[amp 2010-08-11] 新財政政策の諸問題

目次 趣旨

立命館大学教員のみなさま
Cc:立命館学園のみなさま

  常任理事会7/14に提出された学園財政調査検討委員会第二次報告
  【1】(と添付された第一次報告概要)にある2つの方針が気になり
  ました。
  ┌───
  │方針A.特別会計「資産・資金部門」を創設し、立命館大学
  │ (以下RU)から毎年約80億円程度を拠出する。
  │
  │方針B. 定員削減に伴う収入減は教学部門が負担する。
  └───
  この2方針を学園政策に組み込むことは、ST比の飛躍的改善とい
  う選択肢を消去することであり、質向上の道を棄て従来通りの経営
  優先体制の基盤を揺るぎないものとすることを意味します。

      確かに【1】のp7には、RU部門人件費の17億円増を想定
      していると書かれ、人件費の7%増額が提案されてはいます。

      仮に教員数が7%増えたとしても、ST比は文社系では60
      から57,理工系では40から36という程度の改善に過ぎ
      ず、理工系で言えば、早稲田や慶應のST比21からの距た
      りは質的に変わりません。また、学園規模の歪みから必要と
      なっているリメディアル教育に重点的に増分が配分される場
      合には、質向上をもたらすようなST比改善とはなりません。

      しかし、それ以前に人件費7%増が教員7%増につながるか
      どうかわかりません。というのは、【1】のp8にある「RU
      部門の収支イメージ」を見ると、人件費242億円のうち、
      各学部・研究科の教職員分は140億円で、それ以外の人件
      費が102億円となっています。教学現場の人件費は、大学
      全体のわずか58%ということです。教学に携わる教職員だ
      けで大学が成り立たないことは言うまでもありませんが、教
      学に携わる教職員のための人件費が全体の人件費の58%し
      かないことは、本学の教学軽視を客観的に証明するものと言
      えます。こういう状況ですから、提案されている「RU部門
      人件費17億円増」がどの程度教学部門の人件費増につなが
      るか不明です。

  教育活動と研究活動の将来を左右する諸方針を含む第一次・第二
  次報告書は常任理事会で強い異論はなかったと推測され、全学的
  な意見集約が行われないまま9月末の第三次報告で財政方針全体
  が策定されるようです。このスケジュールにも、総長選前に経営
  優先体制を樹立しておこうという意図を感じます。質向上の選択
  肢は、質向上に必要な財政的基盤形成を不可能にすることを通し
  て、ひっそりと抹殺されようとしています。

     ┌─補足説明──
     │ A. 【1】で「資産・資金部門」という「特別会計」を創設し、
     │ p5の表によれば、RUから毎年80億円を「資産・資金部門」
     │ に拠出することが提案されている。RU学費の相当部分(各学
     │ 生ごとに年20万円)が「資産・資金部門」に移されることで、
     │ RU学費が原資である事実が「洗浄」され、他校で使われても、
     │ 財務公開でRU生には気付かれることがなくなる。一種のマネ
     │ ーロンダリングと言えるだろう。
     │
     │ B. 【ST比改善の財政的否定】 【1 p8】に、
     │  ┌───
     │  │「学納金収入が減少する場合は(学生見込数未充足、定員減等)
     │  │ に対しては、学校運営上の財政的な安定性を確保するために、
     │  │ 同割合で減収分に対して予算を削減する仕組みを想定する。」
     │  └───
     │と記載されている。要するに「定員を削減すれば教育予算を削減す
     │る」という原則である。立命館大学は、落命館と揶揄されるように、
     │教職員の熱意や精神主義で実現可能な改善はやり尽くした状態にあ
     │り、今後の質的発展はST比の飛躍的改善なしにはありえないこと
     │は客観的に冷静に考えれば明らかであり、未来フォーラム7/30に出
     │席した4学部長は皆ST比改善の不可欠性に言及している【4】。
     │
     │ST比改善を通して質向上を目指す場合、教学予算を変えずに学生
     │定員を縮小するのが効果的である。というのは定員削減により学生
     │の質が上がりリメディアル的教育活動に割かれている人的資源を大
     │学教育の核心に取り戻すこともできるからである。定員を2割減ら
     │せば学費収入は120億円減少するが、経営部門への拠出を80億
     │円から40億円に減らし、蓄積した減価償却費762億円から年8
     │0億円を取り崩せば、教学予算を減らす必要はない。しかも、毎年
     │の減価償却費70億円のうち40億円を蓄積すれば、減価償却費蓄
     │積高の減少は年40億円にとどまり経営基盤がそれほど弱体化する
     │わけではない。方針Bは、学園規模縮小による質改善の選択肢を棄
     │てている点で、現学園執行部の経営優先教学軽視の本心を鮮明に証
     │すものになっている。
     └───

