回答7 (by 理工学部教員)


まず、法律には反していないとしても、深刻な長期的ダメージを実際に与えた3例をあげたい。
(1)APU日本語常勤常勤講師の雇い止め
(2) 全教職員の一時金カット(2005,2006,2007)
(3) パワハラの横行
(4)非常勤講師と専任教員の間の深刻な格差
過度のコンプライアンスがもたらす非倫理性による長期ダメージの例としては次がある。
(5)有期雇用教職員の雇い止め制度
共通する原因の吟味
財務の問題
(6) 入札の実施 
(7) 事業資金の肥大化
(8) 「事業所」別の会計報告の欠如

最初に確認しておきたいことは、法令違反がなぜ問題になるか、ということである。まず、同語反復になるが、法令違反は法治国家では許されない。発覚すれば「罰」を受け(20億円の補助金カット等の)実害がある。しかし、それだけでなく、組織として長期的ダメージを受ける。そういうことが続けば、法令を破るような精神構造を持つ組織として、まともな世間からは相手にされなくなる。そうなれば良い学生は来なくなり大学としてのレベルはとめどなく下がっていく。

以上の「損害」の中で最も悪性のものは実害ではなく、長期的ダメージの方であることは言うまでもない。しかし長期的ダメージは法令違反がなくても生じる。立命館は法令遵守には関心が高く、ある意味で過度に敏感とさえいえる。しかし、世間常識的に期待される当たり前の倫理性には全く鈍感な運営が行われている。しかも、倫理性への鈍感さに全く気付いていないか、あるいは気付くことがあっても些細な問題として関心を持たない。ここに、立命館の危機の真の原因があり、種々の長期的ダメージをもたらしている。

そこで、コンプライアンスとは関係なく、命館に長期的ダメージを与えている、あるいは与えかねない、事例を5点挙げたい。

まず、法律には反していないとしても、深刻な長期的ダメージを実際に与えた3例をあげたい。

(1)APU日本語常勤常勤講師の雇い止め

これは雇用時にリクルート担当教員が定年まで雇用が継続可能という約束をしたにもかかわらず雇い止めになった事件であるが、当該常勤講師による地位保全仮処分申請を大分地裁が却下し福岡高裁も最高裁も却下を支持したので、法的には問題がないことになった。しかし、リクルート担当教員が定年までの雇用継続を全日本語嘱託講師に対して約束した(約束の存在は裁判所も確認)にもかかわらず、組織としては約束を守らなかったことは、大学関係者の間でAPUの信用を一気に下げることとなった。APU は大学教員社会ではブラックリストに載り、APU 教員公募への応募は極端に減少した。最近、APU嘱託講師の雇用期間を3年から5年に延長したが、それで問題が解決するかどうかは疑問である。大学としてこれほど大きなダメージは余りないであろう。法令違反にはならなかったとしても「嘘をついてはいけない」という、人間社会における最低限の倫理性を組織として軽視することがもたらす長期的ダメージがいかに大きいかをこの事件は象徴的に示している。

(2) 全教職員の一時金カット(2005,2006,2007)

これは法廷で争われていることで、違法ということになるかもしれない。しかし、たとえ違法とはならないことになったとしても、これほど徹底的に組織を傷めて長期的ダメージを与えた運営ミスは他には考えられない。それほどの大失政である。大半の構成員が学園執行部に対する信頼感を失い、余程のことがないかぎり元の状態に戻ることはありえないだけに、この長期的ダメージはとりかえしがつかず、組織としての衰退は不可避である。組織の内的弱体化は種々のきっかけで世間が察知することとなり、社会的信用を確実に低下させていくであろう。この衰退を止め、もとに戻す方法は一つしかない。それは、執行部が非を認め、学園の全構成員に謝罪し、一時金を2004年度のレベルに戻して払い、「失政」に少しでも関係した幹部は責任をとって執行部を辞し、構成員に信任される新しい執行部による学園運営が開始されること、である。

(3) パワハラの横行

言葉や態度による暴力は違法となりにくいためか、コンプライアンス以外には関心が薄い立命館では余り問題にされない。パワハラと「厳しい指導」との区別にも鈍感である。何らかの問題を起こした教職員を密室に呼び複数の幹部が長時間にわたって説教したり問い詰めたり、場合によっては人格攻撃をする事例を複数聞いている。これは「パワハラ」そのもので、現在の法体系ではなかなか犯罪として立証しにくいとしても、パワハラの日常化が構成員の心身の健康をむしばみ組織を弱体化させることは欧米でも問題となって真剣な対応が模索されている。幹部職員が一般職員を呼び出し面談するときは、その職員が選んだ第三者を同席させることと、面談の内容を録音することにより、少なくとも学園幹部による「パワハラ」を許さない実効的仕組みを実現することが急がれる。

(4)非常勤講師と専任教員の間の深刻な格差

単位時間あたりの給与格差は極めて大きく、また、身分保障や、長期病気の際の経済的保障の格差も極めて大きい。最近、立命館では、非常勤講師の報酬が大学平均近くに是正されたが格差の大きさを実質的に変えるようなものではない。また、企業でも非常勤も正社員とする動きが出はじめているが、そのような動きはまったくなく、次の(5)で触れるように、非正規雇用と正規雇用の格差と区別は立命館では歴然としている。この格差問題は、日本の大学セクタ全体で生じている問題ではあるが、立命館は格差を多少は解消するだけの財務的力量を持っているだけに、これを放置している非倫理性は鮮明になっていて、やがては立命館の専任教員の非倫理性を示すスキャンダルとして注目され長期的ダメージを受けることが懸念される。逆に、立命館が格差解消に向かって一歩進めるならば日本全体での格差解消への引き金となる可能性もあり、その場合には大学としての信用を高め、長期的に大きな「メリット」があることは言うまでもない。

