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Weekly Reports No 67 コラム:大学を考える

私学化・独法化・民営化

辻下 徹

2001.9.10

「私立大学民営化論」[67-9-3]は、企業による大学設置・経営の規制緩和を説く。有馬氏は「私立大学独立行政法人化」に言及したことがある[67-1-5]。これらは私学化・独法化・民営化の以下のような相互関係を明示する。

 日本の私立大学は、国立・公立大学と同じ法律(「学校教育法」・「大学設置基準」等)により教育施設・教育課程等の条件を詳細に規定されており、準公的教育機関と言って良い。また、私立大学を設置する法人は、私立学校法で組織・業務を詳細に規定された非営利法人(学校法人)である。使命や組織においても、設置認可と補助金受給において文部科学省の指揮下にある点においても、私立大学と国立大学との違いは、私立大学と営利企業との違い程には大きくはない。

しかし、国立大学の民営化論は私学化論と混同されることが多い。私学化は現行法下の大学制度を変えることなく実施が可能な政策だが、営利法人化としての国立大学民営化は、営利企業の高等教育参入を許すことにもなる法改正を伴うものであり、日本の大学制度を根本から変えてしまう。

 国立大学の「独立行政法人化」は「私学化」と「民営化」の中間に位置する。独立採算ではないため私学化より良いと考える人も多いが、独立行政法人大学制度の実現は、日本の大学システムを経済産業界に組み込む準備となる。「出資者」である国から指示される中期目標を、決められた資金内で達成すると共に、「利潤」の役割を果たす種々の評価数値を最大化するよう効率的に活動しなければ、6年目の改廃審査をパスできない。

 さらに、中間報告案[67-2]にあるように、私立大学と異り、大学自身を法人とすれば、教育・研究セクタが経営セクタに直接従属することは避がたくなる[67-1-1]。実際、中間報告では、経営のプロや官僚が学外から参加できる役員会が大学をトップダウンに運営し、学科再編成や教員の雇用・解雇を自由に行い、運営交付金・競争的資金等を増やすために教員を「社畜」ならぬ「学畜」として活用することになる。

 このように、国立大学の独立行政法人化は学校法人化と異り、営利大学(for-profit university)[67-1-4]の雛形を日本に誕生させるものであり、繰り返すが、大学システム全体を経済界に従属させる一歩となり兼ねないのである。

大学基礎教育の一部を受験予備校にアウトソーシングする[67-1-2]ことも現実化しつつあり、また、現在の大学における人的資源では実現が困難と言われる法科大学院における教育の一部を司法予備校[67-1-3]へアウトソーシングすることも可能性としてはあるだろう。こういったことが進めば、営利大学の登場は時間の問題となるのではないか。



[67-1-1]蔵原清人「独立行政法人化は日本の大学をどう変えるか:4.大学・学校の法人格の問題」
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/99c03-kurahara.html#4
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[67-1-2]駿河台予備校「リメディアル教育プログラムのご案内と実績紹介」
http://www2.sundai.ac.jp/kyouken/rimediaru.html
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[67-1-3]辰巳法律研究所
http://www.tatsumi.co.jp/
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[67-1-4]The Chronicle: For-Profit Higher Education
http://chronicle.com/indepth/forprofit/
"Colleges and universities operated for profit are getting increased
attention in higher education. They have been gaining in popularity
and causing some traditional institutions to worry about the increased
competition."
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[67-1-5] 有馬朗人「私立大も「独法化」が有効」
朝日新聞連載「!大学はどこへ 独立行政法人化の波」2000.5.26
http://www.jca.apc.org/toudai-shokuren/dekigoto/000526a.html

[67-9](文献紹介)市川昭午「高等教育の変貌と財政」玉川大学出版2000.3
http://www.tamagawa.ac.jp/sisetu/up/isbn/isbn4-472-40141-X.html
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nethe3477.htm

[67-9-3]「私立大学民営化論」
第7章 大学の財政と設置形態

「参入親制撤廃論 p142

エコノミストのなかには私立大学は非営利の建て前と一律機関補助であるこ
とから,効率的経営を行うインセンティブが乏しいとして,機関補助を個人補
助に切り替えるとともに,利潤分配の禁止規制を廃止し,長期的には営利法人
の参入を認めるべきだと提言する人もいる.・・・・

営利企業による大学経営はけっして荒唐無稽な絵空事ではない.すでにアメリ
カで急速な発展をみており,年商35億ドルのビジネス産業に成長している.・・・・
営利型大学の利点としては・・・・教育二一ズに敏感になり効果的な教育が行
われること,大幅に税金に依存する既存型大学に対抗するために能率的な経営
がなされること,・・・・資金を市場で調達できるため労働需要の変化などに
敏速に対応できること,・・・・補助金をはるかに上回る税金を納入している
点で納税者負担を軽減すること,などが挙げられている。

しかし,次の段階になると,営利型大学も公費補助を要求するようになる.・・・・
しかし、営利型大学学生への奨学金が非営利型大学学生に対するそれに近づく
につれて,納税者に面倒をかけないという営利型大学の謳い文句は効力を失っ
てくることになる.

わが国でも福祉事業にはすでに営利企業の進出が認められているし,病院等に
ついても規制緩和が検討されている.高等教育においてもその一部と認められ
つつある専門学校については,設置者が学校法人でなければならぬという縛り
がない.こうした状況からみて,大学だけが例外でいられるという保障は乏し
いといわねばならない.

・・・・経済的な効率性という観点からみるかぎり,広義の行政機関である国
立大学よりは学校法人である私立大学の方が,また非営利法人である私立大学
よりは営利法人である高等教育機関の方が優れているということになりそうで
ある.しかし,だからといって,国立大学を私立大学化し,学校法人を営利法
人化していけばよいということにはならない.

周知のようにヨーロッパ諸国ではほとんどの大学が国立か公立だし,市場化を
主張するエコノミストがモデルと仰ぐアメリカでも公立大学が圧倒的なシェア
を占めている.こうした事実は大学が効率性の原理だけで運営されているので
はないことを示している.どこの国でも大学に非営利法人の地位を付与したり,
公費補助をしているのは,大学には消費者を喜ばせる以上の使命があると考え
られてきたからであり,その教育や研究を消費者の選択に任せきりにしておく
のは適切ではないという社会的判断があったからである.市場化で問題が解決
するのであれぱ,そうした配慮は必要なかったはずである.大学は経営問題を
有するにしてもあくまでも教育研究機関であり,教育サービスを売る企業では
ないのである.

ボールディングは「非効率の礼賛」と題した論文で,経済学者として大学運営
効率化の必要性を認めながらも,それがすべてではなく,人間的な効率が大切
だという見地から次のように述べている.「大学の余計なものや非効率は人間
活動の究極的な生産物の一部であり,生きていく理由でもある.大学を狭い意
味で効率的にするのは社会に対する最もひどい仕打ちになるかもしれない」