通信ログ
国公私立大学通信 2003.09.25(木)
http://ac-net.org/kd/03/925.html
前号:http://ac-net.org/kd/03/924.html

━[kd 03-09-25 目次]━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【1】東京都立大学人文学部英文学専攻教員有志アピール9/21
     http://toritsueibun.hp.infoseek.co.jp/appeal.shtml
     都立英文学会HP: http://toritsueibun.hp.infoseek.co.jp/

【2】国立大学法人法の読み方−ー教育研究組織体としての国立大学へ
   羽田貴史(広島大学高等教育研究開発センター教授)
   教育学術新聞平成15年9月10日アルカディア学報133
   http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000161.html

【3】国立大学法人と学校法人の比較検討
   蔵原清人(工学院大学教授)
   東京高等教育研究所検討会03/09/20(改定版)
   http://ac-net.org/dgh/blog/archives/000158.html

【4】国立大学法人綜合損害保険開発検討会議(H15.9.9)配布資料
    新国立大学協会(仮称)設立準備委員会
    http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9.html

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■9/27(土) シンポジウム「大学界の真の改革を求めて」(再掲)
  http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet/news/multisympo927.html
  10:00-17:30 山上会館(東大本郷キャンパス)

■9/28(日)都立4大学の廃止に関する緊急シンポジウム(再掲)
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Lounge/3113/030928shinpo_kokuchi.htm
  14:00-15:00 東京都立大学教養棟120番教室

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【1】東京都立大学人文学部英文学専攻教員有志アピール9/21
     http://toritsueibun.hp.infoseek.co.jp/appeal.shtml
     都立英文学会HP: http://toritsueibun.hp.infoseek.co.jp/
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「この声明にご賛同いただけましたら、ぜひとも metro-e-owner@egroups.co.jp 
までお名前とご所属(またはお住ま いの市町村名)をご連絡ください。」

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「東京都立大学人文学部英文学専攻教員有志からのアピール

  東京都立大学では、石原慎太郎氏が都知事に就任直後の2000年はじ
  め頃から、都立4大学(東京都立大学、都立科学技術大学、都立保
  健科学大学、都立短期大学)の再編統合を柱とする大学改革が進行
  してきました。

   東京都庁(大学管理本部)と大学側の代表が参加した機構による
  協議が行われ、さまざまな紆余曲折を経て、一定の新大学構想がま
  とまり、2005年4月の開学に向けて実務作業が大詰めにさしかかっ
  ていた本2003年8月1日、石原知事は記者会見において従来の改革準
  備機構の廃止と新しい機構の設置、従来の改革構想の廃棄と新構想
  概要の発表を行いました。

   新しい改革準備機構は、現4大学の大学運営機構を排除して東京
  都庁(大学管理本部)に決定権を集約したものであり、新構想概要
  は学部編成、学部名称、学部内のコース配置など本年7月までの計
  画とはまったく異なったものでした。

   それ以降、わたしたちの所属する人文学部英文学専攻に関して9
  月20日現在で漏れ伝わってくる学部内コース編成は

  都市教養学部
    人文・社会学系
      社会学コース(社会学、社会人類学、社会福祉学)
      心理学コース(心理学、教育学)
      国際文化コース(哲学、歴史学、国際文化)

  というものです。【ちなみに現東京都立大学の場合は、人文学部
  〔哲学科  史学科  心理・教育学科 (心理学専攻、教育学専攻)
   社会学科  社会福祉学科   文学科 (国文学専攻、中国文学
  専攻、英文学専攻、独文学専攻、仏文学専攻)〕という構成です。】

   本年7月までの構想では、教員定数110が新人文学部に予定されて
  いました。現在の人文学部定数からは大幅な削減です。8月1日以降
  の計画では、それからさらに50弱が削減されそうだという話が伝わっ
  ている状況です。その場合、種々の条件を勘案すると、上記「国際
  文化コース」中に英米文化部門が存在するとしても、その教員定数
  は五指に満たないものであろうと推測されます(現在の英文学専攻
  教員定数は31。この31名が都立大全学の英語教育と専攻・大学院の
  教育を担当しています。また、都立短期大学5名、都立科学技術大
  学1名、都立保健科学大学2 名の英語教員定数があり、総数で39の
  英語担当教員定数がありました)。

