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第7回複雑系札幌シンポジウム

複雑系と不定性

1999.3.3
 1994年3月に始まりました複雑系札幌シンポジウムも7回目を迎えました。 今回は「複雑系と不定性」という表題を設けました。ここでいう不定性は「不 定性がないと思われる基盤の不定性」のつもりですが、その意図を少しだけ 例をあげて説明しておきます。

各生物個体は明確な形態と行動様式を基盤として生存している一方、「基盤に 対する懐疑」あるいは別の表現をすれば「基盤から自由であること」が生命的 様相の核心にあるように見えます。ところが、「基盤からの自由」がどういう ものかを明らかにすることには、その逆説性ゆえの質的困難があり、この困難 が「生物の理解」の困難の核心をなしているとさえいえると思います。

この「逆説性」はたとえば次のような事情に現れます。通常の<科学的方法と いう基盤>に従って「基盤からの自由」のモデルを作ろうとすると「その基盤」 を記述する別の、より深い基盤を設定することになります。もしも、この深い 基盤によって議論がうまくいったとすると、意図したことと逆のこと「生物が 基盤から自由と思ったのは実は基盤概念がまずかったからだ」ということを示 しただけになってしまいます。

複雑系研究者が関心をよせる生命・社会等の諸様相が共通してもつ、この逆説 性は、新しい研究法(例えば構成的方法)や議論の仕方の多様な模索の原動力 となっています。今回いろいろな立場・意図・問題設定・方法からの研究を紹 介して頂きますが、その多くは新しい基盤の模索を伴っています。各講演が構 成している新しい基盤は何か、その基盤の孕む不定性はどこにあるか、という 側面にも参加者が関心の一部を割いていただければと思います。

辻下 徹