通信ログ
国公立大学通信 2003.06.02(月)

--[kd 03-06-02 目次--------------------------------------------------
[1] 東京大学総合文化研究科の意見
[2] 鈴木寛参議院議員「国立大学法人法案!本当にこれでいいのか?」 
[3] 坂内英一氏からのお便り「Tenure 制度について(続)」
[4] 1997年5月16日の衆議院文教委員会
[5] 東京新聞5月30日夕刊 大波小波「競争を前に黙る」
[6] 女性ニューズ5月30日号 危惧する大学関係者葉書署名運動
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  東大で新たな法案批判の意見表明[1]がありました。また、マスメディアで、
法案を批判する論説[4][5]が増えつつあるような印象を受けます。あらゆる機
会を利用して、法案の問題点を伝えるようにしてください。

                    □ □ □ □ □ □ □ □ □ 

  任期制ポストの「再任」という概念について誤解が多いようです。1997
年5月16日の衆議院文教委員会[7]で、雨宮高等教育局長が

     「任期制とは、任期満了により当該任期を付されたポスト
      に係る身分を失うことを前提とした制度」

であること強調し、再任拒否されても「不服申し立てをするというようなこと
は考えられない」と述べています。

  5年の任期付きポストに就職するということは、5年間だけ大学と雇用契約
を結ぶことですから、自他共に認める業績があっても、例えばそのポストの役
割が大学で変更された場合には、当然再任されないことになり、しかも、それ
を不服として訴えることは論外とみなされるわけです。実際に、京都大再生医
科学研究所で、外部評価委員会で問題なく再任可とされた方が再任拒否され地
位保全の仮処分を京都地裁に申請*しましたが、却下されたと伝えられています。
*http://ac-net.org/kd/03/220.html#[8]

  任期制を導入した大学で、現在の教員に任期契約への移行を求める場合があ
るようですが、もしもそれが強制に近いものであれば明らかに違法で、有利な
訴訟が成立すると思います。しかし、一旦、任期契約に移行してしまうと、早
期退職を承認したのと法的には同じように思いますので、再任不可となった場
合に、どれだけ素晴しい業績があったとしても、不服申したては法的には困難
のようです。(編集人)
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[1] 東京大学総合文化研究科の意見
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/hojinka-iken-j.html
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「浅島誠大学院総合文化研究科長・教養学部長は5月27日の学部長会議におい
て、以下の報告をいたしました。

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  「国立大学法人法案」について東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教
授会で表明された意見について

 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授会は、現在国会で審議中の
「国立大学法人法案」について、4月24日および5月22日に討議を行いま
したが、その際教授会構成員の多くから、教育・研究の責任を担う者として、
主として以下の点をめぐり同法案に対して強い懸念が表明されました。
  
     1) 教育・研究にかかわる「中期目標」の最終決定権が文部科学
     大臣にあり、教育・研究についての知的資源を保持している大学自
     身が「中期目標」を自主的に決定できる形になっていない点。

     2) 学長の選考が、学長自身の指名する学外者を多く含む「学長
     選考会議」で行われることになっており、教育・研究の現場の意見
     を直接反映する選考方法になっていない点。

     3) 教授会など大学本来の任務である教育・研究を教員が自律的
     に担う制度の尊重についての言及がなく、経営が教育・研究の質の
     保持や向上を第一の目標として行われるべきであることが示されて
     いない点。

     4) 経営面が重視されることによって、利益や応用に直結しない
     基礎的研究が軽視される懸念がある点。

     5) 社会からの公正な大学評価が行われる上で、「国立大学法人
     評価委員会」が文部科学省に設置されるという仕組みの妥当性に問
     題がある点。

さらに、法人化に伴って適用される労働基準法、労働安全衛生法等に適合する
体制が準備できていない点についても懸念が表明されました。


私は、大学院総合文化研究科長・教養学部長として、以上の教授会の意見を重
く受け止めましたので、ここに報告いたします。
  

         平成15年5月26日 大学院総合文化研究科長・教養学部長 浅島 誠 
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[2] 鈴木寛参議院議員「国立大学法人法案!本当にこれでいいのか?」 
すずかんMAGAZINE NO.25 2003.05.26  
http://www.suzukan.net/09_magazine/25mag.html
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[3] 坂内英一氏からのお便り「Tenure 制度について(続)」
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#(「Tenure 制度について」http://ac-net.org/kd/03/509.html#[5] )