過度のコンプライアンスがもたらす非倫理性による長期ダメージの例としては次がある。

(5)有期雇用教職員の雇い止め制度

立命館学園では、すべての有期雇用の教職員について、「再任不可」としている。これは(経験の蓄積による効率化を不可能とする点で)人事的合理性には欠けるが、人件費の硬直化を避けるという財務的合理性があることになっている。財務的合理性にも必要がないと思われる「再任不可」という非倫理的規則に立命館が固執しているのは、過度のコンプライアンス意識がもたらすものと言える。どういうことかというと、労働関連法体系により、被雇用者をある年限を越えて雇うと、雇用期限のない雇用とされるため雇用調整がしにくくなる、という事情があり、それを回避するために「再任不可」という制度がある、ということである。つまり、事業的な理由で教職員を解雇する場合に「正当な事由」が容易に主張でき、地位保全の訴訟が起こされても勝てることを最優先して「再任不可」としているのである。

「再任不可の有期雇用教員制度」は、立命館の発明ともいえ、立命館の「専売特許」のように受け取られている。財務的合理性のために、過半数の構成員を不安な状態で働かせても意に介さない、そういう冷徹な利己的運営を行う大学であることを、この制度は大学社会全体に鮮明に示している。この制度により、立命館大学が長期的にどれだけ大きなダメージを受けているか計り知れないものがある。繰り返すが、有期雇用の「再任不可」という条件には人事的合理性はなく、また財務的合理性からも不可欠というわけではないのに、過度のコンプライアンス重視から生じている不必要な非倫理性であり、それが、立命館に長期的ダメージを与えているのである。この点を大多数の専任教職員が気付いていないように見えることは残念である。

共通する原因の吟味

特別転籍問題や以上の5例にみられる(広義・狭義の)非倫理性に共通する原因は、組織が「事業欲」の奴隷となっていることにある。事業欲は、組織力を過度に重視し、構成員を組織に服従させるようとするため(3)のようなパワハラを広汎に産む風土を形成する。また、事業推進のための資金をとめどなく蓄積したくなるため「金儲け主義」が組織の行動原理となり、当然の帰結として人件費圧縮への衝動が高まるが、それが(1,2,4,5)に共通した原因となっている。事業費蓄積を最優先し人件費圧縮に余念がないと、人を集めることにも関心がなくなり、すでに居る人たちの意欲や能力を引き出すことにも関心がなくなり、人が別の大学や研究機関に移ることも心配しないようになる。 これは、最も重要な資源が人である、学校という組織の執行部としては最悪の精神構造である。立命館に長期的ダメージを与える出来事が絶え間なく生じつつあるのは、こういう精神構造が立命館で支配的になった結果であることは明らかである。教育を本務とする組織であることを失念し、熱にうなされたような事業欲の奴隷となってしまった状態から組織が解放され自由になれば、学校としての立命館に大きな未来があることは明白だが、そういう解放が実現しなければ立命館には未来がないことも明白である。

財務の問題

以上のように、最近の立命館で発生している問題の大半は根源が「財務」にあると思うが、財務のあり方自身にも社会通念的にみておかしいと感じるところがあり、将来的に長期的ダメージをもたらすのではないかと懸念するので3点を指摘したい。

(6) 入札の実施 

立命館では大規模な工事が絶えず行われているが、いつも同じ業者が受注しているように見える。立命館も多額の補助金を受けている以上、公的機関として公正な入札が行われなければならないはずである。何らかの不正や財務的合理性に欠ける支出が明るみにでて、長期的ダメージを受けないためにも、公正な入札によって学費と補助金が無駄なく効率的に使われていることを確認するべきではないか。

(7) 事業資金の肥大化

立命の某幹部が某雑誌で一千億円近い資金があることを誇らしげに語っている。立命館の財務諸表をみると、学園将来構想推進準備資金引当特定資産334 億円と減価償却費累計額653億円を合計すると987億円となり、これが言及された「資金」であることが推測される。減価償却費は法人がいつも使える資金であることが上記発言から明らかであるが、2007年度決算では教育研究費271億円の内の1/4にあたる66億円が減価償却費という名目で事業資金となっているし、資産運用として71億円が学園将来構想推進準備資金引当特定資産に組み込まれている。管理運営費に計上されている減価償却費7億円も加えると、2007年度は144億円もの額が将来の事業のために貯金したことになるが、これは帰属収入729億円のほぼ2割にあたり、教育研究活動のための学費545億・補助金87億円の633億円が主な収入であり事業収入はわずか30億円の学園財政のありかたとしては事業重視の歪みが余りにも大きい、と考える人が圧倒的に多いはずである。将来、重大な背信行為として注目される危険性がここにもある。(数値は2007年度消費収支計算書・貸借対照表・資金収支計算書より:http://www.ritsumei.jp/public-info/public02_j.html

(8) 「事業所」別の会計報告の欠如

APUは、海外から多数の学生を集めるために膨大な奨学金を用意している。当初は企業からの寄付が原資であったが、最近は寄付がないと聞く。もしもRU学生の学費がAPU学生の奨学金に回されているとすれば大問題となる。また付属校の財政は赤字と聞いているが、そこにRUの学生の学費が使われているとすれば、やはり大問題である。しかし、その点を学生や一般の教職員が確認しようとしても、APUとRUや付属校の会計が独立して公開されていないためできない。「事業所」別の財務公開がされていないことは上の疑惑を強めており、その疑惑が何らかの方法で検証された場合には重大な背信行為として注目を浴びることになるが、これはRUを志望する受験生を激減させる懸念があり、早急な対応が必要である。