通信ログ
国公私立大学通信 2003.06.22(日) 三重の危機と三重の好機
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あなたがたは多くまいても、取り入れは少なく、食べても、飽きる
ことはない。飲んでも、満たされない。着ても、暖まらない。賃金
を得ても、これを破れた袋に入れているようなものである。・・・
これはわたしの家が荒れはてているのに、あなたがたは、おのおの
自分の家の事だけに、忙しくしている。(ハガイ書)
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--[kd 03-06-22 目次]--------------------------------------------------
[1] 「大学と教育」巻頭言:田中弘允「国立大学法人制度の本質的問題点」
[2] 長塚真琴氏サイトより(2003/06/21 Sat)国立大学法人
[3] 『東京新聞』2003年6月21日付 核心 国立大学法人化、文科省立ち往生
[4] 「対案」 編集人から国立大学協会へ提出した意見書 2002.3.6 より
[5] [JMM 223Sa] 冷泉彰彦「モノづくりの危機」from 911/USAレポート
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国立大学の独立行政法人化問題は二重の危機である、と1999年以来考えて
来ました(*)が、最近は三重の危機であるという思いが強くなっています。独
立行政法人化することで大学が政府や企業に従属し学問が衰退するという直接
的な危機だけでなく、その危険性がほぼ確実に近いことをほとんどの人が知り
ながら「仕方がない」として甘受することで国立大学全体が社会的信用を失っ
てしまう、という危機が伴っています。それだけでなく、荒れ果てた日本とい
う国で、多少なりとも余力が残っている社会セクターが消滅することが、もう
一つの危機です。したがって、法案成立直前の現在、三重の敗北が目前に迫っ
ていることになります。
(*) 1999.10.07 http://ac-net.org/dgh/99a07.html
2000.06.13 http://ac-net.org/dgh/00613-to-gakuchou.html
しかし、大学関係者が危機感を深め、もしも、この法案の成立に実質的な待っ
たをかけられるとすれば、それは三重の成果があることになりますーー独立行
政法人化という外科手術による大学の破壊に待ったをかけたという成果と、官
僚支配に抗するだけの気力を大学が回復し社会的信用を高める成果と、そして、
日本で圧倒的な官僚支配体制の一角を揺がし、未来へのかすかな希望を日本に
もたらす、という成果です。その意味で、三重の好機に遭遇しているとも言え
るのです。
このような臨界的状況にありますので、国立学校関係者は何かをされますよう
に。誰でも少ない労力で出来ることがいろいろあります[2]ので、ぜひ。国立
大学外の方で危惧を共有される方もぜひよろしくお願いいたします。
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「反対には対案が必要だ」、と反射的に反対を封じる人が少くありません。国
立大学法人制度は余りにひどい制度であることが明かになったので、反対には
対案が必要である、というお経を鸚鵡返しに言う人はだいぶ少なくなったよう
に思いますが、国立大学制度のままで良いと考えて反対しているのではないか
と疑って反対運動を敬遠する人がまだ多いようです。そこで、優れた国立大学
制度が十分機能しない原因を考慮した「提案」の一例を再録しておきました
[4]。これは、国立大学協会が実施した1999年暮のアンケートの結果(*)
を考慮したものですので、大学関係者に異存のある人は少いと思います。
* 国立大学協会第1常置委員会「高等教育・学術研究の将来像を考える場合の
大学が具備すべき基本的要件―アンケート結果の報告―」
http://ac-net.org/dgh/00105-kokudaikyou.html
(東京新聞1999.12.23: http://ac-net.org/dgh/99c23-kokudaikyou.html )
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国立大学協会の「幹部」が官・学融合の傾向を強めてきた中で、田中前鹿児島