辻下 様、

前に Tenure 制度のことについてお便りした九大の坂内です。

一週間程フランスにシンポジウムで出かけておりました。アメリカからの参加
者も何人かいたので、アメリカの現状について聞いてみましたが、次のことが
分かりました。

アメリカの現状は私のいた当時とは大幅に変わってしまったようです。(以下
の報告はネガテブな現実の確認も含みます が、現実を直視する必要はあるの
で、またその上であえて現在の独法化などへの日本の状況に異議を唱える必要
があるとおもうので、辻下さんの通信で報告して頂けますようお願いします。)

一旦 Tenure を貰ったあとの、 after tenure review がほとんどの大学で導
入されているとのことで、多分7ー8年前からそれを導入する大学が現れ始め、
5年前位にそれを導入した大学が多いとのことです。(正確には調べればわか
ることとおもいますが。)ただしその制度のとらえかたは大学、個人によりま
ちまちのようです。Tenure 制度が現在までのところ崩れているわけではない
というのも事実とのことです。色々な人から実質的にはアメリカの大学の
Tenure 制度は崩れていないとは聞いています。行政側とのいろいろな綱引き
が進行しているのだと思います。After tenure review の導入により各教員に
現実には心理的プレッシャーが加わったことは確かであるが、その制度の適応
を受けて実際に失職させられる例はいくつかの大学ではいままでのところそう
いう例は実際には起こっていないとのことでした。ある大学では一人だけその
ような例が例外的にあったが、それは学生に対するハラスメントが原因とのこ
とでした。(なお、特別な理由があってのTenure を持った教員の解職は前か
ら行われていたことです。)例えば review 期間の5年間に論文が何もなけれ
ばどうなるかを聞いてみたところ、現在それが直ちに問題になることはないが、
ただしそれが2、3回続くと、将来問題になる可能性はあるとの程度とのこと
でした。

現在は大学側もその制度の適用に非常に慎重なのだと思います。ただし制度は
すでに導入されているので、その制度が自律的に動きだす可能性は残されてお
り、将来どうなるかはなんとも予測できないとの事情はあるようです。将来の
予測が難しいという点では独立法人化以後の日本の大学の事情も同様かもしれ
ません。

そのような訳で、私の提起した、総合科学技術会議の報告が全く根拠がなく間
違いでないかという主張は、必ずしもそうとは言えなくなってしまいました。
良く自分で調べずにはやまって主張したことで辻下さんにたいしても御迷惑を
お掛けしたかもしれないとお詫びします。

ただし、職の継続についての激しい審査が成されているということは現実的に
は行われていないことは確かと思われます。いずれにせよ、この制度は(任期
制というより審査制は)、アメリカでやっているから良いと言うわけではなく、
私はやはり間違っていると思います。学問の自由と独立はやはり貴重であり、
なんとしても守っていく必要は痛感します。それを守ることが社会への一番の
貢献になると思いますが、あれだけその理念がはっきりしていたアメリカの大
学でも、(実質は守っているかもしれないが)すくなくとも原則の上でそれを
一部放棄したと思われる変化が起こったことに、驚きを禁じ得ません。私がア
メリカにいた当時の大学の雰囲気からすれば全く考えられないことでした。
(私は専門家でないので推測の域をでませんが、イラク戦争開始に見られるよ
うなアメリカの社会の硬直化と変質は大学をめぐって起こっているその種の変
化と無縁ではないような気がします。当然のことながら、日本の大学の変質も
日本の社会の負の方向への変化と足並みを揃えてしまうのではないかと危惧さ
れます。)

なぜアメリカでその種の変化が起こり、またなぜアメリカの大学がそれを受け
入れてきたのか(受け入れざるを得なくなったのか)、また実質的にそれに
どう対処しているかは、もっといろいろな立場の人によって研究されるべき
と思います。アメリカの学問、研究の進展それ自身にも長い目でみればネガテ
ブな影響が出てくるのは間違いないように思います。

アメリカでも、日本と同様の大学人の無関心があったのかもしれません。(質
問した限りでは、個人でどうこうできる問題ではないのであまり触れたくない
という感じはありました。日本でこの種のことを話題にしても同様の反応が帰っ
てくる場合が多いようですが。)私達はこれらのことをもっと議論していくべ
きであると思います。アメリカの(および日本でも一部追従しようとしている)
この種の変化の動きについては、行政側の積極性に対抗して、大学人の中に学
問を守っていかなければいけない動きが出てこなければいけないのですが、現
在のところ日本ではその力は非常に弱いし、情報もほとんど持っていないのは
確かと思います。例えば私の提起に対して、事実はこうであるということを直
ちに指摘をできる専門家が(少なくともこの通信の読者の中に)いなかったこ
とにも、守る側の弱さを思い知ります。