  学園財政は、会計記述の複雑さを利用すれば、実態が一目ではわ
  からないようにすることは難しいことではないですが、一方、誠
  意があれば、会計記述の複雑さは障害とはならず、財政実態が一
  目瞭然となるように説明することは可能です。多くの大学の財政
  報告をみると、どの事業にどの資金をどれだけ使ったか、重要な
  情報が誰でもすぐわかるように書かれていますが、立命館の財務
  関係の説明はいくら読んでも実態がわからない書き方になってい
  て、新キャンパス展開の提案の中で、すぐ使える膨大な資金が立
  命館にあったことが初めて明言された、という有様です。

  第一次報告(今年1月)【1】にある「財政的なフレーム」は判
  じ物のようにわかりにくいですが、要するに、新キャンパス展開
  のために600億円余を使えるようにするフレームのようです。
  実際、この報告について常任理事会で異論がなく「承認」された
  1月頃から、現総長は各学部長に新キャンパスについて打診を始
  めたそうです【2】。これは「立命館の将来を担保にした危ない
  賭け」だとして佐々木元副総長は現学園執行部を強く批判してい
  ます【3】。

  なお、【1】p2には、「収入の約75%を学生生徒等からの納
  付金が占める私学(本学も同様)においては・・」という記述が
  ありRUから「資産・資金部門」への拠出80億円は学費外収入
  が原資となっていると思わせる意図を感じますが、補助金は税金
  によるものであり学費と区別すべきではなく「帰属収入の約91
  %が学生生徒等からの納付金・補助金・手数料による本学におい
  ては・・」と記述すべきあり、実際、2009年度では学費と手
  数料と補助金以外の収入は60億円程度です*。
  *http://www.ritsumei.jp/public-info/pdf/09k-shouhi.pdf ──

  ─────────────────────

 ついでながら、前期に配布され、ウェブでも掲載されている「2
  009年度事業報告書」*1には説明なしには誰でも誤解するよう
  な数字が何カ所か目につきました。

  p27の資金収支の図では、毎年繰り越している約300億円を
  収入にくわえた収入総額1100億円の中で学生納付金が占める
  割合を図示していて、立命館大学の収入の中で学生生徒等納付金
  収入がわずか52%程度であるかのような図になっています。

  また、p38にST比が表になっています。法学部が最高65、
  最低は物理科学科17.8、理工学部は31.1となっています
  が、これらは文字通りのST比ではなさそうです。例えば、数理
  科学科について教員数が20名でST比が21.4となっていま
  すが、照会したところ、20名の中には英語教員1名と理工系全
  体の数学教育を担当する数学嘱託講師4名が加わえられているそ
  うです。物理科学科も同様のことと思われます。理工学部は学部
  と大学院で約5500名の学生がいますから表にある教員数
  152(語学教員や理工系全体の教育を担当する教員も含む)で割れ
  ば36になります。なお全学的なST比は記載されていませんが、
  総学生数39000名*2を、表にある教員数計815名で割れば
  47になります。

  詳細に見たわけではないのにこういう「間違い」が目につきまし
  たので、おそらく氷山の一角なのでしょう。説明なしには意味が
  変わる数値を説明なしに何カ所も記載しているのは、意図の有無
  とは関係なしに、学園運営における杜撰で誠意に乏しい学園執行
  部の姿勢を象徴するようなものを感じました。

  *1 http://www.ritsumei.jp/profile/pdf/houkoku_000.pdf
  *2 http://www.ritsumei.jp/public-info/pdf/public04_25-28.pdf
  ─────────────────────────────

┌─目次──
│1─ 次期中期財政政策における「フロー」の考えかたについて
│  〜学園財政調査検討委員会第二次報告〜
│
│2─ 新キャンパスを考える7つの問題点
│ 「総長公選制を実現し、学園民主主義を創造する会」運営委員会
│
│3─ 総長選挙と「新中期計画」、その柱としてのキャンパス問題について」
│  佐々木 嬉代三氏(元副総長、「立命館の民主主義を考える会」副代表)
│
│4─ 転載 [ml-cm-bkcmf 1036] 未来フォーラム
└───

┌1───────
│次期中期財政政策における「フロー」の考えかたについて
   〜学園財政調査検討委員会第二次報告〜
  http://ac-net.org/rtm/f10/2010-zaimu-2.pdf  (passwd: rtm)

