出典: 公示サイト文書
総長候補者に推薦されて

川口 清史

今、日本の大学は大きな変革期にあります。それは明治の大学制度の創設、戦後の新制大学制度に続く第三の変革とまで言われる大きな改革です。日本に限らず、世界の大学が「危機」とも呼ばれる大きな変革に直面しています。これは時代の変化が社会の先端的な位置にある大学に集中的に現れていると見てよいでしょう。

こうした時期に、私たちは「立命館憲章」を制定しました。これは立命館の100有余年の歴史的な到達点を踏まえ、私たちのミッションと進むべき方向、そして進め方を確認したものとして大変重要な意味をもっています。検討委員の一員として、また学部長として、構成員の中で議論を巻き起こし、それを反映しつつ参加できたことを誇りにも思い、喜びも感じています。

「憲章」は、「平和と民主主義」を教学理念としてあらためて確認し、それを21世紀初頭の今日の時点にたって「歴史を誠実に見つめ、国際的相互理解を通じた多文化共生の学園を確立する」と敷衍しています。イラクの情勢があり、安部政権が発足し、北朝鮮が核実験を行った今、これはとても重要な意味をもちます。もちろん、教育・研究としての「平和と民主主義」と社会運動としてのそれはおのずから異なります。私たちは教育と研究の論理に内在してこれを具体化していかなければならないでしょう。

「憲章」はまた、「自主・民主・公正・公開・非暴力の原則を貫き、教職員と学生の参加、校友と父母の協力のもとに、社会連携を強め、学園の発展に努める」と学園運営の基本方向を示しています。自律性、自主性は大学の、とりわけ私立大学の存在の根幹に変わる事柄だと認識しています。それは歴史的には「大学の自治」として現され、立命館大学ではそのより民主的なあり方として「全構成員自治」として表現され、運用されてきました。「自治」という捉え方は権力の介入との対抗として大きな意義を持ってきました。今日の市場主義、競争社会の中でそれに対応した捉え方と表現について、いっそうの議論と検討が必要でしょう。

教職の協同と様々な形態での学生の参加はこれまでも立命館の学園造りに不可欠な要素であったし、これからも重要な意義を持つでしょう。全員の参加する学生自治会は全国の主要な大学では立命館だけといわれています。また職員の働き振りと能力については他大学からつとに高い評価を受けてきました。これらは立命館の「財産」ともいうべきものです。「経営体」としての視点から言うと、それは重要な経営資源であり、フルに活用すべき、ということになります。とはいえ、その形態についてはそれぞれの時代にふさわしいものが求められるのであって、不断の革新が必要といえるでしょう。

憲章に「未来を信じ、未来に生きる」という末川先生の言葉が取り入れられたことをとりわけうれしく思っています。教育にせよ研究にせよ、それは未来を創る作業です。大学は未来に責任を負った組織・機関です。その一翼を担うことに、責任と誇りと喜びを感じています。