大学長の信念と見識ある言動には、多くの国立大学関係者は励まされ力つけら
れてきました。法案が閣議決定された直後に書かれた文書[1]は、いまも、国
立大学関係者を力つけてくれます。この中でも指摘されている「競争原理導入
による大学の活性化のパラドックス」は、底辺を若干上げる効果の代償として、
活動的な多数の者の意気を粗相させる、というパラドックスです。このパラドッ
クスの大打撃を受けた大企業のことは周知のことです(*)。
* http://mnfuji2.hp.infoseek.co.jp/index.htm
このパラドックスを看過しているのであれば大学改革を語るのは危ういし、知っ
ていながら独立行政法人化を断行しようとしているのであれば、大学活性化が目
的ではなく、企業研究者が大学教員となって大学の「諸資源」を使って企業のた
めの研究を行える体制を作ることが主目的であることは否定しようがないでしょ
う。なお、誤解がないよう補足しておきたいのですが、企業と大学の間の、従来
のような自然な人事交流に問題があると言っているのではありません。研究活動
に対する企業の価値観を大学の価値基準に据えようとするような、無謀な産学連
携を強行する大学政策・学術政策の偏向を問題としているのです。
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小樽商大の長塚真琴氏が、日仏バイリンガルのクールなサイトを運営されてい
ます。サイト日記の中で、本間政雄氏(京都大学事務局長)の「天下り宣言」
と言えなくもない発言を紹介されています。国立大学の独立行政法人化に関す
る調査検討会議の座長となった長尾京大学長の「お目付役」として2001年
1月に京大に赴任したとも噂される「実力派」文科官僚の一人ですが、大学を
教員などに任せてはおけないという「責任感」を強く感じさせる文です。国立
大学法人化で大学が悪くならなければ成功、と考える大学関係者と、国立大学
法人化で大学が悪くならない程度であれば失敗、と考える本間氏の間には「国
立大学法人制度」について認識の深い溝があります。
なお、同日記に、種々の独法化批判運動が簡潔に紹介されています。「ac.jp」
ドメイン全体投票も紹介してくださいました。第三期を7月10日まで続行し
ています(ac.jp でなくても大学等は個別に対応しています:waseda.jp,
chiba-u.jp なども可能)。http://ac-net.org/rfr。現在、法案に賛成が96
票,反対が3499票です。
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JMMの最新号[5]で、在米作家の冷泉氏が日本製デジカメの高品質が日本の
消費者の厳しい選択行動に支えられていると指摘し、軍需産業の密室性が米国
の製造業を弱体化させたことに注意したあとこう警告しています:『日本が全方
位外交を捨て、国連中心主義を軽視し、アメリカとの軍事同盟を中心とした
「ブロック経済圏」に入れば、その「味方」に対してはこれまで以上に開き直っ
て武器を販売してゆくことが可能だ。そうすれば軍需産業がデフレ脱却の牽引
車になる、そんな甘い見通しを描いている政治家や財界人がいたら、間違いも
良いところです。分厚い目の肥えた消費者層との対話を失っては、日本の製造
業の強みが失われる危険があるからなのです。他でもない、アメリカの製造業
の失敗の歴史が見事にそれを証明しています。』。
産学官連携へと加速する政策的流れの中で、大学が軍産学官連携にまで押し流
されることを妨げるものは国立大学法人制度には全くないことは認識する必要
がああります。(編集人)
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[1] 「大学と教育」巻頭言:田中弘允「国立大学法人制度の本質的問題点」
「大学と教育」(東海高等教育研究所) No 35(2003.5)巻頭言 p2-3
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国立大学法人制度の本質的問題点
田中弘允(前鹿児島大学長・同名誉教授)
21世紀の初頭、国際社会は大転換期を迎えている。わが国でも21世紀型社
会構造の転換が必要とされ、聖域なき構造改革が推し進められている。国立大
