これまでに、種々の「必要性」を理由になされた学則等の改定を通して理事長の権限が劇的に強化された経験を私達はしてきた。私学法改定を理由になされた寄付行為改定で理事長が巨大な権限を掌握し、学園規模拡大を理由になされた総長選任規程改定では理事長が総長を事実上指名できるようになったことは記憶に新しい。2度あることは3度あるものである。理事会への信頼感が根底から失われたままの教学現場では、今回の就業規則改定も、また、理事長や幹部職員の権限拡大を意図したものであると推測せざるを得ない。事実、改正案は、理事長に教員懲戒権を付与する点や、懲戒事由に「職務命令違反」を加え、これまでになかった「命令遵守」を職員の義務に課している。この意図は、全構成員の「協力」を基盤とした現行の就業規則と比較すると歴然としている:
現就業規則 第4条 職員は職制に則り、相協力して業務に当らなければならない。 就業規則案:服務の義務 第46条の2 教職員は、この規則に定めるほか、所属長の指示命令に従い、 誠実に職務に専念するとともに職場の規律を維持しなければならない。幹部職員に見識があり適切な指示をすれば誰でも喜んで従うものである。幹部職員が現場にそぐわない不合理な計画をたて実施を指示するだけで現場の批判や提言に耳を貸さない場合、軍隊ではなく、教育と研究を行う組織である以上、それに従う事を拒否することは、教育と研究の現場が機能していることの証しであろう。
職務命令の徹底を重視することが象徴するように、今回提案の就業規則案の根本にある発想は、学園の全構成員が、それぞれの立場で適切に判断し行動する、という自主性に基づくこれまでの学園運営の原則を破壊するもので、立命館そのものを破壊するとさえいえるものである。以前の「ガバナンス文書」で目標と定めた「トップダウン体制」の基礎固めの意図が歴然としており、理事会への信頼感を失った教学現場において、このような変更は認められるはずがない。
具体的には以下の点を指摘したい。
【1】就業規則の大幅な変更の根拠が希薄である。理由に掲げられた個々の事項に応じて必要な最小限の修正にとどめるべきである。「多様な雇用形態」により「体系の一貫性がなくなっている」としても、それは当然なことで、個々の雇用形態毎に就業規則を作ればよいだけである。
【2】第25条に、教員の勤務形態を裁量労働制とするとあるが、今まで通りでは何か支障があるのか。今までの就業規則の教員についての部分は理事会側にとって支障となる点があるのであればそれを具体的に明確に述べていただきたい。
なお、裁量労働制は、研究を自分の自由な時間や場所でできる制度、と勘違いしている教員が多いが、「勤務時間」は大学での勤務時間しかカウントしない以上、家でいつも研究しているとしても、大学での滞在時間がかりに週20時間であるとすれば、20時間で「40時間」相当の労働をしていることを証明すために、当然のことながら、評価の問題が発生してくる。「評価」というと数値評価になる現状を考えると、これは、立命館を独立行政法人研究所の理研や産総研と同じようなところにしてしまうことになろう。【3】教員の懲戒・解雇はあくまで教授会、あるいは、大学協議会の権限で行うことであって、この点を実質的に変えることは不適切である。
解雇についての18条では、「法人は、教職員が、次の各号のいずれかに該当するときは、解雇することができる」と書いてあって、そのプロセスに触れていない。特に、解雇の事由としてかがげている次の二項は「該当する」かどうかの判断は容易ではないので、判断のプロセスが明記されていなければ危険である。
(6)勤務状況または勤務成績が、著しく不良で改善の見込みがない と認められたとき (7)職務遂行能力または能率が、著しく劣り改善の見込みが認められない ときまた、教員については、当然ながら、教授会および大学協議会での審議に基づかなければならない。