受取日時:Thu, 15 Feb 2001 12:44:57 +0900
発信者:小野 有五
電子住所:yugo@ees.hokudai.ac.jp
Subject: キャンパス内の大樹伐採についての要望書(最終版)
Delivered-To: tujisita@mailhost.math.sci.hokudai.ac.jp
From: yugo@ees.hokudai.ac.jp (小野 有五)
Date: Thu, 15 Feb 2001 12:44:57 +0900
To: tujisita@mailhost.math.sci.hokudai.ac.jp
Subject: キャンパス内の大樹伐採についての要望書(最終版)
北大教官各位
2月14日付けで下記の要望書を総長にお届けいたしましたので、ご報告いたします。
要望書をお読みいただければおわかりになると存じますが、学内メールを通じてのご議論や、2月10日
の意見交換会での論議のおかげで、伐採に関する問題点はかなり絞られてきました。私どもとしても検討
を重ねた結果、(1)ポプラ並木とハルニレははっきり区別して論じるべきこと、(2)北大がこの地に
できる以前から生育していたハルニレについては、自然としての価値、文化的遺産としての価値から、伐
採せず現状維持に最大限の努力を払っていただきたいこと、(3)ポプラ並木については、将来における
伐採を想定したうえで、市民をふくめたコンセサスを十分に得てほしいこと、それまでの拙速な伐採は避
けてほしいこと、(4)ある程度の危険を許容して自然とともに生きるありかたを大学として模索するた
めに、看板による表示や可能なかぎりの保全策、モニタリングなど、管理者責任を最小化する処置をただ
ちにとってほしいこと、(5)「市民に開かれた大学」を目指すためにも、キャンパスの樹林の管理に関
しては「キャンパス・マスタープラン」に関する情報を公開し、市民からの意見を検討しながら、その早
期の実現を推進していただきたいこと。
以上5つを要望させていただきました。くわしくは、下記の要望書をごらん下さい。
このたびの問題では、緊急に皆様のご意見を伺う必要上、やむをえず全学メールを使わせていただきまし
たが、賛否両論、メール上で真摯なご討議をいただき、心より感謝しております。しかしご迷惑をおかけ
したこともあったのではないかと危惧いたしております。どうか300年生きてきたハルニレに免じてお
許し下さい。ありがとうございました。
2001.2.15 小野 有五
丹保総長 殿
北大キャンパスの大樹の保全を求める要望書
「北大時報」1月号で公表されました北大キャンパスでのポプラ並木ならびにハルニレの大樹伐採につ
き、2月5日付けで電子メールにより要望書をお送りし、これを一部修正・加筆したものを2月8日に文
書としてお渡ししたところでございます。このたびの伐採計画を聞き知った学内外の研究者・市民から、
「北大キャンパスの樹林を考える市民の会」を設立しようという機運が急速に高まり、上記要望書は、そ
の準備委員会の名で出させていただきました。そのなかで要望しておりました2月10日の北大学術交流
会館での意見交換会には、私どもからの要望に応えて事務局施設部より行部課長補佐、施設・環境委員会
より井上医学研究科長にご出席いただき、このたびの伐採計画の決定にいたった経過や、基本的なお考え
を聞かせていただくことができましたことをあつく御礼申し上げます。
2月10日の意見交換会には、学内外から市民を含む50名近い参加者があり、このたびの伐採計画をめ
ぐって活発な意見が述べられました。また、これを機会に、「北大キャンパスの樹林を考える市民の会」
を正式に発足させることが承認され、その後の話し合いにより、下記のような組織となりましたことをお
知らせいたします。
意見交換会では、準備委員会で用意いたしました5つの論点(別添資料参照)それぞれについて議論をい
たしましたが、2時間半を越える熱心な討議によって、問題点がかなり絞られてきたように思いますの
で、まずそれを以下にまとめて示したいと存じます。
1 空洞の広がった木は、そうでない木に比べて本当に倒れやすいか?