   東京都空前の財政難を背景に大学の縮減と改革が同時に進行する
  事態の中、都立4大学のどの部門もそれなりに削減を受けいれざる
  をえなかった状況下とはいえ、縮減圧力の大部分は結果的に都立大
  学の文学研究部門、外国語教育部門、それに短期大学に集中するこ
  ととなりました。大学において人文学、とりわけ文学研究を取りま
  く厳しい環境の端的な現れであると考えますが、この環境の中で市
  民、学生、学内他部門の教職員、最終的には設置者である東京都に、
  わたしたちの教育研究活動の意義を理解してもらう努力に欠けると
  ころはなかったか、反省の念とともに現状をご報告せざるをえませ
  ん。

   しかし問題は、ただ単に文学研究の危機的状況にとどまりません。
  国際文化コースの英米文学、英語学関係「教員定数は五指に満たな
  いものであろうと推測されます」というはなはだ心許ない表現から
  ご賢察のとおり、8月1日以降の新大学設立準備作業が、現大学教職
  員を排除した徹底的な情報管理のもとで行われているため、当事者
  のわたしたちにも正確な数字の把握が困難な状況です。

   その結果、現都立大学の学生、院生には、うわさの域を大きく出
  ないあいまいな情報しか伝わりません。学生、院生には入・進学の
  際に学習、研究条件の維持が保証されたはずです。教員定数の極端
  に大きな圧縮と組織の根本的な再編成によってこれが不可能に近い
  ほど困難になりそうな状況であるとすれば、学生、院生は不当で取
  り返しのつかない不利益、当然の権利の侵害を被ることになります。
  その当事者に、東京都(大学管理本部)はまったく具体的な情報を
  伝達しません。教職員にも情報管理を徹底し、情報を伝達する自由
  を封殺しようとしています。

   わたしたちはこれまでの改革協議過程において、大学の自治と思
  信条の自由によって社会から相対的な独立を保持することこそ、
  やがて大学が社会に研究成果を還元するための最重要の条件である
  と主張してきました。そうしたわたしたちが、今自分の研究拠点で
  進行中の自由の剥奪について、研究者同僚諸兄姉に事実をお伝えし
  ないならば、研究活動の条件をこれまで与えてくれた社会の信任と
  同僚諸兄姉の信頼に答えるための最低限の義務をも果たさないこと
  になると考え、状況をご報告した次第です。

   以上ご報告した上で、わたしたち東京都立大学英文学専攻教員有
  志は、以下の声明を発表します。

  1.わたしたちは、都立新大学設立準備作業において、学生・院生、
  教職員が協議過程から排除され、情報から遮断され、意見を述べる
  自由、情報を伝達する自由を制約されている状況を、民主社会で共
  通に承認されている意志決定手続きから逸脱しているものと考え、
  この事態に強い反対の意思を表明します。

  2.わたしたちは、現東京都立大学英文学専攻所属の学生・院生が、
  新大学設立後も現在の学習、研究条件を保証され、東京都によって
  約束された権利を侵害されることのないよう、東京都に強く要求し
  ます。

    東京都立大学英文学専攻(五十音順)

    井出 光  伊藤 誓  遠藤不比人 折島正司  加藤光也  
    菊池清明  末廣 幹  高岸冬詩  高野一良  高山 宏
    辻 麻子  中島平三  永富友海  中村英男  長谷川宏  
    深沢道子  福島富士男 福間健二  松山哲也  三宅昭良  
    村山淳彦  本橋哲也  渡部桃子

  この声明にご賛同いただけましたら、ぜひとも
  metro-e-owner@egroups.co.jp までお名前とご所属(またはお住ま 
  いの市町村名)をご連絡ください。(大学/研究機関に所属されて
  いる方で、非常勤講師・学生の方につきましては、その旨明記して
  いただけますと幸いです。また海外在住の方は、お名前とご所属の
  日本語表記も お知らせください。)

  お名前、ご所属をこの声明とともに、「賛同者」として掲示させて
  いただきます。」

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【2】国立大学法人法の読み方−ー教育研究組織体としての国立大学へ
   羽田貴史(広島大学高等教育研究開発センター教授)
   教育学術新聞平成15年9月10日アルカディア学報133
   http://www.ac-net.org/dgh/blog/archives/000161.html
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   国立大学法人法の読み方
          ーー教育研究組織体としての国立大学へ