学の構造改革についてみると、当初から行財政改革の主導下に一方的に進めら
れ、学問の立場からの意見はないがしろにされて来たように思う。国立大学の
独法化問題はその典型である。
そこで、国立大学法人制度につき、それが内包する二つの本質的事項を指摘し、
学問の立場から考察を加えてみることにした。
国立大学の法人化は、本来大学の自主・自律の拡大を意図していたはずである。
ところが、「新しい『国立大学法人像』について」(最終報告)では、予算、
組織、人事等に関する運営上の裁量の拡大は記されているが、大学の本来の任
務である教育、研究については、逆に自主・自律が失われているのである。何
故なら独立行政法人通則法を基本とする本制度においては、従来大学側が一体
となって持っていた企画・立案・実施の諸機能は分割された上、企画・立案は
文科省の権限に移され、大学には実施機能しか割り当てられないからである。
しかも文科省には、大学が実施した業務の達成度の評価と資源配分や大学の改
廃を決定する権限までも与えられている。したがって、大学の教育、研究、管
理運営は、文科相の権限下にある「改革サイクル」の歯車の中にガッチリと組
み込まれることになる。
具体的には、「文科相による中期目標の策定」「文科相による中期計画の認可」
「文科省におかれる国立大学評価委員会による達成度の評価ならびに分野別の
研究業績等の水準の評価」「評価結果に基づいた予算措置と次期の中期目標策
定、中期計画の認可」といったサイクルがそれである。
大学に対するこのような国の縛りは、現行制度にはもちろん存在せず、本制度
において初めて設けられたものであるから、大学に対する規制の強化を意味し
ている。このことは、構造改革の旗印の一つである規制緩和と明らかに矛盾し
ている。そもそも「政府による目標の指示、実行計画の認可、変更命令という
ような『独立行政法人』的手法を採っている例」は、欧米の大学に存在しない
のである。学問に従事する者として、また、国際社会の一員として、まことに
恥ずかしい制度であるといわねばならない。
改革サイクルの中で特に問題とすべきは、評価と予算配分の段階に大きな権限
が集中し、しかもその両者が、政府権限の中で直接的に結びづけられていると
いう点である。これに対して、欧米諸国では、「大学に対する資金交付に当たっ
て政府の干渉を抑制すため」様々な方策が講じられている。例えばイギリスの
場合、ファンディング機関は、政府と各大学との間に「緩衝機関」として設け
られ、政府への権限の集中化と政府からの各大学への直接的権限の行使を回避
している。また、ファンディング機関と評価機関は、それぞれ独自の目的のた
めに、独立した組織として分離して設置されているのである。
国立大学法人制のもつ第二の問題点は、そこに組み込まれている競争原理であ
る。競争原理導入による大学の活性化という発想には根本的なパラドックスが
潜んでいるのである。この発想は、学問の内実に即して内発的に教育研究に従
事している人々には必要ではなく、むしろ有害であるのに対して、そうでない
人々に対してのみ多少有効に機能するからである。それは、日本の大学の最低
水準を引き上げるためには多少役立つかも知れないが、逆に最高水準を押し下
げ、全体としても水準を低下させる可能性が極めて高い。何故ならそれは、教
育研究の外面的評価、特にその数値化と相まって熱心で有能な人々の学問的内
発性を削ぎ、人間精神の純粋な創造的・発見的エネルギーを撹乱低下させるか
らである。イギリスの大学は、既にそれによる多数の頭脳流出を経験した。研
究者は、学問的関心そのものに従って面白いから研究を行っているのであって、
競争のためではないのである。もし競争するにしても、それはあくまでも学問
的関心の結果なのであって、競争が学問的関心を育てるのではない。競争原理
による学問の活性化の試みは、一時的な効果を生むかも知れないが、たちまち
息切れし、全体として日本の高等教育、学術研究を凡庸な水準に收斂・停滞さ
せるであろう。中長期的には意図した活性化ではなく停滞が、結果として生じ
ることになる。
上述の通り、国立大学法人制度は、改革サイクルという独立行政法人の基本的
枠組を通して学問の自由を侵犯し、教育の本質を歪め、学術研究の衰退を来す
ものといわざるを得ないのであり、大学の真の活性化と結びつくはずはないの
である。このような懸念は、この問題が報道され始めた頃の文部大臣反対声明
や、その後の数々のパブリックコメント(「新しい『国立大学法人像』につい