このたびの伐採計画は、(財)北海道森林保全協会による調査によって、大樹の内部に空洞が発見さ
れ、「危険木」と判定されたことに端を発しています。しかし、樹幹に空洞があることが、空洞のない木
に比べてどれくらい倒れやすいか、という科学的な根拠はまだ示されたことがありません。たとえば、天
然記念物に指定されている大樹のうち、ハルニレにもっとも近いと思われる落葉広葉樹のケヤキについて
調べてみますと、山形県文下の大ケヤキ、東根の大ケヤキ(樹齢千年)、新潟県松之山の大ケヤキ(樹齢
2千年)、山梨県三恵の大ケヤキ、根古屋神社の大ケヤキ、東京都御岳の神代ケヤキなど、いずれも大き
な空洞をもちながら、札幌より厳しい台風時の強風に耐えてそびえております。
今回の判定では、「健全」「やや注意」「要注意」「危険木」という4段階に区分されていますが、
「要注意」と「危険木」とは、空洞の占める割合が樹幹の半径の30%を超えるかどうかで区分されてい
るに過ぎず、この30%という値じたい科学的な根拠をもつ数値ではありません。
さらに今回の判定区分、ならびに「危険木」と判定された木は原則として伐採する、という所見・対策
はあくまでも札幌市の公道に面する街路樹を対象とした基準に準拠したものであり、それを条件の異なる
北大キャンパス内の樹木にそのままあてはめることが適当かどうかは議論の分かれるところです。
「危険木」という表現にも問題があります。木である以上、若木であろうと老樹であろうとすべて倒
れる危険はもっているわけで、その危険度をある基準で区分すれば、当然、ある区分がその他の区分より
危険、ということになりますが、「危険木」という表現でなく、「要注意木」よりさらに慎重な対処が必
要な「要警戒木」という表現でもいいはずで、これを「危険木」と表現したことが、無用な混乱を招いて
いるとも言えます。
2 ポプラ並木とハルニレは条件が異なっており、同一の基準で判断してはならない。
今回の伐採計画では、「危険木」と判定された木々について、すべて同様の伐採措置をとると決められ
ておられますが、そもそも、ポプラ並木のクロポプラとハルニレとでは、下記に述べるような決定的な条
件の違いがございます。
(1)ポプラとハルニレの材質的な強度のちがい
くわしくは科学的検討が必要ですが、意見交換会で井上医学研究科長もご指摘になったように、一般的
にはポプラは柔らかく、ハルニレはより硬いといわれておりますから、同じような空洞があっても、ポプ
ラとハルニレでは、風に対する抵抗力がちがうことがじゅうぶんに予測されます。したがって、これを空
洞の割合が30%以上というような同一の基準で「危険木」とすることはそもそも科学的とは言えませ
ん。
ハルニレに比較的近いと考えられる落葉広葉樹のケヤキでは、大きな空洞をもちながら数百年ー2千年も
倒れずにいる大樹が何本もあることは上述したとおりです。
(2)伐採されようとしているポプラ並木とハルニレの自然物・文化遺産として価値のちがい
中央食堂前のポプラ並木は、60年ほど前(?)に学生の手により植えられたものと言われております
が、詳細は不明です。またクロポプラは本来ここに自生していた木ではなく、外来樹です。これに対し
て、今回の伐採対象となっているハルニレの大樹はいずれも推定樹齢300年で、これらの木は北大がこ
の地に造られる以前から生育していた自然木です。したがってハルニレは豊平川扇状地の上に成立してい
た原生的な植生の名残を今に伝えるもので、人工的に植えられた外来樹からなるポプラ並木とは自然とし
ての意味合いが決定的にちがいます。さらにハルニレの大樹は、北大創生時、大学の役人たちが伐採を主
張したのにたいし、「大樹は保存すべきである」とするクラークらの努力で伐採をまぬかれたとも言われ
ており、そのような文化的遺産でもあります。また今回の伐採の対象にはなっておりませんが、「要注意
木」とされた本部前の1対のハルニレの大樹は新渡戸稲造夫人メアリー女史から北大に寄贈された木であ
り、植えられた木であるとはいえ、文化遺産として重要です。
1997年に策定された「北大エコキャンパス・マスタープラン」では、これらの認識にたってハルニ
レやポプラ並木を含むキャンパスの南部地区を「南部アカデミック・ゾーン」として位置づけ、歴史的建
造物や北大のアイデンティティのシンボルとなるものを保存していく方針が明確に打ち出されていること
は高く評価されるところです。このマスタープランにおいても、キャンパスの象徴たるポプラ並木につい