   私学高等教育研究所 研究員 
   羽田貴史(広島大学高等教育研究開発センター教授)


     国立大学法人法(2003年7月)の成立で、国立大学
     は法人格を持つことになった。これは間違いなく日本の
     大学史の画期的な出来事である。明治初年の学制以来、
     大学は政府から自立した存在であり、財政資金を得て独
     立すべきという意見が政府部内において根強くあった。
     130年目にして課題は果たされたとみることもできよ
     う。

     しかし、この制度が、政府から自立した大学の姿を顕現
     したかというと、きわめて疑わしい。大学の自己責任を
     拡大するように見えながら、一方では中期目標・計画に
     対する文部科学大臣の決定・認可権を明示し、かえって
     政府の関与を強化しているようにも見え、今後、いずれ
     に結着するか不透明である。この不透明さ・両面性は、
     法人化の位置づけが政府部内で一元化しておらず、大学
     の自立性を確保する財源の規模と形態が不明確だからで
     ある。この不透明さは法人法にも現れており、統一的な
     大学像を描くことは難しい。

     たとえば、国立大学の設置者は国であるとするのが昨年
     三月に出された『新しい「国立大学法人像」について』
     の基本原則であり、国立大学側はこのことを強く要望し
     ていた。

     財政責任が設置者に帰属する原則(学校教育法の設置者
     負担主義)のもとでは、政府が設置者であるほうが財政
     関与は明確になる。法律の立案過程で示された国立大学
     側の意見では、国の財政責任の明確化を最大限重視し、
     目標・計画に関する政府の権限をその論拠としていた節
     さえある。しかし、閣議決定した法案は、国立大学法人
     が国立大学を設置することとし(第二条(1))、その思
     惑は外れた。反面、設置者が法人であることで、管理責
     任が明確になり(設置者管理主義)、国立大学の自立性
     は強化されたともいえる。しかし、管理責任を負うのが
     法人であるなら、なぜ、同法三十条以下で文部科学大臣
     が中期目標を定め、中期計画の認可を行う事前統制権を
     持つか不明である。

     関連する政省令や国立大学法人評価委員会など、法人制
     度の構築はまだ完了していないので、これらの論点を解
     消する法整備がされていくであろうが、制度設計のアク
     ターが多様で矛盾を含もうとも、解釈と運用は一元的で
     なければならず、その意味で、国立大学法人法のコンメ
     ンタール(注釈)が求められる。

     矛盾の一例を挙げると、この法律で規定する「業務」概
     念がわからない。第二十二条は、国立大学法人の業務の
     範囲を規定し、「一、国立大学を設置し、これを運営す
     ること」、「二、学生に対し、修学、進路選択及び心身
     の健康等に関する相談その他の援助を行うこと」、「三、
     当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと
     共同して行う研究の実施その他の当該国立大学以外の者
     との連携による教育研究活動を行うこと」など七項目を
     掲げているが、この中に、国立大学における恒常的な教
     育研究活動が含まれているとは読めない。第三号にして
     も、委託研究と当該国立大学以外の組織や個人との連携
     による教育研究活動を定めているのであり、通常の教育
     課程に基づく教育活動や、教員が国立大学の財源によっ
     て行う基礎的研究活動を業務として規定しているのでは
     ない。

     したがって、第三十条第一項は、文部科学大臣が国立大
     学法人に達成すべき業務運営に関する中期目標を定める
     とし、第二項で「教育研究の質の向上に関する事項」な
     どの中期目標を定めるとするが、ここにいう教育研究が、
     文部科学省が提示した「中期目標・中期計画」の項目の
     ように、大学の教育研究活動全体を対象にしているとは、
     どうしても読めないのである(まさか国立大学の運営が
     教育研究活動を意味する?)

