立命館学園で働く方々へ Dear colleagues, 前便で紹介した、藤岡先生による「中期計画2005-2010 常任理事 会案」への充実した批判文書の新しいバージョン(9/13)が出まし た: http://ac-net.org/rtm/f/060913-fujioka.pdf ( id: rtm, password: rtm ) この文書で取りあげられている、2005年度の人件費比率(人件費 ÷帰属収入)が極めて低い問題を前便で紹介しました。昨年度は、 平安女学院の跡地の寄付(約40億)が守山市からありましたので、 帰属収入が例年より高くなったことが原因の一つとなっています ので、この要因を除くため、例年の値に近い2004年度の「消費支 出÷帰属収入」84.7 % を2005年度の「人件費÷消費支出」47.8 %に乗じて補正しても40.5 % であり、全私学の平均52.5%よりはる かに低い数字です。 なお、臨時収入に影響されない指標として人件費依存率(人件費 ÷学生納付金)も頻用されています。月報私学 Vol 98 (日本私立 学校振興・共済事業団発行 2006.2 ) http://www.shigaku.go.jp/geppou98.pdf によれば、医歯薬系を除く大学法人では、2005年度の平均は 人件費比率 52.2% ( 立命 35.7%、修正後 40.5% ) 人件費依存率 74.4% ( 立命 51.5% ) です。 意外なことですが、人件費比率や人件費依存率が低いことは経営 の財政的健全性を示すものと考えられ、これらの指標が大学の平 均より大幅に低いことは立命館の経営が健全であることと評価さ れ、立命館の経営者の有能性を示すものとみなされているようで す。 このことは、経営的視点からすると、意外なことではなく、当然 とも言えます。実際、人件費依存率を下げるには、学費を上げる か給与を下げるか教職員数を減らす以外に方法はありませんが、 これは普通の大学では通常は極めて困難です。人件費比率の方を 下ることは、学生納付金以外の収入を増やせば、学費を上げず給 与を下げず教職員数を減らさずに可能ですが、学校法人は非営利 法人ですから限度があります。上げるのは簡単だが下げるのは難 しい人件費は、経営的自由度を保つ視点からすれば低い方が良い、 ということになります。 実は、人件費の多寡よりも、状況に応じて増減が調整できる「弾 力性」の方が、企業経営者にとってはさらに好ましいものとされ ており、「人材ポートフォリオ」は営利企業の経営ツールとして 重宝されているようです。最近、株式会社を「格付け」する組織 に「格付け」してもらう大学が増えていますが、その評価の際に、 教育研究の質を落さないで人件費を低く抑えることや人件費に弾 力性を持たせることが高く評価されています(*1)。教員を低賃金 でも一生懸命に熱意を失うことなく働かせることに「成功術して いる大学は高い格付けを得る可能性が高いようです。 (*1)「大学法人に対する格付けの視点(その2) --注目すべきポイントを分析ーーJCR格付け2002年10月号」 http://www.jcr.co.jp/pdf/gakko02.pdf しかし、大学は教育研究機関ですから、生身の人間がその活動を 支えていますので、人件費が低ければ低いほど良いことにはなり ませんし、教育と研究には継続性が重要な意味をもつので、人員 調整が容易であればあるほど良い、というものでないことは言う までもありません。営利企業としての評価と、学校法人としての 評価とは、整合的なものではありえません。 少し古い本ですが「Q&A 学校法人の財務分析」(監査法人サンワ 事務所編、第一法規 1986, ISBN 2037-046367-4370 )に「人件費 比率が低い場合の留意点」という項目(p90)があります。 | | 質問:人件費比率が約40%になっています。人件費比率が低い場合 | の留意点は何でしょうか。また、この比率を高める必要性はある | のでしょうか。 | | 回答:(中略)人件費比率が低い場合、次の点がクリアされれば、 | 望ましいものといえます。 | | (1) 帰属収入の中に臨時的異常なものが混入していないか | (2) 教職員数が大幅に不足していないか | (3) 近隣学校法人と比較して給与水準が低くないか | | (中略)近隣法人と比較して給与水準が低い場合には、教職員の教 | 育研究活動に対するモラルの低下を招く恐れもあるので、適正水 | 準について検討の必要があるでしょう。 | 立命館では(3)がYESの状況で給与カットを断行しました。これが 撤回されないまま月日が経てば、かつてあったと聞く学園の一体 感がもはや存在しない今となっては「モラルの低下」は不可避で しょう。 立命館の財務を分析をしている監査法人は、このような経営上の 深刻な歪みが最も基本的な財務指標に明確に現われていることを 看過しているのですから、学校法人としての立命館全体の健全性 にはほとんど関心のない事務的「監査」を行っていることがよく わかります。 なお、2002年の大学基準協会による認証評価(*2)の書類には、 「各長期計画の度ごとに大きな拡張事業を行ってきているので、 私大平均値を若干下回る指標もあるが、財政基盤の強固さは抜群 である」と評価されていましたが、すでに「拡張事業」の時代が 終わった後も、敢えて不要不急の事業を起して、それを口実に、 低い人件費比率を維持し、人心を荒廃させ教育研究機能を低下さ せつつあることは、次回2012 年の認証評価の際には問題になるか もしれません。 (*2) http://www.ritsumei.ac.jp/mng/ue/hyouka/hyouka_kekka.html http://www.ritsumei.ac.jp/mng/ue/hyouka/hyouka_kekka.pdf 上の報告書には「勧告」はありませんが「助言」はかなり沢山あ ります。是正を義務付けられているかどうかの違いだけで、勧告 と助言の間には明確な線引きがないとも言えます。その中で、言 語教育センターに関連して「外国語嘱託講師に依存した教育組織 が、教育責任の点で必ずしも十分とは言えない」という指摘があ ります。なお「総評」の部分に、独立研究科の研究科長を学長が 指名する制度は研究科の独立性を阻害する危険性があるという指 摘もありました。 さて、中期計画案が宙に浮いたまま、総長選任のプロセスが動き だしました。立命館の総長選挙は政策を争わないものだそうです が、今回だけは、候補者は中期計画案についての見解を明確にし なければならなくなりました。というのは、新総長は教学最高責 任者として、宙に浮いている中期計画の策定に、大きな発言力を 持つからです。教学の最高責任者が経営の最高責任者と意気投合 して人材ポートフォリオの活用に熱中するような大学にはなって ほしくないという思いは、大多数の教職員が共有していると推測 しています。 もしも、総長候補者推薦委員会が推薦する候補者リストの中に、 人件費比率等の指標が過度に低いことを問題と考える候補者も、 6/22の中期計画修正案の方向性そのものを批判する候補者も居な いとすれば、中期計画案に対する批判的な立場ーーおそらくは大 多数の構成員の立場ーーを実現する選択肢が存在しないことにな ります。これでは、名前が「選挙」という以外には選挙とは何の 関係もない、時間と労力を無益に費やすだけのお祭り騒ぎに終始 することになるでしょう。 ============================== 配信数 3828