ては「さらなる象徴を求めて安全性を考慮した若返りと、補植をも考えてこれを管理する」という方針が
立てられていますが、いっぽうハルニレについては理学部と農学部とのあいだの広い範囲を「ハルニレ
(エルム)の森」と位置づけ、「人為的に補植をしながら現状を維持する」としています。すなわち、マ
スタープランにおける位置づけも、ポプラ並木については「安全性を考慮した若返りと補植」が計画され
ているのに対して、ハルニレについては「補植をしながらの現状維持」を目指しており、それぞれの生態
的・文化的価値に応じた異なった管理計画がすでに打ち出されていることになります。
しかし今回の伐採計画は、「エコキャンパス・マスタープラン」におけるポプラ並木の管理計画をハル
ニレにもそのままあてはめようとするものとも言え、「エコキャンパス・マスタープラン」にあわせた再
検討が必要であると考えます。
3 すべての樹木医が指摘している、舗装・人や車の通行によるインパクトを軽減する対策、および倒木
を防ぐための安価で有効な対策を今すぐにでも始めていただきたい。
今回の伐採計画では、危険だから直ちに伐採するという早急な結論になっておりますが、(財)北海
道森林保全協会も、報告書のなかで、危険木として判定した木はただちにすべてを伐採せよとは言ってお
らず、「危険木や要注意木の一部で保存を要する場合には、強剪定や樹幹の切り詰め、支柱の設置を要
す」と提言しております。すなわち、樹木医じしんが、危険木でも保存が可能と述べているわけで、この
提言を無視することはできません。委員会も、この提言にしたがってポプラ並木の保存については(1)
H鋼の支柱による保持策、(2)樹幹の切り詰めと枝払いによる対策を検討されたことが報告されており
ます。(1)は費用がかかりすぎるうえに、根を痛める逆効果があること、(2)は可能だが、すでにポ
プラは約60年といわれる寿命に近づいており、このような措置をとっても、数年後には倒木する危険が
高いのでこのさい伐採するという結論が出されたと説明されております。(1)については、誰からみて
も不適切な対策ですが、(2)については、このような対策だけでなく、周辺の舗装・人や車のインパク
トを除去する対策を平行して行えば、そう簡単には倒れないという見方も多く出されており、さらなる検
討が必要と考えます。ハルニレについては、これまで保全策についての提示すらされておらず、あらため
て検討が必要と考えます。
このたびの意見交換会では、井上医学研究科長より、「北大エコキャンパス・マスタープラン」のご紹
介があり、マスタープランでうたわれている中央道路への自動車の乗り入れ禁止が近い将来に実現すると
のご説明がありました。これが数年のうちに実現されるとすれば、現在2車線ある自動車道路を緊急車両
の利用だけを考えて1車線とするか、あるいはすべて歩道として緊急時にはそこに緊急車両を通行させる
ことも可能になり、根元ギリギリまで舗装され、人や車が通行している現状は大幅に改善されることにな
ります。また木のまわりにスペースをとれますので、支柱だけでなくワイヤーによる樹幹・枝の保持
も可能となり、現在でも片側だけは緑地に隣接している中央道路ぞいのハルニレや、さらによい立地条件
にある農学部のハルニレについては、さまざまな保全策の検討が可能であると考えます。
4 「北大エコキャンパス・マスタープラン」の基本的考え方を貫いていただきたい。
マスタープランでは、その基本的な考え方のひとつとして「研究・教育する《人間》の場としてのキャ
ンパス」が目標とされ、以下のようにうたわれています。
「近代社会が求めた教育・研究の場としてのこれまでのキャンパスから、教育・研究する「人間」の
場ーーー環境として、キャンパスの位置づけを変えていく。そして、自立した教育・研究生活を支える
キャンパスヤードは、地域社会に開かれた豊かな存在でなければならない。」
これは、20世紀のキャンパスが教育・研究のための効率だけを目的に整備されてきたのに対し、2
1世紀には、キャンパスそのものが、そこで教育・研究する者にとって「人間」として意味をもつ環境に
ならねばならない、という思想を示したものとして高く評価されます。また、キャンパスがそこに生活す
る者だけではなく、広く地域社会に開かれた存在でなければならないとしていることも、これまでにはな
かった重要な発想の転換であり、「開かれた大学」を実現させるものとして、市民からも強く支持される
考え方であると思います。
