実施されてきました。

大学は学部横断型の教養教育・外国語教育などの全学的な教学体制の確立、多様な学生の存在による切磋琢磨、そして効率的な管理・財政運営等から一拠点の方が、二拠点より良いことは明瞭です。しかし理工系のように現代科学技術の進歩に合わせるためには広大なキャンパスが必要でしたが、当時は国土法の関係もあって市街地にある大学は拡充が困難で郊外に出ていかざるを得ませんでした。しかしそれを独力で行うにはあまりにも財政的負担が大きすぎますが、幸いにも滋賀県と草津市の校地提供でBKC展開ができました。それでも日常的な教学運営、学園の一体感、課外活動の取組み、そしてキャンパス管理、コスト等から非効率でさまざまな問題を生んでいることは明瞭です。

そうした時、将来への戦略的展望の合意もないままに、さしあたって土地の購入を含めて最小でも数百億円かけて茨木市に立命館の三キャンパス体制(各12000名規模)を確立するという構想の実施は、全学的な多面的な議論による合意形成に基づいて慎重にすべきです。

この構想は朱雀キャンパスのような部分的なものではなく、立命館の教育体制、学生の課外活動、事務体制、管理運営体制、などを含めて中期計画はもとより提案者の言うところでは「50年先の将来の立命館大学の在り方の基本が既定されるのである。

そのような重大なことを突然、学園の将来の全体像の戦略的議論も行わない中で、かつ実際にはそれを拘束してしまう契約を急いでしなければならない理由は何なのか。このようなやり方に対して多くの教職員から「中期計画」作成の内容・運営の両面から疑問が出ているのは当然である。

(2)入試戦略とかかわって

言われている重要な論点の一つが入試の問題である。近年立命館大の入試志願者が減少しているが、その主たる原因が「立地の不便と建物の老朽化であり、より大阪に近い茨木の地に新キャンパスを確保しなければ命取りになる」というものです。

校舎が全て古く狭隘なわけではないことは明瞭である。問題はこの20年間発展してくる中で、新しい学部、移転した学部は他大学と遜色ないか上回るものであるのに対して、衣笠の清心館や存心館などが明らかに狭く旧態依然としていることは事実である。したがって体育館の建て替えを含めてリザーブペースが確保できた時点で、第一優先的に清心館や存心館の建て替えなどの工事をやるべきであろう。そのための新たな校地の確保には誰も反対していない。しかしそのことと大阪に大規模な第三キャンパスを確保することとは別のことである。

そこで焦点となっているのが入試動向とのかかわりである。

たしかに大阪から、とりわけ大阪南部から受験生を確保する点で関西大学(以下、関大)や関西学院大学(以下、関学)に対して不利なことは事実である。しかしそれは同志社も同じである。この点については冷静かつ詳細に検討する必要があり、今後の課題とするが、とりあえず明確なことだけを述べておく。

①まず立命館の受験構造は半分が関西、半分が関西以外である。関西以外の人々にとっては京都か大阪かと言えば京都の方が良いことは明瞭である。ただし②で述べる理由から大阪へ移転したからと言って大幅に減るとは思われない。

②関西ではどうかaまず世間で言われている「勝ち負け表」(二つの大学に合格した場合、どちらの大学に入学するかという対象表)であるが、同じ京都にある同志社と立命館では残念ながら依然として同志社に流れている。大阪にある関大と京都・滋賀にある立命館では立命館に、関学と同志社では同志社に進学している。したがって実際に入学している学生は必ずしも地の利だけで選んでいるのではなく、基本的にはその大学の社会的スティタスを重視している。

いわゆる偏差値では、明らかに近年では立命館と関大では異なる層が受験し始めており関大は産、近、甲、龍との併願を含め、4校の中では一番広い受験層をターゲットにしている。b経営学部と政策学部が移転対象学部となっているが、おそらく2つの学部は移転当初の受験生は増えるかもしれないが偏差値が上がるとは限らない。それは別のことである。