     また、「中期目標・計画」に教育上の基本組織として学
     部・研究所などを記載することになっているのも不思議
     である。なぜなら、中期目標に関する第三十条にも中期
     計画に関する第三十一条にもこれらの組織に関する記載
     を定めておらず、政省令による委任関係もないからであ
     る。

     そもそも国立大学法人法は、「国立大学を設置して教育
     研究を行う国立大学法人の組織及び運営」(第一条)を
     定める法律であって、教育研究組織としての国立大学の
     組織を定める法律ではない。同法で定めている業務も、
     法人の業務であって、教育研究組織である国立大学の活
     動を直接定めるものではない。私立大学の場合でも、私
     立学校法は、学校法人についての組織・運営を定めてい
     る法律であって、教育研究組織である大学は、学校教育
     法など関係法令に基づき、各法人が学則によって定め、
     設置認可を受けることで制度化される。同じように、国
     立大学法人でも、設置者としての法人と教育研究組織と
     しての国立大学とが分離されている以上、法人法の枠組
     みが規定するのは、あくまでも法人の運営(経営)につ
     いてである。従来、国立学校設置法及び同法施行規則に
     よって、国立大学の設置と学部・研究所・附属施設など
     教育研究組織と運営(教学)を定めていたが、同法が廃
     止された以上、当該法人によって定めうるものであり、
     必要があれば、改めて設置認可作業を行って確定すると
     いうことになろう。

     つまり、法人の設置作業及び法人による国立大学の設置
     作業ということになる。法人と国立大学が分離している
     以上、法人による国立大学の設置作業が手続きとして存
     在するはずである。その手続きがなく、目標・計画策定
     が法律の成立以前から先行し、その中で大学の基本組織
     を定めるやり方は、長期的な視野で運営すべき大学組織
     を短期的な評価にさらす危険性を孕むことにもなる。学
     部・研究所という組織は硬直的になりやすい。いったん
     設置認可されたらよほどのことがない限り変更できない
     現状も困りものだが、目標と計画に根拠を置くような定
     め方も良いとは思えない。このように形式的に法文を読
     むと、現在の中期目標・計画の内容と外れてくるのだが、
     いったいどのような読み方をすればよいのだろうか。本
     来は、国会の逐条審議による政府説明が公権解釈のべー
     スとなるが、細かい議論はなされていない。法律学者が
     出番と喜ぶのか、頭を抱えるのか、どちらであうか。

     このように考えてくると、法人が設置者となったことの
     意味が改めて問われているようだ。従来は、「設置権者・
     監督権者(文部科学省)」−「国立大学」であった国立
     大学の権限関係が、「監督権者(文部科学省)」−「設
     置権者(国立大学法人)」−「国立大学」という三層構
     造となったのであり、新たな構造に対応した行動様式が
     求められることになる。つまり、国立大学法人は、上向
     きに政府との関係を考えるだけでなく、設置者として財
     源確保をはじめ、国立大学の教育研究活動を保障する責
     任が生じる。経営責任とはそういうものであろう。また、
     大学内で従来は一体であった大学管理者が法人サイドに
     移行することで、教育研究組織体としての国立大学とい
     うポジションを得る。

     さらに、政府も設置者ではなくなるのだから、従来より
     も国立大学に対する距離は遠くなるはずである。試行錯
     誤はあっても、このような三者の責任関係と分担を明確
     にすることで、法人制度は実質のあるものとなるのでは
     ないだろうか。

                  (著者と教育学術新聞の許可を得て転載)
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【3】国立大学法人と学校法人の比較検討
    蔵原清人(工学院大学・東京高等教育研究所事務局長)
    東京高等教育研究所検討会03/09/20(改定版)
    http://ac-net.org/dgh/blog/archives/000158.html
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     国立大学の法人化が行われることになった。これが多く
     の問題を含んでいることはすでに多くの方々から指摘さ
     れているとおりである。ここでは国立大学法人と私立学
     校の学校法人との制度設計と運用問題を中心に比較検討
     を行いたい。国立大学法人の発足・準備と平行して学校
     法人制度の見直しが進められている。私立学校関係者と
     しては、国立大学法人の特徴を理解しておくとともに、
     現在の学校法人制度の長所と課題を十分把握して、学校
     法人制度の見直しに対処していく必要がある。

	  1、全体的問題
	  2、組織の比較
	   1)学長(理事長)および他の役員の地位
	   2)法人の機関
	  3、財政
	   1)設置者の財政負担
	   2)収益事業
	   3)企業会計の原則
	   4)利益等の取扱
	  4、国立大学法人の影響と課題


