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国立大学独立行政法人化問題 週報 Weekly Reports  No.13  2000.6.6 Ver 1.12


【先週の動き】 5月26日の国立大学長会議での文部大臣説明以後、大学側からの危惧の声が 徐々に挙がり始めている。40国立大学・学部と6公立大学・学部等の学長・ 学部長で構成する国立大学農学系学部長会議の声明「農学教育研究にはたす国 公立大学の役割」[13-1]が6月2日に出た。また、独立行政法人化反対首都圏 ネットワークは6月5日に声明「文部大臣説明の虚構と国大協の責務」を出し、 文部大臣説明を詳しく分析し徹底的に批判するとともに、国立大学協会への提 言を述べている[13-2]。「独立行政法人化問題を考える福井大学教育地域科学 部教員有志の会」も学長への要望を掲げている[13-3]。北大でも5日に<独立 行政法人化問題を考える北大ネットワーク>が声明を出し教職員の意思を確認 することを求めた[13-4]。 【5/26国立大学長会議議事録】 富山医科薬科大学が質疑応答の詳しい記録をホームページで公開している。 http://www.toyama-mpu.ac.jp/gd/new/situgi.html   【独法化についての考え方の4タイプ】 独法化についての国立大学教員の考え方は単純化すると4つのタイプにわけら れるようだ。 (1)現場に居る我々が独法化では学問の自由が損なわれ大学がだめになるこ   とを主張しなければならない。 (2)独法化は不可避なので無駄な議論はやめて大学改革を考えよう、 (3)独立行政法人化は現状を変える好機である。 (4)独立行政法人化のことは学長が深く考えておられるので一般教員がとや   かく言うことではなく学長に一任すべきだ (2)は甘受派だが、独立行政法人化は、空から隕石が降るのとは違い、大学 教員の同意がなければ実現しない自明なことを看過している。責任逃れの言い 草とも言うことができる。また、詳細が未定の根本からの制度変更が強要され ようとしている時に詳細で具体的な大学設計に取り組むのは、洪水の前に土の うを築くこともせずに砂場でお城を築くのに熱中している幼児の姿を彷彿とさ せる。 (3)は、外からの力を借りて自分ではできない「変革」(改革とは限らない) に期待を寄せるもので、戦争への期待や独裁者への期待と同じ心理であり、幼 稚で危険であり、大学教員がこのような考えでは困るのではないか。 (4)は、今後高く評価される「理想的日本国民」の心性かも知れない。   【選挙との関係】 都大協が独立行政法人化問題について5月15日〆切で関東地区の候補者にアン ケート調査を行った[13-5]。回答は151名中わずか13名。民主党は、 賛否が分かれていたが、本来そうあるべきものではないか。「私が一貫して要 求してきたことは「現場への配慮、現場との合意」であり、今回の問題につい ても同様の観点から、現場の理解が得られないことから反対する立場です。」 という発言があったが、政治家が「現場の智慧」を敬うようになれば日本はか なりよくなるだろう。 【学生の動き】 独立行政法人化に反対する千葉大学学生有志の会が提言を出した[13-6]。独立 行政法人化の議論への、学生の参加を要求するとともに、全国の学生への呼び かけを行っている。なお、3月には、全院協も声明を出している[13-7]。 【意見の紹介】 豊島耕一氏「心理学的ワクチンの必要性」 いつもながら意識変革を引き起こす力のある完成度の高い読みごたえのある核 心を抉る論説である。「本決まり」や「事実上の決定通知」などのマスコミの 言葉をウィルスに喩えて、それが意識の中で増殖し力を持つことを防ぐための ワクチンを用意してくれている。感染源はマスコミだけではなく「中央官僚と の接触」にあるという指摘も面白い。そういう接触を通して「悲観論(間もな く現実主義的という形容詞で説明されるだろう)」というウィルスに感染し学 内に蔓延すると警告する。症状の説明[13-8]も鋭い。 【引用した文献等】 [13-1]国立大学農学系学部長会議の声明より http://www.asahi-net.or.jp:80/‾bh5t-ssk/net/nethefo977.html 「国立大学の法人化の論議において、私たちがもっとも危惧するのは学部の自律 的機能の弱体化です。大学の自主性・自律性の大切さは繰り返すまでもありませ んが、私たちはそれに加えて、大学の真の自主性・自律性は、その構成単位であ る学部の自主性・自律性を保証し、構成員のエネルギーを最大限に引き出すこと を可能にするネットワーク型の運営体制を構築することによってのみ、達成され ることを指摘しておきたいと思います。それは成熟した地域社会が、その構成単 位である地域住民の自主性・自律性の尊重によってこそ達成し得ることと同じで す。私たち農学系学部長会議は、成熟した学部運営の構築のために努力を続ける ことで、大学の真の自主性・自律性の確立に貢献していく決意を表明するもので す。」 [13-2]首都圏ネット声明「文部大臣説明の虚構と国大協の責務」より http://www.asahi-net.or.jp:80/‾bh5t-ssk/net/nethefo983.html 「6月国大協総会は、国立大学が真に「自主性、自律性」を有するか否かの決 定的な試金石となる総会である。1970年の国大協総会で承認された「国立大学 協会のあり方について」は、国大協の性格を「自主性をもった各国立大学の連 合体(federation)というべきもの」と述べている。また「国立大学全体として の自治」についても語られている。生存競争の論理に陥り、「選別と淘汰」を 自ら行う愚をおかすのではなく、高等教育全体の発展の見地から国大協の対応 を内外に示すことが、国大協という組織そのものの歴史的責務なのである。  国大協は、政治の介入に振り回されるのではなく、大学の未来そのものが社 会の未来に責任を負うものであることを認識しなければならない。大学改革の 課題は、いまだその緒についたばかりである。文部大臣の「説明」なるものは、 そのはじめから破綻したものであり、高等教育の本質に関わる議論は、いまだ まったく行われていない。  国立大学の独立行政法人化は、大学における教育・研究を産業競争力の強化 という国家の経済戦略の単なる道具に変えてしまうことに他ならない。大学を ナショナル・ミッションの尖兵に再編成しようとするこのような試みを、許す ことがあってはならない。  次世代に対し、また21世紀の社会に対し、ありうべき高等教育を継承してい くことこそが大学人の責任であり、義務である。国大協はこの公共的・歴史的 任務を果たさなければならない。われわれもまたこの作業に積極的に関与する ことを表明するものである。」 [13-3] 福井大学教育地域科学部教員有志の会の意見表明 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/0601-fukui.html 「文部省が「調査検討会議」を招集するならば、国大協として<知の結集体> として独自の「独法化検討会議」を設置し、文部省案の対案をだすくらいのヴィ ジョンを打ち出してほしい。第1常置委員会がそれにあたるべきなのか、ある いは特に地方大学の独自性も反映する検討会議の新たな構成メンバーを選出す べきなのかの検討も含めて、提案していただきたい。」 [13-4]北大ネットワーク声明「北大の全学的意思の確認を求めます」 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00605-hu-net.html 「当初予期していたよりはかなり遅くなりましたが、独立行政法人化の是非に ついて北大の全構成員それぞれが意思を明確にしなければならないときが来ま した。北大ネットワークは、北大の皆さまが独立行政法人化問題について理解 を深め、関心を広げるように情報提供やアンケート調査等の活動を行ってきま したが、ここに皆さまに、独立行政法人化問題について賛成であれ反対であれ 明確に意思表示をすることで、国立大学教職員としての責任を果たすよう呼び かけたいと思います。 」 [13-5]都大教ニュース No.60 2000年5月25日 都大協による議員アンケート http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00525-giin-iken.html [13-6]千葉大学学生有志の会の提言より http://village.infoweb.ne.jp/‾fwjf1899/agency/gakusei_teigen.html 2.提言 (1)議論に全ての当事者を参加させ、国立大学の独立行政法人化を一から 議論しなおすこと。 (2)ユネスコ宣言に沿い、大学運営に学生が参画できるように、大学は制 度設計を行い、その過程も学生が参加できるように、ふさわしい処置を講じる こと。 (3)入学金・授業料の設定は、2.によって設置される学生組織の合意を 必要とすること。 (4)経済効率によって計ることのできない学問の場を十分に保証すること。 (5)学生をふくむ大学全構成員は、「学問の自由」「大学の自治」を享受 する義務として、あるべき大学を議論し実現していくために、国・公・私を横 断する協議組織をつくるように、尽力すること。 3.呼びかけ 1999年7月以来、大学関係者より数多くの反対声明が出されました。また各 地で反対署名活動も活発に行われています。しかし、学生側の反応の鈍さは否 定できません。1999年10月31日の全国大学院生協議会第4回理事校会議特別決 議以降、事態は急ピッチで進んでいるのにもかかわらず、学生側からの反応は 目に付きません。この問題は、設置形態の議論に端を発していますが、それに 直接降りかかる学生は傍観、もしくは事態を知らないままです。この提言は、 決定的な局面に差しかかった現在、新たに多くの学生がこの問題に発言するこ とを期待して作成されました。