て」ーー中間報告ーに対する)、諸家の論文、新聞論調などにも表明されたと
ころである。それにもかかわらず、法人化問題は文科省の法案の概要説明とい
う段階まで進んだのである。この事実は、大学改革に対する行財政改革の巨大
な圧力を物語ると同時に、この改造の危うさを象徴的に示している。
経済にますます従属を深める今の日本杜会にあっては、教育・医療・福祉など
の国民生活の最も基本的な部門が押し潰され、社会不安をもたらすことは必至
である。このまま進むならば日本の未来は極めて暗い。
私達は、この国の未来を大きく左右するこの重大な問題に対し、勇気と使命感、
忍耐をもって真正面から取り組み、社会に向けて警鐘を鳴らし続けなければな
らない。
2003年2月28日
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[2] 長塚真琴氏サイトより(2003/06/21 Sat)国立大学法人化
http://homepage3.nifty.com/ngtk/journal_f.html
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「国立大学法人法案の参院文教科学委員会審議が、6月10日を最後に中断して
います。審議の過程で法案の問題点(夫の日記(*1) およびそのリンク先参照)
が次々と明らかになったためです。 最新の情報(*2)によれば、24 日の審議再
開はなさそう、しかし26日再開の可能性ありとのこと。強行採決が気がかりで
す。法案をこのまま通したくなくて、24日(火)12時に東京にいて時間がある人
は、参議院議員会館第一会議室へ。お金がある人は意見広告の会(*3)へご寄付
を。. ac.jpのメールアドレスを持っている人はレファレンダムへ参加を(当
サイト日本語掲示板(*4)参照)。ファックスの出せる人は文教科学委員へファック
スを(意見広告の会サイト参照。なお同サイトにはハガキ署名運動の案内もあ
り)。ケータイで情報がほしい人はこちら(*5)またはこちら(*6)へ。
*1 http://homepage2.nifty.com/ohoka/a-news/index.html
*2 http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html
*3 http://www.geocities.jp/houjinka/index.html
*4 http://homepage3.nifty.com/ngtk/forj_f.html
*5 http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/zneti.html
*6 http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/zneti.html
私の小樽商大での日々は、最初の2年ほどと留学中の1年を除いて、そっくり
そのまま国立大学(独立行政)法人化と向き合う日々でした。事態がここまで進
んでしまった責任の一端は、私自身にもあるわけです。後悔しきりですが、そ
の一方で、今の商大に漂うのんびり(あきらめ?)ムードには違和感を覚えま
す。
・・・・・・・・・
その商大では、去る5月28日(水)に京大事務局長の本間政雄氏を招いて、
「国立大学の法人化・・今何が必要か?」という講演会を開きました。私は8
月いっぱいで私学に転出するため、講演会には出なかったのですが、その資料
を入手することができました。
先にリンクした夫の日記に、法案からは文科省キャリアOBの大学への天下り
が懸念されるとの指摘があります。本間氏が商大で配った資料の中に、この懸
念を増幅するかのような一節が見つかったので紹介します。
その資料というのは月刊「学校法人」(*)に氏が連載する「国際派官僚のひ
とりごと」の第98回・101回・102回です。その101回(2003 年1月)において
氏は、旧文部省の人事政策が経理畑や人事畑を偏重し、有能な大学職員を育て
てこなかったことを指摘します。そして、人事権を持った法人化後の国立大学
には、能力も意欲もない人間を文科省から採用する義理はないのだぞと警告し
ます。そして、採用なしでも別によいではないかという見解もありうるとしな
がら、「しかし、筆者は中期目標・中期計画の大臣策定と認可、国立大学委員
