(DG-B)は微分幾何における私の研究の中心テーマである.これはS.Lieによ る微分方程式研究から始まった E.Cartan・G.Spencer・田中昇等の流れにそう ものであるが,形式解空間を形式的微分幾何の枠組みで分析する方法をとった 点が新しく,この試みにより微分方程式に関連する幾何学的諸概念の体系が簡 素化され見通しがよくなったと思われる.
<形式的微分幾何>はI.M.Gelfandが1970年のNice の国際数学者会議で提唱し たもので,無限jet空間(函数の形式的べき級数展開を集めた空間)のもつ自 然な平坦接続を利用することにより,函数解析の技術的な問題に立ち入ること なく函数空間のドラーム複体やベクトル場などについて論じることを可能にす る枠組みである.
これを微分方程式の形式解の空間に適用すると,平坦接続によりドラーム複体 からスペクトル系列といわれる枠組みにより種々のコホモロジーが派生するが, それらの元として種々の<アプリオリな解不変量>がえられる.学位論文 [A-1982]は,これらの幾何学的意義を明確にするとともに,単独方程式のばあ いの計算方法をあたえた.その後,この計算法をジャネ分解系列とよばれるも のの構成をとおして計算する方法として包合的微分方程式系に拡張した [A-1991].物理や微分幾何にあらわれる多くの具体的微分方程式系は包合的で あるか,包合的なものに延長する組織的方法があるので,この方法により,不 変量の有無などがコンピュータをつかって組織的に調べることができるように なる.
また,形式幾何学のアプローチにもとづき,超微分方程式系について通常の微 分方程式系と同様の形式的理論を展開した[A-1989]。その核となる「包合性」 の概念の定式化には,計算代数の分野で中心的役割をはたしているグレブナー 基底の概念を利用した.この包合性概念により<カルタン−ケーラーの定理> の実用的形式で定式化し証明することができた.なお、グレブナー基底にもと づく包合性概念は,これまでものと同じ理論的機能をもちながら、しかもより 柔軟なものとなっており、ふつうの微分方程式系についても役にたち、うえに 述べたのジャネ分解系列を構成するときにも基本的な役割をはたす。
[A-1974] Cohomology of vector fields on a complex manifold:
Proc. JapanAcad., 50 (1974), 797-799.(PDF)
複素多様体上の(0,1)型のベクトル場のコホモロジーの一部を関数係数の場合に計算した.
[A-1976a] Cohomology of the Lie algebra of vector fields on a
complexmanifold: Invent. Math., 34 (1976), 1-18.(PDF)
[A-1974] の詳細.
[A-1976b] Spherical means on Riemannian manifolds: Osaka J. Math.,
13(1976), 591-597. (PDF)
リーマン多様体上の酔歩が定める積分変換の正則度を計算した.これにより,酔歩の定める積分変換の非ゼロ固有値に対する固有関数が滑らかなことが示された.
[A-1976c] Differential representations of vector fields ( with K.Shiga):
Kodai Math. Sem. Rep., 28 (1976/77), 214-225.(PDF)
直線束の切断空間へのベクトル場のリー環の微分作用が存在することへの位相的障害を与えた.
[A-1977] On the continuous cohomology of the Lie algebra of vector
fields: Proc. Japan Acad.,53 (1977), 134-138.(PDF)
ベクトル場のリー環のテンソル場へのリー微分による表現を係数とする連続コホモロジーを決定した.
[A-1978] Integral transformations asscoiated with double fiberings:Osaka
J. Math., 15 (1978), 391-418. (PDF)
2重ファイバー束から決まる積分変換が関数の正則性をどれだけ改善するかの評価を幾何学的に計算できる量により与えた.応用として,対称空間上の平均化作用素の正則性を計算した.
[A-1979] Conservation laws of free Klein Gordon fields:
Lett. Math.Phys., 3 (1979), 445-450 (PDF).
自由クライン−ゴルドン場の高階微分で表される保存則は,2階微分で表されるものと同値であることを示し,それをすべて数え上げた.
[A-1981] Continuous cohomology of the Lie algebra of vector fieldsassociated to nontrivial representations: Mem. Amer. Math. Soc., Vol.34, no. 253 (1981).
[A-1978] の詳細.
[A-1982] (学位論文)On variation bicomplexes associated to
differentialequations: Osaka J. Math., 19 (1982), 311-363. (PDF)
微分方程式の形式解の空間にはいる自然な平坦接続を用いることにより,ドラーム複体が2重複体の構造を持つが,それによって派生するスペクトル系列(ヴィノグラードフ−スペクトル列)の要素の幾何学的な意味を明らかにした.また,スペクトル列の一部を計算するアルゴリズムを単独方程式について与えた.
[A-1983]微分方程式系の形式幾何学:数学 35 (1983), 332-357(PDF).
学位論文[A-1982] の解説
[A-1984] Conservation laws of the BBM equation (with S.V.Duzhin): J.Phys. A, Math. Gen. 17 (1984), 3267-3276.
学位論文で与えた方法により BBM 方程式の保存則をすべて決定した.
[A-1985] Characteristic classes for families of foliations: Advanced
Studies in Pure Math., 5 (1985), 195-210.
葉層構造の族に対する新しい特性類を導入した.
[A-1987] KdV-invariant polynomial functional: Journal of MathematicalPhysics, 28 (1987), 1886-1900.
KdV-方程式の解に対する不変汎関数の代数はMiurA-19Gardner-Kruskal により発見されたものによって生成される多項式環となることを示した.
[A-1989] Compatibility of systems of super differential equations: J.Geom. Phys. 6 (1989), 169-213.
超微分方程式系に対して包合性の概念を導入し,カルタン・ケーラー型の定理を証明した.
[A-1990] Formal geometry of systems of differential equations: SugakuExpositions 3 (1990), 25-73.
[A-1983] の英訳.その後の発展を追加した.
[A-1991] Homological method of computing invariants of systems ofdifferential equations: Differential Geometry and its Applications, 1(1991), 3-34.
一般の包合的微分方程式系のヴィノグラードフ−スペクトル列の計算方法を与えた.