1、全体的問題

     設立に関しては、国立大学法人は法律によって行われる
     とともに、必要な資金は国が出資するという点では、こ
     れまでの制度と大きく変わることはない。しかし法人制
     度としてみるとき、設置者としての法人と設置される学
     校とは区別がなく一体化している点に十分注意を払う必
     要がある。現在の学校教育法では、設置者と、設置され
     る学校は明確に区別されており、その点で国公私立の間
     での差異はない。今回の国立大学法人制度はこの原則を
     崩すものであり、今後の学校法人制度の検討にも大きな
     影響を与えることが予想される。

     次に運用に関しては、中期目標を文部科学大臣が大学に
     示し、大学はそれに基づいて中期計画を作成して文部科
     学大臣の認可を受けること(期間は6年、通則法では3〜
     5年)、中期計画期間終了時の検討を行うこと(法第3
     5条による通則法第35条の準用)、学長は文部科学大
     臣が任命すること(ここでは国立大学法人の申し出によっ
     て)など、かつてなく文部科学大臣の統制下におかれる
     ことになる。しかも職員は非公務員型とすること(通則
     法では国家公務員)などまったく身分的保障は与えられ
     ていない。大学内部においては学長のワンマン体制であ
     ること、経営協議会の委員の二分の一以上は学外者とす
     ることなどである。


2、組織の比較

  1)学長(理事長)および他の役員の地位

     国立大学法人では学長の権限が著しく強い。すなわち学
     校教育法の定める学長としての「職務を行うとともに、
     国立大学法人を代表し、その業務を総理する」(第11
     条第1項)これは私立学校における学長とは異なり、理
     事長を兼務するものに相当する。しかし私立学校の理事
     長よりもはるかに権限は強い。

     まず、法第10条では、「役員として、その長である学
     長及び監事二人を置く」とあり、同条第二項で「理事を
     置く」ことが規定されている。(別表に人数は規定)。
     理事の役割は「学長の定めるところにより、学長を補佐」
     することが中心である。「学長及び理事で構成する会議」
     (役員会という)が置かれるが、これは学校法人の理事
     会に相当する位置にあるが、権限の面では学長の諮問機
     関にすぎない。(以上、第11条)しかも任命は学長が
     行う(第13条)。このように学長は本来、代表権と決
     定権を持っている。

     学校法人の場合は、「役員として、理事五人以上及び監
     事二人以上を置かなければならない」。そして理事のう
     ち一人は理事長となる。(私立学校法第35条)この場
     合、代表権は第一義的には理事全員が持っている。その
     上で寄付行為によって制限することができる。理事長は
     「学校法人内部の事務を総括する」ことが基本であって、
     設置する学校に関しては限定された権限しか持たない。
     「学校法人の業務は・・・理事の過半数をもって決する」
     ことが基本である(私立学校法第36条)すなわち、学
     校法人の意志決定は理事の合議によるものである。この
     他、理事の選任に関しての要件が定められている。

     国立大学法人の監事は、意見を出すのは「学長又は文部
     科学大臣」に対してであって、経営協議会などに出すこ
     とは規定されていない。これに対して学校法人の場合は
     評議員会に報告しあるいは評議員会の招集を請求するこ
     とができるのである。後者は自治的に問題を解決する手
     順が保障されているが、前者では学長(理事長)が無視
     した場合は文部科学大臣に意見を出す他はないことにな
     る。これは文部科学大臣が任命することになっている面
     からは当然といえるが、それだけに監事は自治的な位置
     づけが与えられていないといわなければならない。

     学校法人の役員には選任条件として同族に関する制限が
     ある。国立大学法人の場合は経営協議会に学外者を二分
     の一以上とするという規定だけで、何ら制限はない。


   2)法人の機関

     国立大学法人では経営協議会と教育研究評議会が置かれ、
     両者とも学長が議長になり主宰する。それぞれ審議機関
     である。したがって学長が決定するときにこれらの機関
     の決定により何らかの制限をするということは認められ
     ていないのである。前者のメンバーは委員といい、後者
     は評議員という。この呼称の違いの理由はわからないが、
     現在の全学評議会の呼称を引き継いだと思われる。

      経営協議会は学長及び学長指名の理事・職員(いわば
     学内委員)とこれまた学長任命の学外有識者よりなり、
     後者は2分の1以上でなければならない。つまり学外委
     員中心の機関である。これは、経営に関する事項、予算
     及びその執行、決算に関する事項、組織運営に関する自
     己点検評価に関する事項などを扱う。

