野路便り Letter from Noji (06-05-23 Tue)
[1] 禁衛隊と滝川事件の同時性の謎について
[2] 第3回衣笠フォーラム5月25日(木)
[3] 中期計画検討案についての意見
[4] APU常勤講師による地位保全仮処分申請
[5] 第81回「職場の人権」研究会 2006.5.27(土)
[5-1] ゼネラルユニオンによる署名の英語版
立命館学園で働く方々へ
Dear colleagues,
[1] 禁衛隊と滝川事件の同時性の謎について
憲章案についてBKC月曜会の意見 http://ac-net.org/rtm/No/24 に
関連して以下のようなコメントをいただきました。
「改革は、教育研究機関としての大学のバックボーン(国家百
年の計ならぬ、大学百年の教学理念)確立のためのそれのみを、
改革とすべきですね。今の立命館学園は、二次大戦中、次々と
戦時体制の時流に乗り、立命大生が銃を担いで京都御所を練り
歩いたと言う「禁衛隊」と大きく変わるところはありません。
安易な改革は時代が変われば、瓦解します。かつ、ご意見にあ
るように、常に改革が必要な大学は、バックボーンのない大学
と見られても仕方ありませんね。」
先週金曜日におこなわれた芦田先生の講演会「立命館民主主義に
学ぶ」であった質問『「禁衛隊」で御所を守らせると同時に、滝
川事件(http://ja.wikipedia.org/wiki/滝川事件) では京都帝大
法学部を抗議辞職した教官17名を受けいれるなど、戦前の立命館
も揺れていたのではないか』に対し、戦前は一貫していた、と芦
田先生は答えられました。意外でしたが、創設者の中川小十郎
(1866-1944,http://ja.wikipedia.org/wiki/中川小十郎) が44年
にわたり立命館学園を実質的に支配していたという一貫性かもし
れません。追悼記事で、当時の新聞は中川について「果断実行、
学園の刷新改革を行った」と書いていたそうです。
中川は青年時代に文部省官吏として1897年の京都帝国大学設立に
大きな役割を果し、京都帝大の初代大学書記官(事務長)となっ
たそうです。第1次西園寺内閣で総理大臣秘書を務め、樺太庁部長、
台湾銀行頭取などを歴任し、貴族院の終身議員にも勅撰される一
方、実業家としても活動し広い人脈を持っていたようで、大学で
同窓だった夏目漱石とも親交があったそうです。
1900 年に「京都法政学校」を設立しましたが、1913年に財団法人
立命館設立(学校法人という制度ができたのは戦後)の際に『学
制の要は如何なる階級の者にも教育を受くる機会を与ふる様にす
るのが要点でありまして、此意味に於いて私学は官学に対して独
立の存在の必要性を持っているのであります』と設立の意図を述
べています。
より具体的には、京都帝大が、政府のための大学であるだけでな
く、社会のための大学でもあるよう、その活動の場を設けるのが
開学の当初の意図だったかもしれません。実際、開学時は、料理
屋「清輝楼」二階で、開学直後の京都帝大の教授たちが夜に講義
したそうです。なお、定款「寄付行為」には「本財団を解散する
に至りたるときは、その所属財産の全部を挙げて京都帝国大学に
寄付すること」という異例の規定もあったと言います。
以上は中村龍平氏(当時毎日新聞記者、現在大手前大学教授)の
「挑戦する立命館」(星雲社 1996 ISBN 4-7952-4482-0) から知っ
たことですが、この本で中村氏は(禁衛隊と滝川事件での決断の
ような)「一見矛盾したこの動き、特に中川の判断が不思議がら
れているが、いまだに解明されていないようである。」と書いて
います。
禁衛隊は皇室へ畏敬の念により、滝川事件をめぐる判断は京大の
人への思い入れとリベラルな精神により、また、戦線の不拡大方
針を主張して東条に罷免された天才的軍略家の石原莞爾を国防学
研究所所長に迎えるリスクをとったのは反体制的な精神により、
日満高等工科大学の設置は実業家としての精神により、文部省の
「学校教育の敵前転回」という方針に従い1944年には大学の門標
を下し専門学校となったのは元文部省官吏としての義務感により、
等々、一貫性がないように見える諸判断も、中川個人の中ではそ
れぞれ必然性があったようにも見えます。要するに、戦前の立命
館は中川個人の信念や思いを実現する「中川学園」であったと言
うべきかもしれません。
一個人の意思で動く組織は、既成観念にとらわれず機動的に改革
