立命館学園で働く方々へ Dear colleagues, ◇◇野路便り(06-08-05 Sat) で紹介したAPUでの教員公募の他に 語学教員も多数公募されているというお便りを頂きましたのでご 紹介します【2】。 APUは、今年度から学生定員を5割増としたので、4年後には 学生が2000名増えることになります。「APUニュー・チャ レンジ全学検討委員会答申」(2004年10月)では予算定員 増1600名(学則収容定員増が1440名)に対し教員増20 名となっています。実際の予算定員増は2000名となったので、 単純に計算すると、教員増は25名となりますが、初年度に全員 募集することはないので、4年に分割すれば毎年6-7名です。 初年度で多目にとるとしても10名程度ではないかと思います。 今回の30名を越える教員募集は、APUからの教員流出の急増 の影響と推測されます。 もっとも「25名増」といっても専任教員数に換算した数で すので、全員を非正規雇用とすると実際には4年間で75名 増となるかもしれません。それでも単年度で30名の募集は 多いようです。 なお、「APUデータ」(*)によると、2005年4月の時点で、教員 数は111で、その内常勤講師数は40。この他に客員教員数5 0となっています。また契約職員49名、正規職員79名となっ ています。 (*) (*)http://www.apu.ac.jp/home/modules/keytopics/index.php?id=200 ◇◇APU学長のカせム先生が、今年の5月に中央教育審議会の大 学分科会で意見発表をされました。発表時のOHPも公開されて いると同時に、質疑応答の概要が公開されています【3】。 『今の説明では「立派な畑をこのようにつくる」という説明はあっ たが,具体的にどのような作物を育てるかについての説明はあ まり明確ではなかったように思う。』 『優秀な人材が集まるのは奨学金等の諸条件が良いためであると いう側面もある。今後の財政状況の如何によっては,大学にとっ て厳しい状況になるのではないか。』 『APUを作ることで,立命館大学にはどのような影響があり,どの ように変わっていったのか。また,APUのような拠点となる大学 をつくることが,日本の高等教育の国際化について持つ意味は 何か。』 など、誰でも感じる率直な懸念や疑義に対し、APUの具体的努 力や諸苦労を率直に雄弁に回答されていますが、解決に至る見通 しのある現実的施策というよりは希望的観測に近くものが多く、 懸念は解消されるというよりは、深まったように感じました。 なお、「APUでは何を質問しても,職員が教員と同じように, 的確に答える」という最後のコメントは、誇るべきことと思いま す。しかし、これまで野路便りで紹介してきた諸情報からすると、 APUでは、教学も含めて、幹部職員が全権限を掌握していると 推測されるので、その当然の帰結ではないかと思ってしまい、単 純には喜べませんでした。 カセム先生が言及したアマルティア・センは、昨年10月27日にA PUで開催された「ノーベル賞受賞者シンポジウム」(立命館ア ジア太平洋研究センター(RCAPS)主催)に参加し「Against Injustice」(不正義に抗して)という基調講演をしました。講演 紹介のページ(*)には講演タイトルは記されていませんが「民主的 権利の剥奪によっても人間の潜在能力は奪われ得るのです」とい う言葉を紹介されています。現在の立命館が陥っている/陥いろ うとしている病態の本質を照らし出すメッセージです。APUで 「ヒューマンケイパビリティ」を高めるには、なによりもまず、 APUの構成員に最低限の民主的権利を与えることが先決問題で ある、というのが、アマルティア・センのメッセージの自明な帰 結となります。 (*)http://www.apu.ac.jp/home/modules/news/article.php?storyid=247 --------------------------------- 【1】(APU常勤講師雇止事件)市民による支援する会の結成総会8/24 --------------------------------- 詳細:http://university.sub.jp/apu/saiban/siensurukai01.htm ビラ:http://university.sub.jp/apu/saiban/apu_syuukai060827.pdf 「APU常勤講師の裁判闘争を支援し、職場復帰を勝ち取る会」結成総会 1、とき 2006年8月24日(木) 18:30~(20:00 予定) 2、ところ 別府市 中央公民館 第1研究室 --------------------- 【2】(お便り紹介) APUの教員公募の現状 --------------------- 8月5日の野路便りで、7月14日締め切りのAPUの公募(任 期の記述が不思議)が、少なくとも13名出ていることが紹介さ れていました。13名というのは「若干名」を1名と見た時の話で すが、2名だとすると合計21名になります。APUは、終身雇 用の教員を採用する気はほとんどないと思われるので、5年か1 年の任期のどちらかということになります。終身雇用(「定年ま で」)の記述は完全に餌で、それを書かなければ人が集まらない だろうと思われるので、人寄せのために書いてあるだけだと思い ます。この「任期3種類のうちのどれになるかは任用決定通知時 に知らせる」方式の公募は昨年くらいから始まった、と記憶して います。こんな公募で本当によい人材が集まると思っているのか、 不思議でなりません。 上の公募に加えて、言語教員についても9月30日締め切りで以 下の公募が出ています。 任期制教員(任期5年、英語助教授):1名 英語上級講師:若干名 英語嘱託講師:数名 日本語上級講師:若干名 日本語嘱託講師:数名 スペイン語嘱託講師:若干名 さらに、2006年度後期からの日本語の非常勤講師を若干名募 集(7月31日締め切り)していましたが、実際には5名も採用 することになっています。後期の日本語関係の時間割に約60コ マの空白(担当者が未定の授業)があり、それを埋めるために少 なくとも5名の非常勤講師を採用する予定のようです。 そもそもAPUには非常勤講師以外の教員は百数十名しかいない ので(06年度の2学部所属教員は98名、言語インスティテュー ト所属教員が12名で、計110名です。これに大学院だけ担当 する教員が加わります。)、これらの公募は尋常ではない人数で あると思います。 今の状況が続けば、毎年このような規模の公募が出続けることに なるだろうと思います。新設大学でもないのに毎年大人数の公募 を出している大学に対しては、それだけでも何か問題のある大学 ではないかと警戒し、応募するのを躊躇う、というのが教員とし ては極普通の反応だと思われます。 ------------------------------- 【3】中央教育審議会 大学分科会(2006.5.22)議事録・配付資料 議題(1)我が国の大学の競争力強化と国際展開について 【意見発表】Monte CASSIM氏(立命館アジア太平洋大学長) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/001/06060730.htm ------------------------------- 発表時のOHP: http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/001/06060730/002.pdf ( http://ac-net.org/rtm-net/f/06522-cassim.pdf ) 発表の後の質疑より: 意見1:例えば,我々が畑をつくるときには,まずどのような作物 を育てるかについて具体的に考えるが,今の説明では「立派な畑を このようにつくる」という説明はあったが,具体的にどのような作 物を育てるかについての説明はあまり明確ではなかったように思う。 どのような作物を育てるかという目的があり,その上でどのような 学生を育てたいかという目標があり,そのために,このような手立 てをとっているという説明だったが,逆に立派な畑をつくれば,良 い作物が自然と育つという考え方もある。APUの場合はどちらか。 回答:我々はアマルティア・センの「ヒューマン・ケーパビ リティー」の考え方を基本に置き,人間が持っている潜在的 な能力をどのように高めれば良いかを目的にしている。具体 的には,現在約40社と「グローバル人材育成プログラム」を 立ち上げて出資を要請してもらっている。