③移転するのは2学部であり、他の学部は従来通り衣笠とBKCに居るのだから第3キャンパスを確保したからと言って、それが理由で他の学部の志願者も増えるとは考えられない。それどころかBKCにある経済学部から経営学部への受験・入学の切り替えが起こる可能性もある。

衣笠の学部である政策科学部を衣笠から出すのはキャンパス狭隘克服のためという理由はつく。しかし経営学部をBKCから茨木市へ移転させる理由は何なのか、もしも「交通不便のためと言うなら経済学部も移転させなければならないし、キャンパスの狭隘克服のために衣笠のいずれかの学部をBKCへの移転させることも、新しく構想されている「人間系学部」をBKCで開設することもできないことになる。

④ところで近年の志願者減の中心的理由は交通不便のためなのだろうか

衣笠キャンパス一拠点化がされてから既に30年が経つ。BKC展開が行われてからでも20年が経っている。しかし受験生が急激に年々減り始めたのはここ5年ほどのことである。a少子化が主要な原因ではないことは同志社、関学、関大との比較で明瞭である。b京都であることが理由なら同志社も同じであるが、そのようなことは起こっていない。cまた立命館の受験者数の減少は言われている「交通の便で不利」な大阪を中心とした関西だけで起こっているのではない、北海道を含めて全国的に減少している。

受験者数の減少に対しては「立命館の教学実態」についての謙虚でリアルな総括・検討が必要であると思われるが、今ひとつ重要な要素として社会的に見て「立命館はもめている」というイメージが生まれつつあると推察される。

どこの世界でも特定の人とのもめ事はありうる。しかし学校のようなところましてや教員の半数近く、職員に至っては90%を超える人々が加入している労働組合と5年にもわたって公然ともめ続けていることは正常ではなく、大学の社会的イメージを著しく後退さていることは残念ながら事実である。

もめている原因は一時金の一ケ月カットと慰労金増額などの労使問題、ガバナンス文書や評議員選挙などの学園の民主的運営にかかわる問題である。

私は必ずしも組合の主張に全面的に同意したり支持したりはしていない(これらについては別の機会に述べることにする)。しかし世間的に言って労働組合と公然と5年にも渡ってもめ続けているということは、学園のイメージを損ね経営者としてはその責任を問われても仕方がない問題である。

したがって入試志願者数の改善ためには教学改革と併せて、積年の課題となっている不正常な組合との紛争状態に終止符を打つことである。そのことを抜きに莫大な費用をかけて新キャンパスを確保しても新たな矛盾を生むだけである。

なお新キャンパス確保は教学改革の必要から出てくるものであり、「賛成」「反対」などで学内がもめるような事であってはならない。私を含めて今日まで意見を述べている誰ひとりとして「反対」の論陣をはってはいない。にもかかわらず提案者は十分な検討期間も保障せず、審議に値する資料も提出せずに、強引に「9月論議集約」「10月契約」と進めることは、またもや学内に無用な混乱と、新たな紛争事をつくり立命館の社会的信用を傷つけるだけである。今の立命館に必要なことは、どのように学内の団結を取り戻すかが一番大切なのである。提案者はそれを肝に銘ずるべきである。

⑤同志社は文系については、田辺キャンパスから立命館の衣笠キャンパスより狭い今出川キャンパスに移転してくる。これは同志社が教養は田辺、学部は今出川としていたことが教学的に不適切であったことと、学生たちは郊外にある田辺よりも歴史と文化のある京都市内を望んでいたからであり、大阪からの交通の便だけで考えてはならない一つの例である。なお同志社の京都市内のキャンパスは今出川キャンパスだけではなく新町校舎や京都市の衛生研究所跡地などを含めた都市内分散型キャンパスとなる。

