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メッセージ61:
野路便り Letter from Noji (06-06-22 Thur)
立命館学園で働く方々へ
Dear colleagues,

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 【1】立命館大学に求められるリーダーとはなにか(1/4)
 【2】 立命館憲章(案)についての意見より(抜粋)
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昨晩、本学のある教授のかたから論説を投稿いただきました【1】。
「リーダーの条件」を読んで違和感に圧倒されなかった教員はいな
いと思いますが、その違和感を冷静に分析し展開した約1万6千字
の力作です。4回に分けて掲載します。

  「今日の学生が抱えている危機的な問題は、氏が必ず例にだ
    す暴力学生や違法迷惑駐車する学生ではなく、働く意欲、
    学ぶ意欲の萎縮や社会性と日常生活の持続性、主体性をも
    獲得することにできない精神的・神経的疾患が蔓延してい
    ることにあらわれている。」

「憲章案」改訂版についての意見集約が行われています。学科長に
意見を送付しました【2】。憲章案第2節へのコメントより:

  「学園運営の原則として「非暴力」を敢えて掲げることは、学園
    運営者が暴力をしばしばうっかり行使してしまうか、学園内で
    組織的暴力が横行しているか、いずれかの問題が背景にあって
    のこと、と通常はみなされるので、立命館の信用を著しく損ね
    るのでやめてほしい。昨日のUNITAS で、学長および全学部長が
    署名して大仰に全学に報じたような突発的暴力の発生は、どの
    ような社会でも避けられない性質のもので、「非暴力」を学園
    運営の原則として憲章に敢えて記載する理由にはならない。」

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【1】立命館大学に求められるリーダーとはなにか(1/4)
  http://ac-net.org/rtm/No/60
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                        目次

	立命館大学に求められるリーダーとはなにか
	    川本八郎氏の「リーダー論」を読む

      1. 「第1章」の特殊性、それをどのように読むのか
      2. 人間形成論、真実、倫理道徳、美
      3. 大学組織の問題点をどのように理解するのか
      4. 改革への推進母体の創造と手法
      5. 「大学行政学」の構築は何をめざすのか?

 (今回は第2章まで、第3章は第二回に、第4章は第三回に、
  第5章を第四回目に掲載します。)


	 立命館大学に求められるリーダーの条件とはなにか

		川本八郎氏の「リーダー論」を読む

			    はじめに

  今年(2006年)、立命館大学の大学行政論にかんする報告書が2冊
  東信堂から出版され、「大学行政研究・研修センター」から学内の
  重要部署にある教職員に無料で配布された。この本は次代の求める
  大学「アドミニストレーター」を組織的戦略的に養成するために開
  講された授業「大学行政論」の講義録である。それは大学の中で表
  舞台に登場することのなかった職員の対社会的発信であり、大学の
  未来と自らの仕事を考える絶好の手引きでもあるとされる(「はじ
  めに」)。

  立命館大学で働く教職員の多くは、今日の立命館大学はひとつの転
  機にさしかかっていると感じている。その中には日々働いているこ
  の職場がどのようになっていくのだろうか、不安に思っている人も
  いるだろう。特に、若手の職員の離職が現場では目立つ。一方では
  立命館大学のダイナミックな展開に期待を持ちつつ、他方ではこの
  ままの立命館大学では将来に不安を抱えるというのが正直な感情だ
  ろう。その二律背反的な感情をどのように理解していけばよいのか。
  そのための考える素材を提供したい。

  以下では、立命館大学がどこに向かって進んでいるのか、この問題
  を川本理事長のリーダー論を検討することによって接近してみたい。
  なぜなら、現在の立命館大学のダイナミックな発展は、川本八郎理
  事長の積極的な手腕によってもたらされたという外部からの言説が
  存在するからである(「カリスマ性の神話」)。

  今回そのために取り上げるのは、理事長自らが編集した『大学行政
  論』I,IIである。そこでは、第1章が「『リーダーの条件』-
  歴史認識をとぎすませ-」となり、自らのリーダー論が巻頭論文の
  位置にあり、立命館の将来の事務機構を担う職員のあるべき姿がし
  めされている。また、終章は「「大学行政学」の構築をめざして」
  (「大学行政「論」ではない」ことに注意されたい)となっており、
  これも第1章との関係で取り上げる。さらにこの論文に加えて、
  「日本私学連盟「平成14年度財務・人事担当理事社会議第1回全
  体会議報告書」より抜粋」を利用した(以下「抜粋」と省略し、第
  1章を「第1章」と省略する)。「抜粋」は「第1章」よりに赤裸々
  に川本八郎氏の持論が展開されているからである。