21世紀の潮流は「自然と共存する人間社会の追求」であり、大学はそれを教育と研究を通じて行う場
であります。大学のキャンパスじたいも、それを目ざすものでなければなりません。自然はつねになにが
しかの危険をもつものであり、危険があるからといって自然を排除しつづければ、人間にとって安全なも
の、快適なものだけが受け入れられ、キャンパスから自然はなくなります。キャンパスを通じて、こうし
た考え方が教育されつづければ、そのようにして地球の自然と環境を壊しつづけてきた近代社会の改革は
不可能であり、21世紀にふさわしい人材を育てることはできません。
「多少の危険を許容しながら人間生活も維持できるよう、あらゆる学問を動員して自然と共存する道を
探ること」。それを、私たちはエコキャンパスを通じて実現できると考えます。またマスタープランでう
たわれているように、地域社会に開かれたキャンパスをつくるためには、キャンパス計画に関わる情報を
開示し、市民と意見を交換する不断の努力が必要になります。国民ひとりひとりの税金で運営されている
国立大学では、これはなおさらのことです。
そのためにも、今回の伐採計画は、市民を交えた討議によって再検討していただきたいと
存じます。
5 つねになにがしかの危険をもつ自然と共存するためには、これまでのような「管理者責任」を問わな
いしくみを作り上げるべきである。
キャンパス内の木々は国家財産として位置づけられ、倒木によって事故がおきれば、大学が管理者責
任を問われることになっています。この現状があるために、わずかな危険でも、それが予知された現段階
で防止策をとらずにいれば重大な「管理者責任」を問われるとして、大学側が、危険をゼロにするために
伐採を決定された事情もよく理解できます。しかし、このような論理が自然を一方的に壊す行為を正当化
し、それによってキャンパスのみならず北海道や地球の自然が壊されてきたことも事実です。このような
ことを繰り返せば、キャンパス内からほんとうの自然は全く失われてしまい、エコキャンパスも、ただ人
間にだけ都合のよい人工的な空間になってしまうことでしょう。それは4で述べたようなエコキャンパス
の理念と全く相容れないものであり、「わずかでも危険があれば自然は壊すべきだ」という、21世紀に
は通用しない考え方を学生にキャンパスを通じて教えこんでしまうことになります。
そうではなく、社会がいま大学に求めているのは、大学が率先して新しいしくみをつくり、危険を許
容しながら自然と生きる道を模索することを身をもって社会に提示していくことではないでしょうか。そ
のためには、現時点で可能なあらゆる方法をさぐり、それらを組み合わせることによって、「管理者責
任」を限りなくゼロに近づける方策を提示しなければなりません。これには、まさに北大のすべての研究
者の英知を結集する必要があり、また検討のための時間も必要です。以下に、私たちの案を提示いたしま
すが、これをひとつのたたき台として、早急に、市民を交えた検討委員会を立ち上げ、「危険を許容しな
がら管理者責任を最小化する方策」を打ちだしていただきたいと考えます。
具体的対策案
(1)基本的的考え方:キャンパスでの危機管理と公道での危機管理とは異なる。
豊浜トンネル事故では、崩落の危険が予知できたのに有効な対策をとらなかったとして、管理者である
開発局が訴えられました。裁判では、危険は予知できなかったとの判断が示され不起訴となりましたが、
大学側は、今回の伐採も、「空洞がみつかった」、「危険木と認定された」ので、この時点で「危険が予
知される状況になった」とし、「それにもかかわらず伐採しなければ管理者責任を問われる」として伐採
を決定されたと説明されています。
しかし、この見解には次のような多くの疑問が寄せられています。
1:豊浜トンネルのような公道、しかもトンネルでは、100%の安全が要請されます。しかも、岩盤
崩落を事前に防止するために処置すべき対象は無生物の崖であり、対策工によって貴重な樹木を伐採する
ような場所ではありません(そのような場所であれば、すでにトンネル建設時に、環境アセスメントが行
われ生物への影響が検討されたはずです)。生物への影響が無視できると判断されるトンネルでは、おそ
らくすべての人が100%の安全を要求するはずであり、もし管理者が、危険を予知できていたにもかか
わらず適切な管理を怠ったとすれば、管理者責任を問われるのは当然でしょう。
しかし、キャンパス内の道は公道ではありません。また、岩盤が崩落すれば、かなりの確率でそれが道
