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平成18年(ヨ)第49号 地位保全等仮処分申立事件
決定文(2006.11.30)概要

大分地域労働組合作成

2006.12.8

主文

債権者の申立てをいずれも却下する。

申立て費用は債権者の負担とする。

理由(抜粋)

  1. 立命館大学言語教育センター所長は、講習会(99.10.24)において、債権者(常勤講師)に対していかなる説明をしたか。

    地裁の判断結果は以下の通り。

    立命館大学言語教育センター所長が、「一応任期はあるが、本人が望めば60歳の定年まで更新ができる。2期目に入っても昇進、昇給はない。この繰返しで何回更新しても昇進・昇給はないが、それでも良ければどうぞ定年まで働いて下さい」との趣旨の説明を行ったことが認められるとし、債権者(常勤講師)の主張を全面的に認め、債務者(学校法人立命館)の主張を退ける。
  2. 債務者は、講習会に先立ち、日本語常勤講師が希望すれば雇用期間を更新できるようにする旨決定し、センター所長を使者あるいは代理人として、債権者との間で、雇用更新が可能であることを補充・明確化ないし雇用更新特約を付加することとしたか。

    地裁の判断は以下の通り。

    債権者は以下の主張をしている。(i)講習会はセンター所長名で開催の案内が出され、これを債務者は容認していたこと。(ii)所長が講習会の司会進行と質問項目の説明を行うことについて債務者も容認していたこと。(iii)質問項目は事前に日本語教育担当予定者から受け付けたものであり、講習会での回答が予定されていたこと。(iv)質問項目には契約の更新という労働契約上重要な部分が含まれていたことから照らせば、債務者がセンター所長に対して、債権者に対して雇用更新について提示する権限を授与していたこと。

    しかし、債務者が「雇用期間の更新」の意思決定したことを窺わせる証拠はなく、その事実はないと債権者の主張を退ける。  

  3. 表見代理の成否 − 債務者がセンター所長に権限を授与していなかったとしても、表見代理の法理の類推適用により、法的効果は債務者に帰属するか。 

    地裁の判断は以下の通り。

    無権代理人の行為が本人に効果帰属するためには、その前提として、無権代理人と相手方との間で、契約としての法律行為がなされること、すなわち、無権代理人が、ある法的効果の発生を意欲する旨の意思表示(申込)をし、相手方がこれと同一内容の法的効果の発生を意欲する旨の意思表示(承諾)をなし、その合致があることが必要となる。

    講習会の目的は、日本語教育担当予定者に大学の教育システムや日本語教育の内容を理解してもらうと共に、教員間の親睦を図ることを目的としたものだった。

    質問項目の説明も「懇談」の時間帯(1:30〜2:50)に、29項目の1つとして説明したにすぎず、労働契約の内容を追加・変更するような重要な事項を扱うことを予定されていなかった。

    また、センター所長が、債務者が既に提示している労働条件を追加的に変更する旨の言及の事実、承諾するかどうかを予定者に確認した事実もない。

    さらに、常勤規程3条には「任用の方式は契約により、所定の契約書を用いるものとする」と規定されており、雇用期間の更新という事項は口頭で説明しただけであって、何らの書面も交わしていないこと。

    以上によって、講習会は労働契約の追加・変更の法律行為を予定しておらず、センター所長の説明はあくまでも事実行為としての説明であって、客観的に見て、契約としての法律行為、法的効果の発生を意欲する旨の意思表示(申込)と評価することはできないとし、債権者の主張を退ける。

  4. 債務者が債権者を雇止めしたことは、解雇権濫用の法理の類推適用により無効か。

    地裁の判断は以下の通り。

    (i)常勤講師が一定の重要な役割を担っているとしながらも、教授会の構成員ではなく、応募資格や待遇面等でも教授・助教授・専任講師とは明確な差異がある。(ii)講習会に参加した常勤講師は全員再任されているが、いったんは不採用で再応募の結果の再任もあり、希望すれば無条件で再任されたわけではない。(iii)学生の定員増加と、上級・嘱託講師などの採用が無条件での継続雇用に対する合理的期待を基礎づける積極的な事情にはならない。(iv)着任時の説明内容は当事者間の争いがあり、無条件で契約が更新されるとの説明ではなかった。

    債権者が雇用継続について合理的期待を抱いたと主張する有意的な意味があるのは、センター所長の講習会での説明で、一定程度の期待を抱いたことは十分に推察できる。

    しかし、講習会の目的は大学の教育システムなどの理解と教員間の親睦が目的で、契約内容を追加・変更する予定はなく、説明内容で債権者らに承諾を求めたこともなかった。

    債務者が、学生定員の増員を図りつつ教育の質の向上を図るため、教員組織整備計画のもと、常勤講師の職位を廃止したことには必要性・合理性が認められる。

    一度だけの軽率な発言のみで、その後の労働契約が当然に拘束されるわけではなく、任用期間満了時の雇止めは解雇権の濫用に当たらないと債権者の主張を退ける。

    なお「センター所長の軽率な発言については、これに起因する損害について主張立証がなされた場合には、債務者が使用者として損害賠償責任を問われる余地が論理的にはあり得る」と言及している。

  5. 本件労働契約は、旧労基法14条に違反する違法なものか。
    本件労働契約は任用期間が4年、雇用期間が1年という契約であり、任用期間とは雇用保障期間と解するのが相当である。一定の期間雇用を保障することは何ら旧労基法14条に抵触するものではないと債権者の主張を退ける。
以上により、債権者の本件申立てはいずれも理由がないことから、これを却下することとする。
                                   以 上