会による大学評価とその結果に基づく資源配分、監事の大臣任命、学外者の入っ
た運営協議会の設置という仕組みだけで国立大学の社会的説明責任が十全に果
たされ、社会のニーズに合った大学運営が実現できるとは考えておらず、文部
科学省における大学・学術行政の経験と複数の大学の管理職経験を通じて得ら
れた広い視野、企画立案能力、専門性をもった職員が適材適所で現場に配置さ
れることが必要ではないかと考えている。」と結びます(13頁)。
「」内を善意に読んであげれば、文科省は人事政策を改めて、有能な働き盛り
の職員を育てて大学に送り込み、彼らに大学を監視させるべきだということでしょ
う。しかしここは、「」内に列挙したような許認可権限を握っているのだから、
「経験」(だけは)豊富なOBをよろしくね、と読むことも可能です。文科省と複数
の大学で「経験」を積めば「広い視野、企画立案能力、専門性」が身に付くと言
い切るのは「」以前の文意に反しているのですが・・・。 この連載回は法案が
出る前に書かれました。大学の一般職員だけでなく「幹部職員」についても語り
つつ、理事・監事には触れていないので、「」内が天下りをさすと断定はできま
せん。しかし、釈然としないものは残ります。
法人化への異議申立運動が、なかなかメジャーになれなかったのは、主として、
法案が最近まで明らかにされなかったせいでしょう。しかし今は違います。法案
には、天下りや財政面の不安(学費値上げにつながる)など、誰にでもわかる問
題点がゴロゴロしています。本当に廃案にできるかもしれない―最後まで希望は
捨てないでおこうと思います。
* http://www02.so-net.ne.jp/~kasumi/GekkanGakkouHoujin.html
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[3] 『東京新聞』2003年6月21日付 核心 国立大学法人化、文科省立ち往生
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20030621/mng_____kakushin000.shtml
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030621tokyosibun.html
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参院で「まさかの抵抗」法案審議ストップ10日
大学への資料提出指示「国会軽視の事前介入」
文科相謝罪で打開の道探る
文部科学省が参院の抵抗に遭って立ち往生している。来春の国立大学法人化
に向け命運をかける「国立大学法人法案」の参院審議で、遠山敦子文部科学相
が答弁に窮して今月十日から審議がストップしたままなのだ。法人化後に各大
学が定める中期目標や計画について、同省が法の成立前に詳細な資料提出を大
学側に「指示」していたことが発覚し、追及側は「国会軽視の事前介入だ。審
議未了で廃案へ」と気炎を吐く。一方、追い込まれた文科相は来週、答弁を訂
正する異例の「おわび」で空転打開を図るが、すんなり再開となるか。(社会
部・佐藤直子)
●不測事態
「ちょっとこれ、委員長、大臣の答弁の内容と出されている資料とまったく
違う。今の答弁がいかに不適切かということを…、これ、今のままじゃ審議で
きません」
今月十日の参院文教科学委員会。桜井充氏(民主)が「問題資料」を手にか
ざしながら厳しい口調で遠山文科相に迫った。委員長に審議の中止を求めると、
議場は騒然となった。
桜井氏が問題にしたのは「国立大学法人(仮称)の中期目標・中期計画の項
目等について(案)」と題したA4判の資料。同省が昨年十二月、法人化を控
えた各大学に対して記載、提出を求めたもので、大学の基本理念や長期目標の
ほか、中期計画については数値目標や達成時期なども盛り込むよう指示してい
た。
来年四月の法人化を控え、今後の予算査定(二〇〇五年度)にも大きくかか
わる中期目標や中期計画だが、桜井氏が問題にしたのは、国会審議の半年以上
前から文科省が学部学科ごとの具体的な計画事項までを「参考資料」として提
出するよう求めていたことだった。
「事前関与型の典型じゃないですか」とかみつく桜井氏に対し、遠山文科相
は「参考資料(の提出)は各大学の判断でしている」とかわした。しかし桜井
氏がひるまず「(資料には)文部科学省に提出してくださいとある。選択事項
