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Subject: [kd 03-02-06] (転載) 教授会・評議会で行法化の是非そのものを議題に

国公立大学通信 2003.02.06(木)

--[kd 03-02-06 目次]--------------------------------------------
[1] 豊島耕一「教授会・評議会で行法化の是非そのものを議題に」
[2] 北海道新聞2/5「教育への国家介入を批判 山住正己氏が死去」
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各位

  前東京都立大学長山住正己氏が逝去されました。国家性善説の社会風土の中
で、戦前のような国の暴走の再発を食い止めているリーダーの1人を失ったこ
とは、日本社会全体にとって大きな痛手であると思います。ご遺志が多くの人々
に、特に、憲法により国からの独立性を保障された、私たち学術研究者の間に、
種々の形で受け継がれ浸透していくことを願って止みません。     (編集人)


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[1] 豊島耕一「教授会・評議会で行法化の是非そのものを議題に」
http://www.geocities.jp/chikushijiro2002/UniversityIssues/coward.html
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「    佐賀大学/独法化阻止全国ネットの豊島です.

    今朝の新聞で報道されましたが,全国ネットは代表の山住氏を失いました.
    奥様はじめご家族の皆様の悲しみを拝察すると共に,氏の遺志を何倍にも受
    け継いで,行法化阻止のために活動したいと思います.


    教授会・評議会で行法化の是非そのものを議題に

 「法案の概要」*と称する文書の“リーク”**がなされていますが,間もな
く法案そのものも明らかになるでしょう.このような時点に際して,すべての
国立大学関係者個人と教授会,評議会には新たに大きな責任が生じているよう
に思われます.それは,国立大学行法化が正式に国会と国民に提示されようと
する今こそ,当事者にはそれが何ものであるかを正直に証言する義務が課せら
れているのではないかと言うことです.

 これまで大学関係者は「中期目標」作成という,この制度への事前協力に荷
担して来ました.しかしこれは「仮に行法化すれば」という,仮定の上の,相
対的な対応であったはずです.どの大学も明示的に「独法化無条件支持」を議
決したとは聞いていません.したがって法案そのものの是非を検討することと,
上の相対主義的活動とは何ら矛盾しません.実際,国大協は法案についての意
見を求めているのです.

 つまり今まさにこの制度の「絶対評価」が大学に求められています.「中期
目標」の内容はさておき,そもそも行法化が大学にとって良いのか悪いのか,
その当事者としての評価を示さなければなりません.当事者の正直な意見表明
なしに,国民が,そして国会が正確な判断をすることには大きな困難がともな
うでしょう.

 具体的には,各大学の教授会,評議会で,行法化の是非について審議するこ
とが決定的に重要だと思います.反対運動をしている活動家の教員の皆さんは,
あるいは行法化に疑問を持つ方は,教授会・評議会で是非ともそのような提案
をしていただきたいと思います.2.1集会宣言にも「教授会、評議会、学長
への要請行動」というのがありますが,教員の場合は自分自身がそれらの機関
のメンバーなのです.法制上,唯一「重要事項」を審議する権限が与えられて
いる教授会の責任はとりわけ大きいと思います.行法化問題が大学にとっての
「重要事項」でないはずがありません.

 また,文通団の中には評議会メンバーの方も,あるいは学長もおられるかも
知れません.「どうせ取り上げられないだろう」といって沈黙するのは責任回
避です.会議で法案反対の意見が通る可能性は小さいかもしれませんが,しか
し個人は責任を果たさなければなりません.必ず採決を取り,だれが賛成し反
対したか,一人一人の責任が明らかになるようにしていただきたいと思います.
組合の集会などで原則論を言うのは「周辺的」な活動です.本務でこそ責任を
全うしていただきたいと思います.もちろん私自身も所属の教授会でそのよう
にしていますが,まだ成果はありません.

 その教授会でも感じるのですが,何か法案そのものを審議するのは畏れ多い,
というような雰囲気がたしかにあります.極端な臆病さが支配しています.そ
の正体が何かを見極めるのが重要たど思います.もちろんテロの脅しがあるわ
けではありません.国鉄解体の時のように,直接教員に解雇の脅しがかけられ
ているわけでもありません.要するに「葵の御紋」に過ぎないのです.「水戸
黄門ドラマ」は「テレビの中高年への悪影響」として広範なサブリミナル効果
をもたらしていると思われます.このドラマの最後に常に表れるシーンの暗示
は「権力は究極的には善である」,「中央権力には刃向かうものではない」と
いうものです.このように,少なくとも国立大学への官僚支配はその主要な基
盤が文化的なものだと思われます.

 もちろん,どの大学も,あるいはどの講座もすべてそうだと言うつもりはあ
りません.封建的で困難な状況のところもあるでしょう.また,気の強い人も
弱い人もいるでしょう.しかし私の感触では,多くの場合教員は抵抗を「自粛」
しているに過ぎないと思われるのです.「厳しい情勢」や「生き残り」を口実
にして自分の臆病さをカモフラージュする傾向はいただけないと思います.
(2003.2.4)
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 *「概要」をちらっと見ただけでも,導入されようとしている制度が近代性
からかけ離れた,いかにもグロテスクなものであることが分かります.まるで
一党独裁体制の社会に変わるかのようです.また,「法人」というのも,その
トップが大学のそれと同一人であり,ペーパー・カンパニーのように見えます.

** 無署名の「未定稿」文書として流れていることを称して,カッコ付きの
“リーク”と表現してみました.
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[2] 北海道新聞2/5「教育への国家介入を批判 山住正己氏が死去」
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「教科書問題などに長年取り組み、市民運動でも活躍した教育学者で前東京都
立大学長の山住正己氏が1日午前3時55分、肺炎のため、東京都新宿区の病
院で死去した。72歳。東京都出身。自宅は東京都杉並区阿佐谷南1ー38ー
2。葬儀は近親者だけで済ませた。関係者が「お別れ会」を開く予定。喪主は
妻美津子さん。
  東大卒で教育学博士第1号。1982年、日本の教科書検定がアジア諸国と
の間で外交問題発展した際に、「教科書問題を考える市民の会」の中心メンバー
として検定制度の在り方を批判する要望書を政府に提出した。日の丸・君が代
問題などでも発言し、教育への国家権力の介入を一貫して批判。日教組の教研
集会に助言者として長年協力したほか、市民運動にも積極的に参加した。
  93年4月から6年間、東京都立大学の学長を務めた。著書に「教育勅語」
「日本教育小史」など」
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