このプログラムを 通じて「学部卒業段階で教養と技術の両方を備えた人材をそ れぞれの分野で輩出する」ことを目標としている。企業との グローバル人材育成プログラムでは,どのプログラムでも, 基礎教養の部分と自分が取り組むべき範囲を示す部分,高度 な仕事ができるように創造性を活用する部分の3つの段階に分 けて実施している。 意見2:日本でもある程度の投資をすれば,かなり具体的な改革が できることを実感した。教職員の方が効率的に動き,大学自体の主 体性が強いことの他に,学生に比較的高額の奨学金を支給している 点が注目される。日本の大学の国際化には,相当な資金が必要であ るが,それに大学の主体性が加われば,優れた教育ができるのでは ないか。 授業も英語で行い,全体の4分の1から3分の1は,世界に通用するほ ど優秀な学生であると感じた。しかし,その一方で,優秀な人材が 集まるのは奨学金等の諸条件が良いためであるという側面もある。 今後の財政状況の如何によっては,大学にとって厳しい状況になる のではないか。今後,奨学金についてはどのように考えているのか。 また,日本人と外国人が一緒に学ぶことが理念であったが,必ずし もそれが実現していないのではないか。やはり英語で授業を行い, 一定の成績を収めるというのは,学部段階ではかなり難しいのでは ないか。今後,このような状況をどのように解決していくのか。さ らに,学生間の成績にばらつきがある。学生の間に多様性があるが, それ故,どのような苦労があるか。 回答:奨学金の問題は大きな課題である。この奨学金制度を 立命館が負担したまま続けていくことは困難であり,最初の 10年間位が猶予期間であると考えている。我々の教育のユニー クさを活用して,資金を獲得しなければならないと考えてお り,グローバル人材育成プログラムが1つの試みである。現行 の奨学金制度が存続しているうちに,新しいシステムを構築 する可能性を検討している。 優秀な外国人留学生を呼び,日本人学生を元気づけるという 発想はある程度成功したと考える。その学生が社会に出るこ とで,グローバル人材育成プログラムの企業の応援も集まっ ている。また,海外の政府機関等が自国の留学生に対して奨 学金を出し始めている。以前,サウジアラビアを訪問した際, 新しい国際大学をつくる動きがあり,「あなた方は何ができ るか」と問われた。そこで,「『我々の大学の使命は,日本 の近代化とともに大衆の人材を養成すること』である。あな た方の場合は,石油が枯渇したときには人材に投資すべき だ。」と言ったところ,共同のパートナーになってくれた。 日本の大学は,基本的に功利主義ではない。その功利主義で はないところを上手に国際社会の発展に結びつければ,米, 英,豪の大学と比べ,特色がはっきりした国際大学像を出せ るのではないか。 財政構造については,奨学金は現在年間約14億円を執行して おり,より一層の多様化のためには,その規模を拡大させる 必要がある。そのため,今でも日本人学生と外国人学生を一 緒にさせるための教室外での活動として,寮の建設や各国や 地域の言語や文化を学ぶセミナー等を正課外活動等として行っ ている。 しかし,最も困難なのは,日本人学生の英語能力を如何に向 上させるかということである。そのため,現在,言語改革を 行っている。これまでの日本の大学は,格調高いシェークス ピアの文学やワーズワースの詩を理解できる学生を育てる工 夫をしてきたが,そのような人材は必要としていない。 TOEICやTOEFLのスコアを上げることを必要としている。しか し,現在のような転換期には,学生は両方の観点から評価さ れ,板挟みになっている感じがする。言語政策については, 特に日本人学生の英語能力に力を入れるべきである。多様性 の中で,ばらつきがあるということはある意味当然である。 私立大学は国立大学とは違い,様々な人材養成の使命がある ため,多様であって然るべきである。私のゼミでも,成績の 良い学生,良くない学生を混ぜて構成している。レベルに応 じた教育も必要であるが,時には異質なもの同士が一緒にな るような場をつくらないと,創造性が出てこないのではない か。 意見3:国際的な大学をつくるということと日本の高等教育を国際 化するということにはどのような関係があるのか。