じゃない」と突っ込んで審議は中断。十日後の今も再開していない。
●問題山積
「明治以来の大学改革」との大号令で進められる国立大学法人化。「大学の
自由度を高める」とし、予算配分に競争原理を導入、大学間競争を促すと強調
されるが、一方で、大学関係者は行財政改革の一環として始まったこともあり、
「今まで以上に文科省の関与が強まる」と猛反発する。
中期目標や六年単位の計画が大臣の認可となるため、法人化ではなく「文科
省立大学化」とやゆされるゆえんだ。ノーベル賞学者の小柴昌俊東大名誉教授
も「短期で成果の見込めない基礎研究分野などは先細りしかない。研究に対す
る国家統制だ」と危機感を強める。
桜井氏自身、内科臨床医として十年間研究に携わり、今も月二回、仙台市内
で診療に当たる。「母校の大学関係者らは今、中期計画を各学科ごとに書かさ
れ、その書き直しに追われて仕事ができない状況と聞く。文科省は中期計画に
ついて『漠としたものでいい』と説明していたが、実態は様式や分量まで事細
かに求められていた」と憤る。
各大学に配布した昨年十二月は、公式にはまだ各大学が準備に入った段階。
中期目標や中期計画を審議する第三者機関の「評価委員会」が設立されるのは
今年十月だ。桜井氏は「これでは評価委員会は単なる形式にすぎない」と批判。
同省は各大学に提出を求めていた資料を桜井氏の質疑後、回収した。
●廃案免れたが
「審議ストップ」。先月、衆院は難なく通過していただけに、参院でまさか
の展開にも「審議止まっちゃった」と周囲に軽口をたたく余裕を見せていた遠
山文科相だが、二十日の閣議後会見では「責任を感じている。(審議再開を)
足踏みして待っている」と神妙な顔。
今国会の会期末は本来なら十八日だったが、イラク関連法案による会期延長
に救われ、現在のところ「審議未了による廃案」は免れた。文教科学委員会の
理事会が調整に入り、早ければ二十六日にも審議再開が見込まれる。冒頭、遠
山文科相が資料の作成経緯などについて説明、「『各大学の判断で』と答弁し
たのは誤り」と訂正し、さらに「資料の性格や作成スケジュールなどの面で配
慮が十分でなく、関係者に過度の負担を招いた。国会の審議尊重を怠った」と
謝罪を予定している。
(メモ)国立大学法人法案
99の国立大学を国の機関から離し、独立法人とする法案。学長の権限を強
化して運営に民間経営の手法を導入したり、文科省に置かれる評価委員会が教
育や研究の業績を評価し、国が交付する運営費の額に反映させる。大学ごとに
6年を期間とする中期目標を定め、各大学は中期目標を達成するための計画を
作成、文科相の認可を受ける。今秋の統廃合により来年4月に法人化されるの
は89大学。将来の民営化を危ぐする大学側の意向を反映して、法案名から
「独立」の2文字は削られた。
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[4] 「対案」:編集人から国立大学協会へ提出した意見書 2002.3.6 より
http://ac-net.org/dgh/02/302-tjst.html
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「・・・・・・国立大学だけでなく日本の大学全体が必要としている構造改革
は、行政が予算配分・施設整備等の権限を通し大学の教育・研究全般に強い影
響力を及ぼし、大学が自立し自主性を発揮し自律的に活動する機会を奪ってき
た状況の打破です。独立行政法人制度を利用して国立大学を自立させて活性化
しようとしているのだ、という国立大学協会の言葉に偽りがないならば、国立
大学関係委員が協力し以下のような具体的提言を最終報告に盛り込むことで、
その誠意を示して頂きたいと思うのです。
(1)高等教育予算法(仮称)設立
国公私大全体の高等教育予算額を国民的議論を経て定量的に定め、行政から
独立した機関が予算配分に当たることを規定する法律が必要です。
国立大学法人化を財政効率化の有効な手段として活用しようという意図が公
的会議で政府関係者が表明している以上、こういう提言を最終報告に明記しな
ければ、国立大学の独立行政法人化が高等教育予算の底なしの減少をもたらす
契機となることは不可避であり、また、予算配分権が行政に留まる限り、狭い
偏った視野による行政指導がもたらす大学の画一化と多様性喪失はさらに進行
するでしょう。
(2)高等教育行政を司る独立性の高い機関の設置
大学での教育・研究は、国民全体に対し直接に責任を負つて行われることが