衣笠キャンパスを補完するキャンパス確保を非公式に検討しはじめたのは、なによりも衣笠キャンパスの狭隘解消であるが、同時に同志社の文系学部が京都市内へ移動してくることに対する危機意識でもあった。つまり現時点では衣笠にある立命館の文系学部より偏差値の高い同志社の文系学部が田辺から京都市内へ移動してくれば、立命館の文系学部が大きな打撃を受けるのではないかという問題意識であった。そこでせめて大阪からの通学時間が今出川とほぼ同一となる京都市内の色々の候補地について調査していたが、昨年の秋、**常務理事等から「茨木市のサッポロビール工場跡地が良い」と*****に進言があった。

しかし私は「対抗する同志社が移動してくる京都市内とは別の場所であり、大阪進出を考えるなら北ヤードとか移動予定の府庁跡を考えるなら、まだ分かるが、茨木では中途半端だ。そしてなによりも近年の立命館は公私協力による無償譲渡でキャンパスを手に入れてきたのに対して、今回の茨木案は自分で数百億円もの巨額資金を出して購入するものであり、慎重にすべきであると進言した。

(3)財政見通しとかかわって

1) ところが、今回の提案の不思議なことは、財政政策すなわち財政見通しが提案されていないことである。「交渉相手があることで不確定要素があり、現時点ではまだ無理であるが近々に出す」と説明されている。

しかしキャンパス購入費としては、12ヘクタールで約160億円と想定されている。この値段が多少上下することはあっても極端に変動はしないだろう。あと2学部が移転するのであるから、設置基準ともかかわって学生数に応じた基本棟の面積のおおよその予測はできる。それに独立キャンパスなので体育館、図書館、食堂などの付帯施設が学生数に比例して確保しなければならないので最低200億から300億円程度はかかると推定される。したがって校地と校舎で約400億円から500億円程度は見込んでおく必要がある。

政策を判断する時の重要な視点は、それが「相対的に良いことか」どうかだけではない。①「財源はどこから」②「投資に見合う効果がるのか」そして③「限られた資源をなにに重点的に使うのかが重要である。

立命館は国立大学ではない、政府が決定しお金を出すわけではない。全学の貴重な財産を使うのである。収入増につながらない既存の学部である政策科学部と経営学部を茨木に移転するため400億円から500億円使う必要があるのか、それに見合うだけの学生確保につながるのかも冷静に見る必要がある。

2) その上に現在計画されている立命館中高等学校の長岡移転で80億円から90億円(この問題は後記する)。そしてどうしても最優先的に行わなければならない衣笠再整備計画として体育館、存心館、清心館の建て替えと、人間系学部の設置経費、衣笠、BKCの研究施設の拡充とG30ともかかわっての国際寮の建設がある。これらすべて行えば現在言われている「1200億円のストック」を使い果たす危険がある。

学園の財産は先輩から引き継ぎ、後輩に引き継いでいかなければならない、現在の執行部で使い果たすことは許されない。ストックのうち当面の建設にいくら使うのか、なにを重点とするのかをきちんとする必要がある。

3) 立命館が相対的に不利な大阪南部(大和側以南)から学生を安定的に確保する一つの実験的取組として大阪初芝学園との提携を行った。しかし「債務保証を含めていかなる財政支援を行わない」としてきた。立命館としては一円の出費も行わず不利な大阪南部から一定の質を担保した学生確保するための努力をしているのである。それに対して今回の構想は経営学部と政策科学部の「大阪での受験生確保のために400億円から500億円使うというのである。投資効果という点で甚だ疑問である。

限られた資源の相対的重点化という点で、広いキャンパスに相対的に新しい立派な校舎を持っている経営学部を茨木に移転することが、衣笠の存心館や清心館の建て替えよりも先に急がなければならないことなのか、違うのではないか。「衣笠キャンパスの狭隘の解消」という形で動きだしものが「茨木にいい土地がある」と言うことで土地取得が先行し、それを合理化するために「第3キャンパス論」を突然言い出し、さしませまって移転が問題にもなっていなかった「経営学部移転論」が降ってわいたように登場した。これでは「土地ありきからの提案ではないか」と言われも仕方がない。いずれにしても財政を含めた学園運営の展望にどう責任をとるのか明確にする必要がある。