 ¶最初のページに

   「減価償却費の内部留保により、その他の固定資産の総資産に対
    する構成比率が9私大に並ぶ水準に達したことを踏まえ、今後
    重要性を増す貸借対照表に基づくストックにおける財政的なフ
    レームを(¶第一次報告では)以下の通りとした」

 とある。

    「その他の固定資産」は自由に使える資産の一部のようで、立
     命では2009年度末で964億円* 、比率でなく絶対額とし
     ては「9私大でトップ」になるのではないか。
     *http://www.ritsumei.jp/public-info/pdf/09k-taisyaku.pdf
     経営部門の判断でほぼ自由に動かせる資金としては2009年度末で
       累積減価償却費762億円+繰越金274億円**=1026億円
     と推測される。
     ** http://www.ritsumei.jp/public-info/pdf/09k-sikin.pdf

 第一次報告の「財政的なフレーム」には6項目あるが、以下の3点
 が注目される:

┌───
│(a) (2-1): 蓄積されている減価償却費762億円の半分(381億円)
│  以上は「引き当て特定資産II」(詳細不明)として残し残りは自由に使う
│
│   ¶つまり最高381億円は新キャンパスに使える。
│
│(b) (1-1)減価償却対象固定資産の期末残高は年度毎に一定となるようにする。
│
│   ¶ これは、今後は減価償却額(年約70億円)を実際に施設整備に
│   執行するというように解釈可能だが、そうすると、現在蓄積された
│   減価償却費762億円は施設設備の修繕には使わず、純粋な経営資
│   金として使えるようになる。一方、毎年70億円を現キャンパスに
│   おける施設修繕に執行するという「飴」が教学部門に提示されてい
│   るともみなせる。
│
│(c) (1-2)「新たなキャンパス展開」:取得固定資産、資金源泉の計画化
│
│  「資金源泉の計画化」は、毎年RU学費(ないし補助金)から50億円を
│ 5年にわたって新キャンパスの建物建築に使う。
└───

  (a) の381億円と (c)の250億円の計631億円が付属校の
  長岡天神キャンパスと北摂地区の新RUキャンパスのための今後
  5年間の資金として用意されることになるらしい。


┌2─────────────────────────────
│新キャンパスを考える7つの問題点
 「総長公選制を実現し、学園民主主義を創造する会」運営委員会
  全文:http://ac-net.org/rtm/f10/2010-07-28-kousen-50.pdf
  ┌───
  │・・なお、提起文章*の15ページの記述からも明らかのように、
  │中期計画について全学討論が始まるはるか以前に、総長は複数
  │の学部の執行部を訪問してキャンパス移転を打診したといわれ
  │る。これが真実だとすれば、中期計画についての教職員の「参
  │加・参画」、「信頼回復」、「学園の一体感」を強調する自身
  │の主張と矛盾するものであり、教職員に対する重大な背信行為
  │である。総長のこのような行動はまた、新キャンパス問題を学
  │部エゴの調整問題に捻じ曲げてしまった。このような議論の進
  │め方は、それ自体として、学園現執行部に対する一般教職員の
  │不信感を強めるものである。
  └───
   * http://ac-net.org/rtm/f10/2010-campus.pdf