教育基本法で定められています。それに反する過度の行政指導が教育システム
に及ぼす種々の弊害は具体例に事欠きません。現在、大学全体を混乱させてい
る大学構造改革(いわゆる遠山プラン)などは、その典型例です。
こういった弊害に終止符を打つために、行政からの独立性の高い機関を設置
し、教育政策を審議決定する権限を与えることを真剣に検討する時期が来たと
思います。この提言は、2000年6月の第106回国立大学協会総会の確認
事項4(註1)を敷衍するものと言うことができると思います。
例としては、日本の各方面から直接選出された委員からなり、独自の事務局
を持つ独立行政委員会を設置することが考えられます。(最後に委員構成につ
いての2つのタイプを記しました(註2))。
初等中等教育と高等教育との関係の正常化、国公私大学の単位互換、ヴァー
チャル・ユニバーシティ、高専・専門学校などとの連携など、広義の高等教育
機関の連携を以てしか取組めない諸課題が山積しています。社会の各方面の認
識とニーズを反映し、真の国益を視野に入れて議論する場がない限り、時代が
必要としている方向に大学システムが進化することは望めないと思います。
・・・・・・・・・・・・
(3)学生・院生の大学運営参加
最終報告案では、「教育の受け手たる学生の立場に立った教育機能の強化が
強く求められる。」とあります。法人化の意義として強調されている産学連携
推進の中で大学院生が有能で安価な研究労働力として産業界に利用される構造
が生じることが懸念されます。教育機能の強化のためには、学生・院生の人権
を保障する具体的システムが最低限必要ですし、措置を形骸化させないために
は、学生・院生が教学・運営全般に関して発言する場を大学運営組織内に設け
ることが不可欠であると思います。
また、教職員とならぶ主たる大学構成員である学生・院生の大学運営参加は
大学活性化の鍵となると思います。さらに市民として自立した専門家を育てる
という大学の使命の実現手段として代替法がないほど重要なものであり、大学
の「国際水準」を問題にするならば、まず第一に実現しなければならないこと
の一つである、と私は思っております。
・・・・・・・・・
(註2)「中央高等教育委員会」のイメージ
行政組織法にある委員会として設置し、委員は各界から直接選出する。なお、
人数は、具体性を持つために仮に挙げたものである。
・任務 大学政策の審議・決定、高等教育予算(施設費を含む)案作成
・委員(委員は選出母体に属さなくてもよい、選出は直接選挙が好ましい)
大学教員代表 10名(国公私立大学教員・非常勤教員が選出)
研究者代表 10名(例:日本学術会議から選出)
職員代表 10名(大学職員が選出、常勤・非常勤を問わない)
小中高教育関係者代表 10名
学生代表 10名(学生・院生が選出)
経営者代表 10名
労働者代表 10名
・オブザーバ
中央省庁 若干名
・事務局 30名(委員会が直接人選する)
○大学との関与の度合いを配慮し、研究者代表・大学関係者を中心とした委員
構成も有りうる。
・委員
大学教員代表 10名
大学職員代表 5名
学生代表 5名
研究者代表 10名
小中高教育関係者代表 5名
・オブザーバ
中央省庁 若干名
経営者代表 若干名
労働者代表 若干名
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[5] [JMM 223Sa] 冷泉彰彦「モノづくりの危機」from 911/USAレポート
本日だけ掲示:http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000015619
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凡例:「・・・・・・」は省略部分
配信停止連絡:Subject欄に以下を記載してメールを発行人までお送りください。
配信停止連絡は
no-kd
配信停止るアドレスが、連絡状の発信アドレスと異る場合は
no-kd-1
二度目の配信停止連絡の場合は、
no-kd-2
登録等:http://ac-net.org/kd/a.html
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
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