4) 今後の学園財政を展望すると、①学生数は少子化の下、多少の増員はあり得ても基本的には大幅増はない。それどころか2020年から本格化する第二次少子化を考慮すると将来、学生数の減と言うこともありうる。②一方、日本経済の状況などから、学費の抑制はあっても大幅値上げは難しいだろう(すでに全学協議会で通告した年度ごとの学費値上げについては2011年度については凍結することを決めている)。③そこへ基本給の6,3%値上げをしたことや、G30など従来より支出のかかる教育プログラムが目白押しとなっており、立命館の財政は極めて硬直したものになりつつある。

いずれにしても第三期長期計画から第五期長期計画にいたる時期とは社会的状況も学園の主体的状況も明確に変化しているのである。それにふさわしい新しい戦略的展望の検討が必要な時にきているのである。そうした時に戦略的展望についての明確な合意もないままに、やみくもに突然第3キャンパス論を打ち上げ、今日まで特段問題にもなっていなかった経営学部までを数百億円使って移転させるという提案はあまりにも不自然である。これは当事者の経営学部が賛成しているかどうかの問題ではない。

5) なお、学生が「学費凍結」を要求するのは当たり前である。おなじく教職員が「給与の引き上げ」を求めるのも自然なことである。しかし教学と経営に責任を負っている理事会は、将来の学園運営を考慮して厳しい判断を下さなければならないが、すでに両方共に応じてしまっている。

立命館中学高等学校の長岡京市への移転についてもひとこと述べる。小学校教育との接続とかかわって従来の6:3:3の教育体制にたいして4:4:4の方がいいのではないかという意見がある。私も個人的にはそう考えている。また同じ京阪沿線に立命館高校と宇治高校があり、できれば異なる沿線に配置したほうが良いと考えられる。そうした中で長岡京市への移転案が登場した。私も一般論としてはその方がいいだろうと思っている。

問題は財政展望である。校地取得費用は立命館中高等学校が積み立ててきた費用と売却費用で賄える。問題は新校舎建築に要する80-90億円をどこから捻出するかである。私は*****ならびこの問題の推進者であった**常務に「建設費用をどうするのですか」質問したところ「法人が出さざるを得ない」との答えが返ってきた。「それなら従来の財政方針を変更することになるので、きちんと説明し合意を取っておかないと。後になって、そんな話は聞いていない」ともめてはまずいですよと言ったが、まともな返事もないままに、現在にいたっている。

従来、立命館では新しい附属や新しい校舎を建設する時「部門間融資」的考えで、その費用は20,年間などで償還する方式を採用し、そのために学費は県下で一番高いものになってきた。今回の長岡移転にともなってそのようなやり方をすれば、学費の大幅値上げをしなければならない。それは今日の社会状況から言って極めて厳しいものになる。だからと言って*****が言うように「法人が持つ」ということをすれば、宇治や守山そして慶祥をどうするのかと言う問題が生じる。それらも県下一の高い学費で苦労しているのである。それでは他の附属の初期投資も法人が面倒を見、学費の値下げに踏み切るのか。それでは200億円を超える新たな出費となる。附属校のためにそこまで新たな負担をするのか。私は、いずれの結論であっても良いと思っている。問題はそうした私学としての本質的議論をあいまいにしたまま「政策的必要性」からだけ決め、つけを後に回すやり方は正しくないと言わざるを得ないのである。

5) つい最近まで年間百数十億円を基本金に積み立てることができた立命館は、基本給の6,3%,値上げなどにより、最近では年間数十億円しか基本金組み入れができなくなりつつある。これでは差し迫っている存心館や清心館の建て替えだけではなく、学内の既存施設の計画的な営繕の資金が足りなくなる恐れも出ている。