     教育研究評議会は学長及び学長指名の理事、主要部局の
     長、学長指名職員によって構成される。ここでは学内者
     が主体であるといえるが、理事は学外者でも任命は可能
     であるから(そもそも学長も学内者とは限らない)学内
     者だけで構成されるとは限らない。ここで扱う事項は経
     営以外の事項であるが、現在教授会で行っている事項を
     含む。

     学校法人の場合は、法人機関としてこのような2分法は
     とっていない。評議員会だけである。評議員会は理事長
     の諮問機関であるが、寄付行為によって議決を要するこ
     ととすることが認められている。この場合は評議員会は
     決議機関となる。(これは学校法人によって財団法人的
     な運営をすることと社団法人的な運営をすることを自ら
     の意志で決めることができることを意味している。

     これに対して国立大学法人の場合は財団法人的運営に限
     られているのである。これは国の財産を本質的には委託
     して運営させるという構想から必然的に帰結する制度設
     計であろう)しかし予算や組織、運営等に関わる事項も
     含まれており、学校法人の評議員会で扱う内容とくらべ
     て非常に広く包括的である。学校法人の評議員会は財政
     的な問題、法人としての運営に関する事項であって、教
     育や研究の内容については当然であるが扱っていない。
     これは学校法人と学校法人の設置する学校は制度上区別
     され(人格の有無ではない)、学校で行われる教育研究
     に関わるものは学校の自主性が保障されているからであ
     る。

     学校法人で特徴的なことは評議員に卒業生を必ず含むと
     されている点である。これは実態として私立学校の運営
     やサポートには卒業生の力が大きく関わっているのであっ
     て、国などが財政的支出をしない以上、卒業生の関わる
     部分が大きな位置を占めていることの反映である。国立
     大学法人の場合は、単に学外者を含めるというだけで、
     実態的には大学の活動を大きく支えている卒業生を含め
     ることの明文規定はない。


   3)教授会の問題

     国立大学法人法には大きなトリックがある。それは第1
     条の目的と第2条の定義の齟齬である。第1条では「国
     立大学を設置して教育研究を行う国立大学法人」とし、
     第2条では「この法律において「国立大学法人」とは、
     国立大学を設置することを目的として、この法律の定め
     るところにより設立される法人」としている。これは明
     らかに異なる定義である。すなわち第1条によれば教育
     研究を行うことも国立大学法人の業務に含まれる。

     第2条の定義は、私立学校の場合と同様である。私立学
     校法では、「この法律において「学校法人」とは、私立
     学校の設置を目的として、この法律の定めるところによ
     り設立される法人」(第3条)とされている。したがっ
     て定義だけを見れば、国立大学法人は国立大学を設置す
     る法人であり、学校法人は私立学校を設置する法人であっ
     て、この点には何ら齟齬はない。しかし国立大学法人法
     全体を見れば、国立大学法人は設置だけでなく、教育研
     究を行うことも明らかに業務として含まれている。

     このことがなぜ問題かというと、現在の制度は設置者と
     設置される学校を区別しているという大原則があるから
     である。これは「学校の設置者は、その設置する学校を
     管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学
     校の経費を負担する」(学校教育法第5条)とともに、
     教育研究は学校自体が責任を持って進めることを保障す
     るための規定である。これは学問の自由、教育の自由を
     保障するための制度の一つといえる。特に大学の場合は
     教授会の自治の保障が問題である。

     学校教育法第59条では、「大学は、重要な事項を審議
     するため、教授会を置かなければならない」と規定され
     ている。このことと、国立大学法人の教育研究評議会の
     審議事項の中に、学則(国立大学法人の経営に関する部
     分を除く。)その他の教育研究に係る重要な規則の制定
     又は改廃に関する事項、教員人事に関する事項、教育課
     程の編成に関する方針に係る事項などなど(第21条第
     3項)は、まさしく大学にとっての「重要な事項」では
     ないだろうか。国立大学法人法では直接教授会について
     の規定はないが、こうした形で教授会の権限を制限しよ
     うとしていることに十分な注意が必要であろう。