ができますが、気紛れで独善的で普遍性を失うリスクがあります。
一方、一個人の意思で動く組織は、気紛れで独善的で普遍性を失
うリスクがあるものの、既成観念にとらわれず機動的に改革が可
能となります。いずれの言いかたをするかで「ワンマン経営」に
対する評価があらわれますが、現常任理事会は後者の見方にたち、
少数者が長期間にわたり学園運営の実権を持つことで、戦前の立
命館のように時流に連動した「絶えざる改革」が可能な機動的経
営体制を実現することを目指していると言えるでしょう。
芦田先生は講演の中で、「立命の民主主義」は、立命館大学が戦
後に直面した種々の危機的問題を解決する過程の中で全構成員の
熱意と智恵を通して徐々に形成されたものであり、高い普遍的意
義を持つものだ、と強調されました。しかし、大学運営の全責任
を担う決意を固めている常務理事の意気込みと対照的に、構成員
側の大学運営への関心は低下しており、「立命の民主主義」は存
続の岐路にあり、自他共に誇れる「全構成員自治」を時代に適し
た形に進化させることなく「立命の民主主義」を単に消失するだ
けならば、社会からの信用を失うであろうと警告しておられまし
た。
芦田先生の講演会は、第三回衣笠フォーラムで、衣笠でも今週開
催されます。ぜひ、多くの方が芦田先生から数々の深いメッセー
ジを受けとられますように。
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[2] 第3回衣笠フォーラム
■ 講師 芦田 文夫(立命館大学名誉教授)
■ 題目 立命館民主主義の到達点と課題
■ 主旨 この第3回フォーラムでは、1400ページに及ぶ『立命館百
年史通史2』編纂の中心となられた芦田文夫先生を講師
にお招きし、「立命館民主主義の到達点と課題」という
テーマでお話をうかがいます。
1時間、お話をうかがった後、先生を囲んで自由な討論を
行います。過去の歴史から何を学び、どのような学園を
つくっていけばよいかを考える機会にしたいと思います。
■ 日時: 5月25日(木)18:30 - 20:30
■ 場所: 中川会館 101会議室
■ 呼びかけ人 有賀郁敏(産業社会学部)/ 朝尾幸次郎(文学部)
奥田宏(国際関係学部)/ 勝村誠(政策科学部)
小堀眞裕(法学部)/ 南野泰義(国際関係学部)
山下高行(産業社会学部)
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[3] 中期計画検討案についての意見
( 詳細 ==> http://ac-net.org/rtm/No/39)
昨年度の「ガバナンス文書」をめぐる議論の経緯から、真剣に議
論しても最後は、「学部長理事の説明の仕方が下手で理解しても
らえなかったのは残念だが、常任理事会の責任において、このよ
うに策定させていただく。」で終ることが予想され、議論をする
気力が全学的に湧いていないようです。ガス抜き効果こそ「ガバ
ナンス文書」の真の意図であったと言いたくなります。
とはいえ、やはり、立命館の今後を決定するような重要な文書で
すので、40字*40行*30ページで5万字近い文書ですが、多くの人
が気を取りなおして一読され、気付いた問題点を、しかるべき場
で発言されることを強く勧めたく思います。いま手元にない方は
http://ac-net.org/rtm/No/34を利用してください。
よく検討された構想です。起草された方々の努力は大変なもので
あったと思いますし、このような多数のアイディアに満ちた壮大
で具体的な構想を描ける執行部を持つ大学は日本には少ないと思
います。しかし、だからといって良い案であるとは思いません。
形式的長所と同じくらい内容的問題の多い案であると思いました。
以下、特に気になった点だけ書きます。
(i) まず、精神主義に陥ることなしにこのような規模の計画を実現
できるかどうかはきわめて疑わしく感じます。
実力の何倍ものことを実現しようとするとき、組織は構成員の一
致団結を必要とし、陰に陽に精神主義に頼るようになります。精
神主義は言論の自由を圧迫し価値観の多様性を衰えさせるため、
軍隊や企業でも精神主義により機能不全に陥る例は多いと思いま
す。ましてや、精神の自由や価値観の多様性の堅持は、大学の存
在理由の中でも中心的なものである以上、精神主義の導入は大学
を大学ならざるものに急速に退化させるでしょう。また、壮大な