なお茨木キャンパスの確保で衣笠キャンパスにゆとりができ、積年の存心館や清心館の建て替えが行えると期待をしている人々がいるが、茨木キャンパスに何百億円を使うという提案は出ていても、いまのところ存心館や清心館の具体的な建て替え計画も予算見積もりも出ていないことを直視すべきである。

また三キャンパス化に伴う非効率のためにランニングコストは年間で20-30億円単位で増大すると推察される。

「財産の食いつぶし」だけではなく「経常経費」での困難に直面すると予測される。それらを含めた財政見通しを出して全学で共有して議論・検討し、なにを重点にするのか、どのような順序でことを運ぶのかを明確にしなければならない。そのようなことを「9月に論議集約、「10月に契約などできるわけがないし、論議に耐える資料も提出されていない。

(4)地方自治体の関与とかかわって

口頭説明によると茨木市が3つの財政支援策(131億円)ブラスもう一つの検討を進めていると報告されている。しかし自治体問題に少しでも知識があれば分かるように、窓口担当者の一存でそんなことができるわけがない。最終的には国や府の承認、議会の同意がなければできないことである。

1)茨木市からの支援の有無にかかわらず、購入するのか。

今回の土地購入は、今まで立命館が進めてきた大型公私間協力による無償譲渡ではなく、あくまでも立命館がサッポロビールから購入する民間同士の売買である。

まず明確にしておかなければならないことは、茨木市からの支援が有る無しにかかわらず購入し移転するのか、支援がなければやらないのかをはっきりさせておく必要がある。

そうでないとあたかも支援があるかのような話をして、サッポロビールとの土地売買契約議決を行った後になって「残念ながら議会の同意が得られませんでしたので、立命館が負担しなければならなくなりました」と言って追加支出を求めるぐらいなら、はじめから支援が無い場合でも実施するのかどうかを明確にしておく必要がある。「支援額の話が大きければ大きいほど、出来なかった場合の立命館の持ち出し額が大きくなるからである。

2)自治体との関係はオープンに

立命館はこの分野では、BKCのキャンパスを整備付きで無償譲渡を受けた。APUの創設に当たっては土地、建物ならびに進入道路整備を無償で受けた。また市立守山女子高の移管も無償移管で行った。この中で首長などの行政当局と議会、議会と住民、裁判などいろいろな経験を積んで来た。*****は「はじめての極めて難しい交渉」と言っているそうであるが、彼にとっては初めてであっても、立命館はAPU創設事業を含めてもっと大きく根本的な支援を実現させてきた経験を持っている。

これらの地方自治体との契約・履行は基本的にすべて公開の下で行われ、議会の承認を要することである。

上記の今までの取り組みでは、そのつど文書で常任理事会に報告され審議され情報の共有化が図られてきた。しかし今回は全く公開されてこなかったし、はじめて公式に報告された7月21日ならびに7月23日の常任理事会でも茨木市との関係は一遍の文書もなく、口頭報告のみであった。これを改め今後はオープンにして審議されるべきである。

3)その上で**常務が口頭報告した「131億円に及ぶ市の協力」については、理解を共通にするために正確にしておく必要がある。

①進入路建設への補助。

12ヘクタールに及ぶ大規模な土地の開発であり、駅前の道の状況を見れば、立命館であろうと民間のディベロッハーが住宅開発を行おうと、市としては駅からの道の拡幅整備、駅前の駐輪場の整備は行わざるを得ない。現に都市計画として10年前から開始し道路拡幅予定地の大半の買収も終わっている。これは個別立命館に対する特別の支援策ではなく、大規模開発に伴う行政として当然のことをやっているのである。