3、財政

   1)設置者の財政負担

     先にふれた設置者経費負担の原則からすると、国立大学
     法人は設置者として経費を自ら負担するということにな
     るのだろうか。この場合、国の財政支出は「法令に特別
     の定めのある場合」ということになるだろう。それとも
     国の支出が通例と考えるならば、国は事実上の設置者と
     いうことになる。この点では実態と法令の関係が大きな
     問題となる。

     私立学校の場合、国庫助成の合憲性をめぐって今日なお
     議論が蒸し返されている。このことからすれば、国立大
     学についても国庫支出の是非について議論が起こる可能
     性を否定できない。あるいはその議論を回避するために
     中期目標の指示、それに基づく中期計画の承認が制度化
     されることで、「公の支配に属」す(憲法第89条)こ
     ととしたのかもしれない。しかしそれは大変見当違いの
     対応である。そもそも1条校は公教育機関なのであるか
     ら、それ自体で「公の支配に属」しているのである。


   2)収益事業

     学校法人の場合は収益事業を行うことができ、その利益
     を学校運営の資金として使うことができるとされている。
     しかし国立大学法人の場合は、会計処理において利益又
     は損失の処理の仕方が規定されているのであり、その事
     業全体がいわば収益事業となるものである。(法によっ
     て準用される通則法による)学校法人の場合は教育関係
     以外の事業も認められるが、国立大学法人の場合は教育
     研究の活動を通して収益活動を進めるということになる。
     これでは会計処理上、本来の業務と教育研究に関する業
     務の区別はつけられないだろう。

   3)企業会計の原則

     準用される独立行政法人通則法によれば、企業会計原則
     によるとしながら具体的な内容については何ら規定がな
     く、文部科学省令で定めるとされる。

   4)利益等の取扱

     国立大学法人法第32条第3項の規定によれば、「残余
     の額を国庫に納付しなければならない」とされている。
     私立大学の場合はそういうことがないのはもちろんであ
     るが、解散にあたっても残余の財産は教育事業に使われ
     るための手順が厳密に定められている。利益を還元する
     ことのないように、制度設計がされているのである。

     国立大学法人の解散は別に法律によって定めるとしてお
     り、何らかの理由によって国立大学法人が廃止されると
     き、それまでその大学が使用していた土地建物などが他
     の国立大学などによって引き継がれるという保障はない
     のである。国庫に回収されることは十分にあり得ること
     である。この意味では国立大学法人はあくまでも国の事
     業としての大学の委託を受ける存在であることになるだ
     ろう。すなわち特殊法人型の組織である。


4、国立大学法人の影響と課題

     すでに地方公共団体に関しては地方独立行政法人法が公
     布され、来年4月より施行されることになった。これに
     より公立大学の独立行政法人化が加速されるだろう。

     私立大学に関しては大学設置・学校法人審議会の小委員
     会での検討が進み、「学校法人制度の改善方策について」
     の中間報告が8月7日に出された。これは理事会の権限
     を著しく強めようとするものである。そしてあわせて教
     授会の諮問機関化が要求されるだろう。

     したがって日本の学校制度、特に設置者のあり方、設置
     者と設置される学校の関係が全面的に見直されることに
     なる。それは大学における学問の自由と自治がどうなる
     か、教育行政との関係はどうなるかが注目される。その
     なかで日本の大学と高等教育全体に関わる制度設計につ
     いての検討と提案が求められよう。


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【4】国立大学法人綜合損害保険開発検討会議(H15.9.9)配布資料
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9.html
新国立大学協会(仮称)設立準備委員会
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配付資料リスト

資料1 	第1回国立大学法人総合損害保険開発検討会(議事メモ)案
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/01.pdf

資料2 	国立大学法人総合損害保険開発のためのモデル校調査(調査シート)
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/02.pdf

資料3 	ヒアリング調査により確認された国立大学法人を取り巻く主なリスク
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/03.pdf

資料4 	国立大学法人総合損害保険(仮称)における各保険種目の構成
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/04.pdf

資料5 	「国立大学法人総合損害保険制度の開発検討について」 
      中間まとめ(案)(ドラフト) 
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/05.pdf

資料6 	「国立大学法人総合損害保険(仮称)」に関するアンケート調査への協
力のお願い(案)
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/06.pdf

参考意見聴衆 
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/data_shin/h15_9_9_pdf/sankouiken.pdf

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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
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