http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/wr-16-00709.html
国立大学独立行政法人化問題 週報
Weekly Reports No.16 2000.7.9 Ver 1
==目次================================================================
[16-1]文部省の新しい審議会
[16-2]内閣府に設置予定の総合科学技術会議を巡る駆け引き
[16-3]大学審議会審議概要とパブリックコメント募集(7月28日締切)
[16-4]東大総長私的諮問機関「国立大学制度研究会」の中間報告
[16-5]首都圏ネットワーク声明
[16-6]「高等教育フォーラム」での独立行政法人議論
[16-7]学生からのメール
[16-8]「独立行政法人問題の整理の試み」より
[16-9]文部省白書等のデータベース公開
[16-10]訂正とお詫び
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政府の動き
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[16-1]文部省が新しい審議会を発足させる準備をしていると報じられた。
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/007/05-monbu-singikai.html
「法人化すれば、予算の使い方や学内の組織編成について自由度が増すとされる
が、一方で、生き残りのために産業界と連携を強化したり、学生の人気に配慮し
た運営を志向したりする傾向が強まることも予想される。こうした中で、大学が
短期的な利害にばかりとらわれて方向性を見失わないよう、方向性を示す機関が
必要だと考えられるようになった」ためであるという。「省庁再編で文部科学省
となる来年以降、できるだけ早く設置したい考えで、大学関係者を中心に、経済
界などにも参加を求める」そうだが、上の理由からすれば経済界の参加がなぜ必
要なのかは不明である。これでは、<大学にふさわしい法人化>が実現したとし
ても、財界と文部科学省の統制下に置かれることになるのではないか。
これについては渡邊勇一氏のコメントも参照:
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/007/06-watanabe.html
「1)独立法人になれば、産業に関係ない=「儲けにならない」分野の縮小が起
こりかねない事態が起きてくるという我々の懸念を、文部省がみずから認めたこ
とになる。
2)上の項目のような事態が起こることは、法人が身を守る(善し悪しをここで
は問わない)ための緊急避難的なものである。
学生に人気のない分野を維持するというのは、財源がキチンと確保されてこそ
成り立つこと、不安定な財源で、その維持を強要するのは、「危険な場所に追い
込んでおいて、そこが住み辛いから、安全な場所に身を移そうとしたら、そこに
移るのはまかりならぬという強制発動を行うのと同じ事である。
そのような学科を出た学生に企業がソッポをむき、大学の学部長や評議員が泊
まり込みで会社巡りをさせられる(今そのような事が現実に行われている)だけ
ですまなくなって、「もっと努力をせい」などと、教育研究そっちのけの状況に
させられた場合、最大の犠牲者は学生と教官であろう。」
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[16-2]内閣府に設置予定の総合科学技術会議を巡る、財界と官僚の駆け引きにつ
いて渡邊勇一氏が注意を喚起した。
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/007/04-watanabe.html
内閣府設置法の中に、総合科学技術会議で審議する案は文部科学技術省が企画立
案するという法文が入っていたのに対し、第17回中央省庁等改革推進本部顧問
会議(2000.4.20)
http://www.kantei.go.jp/jp/komon/dai17/gaiyou17.html
は総合科学技術会議自身も企画立案できるようにすることを森首相に申し入れた。
今後の行方が注目される。
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[16-3]大学審議会は、「グローバル化時代に求められる高等教育のあり方につい
て」の審議概要を発表するとともに、パブリックコメントを7月28日締切で募
集している。
http://www.monbu.go.jp/pcomment/00000095/
審査概要が独立行政法人化問題に一言も触れていない点は奇異であるし、「欧米
並みの公的支出の確保」や「競争的経費の拡充と基盤的経費の確保」を強調して
いながら、今年度から始まった基盤的経費を1/4にし、残りは「大学分」とい
う名目で競争的経費化し、さらに従来の光熱費分に相当する予算を削減して基盤
的経費を実質ゼロに近いものとした今年度の文部省・大蔵省の方針に対して、何
も触れていない点も異様である。新しい審議会と大学審議会との関係は一体どう
なるのか。
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【大学の動き】
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[16-4]3月に発足した、東大総長の私的諮問機関「国立大学制度研究会」(構成
員は公表されていない)が6月26日に中間報告を出した。報告は独立行政法人
通則法の修正すべき点が詳細に議論されており、国立大学協会「設置形態検討特
別委員会」や文部省「調査検討会議」での原案となりうる形式を持っており、東
大職員組合が批判し撤回を要求している。
http://www.asahi-net.or.jp/‾bh5t-ssk/000705kaitokui.html
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[16-5]首都圏ネットワークは8日に声明「6.14国大協総会確認を乗り越え、高等
教育の新たな展望を」