②キャンパス内の道と「公園」などの整備費用の市負担。

大規模な施設の開発に当たっては、そこが私有地の場合でも近隣地域への電気、ガス、上下水道の整備が、その開発地域の中を通さざるを得ない場合は、国からの補助金によって施工できるやり方がある。同じ性格の問題として、駅前から予定地へは密集した住宅街であり、予定地の南側はマンション団地である。したがって立命館がキャンパス開発を行えば、広域避難場としての指定を受けるであろう。そうするとキャンパス内に一定の公開された空地と、そこに至る進入路を整備する必要がある。そのために土地は立命が購入し、市に「無償で貸し付け」し市が舗装と芝生化などを行うなどの公私協力の工夫が必要である。それを国の制度も使って行うもので、これも相手が立命でなくても行政的に必要なことである。

③立命館の体育館や図書館を広く市民に公開する場合に、国の制度も活用して一定の補助を行うものである。

これは関大の高槻キャンパス開設にあたって高槻市と関大の間でも実施されている。立命館と茨木市、茨木市と国の間での交渉と調整が必要であり、努力をすべきであろう。

以上のように①②③は性格を異にする問題である。またAPUを含めて実現してきたものであり*****が言うような特段のことではない。

④それに**常務からの口頭報告として「公示価格と買収価格に差が出た場合、「市が差額について補填することも検討している」と言ったとされている。

これは言ってはならないことである。そんな情報が漏れれば所有者であるサッポロビールと「競争相手と言われている企業が値段を釣り上げることになる。しかしこれを秘密で行い市の補助金を使うことになれば、市の担当者は背任行為(立命館は共犯者)となる。また実施に当たっては予算の議決が必要であり、これは議会での理解を得ることは難しい可能性がある。いずれにしても「どのような制度を活用しようとしているのか」「実行に当たっての障害はなになのかをきちんと説明し共有して判断できるようにする必要がある。

4) 滋賀県ならびに草津市との関係をどうするのか。

BKCは滋賀県並びに草津市から65ヘクタールもの土地を無償譲渡され移転したのである。いまになって「交通不便」という理由で経営学部だけでも4000名近い学生がいなくなるのである。そのような理由であれば「経済学部もか」と思われて当然である。どのように合意し理解を得るつもりなのか全くの説明もされていない。これは開発された民間アパートも同じ問題である。経済学部も移転するとなるとさらに多額の資金がいる。またあとになって移転となると最初に作られた体育館や食堂、図書館の増設か問題なる。あまりにもずさんとしか言いようがない。現在の立命館はBKCにある経営学部や経済学部を茨木に移転することが緊急に実行しなければならない重点課題なのか根本的な議論が必要である。

5)京都市との関係はどうするのか

京都市は観光都市であると同時に「学問の町、大学の町」を街づくりの中心の一つとしてきた。しかし国土法や文部省の「抑制事項のために京都市内での拡張に制限があったために同志社、龍谷、立命館の理工系が市外に移転せざるを得なかった。京都大学の工学部も同じ問題を抱えた。そこで京都市は桂坂への移転の便宜を図った。また大学コンソーシアムへの支援も行ってきた。同志社大学の文系が田辺から市内に戻ってくるにあたって、京都市は衛生研究所の跡地を売却している。同志社が京都市内に戻ってくる時に、立命館は市外に出ていくのか。

立命館は京都市内に残る代わりに衣笠の高さ制限の緩和であるとか、今日まで当たってきた衣笠周辺にこだわらずとも、京都市が所有する他の土地を売却してもらうなどの交渉の余地はまったくないのか。厳密なつめを行う必要がある。そのためにも9月論議集約、10月契約というのはあまりにも拙速である。

(5)第三のキャンパスそのものの是非について慎重に検討する必要がある。

冒頭に述べたように衣笠キャンパスの狭隘さは誰の目にも明らかであり、しかるべき追加的土地の購入は必要である。しかし現在の2キャンパス体制でも教学、課外活動、事務体制、管理、運営費のどれをとっても非効率であり、この上に均等な大きさの第3キャンパス方式に移行するのがいいのかは慎重に検討する必要がある。徒歩と自転車で移動できる距離であれば多少、分散していても同じ京都市の中にある方が良いとも言える。その点では日本はアメリカや中国のように郊外に広大なキャンパス持つ大学形式よりも、ヨーロッパ型の都市の中に多少分散してある大学も一つの選択ではないか。