  1.  「第1章」の特殊性、それをどのように読むのか

  『大学行政論』を紐解くと最初に気がつくのが、第1章の特殊性で
  ある。他の章が現場で長年蓄積した経験と知識、情報、それによる
  一定の洞察を客観化し、文章化しているのに対して、この章は口述
  筆記をもとにして書かれている(かなり省略されているようだ)。
  論文の冒頭は「人は年輪を重ねると過去を語ることが多くなる」と
  いう文章で始まる。「『リーダー論』をふりかざし、抽象的なこと
  をのべるより、立命館において君たちはリーダーとして何を必要と
  されるか、をリアルに述べていきたいと思う」と書きすすみ、ここ
  での論証の方法論を限定する。このような限定が、個人の私的研究
  所ではなく大学で「大学行政学」の構築をめざそうとしている本書
  の形式に相応しいかどうかすぐに疑問として出てくるだろう。少な
  くとも世界水準を目指す現場で働く教職員に訴えている理事会の長
  がやるべき形式ではない。

  だが問題はそこに留まらない。第1章では大学(=立命館大学)の
  職員でリーダー=幹部職員として相応しい基準をリアルに述べると
  している。「リアルに述べる」とは川本氏自らの経験を基にするこ
  とを意味する。その経験から教訓化されるものが幹部職員としての
  適格基準である。その適格基準は、他大学や他の分野の組織にも当
  てはまるかどうかの手続きが全くされていない。それは「抽象的な
  ことを述べること」として排除されている。ところが、抽象化の行
  為によって普遍性を追求するところに大学のひとつの特質がある。

  この指摘ははもう1つ、裏の面をもっている。「リアルに述べる」川
  本氏自身は外部者ではない。立命館学園のリーダーの中のリーダー
  =理事長である。だから、ここで氏が「リアルに述べる」こと、つ
  まり幹部職員としての適格基準は、自らが立命館学園の理事長とし
  て相応しい資格、素質をもった人材であることを自己証明しようと
  していることにもなる。だから「語り」が許される。2冊の「大学
  行政論」はその自己証明の実践的各論ということになる。

  第1章をこのように読み直すと、この章は違った新鮮味を持ってく
  る。つまり、川本八郎氏は立命館大学のリーダーとして本当に相応
  しい人物なのかを考える素材を与えてくれるからである。


  2.  人間形成論、真実、倫理道徳、美

  さて、いよいよ本論に入ろう。第1章は2つの大きなパーツ(大学
  教育と組織問題)からなっている。最初は大学教育が直面している
  問題として、どういう学生を育てるのか、に焦点を合わせる。教育
  体系は現代日本社会の1つの重大な欠陥であり、人間教育の3要素、
  真実、倫理・道徳、美の観点から偏差値主義、成績主義の弊害を指
  摘し、さらに家族内教育の崩壊がこれに加わって、人間のあり様、
  生き様、道徳を教えることが出来ていないことを批判する。これに
  対して川本氏は、知識を学ぶことの重要性以上に考えることの重要
  性、学生同士が影響しあうことの重要性、人間関係を学ぶことの重
  要性を指摘する。ではどうすればよいのか。ゼミナールに参加し、
  それに読書と課外活動に参加することを対案として示す。このよう
  な現代社会の教育の矛盾把握と大学教育のあり方、その解決策への
  示唆はわれわれを驚かせる。今日の学生が抱えている危機的な問題
  は、氏が必ず例にだす暴力学生や違法迷惑駐車する学生ではなく、
  働く意欲、学ぶ意欲の萎縮や社会性と日常生活の持続性、主体性を
  も獲得することにできない精神的・神経的疾患が蔓延していること
  にあらわれている。川本氏は立命館大学(あるいは大都市部の私学)
  と比較して、地方国立大学の活性化されていない学生生活を見よと、
  これを批判する。この指摘は本当だろうか。大量の学生を抱える私
  立大学には表面化していない精神的・神経的疾患をもつ学生が滞留
  し、臨界点に接近している。氏が常に原点とする学生とは30年以
  上前のステレオタイプ化された「学生像」にすぎないのではないか。
  果たして人間教育の真実、倫理道徳、美からこれらの問題に接近で
  きるのであろうか。
                             (続く)