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/007/08-shutoken-net-seimei.html
を発表し、「国立大学の独立行政法人化問題は、原理原則の問題であり、条件闘
争を行うような問題ではない。いま、問題となっているのは、大学というシステ
ムそのものの存廃である。議論の出発点における錯誤は、その出発点に立ち戻っ
て改めなくてはならない。政治の一局面に左右されることなく、まず理非を示す
こと、それこそがいま大学人が行うべきことである。」と訴え、国立大学が主導
権を持って日本の高等教育全体を視野においた科学的検討を広汎に展開し、「国
大協および「設置形態検討特別委員会」に対し、また社会全体に対して、高等教
育の将来像という見地から、従来にも増して積極的な問題提起を行っていくこと」
を訴えた。
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[16-6]東大の松田良一氏が代表の「高等教育フォーラム」
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp./forum/index.html
は普段は、大学と高校の理科教育の諸問題についての専門的な議論が行われてい
るが、国立大学協会総会以降、独立行政法人化問題も頻繁に議論されているが、
独立行政法人化が本当に悪いものかどうかわからないという意見も少なくない。
詰まるところ「国立大学は独立行政法人化で良くなることはあっても、これ以上
悪くなることはないだろう」という論調も少なくないようだが発行者には納得で
きない。しかし、発行者の独立行政法人化反対意見に納得できないという人も少
なからずいる。なお、独立行政法人化を評価する井口和基氏が「学生の権利と義
務」「学生と職員の関係」も「大学法人通則法」に書かなければならないと主張
しているが、これは重要なことだと思われる。
井口氏は、独立行政法人通則法は理化学研究所法をモデルにしているのではない
か、と昨年8月に指摘している。
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/forum/message/372.html
また、
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/forum/message/370.html
では、「私の勤務経験では,すでに以上で述べた,昔の理研に見るような「自由
闊達な空気」はすでになく,ほとんど通産省の電子技術総合研究所(電総研)等
のような,典型的な国立の研究所の空気が現れてきているように感じました.官
僚からの強い圧力の下で,資金に見合うだけの研究成果をあげなくてはならない
という精神的プレッシャーをほとんどの研究者は感じて,プロジェクト以外の研
究を行う自由をあまり持てないようになってきているように見えます.つまり,
電総研が通産省の看板研究所であるように,理研が科学技術庁の看板研究所化し
てきつつあるということでしょう.」と述べ、アメリカの州立大学を目指すべき
ことを主張している。
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[16-7]ある学生さんからのメール
Date: Thu, 29 Jun 2000 07:18:01 +0900
To: tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
Subject: Re: [Weekly Reports 15]
「国立大学に限らず、今の大学がこのような問題を抱えるようになってしまった
のは教職員だけではなく、学生の側にも責任があるのではないかと思います。今
の大学生は大学を出ることを資格を1つ取ったというような感覚しかなく、そこ
には自分が選んだ専門分野は教官に徹底的にこきおろされてもやるというような
学問や研究のため大学に入ったという意識は全くないと思います。その原因の1
つとして就職協定が廃止されたことなどもあるのではないかと思います。学生が
積極的に大学を活性化しようというような意識は乏しく、堂々と発言とすると却
下されるという、大学は教職員、学生運命共同体という意識があまり感じられな
くなってしまったところに一番の問題があるのではないかと思います。
私は研究成果が出ている大学とそうでない大学の違いは些細なところにあって、
それは基礎研究費は勿論のこと、本来リベラルでないといけない大学が政治動向
に巻き込まれやすい風潮になってしまったこと以外に、原典を読まないで批評す
る人が増えたことが一番大きいのではないかと思います。
基礎研究費が削減されれば確かに日本からノーベル賞を取れるような研究者は出
てくると思いますが、その代償として研究成果を他人が困るような使い方に応用
する人も必ず出てくるはずです。先だって、科学技術庁のホームページが改ざん
されたりしたことなどは悲しい話ですがその象徴と私には思えてなりません。と
もかく、今の学生は考えることを嫌ったり、考えたことを人が困ることに利用す
ることには注力する人が多く、さらに困ったことには中にはその逆の人もいます
がそういう学生に限って大学側には色々と文句をつけることではないかと思いま
す。
それにはまず、個々の学生によって違う基礎能力とどの分野に能力が高いのかを
見極めることができ、自分が行った研究が変な使われ方をされないものかどうか
の判断ができる人物的にも優秀な教官がいないことには、学生も付いてこないの
ではないかと思います。
これは私の個人的な意見ですが、初年度に各分野とも難解な古典的名著を理解す
るまでは応用科目は受けさせない、卒業単位数にならなくともそれなりの成果を
あげた学生には卒業を認める、分野ごとに学問の性質は違うので修業年限を各大
学が決められるように弾力化する、各教員の年毎の研究成果一覧を学内に張り出
すとかそれでも駄目なら教官学生逆転制度でも作らないと最近の学生は努力しな
いのかなと半ば自分でも諦めの境地に入ることがあります。
しかし、そのためには最低限資料が廊下に野積みされていたり、屋根の修理代さ
え予算が付かないような大学はなくさないといけないと思います。現在に限らず
大学で色々な問題がその時代ごとに形を変えて発生する根本的な原因は「大学=
教職員学生運命共同体」という認識が欠けているからではないかと思います。