計画は、経営部門の人件費を膨張させ、教学部門の人件費を圧迫
し、教育と研究の質の低下をもたらすことも不可避です。さらに、
教学部門の人件費の節約により、教員に対する非正規雇用を増大
させ学園内部の雇用格差が拡大し、日常的機能を不全に陥らせる
危険が拡大していくとともに、真善美の理想と不可分な平等の理
念の放棄が露骨となって、大学としての品格以前に大学としての
「精神的資格」そのものが問われることになります。
以上の点から、精神主義に陥らず、精神的余裕をもって構成員が
取りくむことができる計画であるかを吟味し、さらに、教学機能
に不可欠な精神的余裕がなくならないよう、必然性のない不要不
急の計画を省き、計画全体を現実的規模に調整すべきです。
(ii) 組織としての生き残りや発展に直結する活動だけでは、大学と
しては不足であり、組織として益にはならないとしても、学術活動
全体の発展に資するような目標と計画が必要と思います。
どの組織も生き残りのための一定の努力は不可欠ですし、攻撃は
最大の防御と考え、絶えず成長していくことが生き残るための最
も有効な戦略ということになるかもしれません。これらの活動は、
どのような組織も生き物として不可欠なこととは思います。しか
し、大学はそれだけでは大学ではないように思います。
時代や権力から独立した(古くは真善美といわれていた)普遍性
のある価値観を固持し、皮相的には損をするような場合でも、そ
の価値を固持しそれに忠実に教育と研究を展開する「非常識」が、
大学の存在理由と思います。これは大学というものを相当に理想
化した見方と思いますし、アカデミズムの閉鎖性との線引きが難
しいところもありますが、普遍性ある価値観に無関心になれば、
大学として信用されなくなるだけでなく、時流に右往左往して大
学としての精神的基底を形成できず、時代の大きな変化の際には、
生き残りそのものが困難になることも十分に想像できます。
中期計画検討案では、日本社会から関心が失われて久しい「平和
と民主主義」を教学理念として固持し活そうという計画があり救
われる思いがありましたが、全体としては立命館の益に結びつけ
る関心が大部分を占めている点で寂しい思いがしました。
学園の生き残りや発展だけでなく、多少は損があっても、日本の
学術活動全体を活性化させるような活動も展開することは、立命
館の規模の学園であれば十分に可能であるだけでなく、ノブレス・
オブリージュでもあるのではないでしょうか。戦前にあった出版
部を再興し、学術書や権威ある学術雑誌の刊行を目指すこともで
きます。また、学位をとった少数の若い人達が、ほとんど何の財
政的支援もなしに進めている、科学と社会を結ぶ「サイエンスコ
ミュニケーション」の活動を支え促進することもできます。こう
いった種類の活動は、次期COE獲得のために高額の給与で「世界水
準の研究者」を招聘するよりも、社会的意義は大きいし、品位も
高いし、良質の受験生を得るための「効果」は、もしかするともっ
と大きいかもしれません。
(iii) 検討案では、ネットにおける情報発信に言及がないのも気に
なります。
図書館の中期計画では、この方向の重要性がよく認識されている
ように感じましたが、学園全体の中期計画検討案では全く言及さ
れていません。ここでいう「ネットでの情報発信」とは、大学の
ホームページを充実するというようことではなく、教職員や学生
や院生が情報発信しやすいネット環境をととのえることや、広義
の学術活動を支援するプラットホームを立命館が提供する、といっ
た活動などを想定しています。それにより、立命館の教職員や学
生や院生がネットで自発的に情報発信しやすくなることや、広義
の学術活動を支援することになるでしょう。ネットの世界が日常
生活と連続的につながっている若い世代にはネットで存在感のあ
る大学は大きな魅力があるはずです。
(iv) 立命館アジア太平洋大学(APU)と立命館大学(RU)の全面的連携
(p16)は、現段階ではやめるべきです。
APU,RU は、ともに立命館が設置する大学ですが、ミッションは明
確に異ります。安易な連携は両ミッションの不明確化をもたらす
でしょう。両大学への学生の進学意図も共通点が少ないので、全
面的連携は従来の RU進学者層を失う心配もあります。
また、APU において、教授会が実質的審議権を持ち、学長が選挙
で選ばれるなど、「立命館の民主主義」が実現され教員主導によ