路やトンネルの出入り口をふさぎ、恐ろしい事故になることは十分に予測できますが、木の場合は、崩落
と異なり、倒れても、人に危害を与える可能性はずっと小さいこと(これまでキャンパス内で起きた倒木
で、人身事故は一度もおきていないことがそれを裏付けています)、またたとえ倒れても、人が逃げうる
時間的余裕がある点も異なります。
また今回のことで伐採への反対運動がおきたことからもわかるように、多くの人が、木がいつか倒れる
ことを自明のこととして理解しながらも伐採に反対していることは、多くの人たちが、キャンパスではト
ンネルのような100%の安全がなくてもいいと表明していることを示唆しています。このことは、2つ
のケースの背景が大きく異なることを示しています。
したがって、そこを毎日利用する人たち(職員、学生、市民)を対象に、ある程度まで(その程度の判
断は人によりまちまちでしょう)倒木の危険にさらされるという仮定のもとに、それでもあなたは伐採に
反対ですか、というアンケートを行い、じゅうぶんな割合の人々が、そのていどの危険を許容することに
賛同すれば、管理者はその事実をもって、豊浜トンネルにおけるような責任はまぬかれ得るのではないか
と考えます。
とくに、この場合には、1で述べましたように、空洞利率30%以上を「危険木」とする樹木医の判断
には十分な科学的根拠がありません。また、当の樹木医自身が、たとえ「危険木」であっても、適切な保
全策をとれば伐採しなくてもよいとする提言を行っているのですから、そのような処置さえとれば、「危
険木」と判定された木を伐採しなかったからといって、予知された危険を無視して放置した、というよう
な責任は問われないはずです。 ただ、ここに述べたことが妥当かどうかについては、法律的な検討が必
要であり、そのためにも、拙速な伐採は望ましくありません。
(2)具体的な対策案
1:キャンパスに立ち入る人すべてへの徹底した警告
まず、正門など、キャンパスへのすべての入り口に、別紙のような内容の看板を立てたり、チラシを
おいて、「北大は自然と共存するエコキャンパスをつくろうとしていること、したがって多少の危険が
あっても、大樹や老樹を切らずにいること」、「したがって、大樹・老樹にはなるべく近づかない、根元
には踏み込まない」、「とくに倒木の危険が高まる異常気象時には周辺を立ち入り禁止にする」といった
案内や警告を徹底させる必要があります。これは現在でもただちに必要なことで、「現在、市民の声を反
映した伐採計画の再検討を行っていますが、大樹、老樹は倒れる危険を潜在的にもっていますので気をつ
けてください」といった看板を直ちに立てるべきです。
2:「エコキャンパス・マスタープラン」にそった保全策に直ちに着手
前述したように、マスタープランでは中央道路の歩行者天国化がうたわれ、意見交換会での井上医学
研究科長のご説明では、数年以内のごく近い将来に、少なくとも北18条と正門までの中央道路への車の
乗り入れは中止されるはずだとのことでした。そうであるならば、中央道路わきのハルニレについては、
現在の歩道を車道よりにずらすことにより、傾いたハルニレの大樹でも、支柱やワイヤーを用いて幹や枝
を支える対策が可能になります。またポプラ並木については、生協食堂前の混雑する場所にあり、ハルニ
レよりは対策が困難ですが、枝抜き、幹の上部切り取りとあわせ、車道を狭めたり場合によってはなくす
ことで生じる空間を利用した適切な保全策の検討が可能ではないかと考えます。
もちろん、これにあわせて根元周辺の舗装の除去、土壌改良、空洞内の腐朽の進行防止などの抜本的な
対策が必要です。
3:学内のすべての英知を結集した対策を
管理責任を問われないためには、上記したような警告の徹底、キャンパスのエコ化による保全策の徹
底とともに、危険予知に対するモニタリングも必要です。ひずみセンサーの設置などによる風圧のモニタ
リングや、空洞内の腐朽の防止対策、腐朽の進行状況のモニタリングを工学部、農学部などの連携によっ
て行うほか、管理責任の問題に関しては、法学部などの協力が必要です。たんに伐採の可否を問うアン
ケートではなく、「大樹・老樹を伐採せず、危険を許容して、共存するためには対策をとるためのお金が
必要です。あなたはそれにいくらまでなら出せますか?」といったCVM(仮想評価法)を適用したアン
ケートの必要になるでしょう。CVMにより、学内の人間だけでなく市民もある程度までの費用負担が可
能であることがわかれば、万が一、事故が起きたときに備えて保険に入ることもオプションとして検討課