┌3─────────────────────────────
│総長選挙と「新中期計画」、その柱としてのキャンパス問題について」
  佐々木嬉代三氏(元副総長、「立命館の民主主義を考える会」副代表)
  「立命館の民主主義を考える会」News No 28 (2010.8.6)
  全文:  http://ac-net.org/rtm/f10/2010-8-6-kangaerukai-news-28.pdf
  ┌─抜粋──
  │一体全体、なぜ今唐突にキャンパス問題が提起されるのか、それが
  │最初に浮かぶ疑問です。たとえ新キャンパスを志向することがある
  │にしても、しかし今、新しい総長が生み出されようとしている矢先
  │に、なぜ立命の将来を枠付けする決定を急ぐのか、全く理解に苦し
  │みます。新しい総長を選出し新たな運営体制を確立した上で、じっ
  │くり腰を据えて学園の将来像を検討するというのなら至極当然のこ
  │となのですが、新しい総長実現の前に学園の将来像の決定しておく
  │ことが、現執行部によって慌しくも企てられている。なぜか。考え
  │られるのは2つのこと、1つは新キャンパス展開を最大の争点にし
  │て総長選挙を勝ち抜こうとする戦略があること、2つには誰が総長
  │になるにせよ、新キャンパス展開を既成事実化し、それを推進する
  │勢力を学園の中枢に残すこと、であります。川口総長を始めとする
  │現執行部は、新キャンパス展開という大きな網を教職員に投げかけ、
  │その網の中での計画実現が学園の取るべき唯一の道だと描きだすこ
  │とによって反論や異論を封じ、自らの権力掌握を確かなものにしよ
  │うとしているのです。ずる賢いやり方だといわざるを得ませんが、
  │それは同時に、立命館の将来を担保にした危ない賭けに乗り出すほ
  │どに、彼らの危機意識が強いことの現れだとも思われます。
  └───
  ┌───
  │・・・・新キャンパス展開は「質向上を目指す基盤」なのだから、
  │これ抜きに教学の質的向上は図れず、学生のキャンパスライフの豊
  │かさも保障し得ず、従って立命の未来の可能性を語る者は新キャン
  │パス展開に反対しえないはずだ、という論理構成になっているので
  │す。巧みな言い廻しですが、しかしこれにも騙されてはなりません。
  │新キャンパス展開は様々な条件が満たされた場合に取り得る一つの
  │選択肢に過ぎず、万能薬でもなければ特効薬でもありません。確か
  │に衣笠は日常普段に混雑し、BKCも相次ぐ新学部増設によって手
  │狭になりつつありますが、たとえそうであっても、教職員と学生の
  │距離を近づける努力を怠らず、学生に語りかけ学生の声に耳傾けれ
  │ば、教学的な営みを今まで以上に深いものにすることは十分可能な
  │はずなのです。教育は人と人との営みであり、必要なスペースとは
  │心が通じ合うスペースです。これを忘れて空間的なスペースの拡大
  │ばかりを問題にするのは、教育的というよりもむしろ、外観にとら
  │われた皮相な見解だと思われます。もてはやされる先端的な研究が、
  │地味ではあるが必要不可欠な基礎的研究の軽視を招くように、鳴り
  │物入りの新キャンパス展開は、既存キャンパスの日常的な教学努力
  │を軽んずるおそれがあります。質的向上を叫ぶのならば、まずもっ
  │て現状の何をいかに改めるべきかを具体的に指摘する必要がありま
  │しょう。膨大な財政負担を伴うキャンパス新展開は、様々な検討を
  │積み重ねた上で検討の柱に据えるべきかどうか、苦しい判断を下す
  │べき種類のテーマなのです。
  └───

┌4─────────────────────────────
│転載 [ml-cm-bkcmf 1036] 未来フォーラム
  From :IKEDA Kensuke
  Date: Sun, 1 Aug 2010
  ┌───
  │7/30金曜日の7:00から行われた会
  │
  │  「未来フォーラムー教学の質の高度化と学園の未来像ー」
  │
  │に関してですが、僕はあの会の主催者との人脈がありませんので、
  │どなたか人脈お持ちの方があれば以下を適切な方に送っていただけ
  │ませんか?
  │
  │********************************************************
  │
  │月曜会なるものの世話人をやっている池田というものです。
  │
  │4名の学部長が参加され、データを踏まえた迫力と具体性のある学部
  │教育改革案の提案をはじめ、かなり本音もとびでてなかなか面白い
  │会でした。全ての学部長がST比の改善を強調されたのも印象的でし
  │た。
  │
  │残念だった事はパネラー以外の参加者が議論に参加する時間がなかっ
  │た事です。特に今回の新キャンパス問題と総長選挙に関してあまり
  │議論する時間がありませんでした。
  │
  │立命館の教育の未来を考えるこういう会をもう少し時間的な余裕を
  │見て、様々な人が自分の意見を表明できる場を後期セメスターが始
  │まる直前にでも開催できないでしょうか?
  │
  │ST比の改善が爼上に登った事も考えると例えば
  │
  │    大討論会
  │
  │          立命の教育の未来を考える
  │
  │          教育研究を支えるのは
  │             新キャンパスか? それとも人か?
  │
  │というような会を時間無制限(午前、午後)で開催できないでしょう
  │か? 新キャンパス案を総長選挙とからめて議論する事ができる開い
  │た場が欲しいのです。
  │
  │学部長や総長に正式の招待状をおくりST比改善は困難だという財務
  │関係にもでてもらえばいい。未来フォーラム、衣笠フォーラム、月
  │曜会、組合の共催という形にすると一般教員も参加しやすいのでは。
  │
  │もっと派手な(?)ポスターを事前にはればもっと注目を集めるはずで
  │す。今回は一般教職員の注目を集める工夫があまりなかったように
  │思います。
  └───

┌───────
│ログ・趣旨:http://ac-net.org/rtm/amp/
  ¶は発信者註