Academia e-Network Project

Academia e-Network Project


ICT による連携の短所と長所


情報・コミュニケーション技術(ICT)の進歩により、社会における新しいタイプの連携が技術的に可能となった。しかしインターネットの普及により通常の社会的現象がICT使用にも普通に見られるようになり、特に犯罪も多発し、インターネットの法的規制が急速に進んでいる。規制は包括的な方向に進む気配を見せ、ICT の潜在力が押し潰される懸念が出てきている[1]。このままでは、高々、「i-mode」による実用的情報閲覧手段か、あるいは、無数のフィルターを経た情報しか伝わらない現マスメディアと同じものになり果ててしまうおそれもある。ICT 使用に関する社会的技術の開発が急務である。

ICTに基くコミュニケーションの長所と短所は広く認識されつつある。顔が見えない対話による合議は難航し、オフネットの連携なしに具体的な活動を実現することは困難である。しかし、広範なメール連絡網やポータルサイト等がいったん形成できれば、個人が不特定多数に照会したり企画への参加を呼びかけたりすることが迅速に簡単にでき、浅いが機動性のある広い連帯が可能となる。

Academia e-Network Project


3年前に、大学が「知の共同体」の場としての機能を失いつつある危惧を背景として、インターネット上に知の共同体の場を構築するための「Academia e-Network」の設立準備会が発足した。しかし、その後の経験と検討とを経て、「Academia e-Network」を以下に述べるような連携様式としてとらえ直し、設立準備会を解散す ることにした。それは、既に多くの人々が独自の考えで意識的に無意識的にAcademia e-Network を形成し拡げており、こういった動きを特定の組織として顕現化することは、新しいぶどう酒を古い皮袋に入れることに他ならないと判断したからである。しかし、新しい連帯様式の普遍化を目ざす "Academia e-Network Project" を、新様式の連携によって続けることにした。

新しい連携様式としての「Academia e-Network」


いま、種々の要因により、学問と教育の世界まで、ナマの力(権力,財力,暴力等)に直接支配される時代が近づきつつある。このような時流の中で、「学問的価値観」を共有する広い連帯が大学界・教育界に形成され、この価値観が強化されることは、いままでにない重要性を帯び始めている。というのは、この価値観には、ナマの力をおのずと相対化してしまう力が付随しているからである。

連携が、学問と教育の世界において広汎に形成されるには、強い連帯をもたらす伝統的な様式だけでなく、ゆるやかな連帯様式も役立つであろう。インターネットには参加と退出との心理的な閾値が低いために、浅いが広くオープンな仮想的連帯を自然発生的に形成する力がある。この仮想的連帯は「ナマの力」に直接対抗する力を持つ可能性は低いが、ICT革命の恩恵により、連帯のインフラ維持のためのコストは低いために「ナマの力」からの独立性を保てる長所がある。

学術・教育界における、ICT に基づく上のような連帯を、今後 Academia e-Network と呼び、それを支える ICTインフラをも Academia e-Network と呼ぶ。

Academia e-Networkは、現実社会で猛威を奮う「ナマの力」を相対化する機能ーー学術・教育界が本来持っている機能ーーを内包しているが、その具体化は一様なものとはならない。仮想的連帯から現実的連帯が形成されることもあり得るし、それは極めて重要なことではあるが、そのきっかけを用意するところまでが Academia e-Network の働きである。もちろん、仮想的連帯と現実的連帯の間に明確な境界があるというわけではないが。

すでに、 多くの Academia e-Network が存在している。多様なAcademia e-Network が無数に形成され相互作用をしつつ広がっていくことを目指し、Academia e-Network Project に、可能なことから、取り組んでいきたい。

なお、Project の一環としての性格を明確にするために
国公私立大学通信をAcademia e-Network Letter(略称 AcNet Letter)と改称した。


[1] この点についてユネスコのIC(コミュニケーション情報)部門「情報社会における表現の自由」シンポジウム(Paris, France, 15-16/11/2002)の最終報告 には「私達はインターネットを、その現実の欠陥や潜在的欠陥に着目するだけでなく、民主主義の道具として見る必要がある。・・・犯罪が重大なものであるときに、 それを口実にして、社会全体の保護と道徳的規範の尊重という大義名分の下で、内容の検閲がしばしば行なわれる。すべての関係者に、このような心配な成行きに警戒するよう忠告されるべきである。インターネット上の表現の自由は、危機と争いの時代には、他のどの時代にも増して重要なのである。・・・」と警告している。また、「商用スパム」の規制が過度に進むと「個人から不特定多数への発信」そのものが不可能となり兼ねない。



関連文書:「市民社会に向きあう研究者のネットワーク」要約( アレゼール第二回シンポジウム 2004.11.3 )


posted on 2003-10-01 by admin - Category: Project