それはそうとしても、辻下さんのこの通信などがその守る立場の役割をはたす
ことに、またこれらの問題に対する他にない貴重な情報発進元として、一読者
として、期待と希望を持っております。
 
坂内英一(九大数理学研究院)
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[4] 1997年5月16日の衆議院文教委員会
     http://kokkai.ndl.go.jp/
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「○山元委員 ・・・ もう一つ、今度は、そのポストへ入った、再任を望ん
でいた、来年自分は五年が切れる、続けてやりたい、仕事も半ばであるという
ときに再任が拒まれる。そうすると、その本人は、現実的にある程度仕事も探
さなければならぬでしょうし、そういうときに救済をされる措置、例えば訴え
ることができる、公務員は人事院だとかあるいは労働委員会だとかいろいろあ
るわけですけれども、そういう手だてが保障されるのか、あるいはやはり一定
期間公務員としての身分を保障するというような救済措置があってもいいので
はないかというふうに私は思いますけれども、とにかくだめだと言われて三月
三十一日になってしまった、次からは全くの権利もあるいはそういう救済の道
もないということでは大変だと思うのですが、それはどうなります。

○雨宮政府委員 御案内のように、任期制とは、任期満了によりまして当該任
期を付されたポストに係る身分を失うことを前提とした制度でございまして、
したがって、再任されない場合もあることは御指摘のとおりでございます。

 したがいまして、再任を認める任期制をとる大学におきまして、教員を任期
つきの職に採用する場合には、再任の手続について、採用と同様に厳格な審査
が行われる旨を本人に明示して、任期制が円滑に実施されるように努める必要
があるというように考えているわけでございます。

 なお、再任を拒否された教員が身分を失うことだけを理由として、暫定的な
ポストやあるいは任期なしのポストに採用するというようなことを先生多分おっ
しゃっておられるのだと思うのでございますけれども、それは、教員の流動性
を高めることにより教育研究の活性化を図るという任期制本来の趣旨からして
不適切なことではないかというように考えるわけでございます。

 また、不服審査の対象となり得るかということでございますが、教員の人事
の審査と共通のことでございまして、したがって、これについては不服申し立
てをするというようなことは考えられないというように考えておるところでご
ざいます。」
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[5] 東京新聞5月30日夕刊 大波小波「競争を前に黙る」
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「国立大学法人法案が今国会に上程されている。要点は、国立大における「経
営」と「教学」の分離、企業原理の導入、「中期目標」策定を通じた文科省の
統制強化等だ。現状では、確かに大学教員は無能だったり偏頗な人格であって
もなかなか首にならない。しかしそこだけを見て、リストラに苦しむ世間がこ
の「改革」をいい気味だと傍観するのは危険だ。大学は経営体である以前に、
国民的、または世界的な公共財なのだから。

 大学の経営が企業化して公費補給が減ると、「いい大学」ほど授業料が上が
る(上げられる)。それは社会の階層化を連想させる。また、文科省は国際競
争力の強化を理由に国公私「トップ30」の重点育成(さすがに評判が悪くて、
あとで名称を変えた)をぶち上げたが、これも大学間格差を拡げるものだ。

 大学「改革」に伴う、あらかじめ方向の決められた膨大な書類作成作業を通
じて、大学教員に「服従」が身体化していると言う人もいる。「自助努力」と
いう新自由主義的なスローガンの下に、いまやほとんどの人々が過度の競争主
義にさらされている。その中で、せめて大学人は、世間といい意味で「ずれ
た」、批判力のある存在でありたいのだが。                    (教授会)
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[6] 女性ニューズ5月30日号 危惧する大学関係者葉書署名運動
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教育、研究へ国が関与
国立大学法人法案衆院通過

危惧する大学関係者葉書署名運動

 「国立大学独立行政法人法案」が22日衆院本会議で可決されてしまった。衆
院でわずか13時間余の審議で決まってしまったこの法案だが、問題が多い。国
立大学の設置者が国から法人になることで国の財政責任は後退し学費値上げを
招く恐れが多い。各大学の研究から経営まで中期目標を文部科学省が決め6年
ごとに評価。評価を交付金の配分に直結させるため、大学が国の統制下におか
れ、各大学の自主性、独立性が認められないなど、大学関係者たちから強い危
惧が出ていた。

 「国立大学法人化に反対する意見広告の会」では、4月に朝日新聞に5月に
毎日新聞に意見広告を出したが、今度は葉書による署名運動を考え、協力を呼
びかけている。署名を市民の意思表示の証拠として陳情や報道機関への訴えに
使う。

 廃案に賛同する人は 〒376-0031 桐生市桐生本町二郵便局留め置き 国立大
学法人法案反対ハガキ署名集計係近藤あて。
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
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