題になります。これらはすべてを、緊急に必要な学内の研究と位置づけ、総長経費などを優先的に配分す
れば、研究の成果がそんもまま学内の環境整備に生かせることになり効果的です。
「エコキャンパス・マスタープラン」では、キャンパスそのものを教育の場として位置づけています。
学内の多くの部局が、このように市民の要請に応えて学内の大樹・老樹を保全するために研究を通じて手
を結びあうすがたこそ、21世紀の「開かれた大学」にふさわしい知のありようだと私たちは考えます。
21世紀の最初の年にあたり、これからの北大の進むべき方向を、どうかこの伐採計画の強行で誤るこ
とのないよう、総長はじめ、みなさまの慎重なご検討をお願いいたします。
2001年2月14日
北大キャンパスの樹林を考える市民の会
世話人代表 堀 淳一 (北大名誉教授・エッセイスト)
世話人(あいうえお順;*事務局担当)
石城謙吉(北大名誉教授)、上田文雄(札幌弁護士会)、大久保フヨ(北海道自然保護協会)、*小川巌
(エコネットワーク)、*小野有五(北大・地球環境研)、加藤幸子(北大卒、作家)、酒井 昭(北大
名誉教授)、高橋英樹(北大、総合博物館)、竹中万紀子(豊平川ウオッチャーズ)、田口 晃(北大、
法学部)、田中晴夫(市民)、韮沢ちよ(自然ウォッチングセンター)、湯浅みや(真駒内・芸術の森
緑の回廊基金)、吉田邦彦(北大、法学部)。
事務局連絡先:エコネットワーク(Tel: 011-737-7841 FAX:011-737-9606)
小野有五(Tel:011-706-2220 FAX:011-706-4866)
別紙
正門など、すべての入り口にすぐにでも立ててほしい看板
(すてきなデザインも工夫して! 英語、中国語、韓国語、ロシア語の表記も必要!)
エコキャンパス 北大 Eco-Campus Hokkaido University
北海道大学に来られたみなさま、ここから大学のキャンパスです。北大では、「21世紀における人と
自然が共存できる社会」の実現を目指して日夜、教育・研究が行われています。キャンパスには樹齢20
0年を超えるハルニレ(英語でElmエルム)が多く、このため北大は「エルムの学園」と呼ばれていま
す。これらのハルニレや学内の大樹は、すでに老齢に達しているため太い幹のなかに空洞ができており、
樹木医さんからは「危険木」と診断されているほどです。けれども、大きな木、枯れかけた木がなければ
生きていけない鳥や虫もいます。人間も大樹から励ましや慰めを与えられます。このため、私たちは、こ
れらの「危険木」を切らず、それらと共存する道を選択しました。学内に来られたみなさまは、私たちの
意志をご理解いただき、次のことを守っていただきたいと存じます。
1 「危険木」の標識がある木にはなるべく近づかないでください。
平常の天候時に木がいきなり倒れる可能性はほとんどありませんが、それでも全くないとはいえません。
とつぜん枝が落ちたりすることもありえます。「危険木」の標識がある大樹のまわりでは、つねに木に気
をつけていてください。
2 大樹の根元には踏み込まないでください。
みなさんが根元まで踏み込むと、土が固くなり、水が浸みこみにくくなったりして木は弱ってしまい
ます。「危険木」はもちろん、その他の大樹も、遠くからながめて楽しむだけにしましょう。
3 強い風、大雪のときなどは、「危険木」のまわりは立ち入り禁止に なります。
これまでの例では、大樹・老木のほとんどが、強風のときに倒れています。また大雪のあとも、雪の重
みで大きな枝が落ちたりして危険です。このような気象のときは「危険木」のまわりは立ち入り禁止にな
りますので、ご協力ください。
あなたの安全はあなた自身で守りましょう。
まんいち、大きな事故が起きれば、大樹・老樹を切らざるを得なくなります。
「エルムの学園」を未来の子供たちに残すために、みなさまのご協力をお願いいたします。
2001年3月 北海道大学
(この標識の内容についてのお問い合わせ先:0000000000)
「危険木」のまわりに立ててほしい看板
(同じく英語、中国語、韓国語、ロシア語などでも表記)
小野 有五 yugo@earth.ees.hokudai.ac.jp
060-0810
札幌市北区北10条西5丁目
北海道大学大学院地球環境科学研究科地球生態学講座
TEL011-706-2220 FAX011-706-4866
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