キャンパス問題に関する産業社会学部教授会決議

理事会の提起する「第3のキャンパス」について、高い水準の教学の実現のために10月決定に反対し、全学討議のための十分な時間の保証と、正確な検討素材ならびに必要な情報を開示することを求める決議

2010年9月28日 産業社会学部教授会

7月21日付けの文章により理事会より新キャンパス設置の提案がなされ、全学で議論が開始されている。産業社会学部においてもこの提案を受け、教授会での議論に引き続きすでに設置されている学部・大学院改革検討委員会を中心に検討を続けてきた。キャンパス拡大の問題は学園の将来ばかりか、本学部も含んだ直近に予定されている各学部教学改革にも多大な影響をあたえるからである。それゆえ産業社会学部では8月に入っても二度学部改革検討委員会を拡大開催しこの問題について議論を続けてきた。さらに人間化教学の展開を検討する特別作業部会においても、教学内容に関連し、キャンパス問題の検討を行ってきた。

このように産業社会学部では、学部・大学院の将来改革と関わり新キャンパス問題に関して真摯な検討を続けてきたが、それは、キャンパス設置の問題が学部、学園の教学の基盤としてこの先数十年にわたりその展開に著しい影響を与えていくと考えるからである。

しかし8月3日、4日に行われた理事会サマーレビューでは、いくつかの学部より十分時間をかけて議論を行うべきであるとの声が上げられていたにもかかわらず、新キャンパスについては9月29日の常任理事会にて最終討論とすることが示された。

このような拙速な進め方は、今後の学園運営やその将来において重大な問題をもたらすものと危惧される。しかも「特別委員会」で討議された資料等の大半は回収され、全学討議を呼びかけながら、必要かつ正確な検討資料が公開されず、結論に誘導するための一方的な説明のみが補足文書等のかたちで、次々と出されている。このようなやりかたでは、学園の将来を決するような重大な問題を議論するための重要な前提が欠けており、常任理事会の議論の進め方における公正さを疑わざるを得ない。

産業社会学部教授会は、学園の将来に大きく関わるこのような決定を、学園構成員による十分な検討と議論が行われないまま、理事会の専決事項であるとして、拙速に決めていこうとすることに断固反対し、そのことを理事会ならびに学園の全構成員に表明するものである。

第一に、新キャンパスの設置は、各キャンパスにおける物理的配置のみならずそこにおける教学展開、具体的な実行手順、現存する学生への影響など総合的かつ慎重な検討を行い、それにもとづいた十分な全学的討議を経て合意形成を行っていくことが必要である。議論の提示の方向も、このような大きな決定を行う上で生じうる可能性と諸問題の両面を慎重に検討したものでなくてはならない。しかし、今次の提案では、北摂キャンパスの可能性を一面的に評価したものとなっており、財政運営上の困難が生じないか、教務実務上の問題は克服可能か、共通教育その他の教育体制は保証されるのか、学生の課外活動のあり方、さらには立地と大学のアイデンティティに関わる問題などのきわめて重要な問題が、十分な検討もされず先送りされたままに議論が進行していることは極めて憂慮すべき事態である。このままでは、そこで主張されているST比の改善を含む教育の質的向上とは背馳しうる結果をもたらすことも憂慮される。とくに現在産業社会学部や関連諸機関で検討中の人間化分野の教学の新しい展開も、このキャンパス問題の帰趨如何ではその展開に重大な困難をもたらす可能性を持っていることは考慮されなければならない。このような検討を十分に行うことなく、北摂の地に新キャンパス設置を決定することは将来の教学展開に重大な制約をもたらす可能性がある。このことを強く危惧する。

第二に、新キャンパスの設置は、言うまでもなく学園の将来方向を大きく規定する問題である。それゆえその議論のためには、まず何より財務的な検討を慎重に行うとともに、全体計画のグランドデザインやキャンパスコンセプトが全学に示される必要がある。財務的には、ようやく示されたわずかな試算でも、学園の将来の財政運営を危くしかねないとの危惧が指摘されるなど、多くの問題点が浮かび上がっている。また、グランドデザインやキャンパスコンセプトについていえば、ほとんどなんらの議論もなされていない。そうした重大な根本前提となる問題がなにも明確になっていない段階で、現在の課題をもとにただ適当な候補地があったという理由だけで新立地への展開を決めることは、将来に重大な禍根を残す拙速な決定となる可能性が極めて高い。新中期計画の議論においても中間まとめが提示され、全学で議論が継続中である。そこにおいても、未だ2014年以降の学園規模や学費についての長期的見通しや方針が決まっていない段階で、このように将来に大きく影響を与える決定を性急に行う根拠はどこにあるのだろうか、きわめて疑問であると言わざるを得ない。

第三に、このような長期的な影響が予測される重大な問題について、十分な全学的討議を経ず理事会が先行決定することは、この間積み重ねてきた学園ガバナンスの見直しの努力を台無しにするものである。各学部教授会は本方針が提示されて以降、現在までに一二回程度の教授会議論しか行われておらず、今後多少の日程変更がなされたとしても、事案の重大性に鑑みれば十分な検討の時間が保証されないまま強硬決定とならざるを得ないことを深く危惧する。またその議論がどのように集約、反映されるかも、提示されている日程からは定かではない。これでは総長、理事長がこれまで表明してきたガバナンスの反省とは何であったか疑問とせざるを得ない。現在議論している新中期計画が目指している、質的向上を担保するためにうたっている「全学一致で進める学園運営」とは何なのであろうか。むしろ無用な混乱と学園の不団結を生み出すことさえ危惧される。

新キャンパス問題は立命館学園の将来を決めるきわめて重大な問題であることは言うまでもない。この決定は将来にわたりすべての学生の学びと学園生活に多大な影響をもたらすものであり、教学の展開と表裏一体のものである。従ってその決定は、理事会の専決事項として、学園構成員の十分な議論と理解なしになされることはあってはならないことである。このような学園の将来の根幹をなすきわめて決定的な問題が、いまに至るまで学園構成員にきちんとしたデータや見通しが示されず、十分な議論なしに決定される中では、産業社会学部はいかなる決定も全く受け入れることはできないということを強く表明する。

産業社会学部教授会は、今回の提案についてなお十分な検討が必要でありわずか1〜2ヶ月間の短期間の全学討議のみで拙速に決定することなく、全構成員の十分な議論のもとに新キャンパス問題に関し、検討を行うことを断固要求する。また議論の公正を保証するために、理事会は根拠となる必要なデータや資料を開示し責任ある議論を保証すべきである。何よりも将来の見通しを総合的に検討したグランドデザインやキャンパスコンセプトを全構成員に示し、そのもとで十分な議論と検討を行うことを強く要求する。

私たちの道理を持ったこの要求にも関わらず、北摂キャンパス購入が強行されるとすれば事は重大であり、その推進の先頭に立ってきた理事長・総長その他理事会執行部メンバーは、その責任追及を免れ得ない。以上、産業社会学部教授会全員一致で確認したことをここに明記する。

以 上