この提言は、私たちの一つの試案にすぎません。 しかし、これをきっかけに、多くの学生・社会各層から新たな提言が現れるこ とで、「見切り発車」的に大学の統廃合が進められることの歯止めになること を期待しています。 ------------------ [13-7]全国大学院生協議会第54回全国代表者会議決議より 4.国立大学の独立行政法人化問題について http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/6347/myweb/99zendai/99zendai-ketugi.htm#_Toc477769252" 「今、国民の中には大学に対する様々な批判・要求が強くあるが、全国大学院 生協議会は、効率重視の「評価」に学問をさらして、公教育の縮小を拙速な形 で推し進めることでは、国民の声に本当に応えることができない、今必要なこ とは国民の中にある大学への批判は真摯に受け止め、大学自治を堅持しつつ国 民の高等教育を受ける権利を尊重し、学問の健全な発展を目指す立場で、そう した声を大学運営に反映させていく方向を、国立、公立、私立の立場の違いを 超えて追い求めていくことであると考える。 [13-8]豊島耕一氏「心理学的ワクチンの必要性」 http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/UniversityIssues/vaccine.html 「『行政法人化問題よりも具体的で差し迫った大学改革の課題に取り組む方が 重要だ』というような言い方が想定される.この二つの課題を比較あるいは対 立させるような表現は,あたかも大学改革(ほんとうの)と前者が関係がない, つまり少なくとも邪魔にはならないという立場を表明していることになり,行 政法人化それ自体が大学改革の重大な阻害要因であるということを見ないもの だ.言い換えれば「学問の自由」の概念を包括的にとらえておらず,部分的に しかにみていないのである.」 v「さらに上の言い方には,行政法人化への頑固な反対者を,あたかも「具体的」 課題を無視しているかのように描くようなニュアンスが付け加えられることも 予想されるので注意が必要だ.『具体的で差し迫った大学改革の課題に取り組 む』ことが重要なのは言うまでもないことだ.いずれにせよ,このような言い 方・態度は,緊急の重要課題から逃避し,目をそらさせる効果を持つ.」 「形勢不利でも原則を崩さない態度に『玉砕』などという見当違いのレッテル を貼る人が出てくることも予想される.しかもそれがしばしば『進歩的』と思 われるような人の口から出たりするのでより害悪が大きい.一体ぜんたい頑固 な反対者は皆殺しになるのだろうか?このような言葉を使うこと自体,見当違 いを通り越して心理戦の敵側に回ることを意味するのではないだろうか.なぜ なら,自由な言論が認められるはずの社会で,『ためにならないよ』という脅 しをかけることになるからだ.」 「行政法人化問題について『何も考えなかった』,あるいは教授会で何も発言 しなかったとしても死刑になる心配はないが,道義的な意味で無罪ともいえな いだろう.アイヒマンに比べれば小さいかも知れないがこれもやはりわれわれ 自身の『オフィスの犯罪』である.」 ====================================================================== ◆その他の資料 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/ ====================================================================== 発行者: 辻下 徹 homepage: http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst/ e-mail: tujisita@geocities.co.jp 独法問題会議室: http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/room.bbs バックナンバー: http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/backnumber.html 発行部数(2000.6.6現在) CocodeMail:274 / Mag2:437 / Pubzine:24 /Macky!:22 / emaga 21 ===================================================================== End of Weekly Reports No.13 2000-6-6 **この週報は発行者の個人的な意思で行っています** ===================================================================