環境の周期的なパターンを神経経路網が学習できるか否かを説明する枠組みとして,リカレントな神経回路網が環境オートマトンと結合してできる力学系のアトラクタ構造を考えた.
動的パターン認識に関わる根本的な困難,すなわち,入力信号のどこから意味のあるパターンであるかをあらかじめ決められないという困難は、入力信号列の発生源である環境の「構造」を考慮に入れる事により回避できるようという考えにもとづき「動的パターンを学習する・認識する」ということはどういうことかということを、少なくとも概念的なレベルではある程度明確にすることが出来た.
環境に複数の実体が独立に活動している状況を認識する、という問題を取り上げ,それを通して神経系の理論の背景にある「環境のモデル」という概念について考察した.複数の実体の同時活動の認識を可能にする情報表現として,ミクロアトラクタと呼ばれるものを提唱した.これは,大規模カオスに普遍的に現れる時空間欠性に積極的意義を与えるものと考えているが,この方向の研究は,現在中断していることは先に[項目別説明]で述べた.
この小論では、神経系についての一つの数学的な枠組を導入した。この枠組を用いて神経系と環境との相互作用・経験下の事実・記憶等といった概念に明確な意味を与えて,神経系がいわば第一次の知識を得るところまでの過程について考察した。またこの枠組を例示するために、単純な神経系のモデルと力学系としての環境との相互作用のもたらす<知識>について調べた。
分散プロセスのプロトコル理論で用いられている知識の定式化に基づき、神経系と環境との相互作用の経験のもたらす知識の意味を明確にすることを試み,その成果としては例えばある種の(内的・外的)事象については学習が(学習アルゴリズムによらず)不可能であることの事情などが明確に表現できるようになった。
[A-1995c] の解説.
ヒトの大脳の持つとされる<モジュール構造>を数学的概念として定式化する場合の種々の選択肢を明示し,それにより現行のモジュール構造仮説のいくつかの性格を吟味した.モジュールが恒常的にあるとする仮説に代わる仮設として動的コネクショニズムの重要性を指摘した.
この講演では複雑系についての一般的注意をいくつか述べ、複雑系基礎論の「例題」として、複雑系の理論でしばしば用いられる「コーヒレンス」・「情報の流れ」などの数学的分析例を述べた。
一つの複雑系の観測・観察の結果得られるデータが一つのデータベースをなすと見なすとき、関係データベース理論のいくつかの概念がどのような意義を持つかを吟味した。
一つの観測結果が多数の観測値によってs記述される 場合、それらの観測値の間の関数関係が多数存在することが可能である。その 場合、関数関係は互いに独立ではなく、ある関数関係は他のいくつかの関数関 係の論理的帰結になることもある。したがって、その関数関係の総体のなすパ ターンをどのように記述すればよいかという問題はそれほど自明な問題ではな い。この講演では,演繹的ハイパーダイグラフの概念に基づき,関数関係のパ ターンが明確に記述できることを示し,大学院生松尾和雅・樋口証による分類 の結果,及び樋口による関数関係パターン全体の順序集合の構造定理を紹介し た.また,これらのパターンはラティスをラベル集合とするラベル付き集合と しても与えられることを示した.
Girard による線型論理の種々の意味付けの中にproof-net によるものがある が,これはプロセス相互作用の新しい記述法の原型となっている.この講演で は,コヒーレンス概念に基づく圏論の一つの拡張の方向を提示した.現在その 定式化を進めているが,高次元圏における合成の不定性にも関連して,普遍的 な数学的枠組みを与える見込みを持つようになっている.
力学系的な枠組よりも抽象度の高い枠組みとして提唱されている,分散系記述の主要なものをサーベイした後、複雑系の非同期的な側面の数学的記述法の一つの枠組みとしてハイパーカテゴリーの概要を述べた.
複雑系の動的側面の研究の背景となる数学的枠組について吟味したもの.従来の主要な枠組である力学系・時系列の基本的概念を説明し,遷移系・プロセス理論の枠組みを概説し,複雑系への適用という視点でこれらの枠組みの比較を行った.
3確率変数の間の相互情報量は,2変数の場合と異なり,負の値をとり得る.この論文ではその最大値と最小値の評価を与え,最大値・最小値が実現する場合の確立変数の相互関係を確定した.
共通知識を含む知識論理の意味論を,非有基的集合論(別名hyperset theory)を用いて構成した.それに基づき知識パズルに置ける知識の変化を知識状態空間上の力学系として表現し,その軌道を決定することによりパズルを解析した.
matroid理論の概念と諸結果は、独立性・従属性にかかわる普遍的諸現象の数学的表現と解釈できるものが多く,matroidのある種の構成法は、相互作用による部分同士の関係の変化を表現するものと解釈できる。この報告では,数学的な関係概念の例としてmatroidを取り上げ,複雑系への応用の可能性について述べた.
離散力学系の圏は,トポスとなり直観主義的集合論の意味論を与える.これを用いて,通常の数学的諸概念を力学系についても定式化することができる.この講演ではそういう定式化の例について述べた.また,観測形態自身をグロタンティック位相として定式化して,周期不定な周期的挙動を持つ系を記述する枠組みを提唱した.
前論文のモデルを一般の様相論理に拡張し,クリプキ意味論に代わるものとしてFagin 達が導入した様相世界モデルとの関係を明らかにした.
分散システム理論では全域的時間がない場合を扱う必要性から,系の「全体の状態」というものを用いずに記述するという,複雑系記述の場合と同質の問題を抱えている.その際,システムの種々の並行合成概念が基本的な役割を果たす.この論文では,分散システムの基本モデルとなる遷移系の最も単純なクラスである非決定的力学系とその模倣写像がなす圏の構造を調べ,これが並行合成積で閉モノイダル圏となことを示した.
これは前論文で扱った圏が,subobject classifier を持つことを,hyperset theory を用いて示した.これにより,遷移系の安定な性質に関して,個々の状態のとる真理値はhyperset となることがわかる.
これは,論文19の結果をcoalgebra 理論から整理したもので,同様の結果が成り立つための一般的条件を明確にしたものである.
複雑系内部におけるcoherence・interlocking等の様相は複雑システム理解の核となる概念であるが,その様相の差異を明確に記述する方法に欠けていた.この論文では,それらが,closure operator,lattice labeled set 等の古典的数学概念で明確に表現できることを示した.これにより coherence の様相が関数関係・代謝系・推論系と同じ豊かな数学的構造をもっていることが明らかになった.