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(転載)844号 労働判例 「福岡雙葉学園事件」(福岡高裁 平成17年8月2日判決)
人事院勧告に基づく期末勤勉手当の減額の効力
解 説
〈事実の概要〉
本件は、私立学校を経営する学校法人Y(被告・被控訴人)で教職員として勤務しているXら(原告・控訴人)が、Yが、平成14年12月と同15年12月に支給すべき期末勤勉手当を人事院勧告に基づいて調整減額したことを違法であると主張して、Yに対してその差額分を請求していたものである。
Yの給与規程では、その賞与について、「6月30日、12月10日・・・にそれぞれ在 職する職員に対して、その都度理事会が定める金額を支給する」と規定していた。Yでは、昭和51年以来、給与規程を人事院勧告に従って改定してきており、各年度の12月期の期末勤勉手当もその都度人事院勧告に準拠して決定し支給してきていた。14年度および15年度の人事院勧告は、いわゆるマイナス勧告であったが、Yは、11月理事会で、従前と同様に同勧告に従って、給与規程を減額改定したうえで、それを4月期に遡って実施することにし、12月期の期末勤勉手当においてそのための調整を行った。その結果、上記両年度の12月期の期末勤勉手当は減額支給されることになった。
原審は、平成14年5月、同15年5月の理事会で期末勤勉手当の算定基礎額と乗率が議決されたとしても、そこでは人事院勧告を受けて11月に開催される理事会で正式に決定されるとされており、その議決では未だ賞与の具体的請求権は発生しておらず、11月の理事会で人事院勧告に基づき調整した額を支給すると議決したことで具体的請求権が発生したもので、その決定額全額が支給されたのであるから、差額は存在しないとしてXらの請求を棄却していた。
〈判決の要旨〉
控訴審では、次のように判示してXらの請求を認容している。すなわち、(1)賞与も本質的には月払いの賃金と同様に労働者に対する賃金に他ならないのであり、賞与の支給の有無およびその支給額は労働契約の重要な内容をなしている、(2)12月期に期末勤勉手当が支給されることは、XらとYとの間の労働契約の重要な内容となっており、具体的な額が決まらなければ、期末勤勉手当の請求権が発生しないというものではない、(3)11月の理事会で具体的な支給額が決定されないような場合の12月期の期末勤勉手当については、従前の支給実績(具体的には前年の支給額)に基づいて請求権が発生すると考えるべきである(毎年度の期末勤勉手当の支給実績がその都度個別の労働契約の中に取り込まれて、労働契約の要素となっていると解される)、(4)そうだとすると、11月理事会で従前の実績を下回る支給額が決定された場合も、それは労働契約の内容を労働者に不利益に変更するものであるから、それが効力を有するためには、原則として個別に労働者側の同意があることが必要である。したがって、労働者側の個別の同意がない場合において、当該減額の変更が有効であるといえるためには、その減額が必要やむを得ないものであるなど合理的な理由があり、かつ、相当であるなど、特段の事情がなければならない、と。
私立学校などの教職員の給与については、賞与を含めて人事院勧告に準拠して決定するとする例はかなり見られる。人事院勧告が給与引き上げを内容とする場合は特段の問題は起こらないが、本件に見られるように減額の勧告の場合、それに準拠して同じように引き下げることができるかどうかは、それぞれの経営の労働実態が異なるのであるから単純にはいかないであろう。ただ控訴審判決の論理もやや強引なところがあり、上告審の判断が待たれるところである。