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国立大学独立行政法人化問題 週報
Weekly Reports No.11 2000.5.22 Ver 1.2
独立行政法人化に向かう流れが勢いを増してきました。
【経緯】5月11日に自民党政務調査会は提言「これからの国立大学の在り方につい
て」[10-1]を出した。これを受けて文部省は17日文相私的懇談会の意見を聞き文部
省は独法化を進めることを決めた[11-1]が、懇談会は8名中4名のみ出席。5月19
日に国大協理事会[11-2]で蓮見会長は一政党の提言に応答することは避けるべきだと
述べる一方、文部省と話し合いを始めることを提案した。
国立大学協会が分裂することを回避することが今なによりも重要であるとの判断と
推測される。5/26学長会議で示される文部省の法人化案はおおまかなものらしく、
国立大学協会も態度を保留したまま文部省との話しあいを開始する可能性もある。
「国立大学の独立行政法人化に関する検討会議」(仮称)が1年をかけて検討すると
の情報がhe-forum で流れた。
国立大学全体が連帯して反対する「第一ラウンド」は、国立大学協会が分裂して各
大学が生き残りをかけて個別に闘う最悪の事態を回避しながら別の形式で継続される
可能性が出てきたということか。
【大学の動き】
最初から第二ラウンドしか視野にない大学も少なくない。大学に有利な第一ラウンド
を手抜きして、大学には勝ち目がない第二ラウンドの準備しかしない様は、渦中に居
ないから言えることなのかも知れないが、一国大教員から見ると愚かしく情けなく腹
立たしい。
話題になった東外大・一ツ橋・東工大・医科歯科大・芸大の連合が一例だ。5学長
の雑談から生まれたものだが各大学の内部では皆寝耳に水のことだったという。芸大
が抜け、医科歯科大も背を向け始め、一体どうなるのか皆目予想がつかないような状
況らしい[11-3]。「大学淘汰」の中身は学長が実業家の真似事をして迷走することを
予感させるような成り行きだ。
鍵を握るのは東大のようだ。全部局が参加した「東大の経営に関する懇談会」と
「東大の設置形態に関する検討会」は各々11月と1月[11-4]に内容の濃い報告をし
ている。前者は大学院重点化後に起きている多くの問題点を指摘している点も大きな
意義がある。2報告書は独法化へのブレーキとなる内容であるため、3月に副学長の
私的な「国立大学制度研究会」を発足させ今月末頃に報告を出すと言われている。会
のメンバーは公開されていないという。
【文部省について】
客観情勢は国立大学の独立行政法人化が決まったかのように見えるが、昨年9月20
日の全国学長会議の前夜も同じような空気が大学に流れていたことを思い出すべきだ
ろう。
文部省は、なぜ選挙前に急いで独立行政法人化を決めようとしているのか。山崎政
人著「自民党と教育政策」(1986岩波新書)の序文が示唆的である。
「近年、政党の力が強くなったといわれるが、それでも依然として官僚は強力な政
策立案能力をもっている。だが、こと教育に関する限り、この図式は当てはまらない。
教育は防衛と並んで、常に政党主導で政策決定がなされてきた、といってよい。文部
省は戦前は内務省と軍部の、そして、戦後はGHQ、ついで保守政党の政策を忠実に
実行することに忙殺された。..文部省は保守政党の手足となって、その指示通りに
動いた実働部隊にすぎない。」
自民党に不利な選挙の前に財界は国大独法化を既定事実にして置きたいからだ−−
文部省はそれに盲従しているだけだ、これが私の推測だ。
Yahoo! JAPAN の「国立大学の独立行政法人化!」というトピックスに「文部も教
育の監督官庁だからタイムアウトで何らかの結論を出さざるを得ない」という言いわ
けとも聞こえる書き込みがあった。本当だとすれば、国立大学の将来より「タイムア
ウト」が優先する程度にしか国立大学のことを考えていないことになり、文部省には
教育行政の使命を果たすだけの誠意も力量もないことを表明したことにならないか。
現実と理念に裏打ちされた教育観を省内世論として形成し受け継ぎ育てているなら
ば、政治家の無思慮な首尾一貫していない容喙を簡単に論破できるはずだ。文部省は
力以上のことを無理しているのかも知れない。日本全体の教育研究の場を監視・制御
しようとするために財界・政治家の手先になってしまい教育基本法第10条
「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負っ
て行われるべきものである。教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的
を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」
を侵すことになる。教育行政は、教育のインフラ整備以上のことを禁じられているこ
とを忘れている。
【北大での取り組み】
独立行政法人化問題を考える北大ネットワーは2月に全学電子アンケートを行
い352通の回答を得た[11-5]が、最終的な意思決定の方法については
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74% 全構成員の投票をすべきである
16% 評議会決議がよい
4% わからない
2% 総長一任がよい
1% 北海道大学として態度を明らかにする必要はないと思う
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という結果であった。これを受けて北大ネットワークは総長に全学投票を要請する予
定である。また、藤田正一獣医学研究科長起草の「大学憲章」[11-6]を北大で宣言す
ることを学長に進言することを評議会に要請することも検討している。