日本各地にいわ ば点としての国際大学が存在するが,財政的にも厳しく,なかなか 日本全国に広がらない。日本の大学の国際化という場合に,点では なく面,つまり大学全体の国際化が進まない限り,拠点になるよう な大学を作っても,それだけでは状況が変わらないのではないか。 一体どうすれば,拠点としてつくった大学が,他の大学に影響を及 ぼし得るのか。政策的には,そのことが重要なポイントではないか。 APUを作ることで,立命館大学にはどのような影響があり,どのよう に変わっていったのか。また,APUのような拠点となる大学をつくる ことが,日本の高等教育の国際化について持つ意味は何か。 回答:APUが成功している要因は3つある。それは,(1)立命館 がリスクを背負いながら,設立を決心したこと,(2)県や市が 大学の創設経費の約半分を出資した公設民営型の大学である こと,(3)企業からも協力が得られたことである。今後,(1) については,立命館の代わりとなるような高等教育の国際化 のためのファンドの設立を検討している。(2)については,日 本各地に国際大学を設置できるように社会インフラ整備を考 えなければならない。公立大学の全てとは言わないまでも, 3県に1校程度設置できないかと考えている。(3)については, 奨学金について,なるべく財政的に自立してやっていくこと が必要ではないか。今回のニューチャレンジ計画でも,学部 をつくらずに様々な工夫を行ったのは,限られた資源の範囲 内でどうすれば良いかの知恵を絞った結果である。これまで, 日本の大学はそのような知恵の絞り方をしてこなかったので はないか。多くの場合は,管理運営部門があまり機能してい ないからであり,うまく機能させるには,教職員の協力が不 可欠である。 日本の大学の国際化に関連して,たとえばスリランカでは, 国が学費を支払い毎年6,000人をオーストラリアに派遣してい る。国内で国際的な教育のニーズは高まっている一方で,日 本は視野に入っていない。それは,日本は教育コストが高い というイメージがあるからである。しかし,実際に計算して みると,イギリスの大学の学費は日本の1.5倍高く,アメリカ の私立大学の学費は3倍高い。これらに比べれば,日本の私立 大学は国際競争力があるはずである。では,なぜ国際競争力 が低いのか。それには2つの原因があると考える。1つは,日 本語という言語の障壁である。日本語は外国人にとって学ぶ のが難しく,国際言語を日本の中に導入した方が簡単である。 もう1つは,PR不足である。技術大国日本で学ぶ魅力はあるに もかかわらず,PRが足りないように感じる。英,豪,ニュー ジーランドは国策として,留学生の受入れを推進している。 留学生の確保のためにも,我々は国と一緒に施策を進めてい きたいと考えている。日本には,国際的な市場で競争できる だけの高等教育があるということに対してもっと自信を持つ べきである。日本はあまり自信を失わずに,日本の強みを伝 えるために,どうすれば良いかを考えなければならない。そ して,その心がけが,日本で国際大学をつくること以上に, 日本の高等教育の国際化に貢献すると考える。 現在,九州大学が中心となり「アジア学長会議」を開催して いる。その目標は3つある。1つ目は,日本の高等教育をより 知ってもらうために,大学レベルで何ができるかについて, 例えば『ネイチャー』等の有名研究発表誌のようなものを自 発的に出版し,リサーチプラットフォームやインフラを共同 でつくることである。2つ目が,相互の大学で認証することで ある。設置認可とともに,それを証明する文書を多言語で作 成し,配付すべきである。現在は,そうした文書が無いため, 海外の大学との連携を進める上で困ることがある。3つ目が, お互いのプロフェッショナルな資格を認め合うということで ある。それにより,格調高い人材交流が活発になるのではな いか。宣伝のインフラづくりとともに学術的なインフラづく りが必要である。 意見4:APUが他の大学と根本的に違う点は,教職員が一体になって いるということである。非常にアイデンティティーが高い。何を質 問しても,職員が教員と同じように,的確に答えることができる。 このような大学は,日本にはまだ少なく,学ぶべき点が多々ある。 ============================== 配信数 3853