ましてや収入の増えない既存学部移転のために一度に400-500億円のお金を使い、将来にわたって非効率な運営を強いられる第三キャンパス方式については、多角的に慎重に検討する必要ある。

そんなことをしていれば「折角のチャンスが消えてしまう」という意見が返ってきそうであるが、本当にそうなのであろうか。BKCと京都の2キャンパス方式で京都市の中では多少分散型の施設があるのが、絶対に第3キャンパス方式より悪いとは言えない。先に示した同志社大学は今出川キャンパスを中心に京都市内分散型キャンパスで文系学部を展開しようとしている。すなわち「京都市にある大学を売りにしようとしているのである。

また第3キャンパスを進めようとした時は「茨木以外に土地はない」とするのは早計である。いずれにしても、この話は土地ありきから進めるべきではないだろう。キャンパスのあり方を含めた学園の将来構想をきちんと論議して、その戦略的合意の下に担当部門が調査し提案し、戦略的方向とのかかわりで進めるべきことである。

(6)該当する土地は「土壌汚染により売ろうにも売れなかった土地であった」ことを含めて情報公開の下で審議されるべきである。

秘かに進められていた、今回の降って湧いたような茨木市のサッポロビール工場跡地購入は常識的感覚から言ってあまりにも不自然である。

私は常任理事会の提案文書に以上のような疑問と意見を持って「現場に行ってみる」必要性を感じ訪れた。駅から10分もかからない地に12ヘクタールというまとまった土地が広がっていた。それを見て私は「これほどの土地がなぜ今日まで売れ無かったのだろうか」と疑問を持った。そうした目で見ていると奇異な景色に気がついた。何年も使用していない土地ではあるが手入れが良かったのか草が生えていない。しかしそのことよりも土の色である。通常何年も使用していない広い敷地は白っぽい。ところが文字通り真新しい土色をしている。「これは何かある」と思い、帰宅後、この土地の履歴を調査した。すると大変な土壌汚染の土地であった。

サッポロビールは茨木工場閉鎖の後、そこを「ガンバ大阪」の根拠地とする構想を計画し、茨木市ならびに市議会の協力も得て進めようとした。しかしヒソや鉛、六価クロムなどによる大規模土壌汚染が見つかり、2年にわたって約3㎥、10トントラックで約7500台分を運び出し土地の入れ替えを行ったのである。工事は今年(2010年)の3月末に完了したばかりなのであり、従って「売ろうにも受けなかった土地であった」のである。

この土地をめぐる問題は、毎日何十台と言うトラックが何回となく汚染土壌の運び出しを行っていたのであるから、地元人々の間では広く知られていることである。またサッポロビールのホームページにも掲載されていたことである。

私は現時点では土壌汚染問題は解決した問題であると思っている。なおこうした土地は工事が終わって1年以上たたないと工事できないことになっている。 しかし**常務理事等の提案者が*****などに「優了物件として」進言したのは3月末以前の昨年の秋のことであり、まだ工事中のことであった。

このような土地をまだ工事中に「買うべき優良な土地として」提案した**常務理事等、そして何時知ったかは別にして、少なくとも7月21日の常任理事会以前には*****も知っていた。しかし今回の提案に当たっての文章のどこにもこの事実は触れられていない。常任理事会に、このような重要な情報も開示せずに、「競争相手が出てきた。今のチャンスを逃し、将来に禍根を残すわけにはいかない」などと言って、夏期休暇中に討議集約を迫るやり方は、学園の民主的運営としては認められないやり方である。

今後の審議に当たっては、*****以下の提案者はすべての情報をきちんと文書で開示する義務がある。そうでなければ参加者は総合的に正確に判断できない。

                           以上。

追記、引き続き、皆さんの審議に参考となる新たな情報が入ればお知らせします。

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2010/08/29 16:43 uploaded