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【2】 立命館憲章(案)についての意見(抜粋)
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  あれだけの多様な批判があったことは、このような憲章を作るこ
  とに意義がないことが全学園の意思であることが確認されたとも
  言える。小学校から大学院まで、すべてにわたって意味ある憲章
  をつくることには無理がある。作るとすれば立命館大学憲章と思
  われる。しかし、このまま憲章を強行することは、ほぼ確実なの
  で、気になることを記したい。(中略)

  (第1節)

  > 立命館は、西園寺公望を学祖とし、1900年、中川小十郎によっ
  > て京都法政学校として創設された。「立命」の名は、孟子の
  > 『尽心篇』に由来し、立命館は「学問を通じて、自らの人生を
  > 切り拓く修養の場」を意味する。立命館は、建学の精神を「自
  > 由と清新」とし、第2次世界大戦後、戦争の痛苦の体験を踏ま
  > えて、教学理念を「平和と民主主義」とした。立命館は、時代
  > と社会に真摯に向き合い、自主性を貫き、幾多の困難を乗り越
  > えながら、広く内外の協力、支援を得て私立総合学園への道を
  > 歩んできた。

  西園寺死去のさいに「学祖」にしたいと中川が申し出たとき西園
  寺家が断った手紙は残っているが、その後受け入れられたという
  証拠はみつかっていないそうである(「挑戦する立命館」に引用
  されている、百年史編集委員であった衣笠安喜教授の報告より)。
  新島譲のような思想家・宗教家とは違い、中川小十郎は多くの言
  葉を残してはいないが、格差が当然とされていたあの時代に社会
  に広かれた大学を構想し実現した見識と「博愛」の精神を創設者
  が持っていたことは学園として誇るべきことであり、あやしげな
  根拠や意図で西園寺を「学祖」としてかつぎ出す必要などない。
  「西園寺公望を学祖とし、」は省くべき。

  (第2節)

  > 立命館は、アジア太平洋地域に位置する日本の学園として、歴
  > 史を誠実に見つめ、多様性を尊重し、多文化共生の学園を確立
  > する。立命館は、研究・教育および文化・スポーツ活動を通じ
  > て信頼と連帯を育み、地域に根ざし国際社会に開かれた学園づ
  > くりを進める。立命館は、私立の学園であることの特性を活か
  > し、自主、民主、公正、公開、非暴力の原則を貫き、教職員と
  > 学生の参加、校友と父母の協力のもとに、社会連携を強め、学
  > 園の発展に努める。

  研究・教育が文化・スポーツ活動と同列に置かれ「信頼と連帯を
  育む」ための手段としてしか位置付けられていないのは、立命館
  大学の現状を反映しているとはいえ、大学を含む学園の憲章とし
  て適切とは思えない。

  学園運営にかかわる原則(学園運営にかかわる原則であることは
  文脈から明らか)に「非暴力」を置くのは、常識的に推測すれば、
  学園運営の手段として暴力がしばしば行使されているか、組織的
  暴力が学園内で横行しているか、のいずれかを意味するので、立
  命館の恥なのでやめてほしい。6/21 のUNITASで報じられたような
  突発的暴力が起きることは、どのような社会でも避けられない性
  質のもので、「非暴力」を敢て憲章に記載する理由には全くなら
  ない。

  (第3節)

  > 立命館は、人類の未来を切り拓くために、普遍的な価値の創造
  > と人類的諸課題の解明に邁進する。その教育にあたっては、建
  > 学の精神と教学理念に基づき、「未来を信じ、未来に生きる」
  > の精神をもって、確かな学力の上に、豊かな個性を花開かせ、
  > 正義感と倫理性をもった地球市民として活躍できる人間の育成
  > に努める。立命館は、この憲章の本旨を踏まえ、世界と日本の
  > 平和的・民主的・持続的発展に貢献する。

  「その教育にあたっては、・・・に努める」の主語である立命館
  が、「未来を信じ」るのはわかるが「未来に生きる」という言葉
  は言葉として調和しないように思われる:立命館が未来に生きて
  いて、どうして今ここにいる学生の教育ができるのであろうか、
  など。

  また、大学が中核とする学園の憲章に「学力」という言葉は適切
  とはいえない。「学力」は「成績」と不可分の言葉であるが、大
  学教員は、学生が良い成績をとるように教育をしているわけでは
  なく、学生の知性を鍛え洞察力を深めることを、滅多に達成でき
  ない目標とはいえ、目指している。そういうことが「学力」とい
  う言葉では伝わらないように思う。

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編集発行人:辻下 徹  Toru Tsujishita ( BKC 教員 )  
連絡先:tjst@rtm.ac-net.org