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奈良女子大学理学部数学科集中講義
2000.1.31updated
講義の目的
物理主義/「唯情報」論からの脱却を目指す。法則・規則・必然性・機械・メ
カニズム・情報等の概念は、生命理解を阻む大きな誤解を伴っている。その誤
解を支えているのが「確定した無限集合」である。この錯誤を放棄することを
目的とする。
21世紀は生命科学の世紀と呼ばれています。数学が生命科学に果たす役割
はどのようなものになるでしょうか。これは、数学の分野から「複雑系の科学」
に近づくときに抱く関心事の中で大きなものの一つですが、多くの数学者は悲
観的です。その要因の一つは、今世紀の数学が「確定した無限」に頼り過ぎて
いるところにあるようです。その代償として「時間」が数学から姿を消し、生
命的現象も時空幾何学の一枚の絵として語る以外の方法がなくなり、生命の本
質をなすと思われる不定性を語る余地が数学からなくなっているように見える
のです。
最近この悲観を少しやわらげる動きが始まっています。これは、いろいろな
文脈で出現していますが、研究成果記述の新しい形式の提言を含めパラダイム
変更の可能性も秘めた大きな動きと言えるでしょう。この動きを理解するには
「不定性」の意味を知ることが必要ですが、この不定性は「確定した無限」と
相いれないため、現代数学には無縁のものと考えられてきました。しかし、こ
の不定性が、数学自身にとっても大きな意義を持つことが角田氏の研究を通し
て明らかになってきました。
この講義では「確定した無限」の象徴とされる「自然数集合」が持つ種々の
不定性を色々な角度から照らし出し、数学の内包する不定性の一端を提示した
いと思います。