これはあくまでも私の個人的な考えですのでそのように考えていただければ幸い
に存じます。
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[16-8]辻下「独立行政法人問題の整理の試み」より
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/forum/message/1097.html
独立行政法人化問題の吟味において常に念頭におくべきことは、数十年のタイム
スケールで考えても意義がある変革でなければならない、ということです。これ
より次のことが重要になります。
(1)日本の教育全体を視野において理念的に論じなければならない。
(2)政治情勢に直接影響を受ける制度にしてはいけない。
(3)「制度は運用次第」論を退け、大学の本性と根本から適合する制度設計を
しなければならない。
(経緯略)
私が独立行政法人化で危惧することを整理してみると以下のようになります。
◆日本社会への長期的影響
(E1)国策優先により大学は(既に弱体化している)批判機能を喪失
(国策に批判的な研究を5カ年計画に挙げて認められると考えることは難しい)。
(E2)大学の統廃合による「知の過疎化」
(統廃合は既に始まっていて、各県に研究機能を備えた国立大学が残るとは予想
されていない)
(E3)大学独法化は全教育機関の企業化の契機となる。
(既に公立大学は法人化が始まっているし、「私立大学の独立行政法人化」も言
及されるようになっている。さらに、教育改革国民会議は小中高の民営化を検討
し始めている。)
(E4)長期的には、収入に応じた教育しか受けられない教育制度となる。
(公的教育機関がなくなれば、教育の質が学費に依存することになる。)
◆学術社会への長期的影響
(F1)国策優先により、学問多様性が喪失、長期的には学問全体が矮小化
(国策分野の研究費の何割かを大学に提供して国策以外の分野を養う、というい
わゆるオーバーヘッド方式しかないと思うが、5カ年目標−5カ年計画という形
式下で、基礎分野の存続を安定保障することがどのように可能なのか。そもそも
基礎分野保障という最優先事項の一つが「未知の運用」でしか保障されないとい
うことは、新たに設計する制度なのだから、設計ミスというべきであろう。)
(F2)身分不安定化・教育研究分離・大学種別化による学術社会の崩壊
(F2-1)従順性要請の増大 ==> 教員間連帯の衰退 ==> モラルハザードの進行
(学長の財政・人事権掌握により、従順性への心理的圧力が増大する)
(F2-2)若手研究者使い捨ての常態化
==> シニア教員のリストラ
==> 長期的には大学教員職は敬遠される
==> 大学の空洞化
(すでに大学院重点化後の若手研究者の職の絶対的不足は深刻。ポスドク学振制
度で使い捨てを常態化。民間研究所のようにシニア教員左遷による解決は一過的
には効果があっても、長期的に大学教員という職業に人が集まらなくなるのは自
明)
(F2-3)大学格差拡大・種別化による人事の流れの1方向化 ==> 人事の硬直化
(F2-4)大学の専門学校化 ==> 批判的精神養成の場の消滅 ==> 日本社会の無脳化
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[16-9]文部省白書等のデータベースが公開された:
http://wwwwp.monbu.go.jp/
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[16-10] 訂正とお詫び
前号で【研究効率の追求は研究の創造性を下げる】という項目で、渡邊勇一氏の
reform への投稿記事[15-8]「プロジェクト研究費配分は大きな成果を産まない」
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/006/22-watanabe.html
の紹介をしましたが、その際発行者の意見も混入させために、高等教育フォーラ
ムでの議論を混乱させてしまいました。渡邊様を始め、他の読者の方にお詫び致
します。
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◆その他の資料
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/
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謝辞:以下を主な情報源としています。
・国大独法化反対首都圏ネットワーク
http://www.asahi-net.or.jp:80/‾bh5t-ssk/nettop.html
・全大教近畿速報
http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kinkyo/index.htm
・メーリングリスト高等教育フォーラム he-forum
http://www.dango.ne.jp/fuj/mlopen.htm
・メーリングリスト大学改革情報 reform
http://www.edugeo.miyazaki-u.ac.jp/reform/reform-ML.html
・メールマガジン【行政・政治・団体ホームページ更新情報】
http://www.urban.ne.jp/home/space/mag.htm
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発行者: 辻下 徹
homepage: http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst/
e-mail: tujisita@geocities.co.jp
バックナンバー
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発行部数(2000.7.9現在)
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End of Weekly Reports No.16 2000-7-09
**この週報は発行者の個人的な意思で行っています**
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