http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/wr-15-00628.html国立大学独立行政法人化問題 週報 Weekly Reports No.15 2000.6.28 Ver 1.13
6/24の毎日新聞速報[15-2]は5月以降の流れを詳細に報道している。その中で驚いた経緯は、6月9日に調査検討会議の構成や人員の案[15-3]が文部省から蓮見会長に通知があったにもかかわらず、総会13日まで伏せておいたことだ。総会で学長達は調査検討会議の詳細が決まっていることを知って衝撃を受け、参加の是非の議論から参加後の戦略の議論に変わったという。参加合意を得るための「不意打ち作戦」と言えなくもない。
一方、各大学で学長の報告が行われているようだ。北大でも6月26日の部局長会議で詳しい報告があった[15-4]。北大学長によれば、調査検討会議は審議会のようなものにはならず、なし崩し的に検討を終了させるのではなく、13年度中には一度、国大協の会議が必要になるだろうと述べている。しかし、これは、北大学長個人の希望的観測という性格の発言と推測される。
調査検討会議は文部大臣の私的諮問機関である「賢人会議」[15-6]の下に設置される。文部省は当該会議での議論を参考にして法案を作り上げることが予想されるが、法案の是非を議論するのは最早国立大学協会ではなく国会であることを考えると、最終案への国立大学協会の拒否権は幻想である懸念が大きい。とすれば、調査検討会議での議論に入る前に、当該会議の性格について文部省と覚書を交わさねばなるまいが、国立大学協会の戦略は明確ではない。この点について国立大学協会に共同要望書や共同意見書を出す動きが複数ある。
国立大学協会にできる設置形態検討特別委員会の委員の顔触れがわかった[15-5]。第一回の特別委員会は7月5日に開かれる。 調査検討会議の形骸化を防ぐことは大学側の文部省相手の努力だけでは困難であり、世論の関心と理解が高まることが不可欠であることは前号でも述べた。国立大学教員はそれぞれの立場でそれぞれの方法で学外に働きかけていくことが必要である。
【豊島耕一氏の主張】「国大協と教員」[15-13]より
「国大協がもし『次善の策』を取らざるを得ない事態になれば,われわれとしてもその線で国大協を”バックアップ”して,一致してがんばらなければならない」というタイプの考え方を批判し「国大協追従のイデオロギーは,国大協へのメンタルな殉死とでも言うべきものだ.どのような個人やグループ(教授会,個別大学,組合など)も,名実ともに原則的な立場をとり続けるべきだし,またそのことによる何の不都合もない.そしてこのことは「最後の審判」の日まで「公論」を続ける基盤を持つことであり,また,かりに行政法人化が国会で決まるとしても,いくつかの大学が国立大学として残る可能性につながるだろう...そして,来るべき真に独立した地位を得るであろう日に備えるべきなのだ.」...
「国大協は大学の自由を守る砦の一つになりうる可能性はあるが,もしその障害物に変わったときは批判の対象にしなければならないというだけである.国大協は組織の形態の面でも,総会メンバーを学長とし,一般構成員の実効的な意見反映の制度的保障を持たない家父長的な性格のものである.自由を守る砦は他にもあるし,また作らなければならない.」...