上で「進言」と言ったのは次の事情による:昨年改正された国立大学設置法が4月
から施行され、評議会は正式に認知されると同時に最高意思決定機関から審議機関に
格下げとなり法的には学長の意思決定に影響を与えるだけになった。しかし早速これ
を「活用」しようという姿勢が全国的に感じられることに懸念を感じる。
【発行者の要望書】
発行者が個人としてできることは種々の場で発言することだけなので、国立大学協会
宛てのメッセージ[11-7]をホームページに載せ、文部大臣宛の要望書[11-8]をメール
で送付した。憲法第23条に込められた祈りが忘れられてしまっているようだ。憲法
第23条・教育基本法10条は独立行政法人化のようなものに研究者・教育者は屈し
てはいけないことを命じているのだ。
【重要論説紹介】
鈴木氏の論説[11-9]は、国立大学の独立行政法人化の問題を正しい明確なパースペク
ティブに置いている。
【引用した資料のURL】
[11-1]文部大臣の私的懇談会開催
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00516-kondankai.html
[11-2]国大協理事会(2000.5.20)
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00520-tokyo-shinbun.html
[11-3]<東京5大学連合>の現状
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00517-5univ.html
[11-4]「東京大学の設置形態に関する検討会」報告(抜粋)(2000.1.7)
http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/soumu/soumu/12.1.7.html
[11-5]北大ネットワーク電子アンケート結果
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/hu-iken/index.html
[11-6]藤田正一:大学憲章 Ver 2
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00516-fujita.html
[11-7]国立大学協会殿
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/index.html#kokudaikyou
「国立大学を、研究・教育内容に政府が全面的に介入する国立大学法人大学に作り替
える政策は、学問教育の自由を保障する日本国憲法第23条に明白に抵触しています。
国立大学が短期的利害判断により当該政策に協力することは、日本の知的基盤を破損
する愚行であるだけでなく、憲法違反の罪を犯すことです。国立大学協会がこのよう
な重大な決定を下そうとするならば、国立大学法人化が憲法23条に違反しないと判
断する理由を呈示し、当該判断の是非を国立大学教職員全員に問う義務があります。」
[11-8]文部大臣・科学技術庁長官中曽根 弘文 殿
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00520-to-nakasone.html
「文部省が、自民党の5月11日の提言に沿って国立大学を法人化することを決めた
ことが報じられました。この件につきお願いがあります。
独立行政法人通則法を基に国立大学を法人化することは、学術研究の内容に国が直接
関与し学問の自由を構造的に侵害するため、憲法第23条「学問の自由は、これを保
障する」に明白に違反します。自民党の提言の内容も、その点では何も違いはありま
せん。
今世紀前半に、「国費で運営されている大学は国策に従うのは当然である」という
思い違いに大学が屈服して批判力を失い、日本は底知れぬ過ちを冒すことになりまし
た。数百万の人の命が失われた直後の痛恨と後悔の念の中から、同じような愚行に到
る芽が育たないよう祈る思いで智慧を絞った中の一つが憲法第23条でした。「国費
で運営されている大学は国策に従うのは当然である」という思い違いは浅慮な心には
正論としか見えないため、絶えず再生し、ちょうど今のように瞬く間に絶大な力に膨
張し、大学を国策大学に退化させてしまう危険性は決してなくならないことを、その
人達は洞見したのです。
あなたが今されようとしていることは、まさに戦争直後に憲法第23条を設けた人
達の恐れていたことそのものなのです。そして、それを思いとどまらせるために祈る
ような思いで憲法第23条を設けたのです。
どうか、日本の国立大学を国策大学に退化させ、日本衰退の芽を作ることのないよ
う力を注いでください。一国立大学教員として、また日本の一市民として、切にお願
い致します。」
[11-9]鈴木真澄氏「国立大学と独立行政法人化問題−−「国民のための」大学とは何か
法学セミナーNo.546(2000.6) 67-71、より
「国立大学という国の組織は、通常の国家行政組織と異なり、この学問の自由とその
ための大学の自治という憲法原理に支えられている。大蔵省の自治とか郵政省の自治
というものは、憲法上認められていない。しかも、国立大学は国家権力が設置する大
学であるが故に、とりわけこの憲法原理には敏感でなければならない。そうだとする
と、この原理こそが、国立大学の独法化に対する対抗原理なのであり、国立大学は、
この原理の保障のもとで、「国民のための」大学を全体的・自律的に追求すべきもの
なのである。」
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発行者: 辻下 徹
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