る教学運営が保障されることが、APU と RU の教学上の連携のた
めには不可欠な条件です。
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[4] APU常勤講師による地位保全仮処分申請
4月に失職された、元APU日本語常勤講師のかたが、先週、大分地
裁に地位保全の仮処分申請をされました。今週中に報道発表も行
われるとのことです。
仮処分申請前に、分会はAPU に予告したそうですが、話しあいを
する姿勢はなかったそうです。立命館学園が公の場で「約束があっ
たかどうか」を議論する道を選んだことは、種々の意味で、本当
に残念なことです。
支援される方は、以下へ:
郵便振替の口座番号:01750-5-75138
口座名称:大分地域労働組合 APU分会
なお、昨年11月に開始された「APU常勤講師の雇用継続をもとめ
るネット署名」にはこれまでに643名の賛同署名があります。立
命館構成員で署名しメッセージを残しいるかたも少くありません。
==> http://university.sub.jp/apu/
問題の概要:http://www.geocities.jp/apuunion/page-03-4.html
参考:野路便り 06.03.03 http://ac-net.org/rtm/bunsho/73
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[5] 第81回「職場の人権」研究会 2006.5.27(土)1:30-4:30(1時開場)
於:エルおおさか5階 視聴覚室 電話06-6942-0001
『ある私立大学の雇用差別と労働強化-使い捨てられる大学教職員-』
報告者:
遠藤 礼子さん(立命館大学非常勤講師/ゼネラルユニオン副委員長)
山原 克二さん(ゼネラルユニオン委員長)
コメンテーター:
脇田 滋さん(龍谷大学法学部教授、労働法・社会保障・有期雇用問題)
詳細 => http://homepage2.nifty.com/jinken/news/yokoku.htm
[5-1] ゼネラルユニオンによる署名の英語版
http://www.generalunion.org/kumiai/petitionEn/
I support human recycling at Rits
Many full-time employees at Ritsumeikan are contracted
workers and their contracts have a limit on the number of
renewals (3, 4, or 5 years) and every year hundreds of
employees have to leave regardless of their wish.
This revolving door of employees not only makes
employees' working life unstable, but also, we fear,
influences the quality of education at Ritsumeikan.
We strongly desire Ritsumeikan's immediate consideration
of the abolition on the limit on the number of renewals.
日本語版:http://www.generalunion.org/kumiai/petition/
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編集発行人:辻下 徹 Toru Tsujishita ( BKC 教員 )
連絡先:tjst@rtm.ac-net.org
BCC機能を利用して送信しています。
送信不要の場合は本文が空のメールを teishi@rtm.ac-net.org へ。
To stop receiving this letter, please send an empty letter to
teishi@rtm.ac-net.org.
意見交換ページ: http://ac-net.org/rtm もご利用ください。
学外からでも ID : ritsumei PASSWD: 20051209 でアクセス可能。
立命館関係者への転送を歓迎します。