「「茹でガエル」という話を聞かれた方は多いだろう.カエルを熱い湯に入れると飛び出して逃げるが,水から少しずつ温度を上げると逃げずにそのまま死んでしまうという実験である....行政法人化は数年前まではとんでもないこと,大学にとって致死的なものだったはずだが,文部省の妥協,国大協の玉虫色化というように少しずつ徐々に「温度」を上げられると,みんななかなか暴れて飛び出そうとはしない.むしろ苦しみもだえている人間が風変わりに見えるようだ....「大勢」がそうなった以上,もはやこの流れに乗るしかない,と考えて,何となくぬるま湯に浸かろうとする人も増えるだろうが,問題は温度感覚が麻痺してしまわないかということだ.この話の一般的な教訓は,体感温度に頼ってはならず,絶対温度計をいつも見ていなければならないということだろう.その温度計の重要な目盛りは憲法23条と教育基本法10条のはずだ.」
【研究効率の追求は研究の創造性を下げる】
大蔵省・文部省は、大学の基盤的研究費をなくし競争的研究費に一元化しようとしているらしい。基盤的研究費がある限り、大学は競争的環境に置かれないため研究成果が上がらないとでも思っているのだろうか。しかし、研究は効率を求めると効率が下がるという法則があることが科学技術白書97のデータからわかると渡辺勇一氏が指摘した[15-8]。国立試験研究機関の中核的研究者を対象に行なったアンケート調査結果が記載されているが、最大成果を上げた研究についての促進的・阻害的要因という項目では、成果に促進的に働いた因子は高いものから順に、
P1)自分の関心・意欲が生かされた P2)自分の知識・技術・経験 P3)研究者に許されたテーマ運営の自律性 P4)所外研究者との研究交流 P5)学会参加・発表の自由度 P6)研究に注力できる個人生活・研究所生活 研究に阻害的に働いた因子は低いものから順に M1)研究雑務の処理体制(不備) M2)研究資金使用期間の制約(予算年度などの) M3)研究者の処遇システム M4)研究所を対象とした評価制度 M5)研究資金用途の制約(費目間の流用制約など)となっている。独立行政法人化後は阻害因子が多少は弱まる(M1・M2・M5)が、M3・M4は強まるだけでなく、促進因子P1・P3・P6は明らか損なわれる。マイナスを減らしてもプラスが減っては余り意味がないと言える。さらに、最大成果をあげた研究資金の性格としては
第一位)研究所の経常的研究費(均等配分)50.2% 第二位)国の助成費・政府出資金 43.8% 第三位)研究所の重点配分 26.3% 第四位)官民の共同・受託研究費 11.5% 第五位)その他の研究費 11.8%となっている、経常的研究費の削減がいかに研究を阻害するか如実にわかる。
大学は、長い歴史のなかで幾多の試練のもとに生成発展し、学問研究や教育の拠点として、人類史上、かけがえのない固有の役割を果たしてきた。21世紀は「知の世紀」ともいわれ、その創造・継承の中心である大学の存在意義はますます大きくなろう。
時代の転換、社会の変化などに応じ、今日、大学のあり方や責任が問われるのは当然であるが、それは大学の本質や理念を踏まえ、人々への責任を負う立場から、長期的・総合的視野のもとに検討されなければならない。
しかし、現に進行しつつある大学改造は、そのような展望や視野からではなく、「行政改革」「財政構造改革」「科学技術創造立国」などの政治経済戦略への大学の従属化である。これにたいする大学・学部の即時的・個別的・競争的対応では、それぞれが分断支配され、大学の変質・解体は免れない。
いま必要なことは、大学や大学関係者が、人々や社会への奉仕の立場、未来への展望に立って、大学の使命や役割を問い直し、その創造的改革の方向を明確にすることである。また、それを基礎に、大学間の連帯を強め、財政支出の飛躍的増加や大学自治の尊重など、真の大学改革のための基本的政策を国や社会に積極的に提起することである。その過程で大学の共同や自治が強化され、大学危機克服の力量が形成、蓄積されよう。」
特に、与謝野馨氏や島村宣伸氏、小杉隆氏ら、文相経験者が軒並み落選したことにショックは隠せない様子。このため「総理に期待するところは大だ」と話し、「文教族のドン」とされる森喜朗首相の続投決定に期待を寄せていた。一方、ある幹部は「政権がどうであれ、われわれは粛々と仕事を進めるだけ」と淡々と話した。」
第1グループ:法人の基本問題 座長:阿部・東北大学長(国大協第1常置委員長) 第2グループ:目標・計画・評価等に関する問題 座長:松尾・名古屋大学長(国大協第8常置委員長) 第3グループ:人事システム 座長:梶井・東京農工大学長(国大協第4常置委員長) 第4グループ:財務・会計システム 座長:鈴木・東京医科歯科大学長(国大協第6常置委員長)
(以下は北大ネットワークの取材によるもので正式な記録ではない) ・6月14日の国大協「確認」は全会一致だが、全会一致に到達するまでに2日間か かり、かなりの議論があった。 ・文部省の調査検討会議に参加することは独法化を認めたことになり、条件闘争に なるのではないかという意見が、(独法化に反対する立場としては)代表的意見 だった。 ・国大協が待っていても、文部省は何も出してこない。受け身に構えていてもしょ うがない。行政改革のためではなく、高等教育のためだ。・・・・などの議論が あって、国大協は全会一致で調査検討会議に応じることになった。 ・全会一致ということが非常に重要だ。 ・全会一致「確認」の第1は国大協としての原点であり、今後ぜひとも守っていく。 ・第1を書いたのは、独法化が前提ではないということだ。 ・第1に反する独法化であれば、国大協が調査検討会議からいつでも引き上げるこ とを含んでいる。 ・第2の国大協「設置形態検討特別委員会」は、国大協として政策活動をしていく ための統括組織である。この考えは蓮見会長から出された。 ・第3の「国大協として・・・調査検討会議に積極的に参加・・・」についてだが、 まず「国大協として・・・」は、(文部省による特定大学の)一本釣りは許さな いということだ。「積極的に参加・・・」は、文部省から具体案が出てくるのを 待つのではない、文部省には考える能力がなく、国大協が具体案づくりをやるの だということだ。 ・調査検討会議は審議会方式はとらない。つまり、事務局があらかじめ検討事項の すべてを考えて、審議委員が何か意見を述べるくらいで、事務局の考え方のとお りに物事が決まっていく方式はとらない。 ・調査検討会議は平成13年度(末まで)には検討を終えるが、なし崩し的に検討を 終了させるのではなく、13年度中には一度、国大協の会議が必要になるだろう。 ・これまでのことを各部局の構成員によく知らせてほしい。
委員長 長尾 眞(京都大学長) 副委員長 中島 嶺雄(東京外語大学長) 委員 丹保 憲仁(北大学長) 海妻 矩彦(岩手大学長) 阿部 博之(東北大学長) 北原 保雄(筑波大学長) 鈴木 彰夫(東京医科歯科大学長) 梶井 功(東京農工大学長) 内藤 喜之(東京工業大学長) 佐藤 保(お茶の水大学長) 石 弘光(一橋大学長) 松尾 稔(名古屋大学長) 西塚 泰美(神戸大学長) 杉岡 洋一(九州大学長) 江口 吾朗(熊本大学長) 田中 弘充(鹿児島大学長) 専門委員 宮脇 淳(北大教授) 馬渡 尚憲(東北大教授) 小早川光郎(東京大教授) 森田 朗(東京大教授) 奥野 信宏(名古屋大教授) 丸山 正樹(京都大教授) 西川 伸一(京都大教授) 本間 正明(大阪大教授) 浦部 法穂(神戸大教授) 内田 博文(九州大教授) 専門委員は追加が見込まれる。
阿部謹也(共立女子大学長) 石川忠雄(慶応大学名誉教授) 井村裕夫(科学技術会議議員) 海原猛(国際日本文化センター顧問) 江崎玲於奈(芝浦工大学長) 小田稔(東京情報大学長) 田中郁三(根津育英会武蔵学園長) 吉川弘之(放送大学長)
「最後に、今ご存知の通り、政府は国立大学を独立行政法人化しようとしていますが、実は、まことに皮肉なことですが、国から自律性をもちうつ、独立の法人ではなく、構成員も国家公務員で、長も自ら選挙して選んでいるという英国のエージェンシーとそっくりな組織は、日本では国立大学です。そういう意味では、その国立大学をクワンゴ化しよう政府は躍起になっていると居えるでしょう。こうした方向が本当に国民のためになるのかどうか、きわめて疑問です。」
同氏のホームページ:
http://www.asahi-net.or.jp/‾YE9M-KBR/
日本科学者会議大学問題委員会編「21世紀の大学像を求めて」 競争・管理から共同・自治の大学づくりの提言 水曜社 2000.6.15 発売 ISBN 4-88065-017-X 目次 第I部 大学はどうあるべきか−原理的考察− 第1章 大学の理念 第2章 大学の自治 第3章 大学の歴史 第4章 大学と社会 第5章 大学と教育 第6章 大学と研究 第7章 大学と財政 第8章 大学と世界 第II部 大学改革の諸問題と提言 第1章 入学試験 第2章 カリキュラム・授業 第3章 教育の機会均等と学習条件 第4章 大学の研究条件・体制 第5章 大学の組織運営と責任・評価 第6章 大学教職員の地位と権利 第7章 大学の開放と連携 第8章 大学院問題 第9章 教員養成 第10章 国際交流 第III部 国立大学の独立行政法人化問題
・全大教近畿速報 http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kinkyo/index.htm
・メーリングリスト高等教育フォーラム he-forum http://www.dango.ne.jp/fuj/mlopen.htm
・メーリングリスト大学改革情報 reform http://www.edugeo.miyazaki-u.ac.jp/reform/reform-ML.html
・メールマガジン【行政・政治・団体ホームページ更新情報】 http://www.urban.ne.jp/home/space/mag.htm
◆その他の資料 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/
発行者: 辻下 徹 homepage: http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst/
e-mail: tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp バックナンバー: http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/backnumber.html
発行部数(2000.6.29現在) CocodeMail:294 / Mag2:475 / Pubzine:24 /Macky!:23 / emaga 21
End of Weekly Reports No.15 2000-6-28
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