2004年10月31日(日) |1656158 visits since 2004.10.31 |AcNet Project

香田証生さんを偲ぶメッセージ集

[11] 中傷に心を痛めています(フランス/パリ第八大学心理学部)2004-11-03 02:52:21

相変わらず、中傷のメールやファクス・電話がなされる日本社会に嫌気がさしています。私はすでに日本を離れ、二十年以上が経ちますが、このような事件が起きる都度に、日本社会の歪んだ集団主義に恐れを感じます。以前にイラクで三人の方が人質に取られた際に生じた、マスコミを含んだ、リンチのような中傷攻撃を念頭に書いた小文を以下に挙げさせていただきます。もともとは、ある新聞に依頼されて執筆したものですが、先方の求める趣旨とのズレのために、結局、ボツになった文章です。香田さんだけでなく、前回の三人の行動に関しても、それに賛成することと、自分にとって異質な考えに対して寛容な態度を示すことは別だと思います。
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異質性という金脈
小坂井敏晶
ヨーロッパ統合が急速な勢いで進んでいる。不安と希望の渦巻く中、欧州連合はすでに東欧を飲み込んだ。そして今やイスラム教圏のトルコさえ射程内に入ってきた。アメリカ合衆国や日本への対抗という戦略的意図だけでは、アイデンティティの危機を内包する巨大な動きが民衆に受け入れられるはずがない。異質性を恐れないヨーロッパに憧憬のまなざしを向けるのは私だけだろうか。
むろん、ヨーロッパと日本では歴史事情が違う。例えばフランスは実質上アメリカ合衆国に比すべき移民国であり、異質な人々を長年にわたって受容してきた。過去一〇〇年間に出生したフランス人のうち、一八〇〇万人が第一・第二・第三世代の移民を親に持つ、つまり、わずか数世代遡るだけで、現在のフランス人の三割以上が外国出身者になる。ベレゴヴォア元首相の父はウクライナ移民だったし、次の大統領選最有力候補と噂される現職のサルコジ財務相はハンガリーからの移民二世だ。朝鮮や中国の出身者に活躍の場が与えられない我が国とは雲泥の差がある。
日本において異質性許容度が低いのは外国人に対してだけではない。イラクで人質になった三人が解放後に祖国で苛められるのを知り、出る杭は打たれる日本社会に背筋の寒い想いをした在外邦人は多かった。「正しいこと」の内容は時と場所によって異なる。賛成できなくとも、少数派の生き方にもっと寛容になれないものか。「正しい人」ばかりの社会を作りたいのか。ナチス・ドイツ、ソ連、そして中国の文化大革命も「正しい世界」を作ろうとした事実を忘れてはならない。
画一的で個性がないとは、日本人自身が繰り返し反省してきた自己像だ。しかしそれは、よく言われるような主体性の欠如が原因ではない。移り変わりが激しい流行も単に他人を模倣するのではなく、本当に素敵だと感じるから自主的に取り入れているにちがいない。しかし、同じ「良いもの」に皆が引きつけられ、結局、社会全体が均一化に向かってしまう。良いものの基準が社会的に強く規定されているために、より良いものを求めようという本来好ましいはずの向上心がかえって仇になる。だからこそ、問題がよけい厄介なのだ。日本社会というシステムを構成する各要素は変化しても、システム自体の変容にはつながらない。より良い生き方を目指そうとする時点ですでに、我々は誤った道を踏み出しているのではないだろうか。
日本社会の国際化が叫ばれて久しい。しかしそれが他国の人々との交流を通して良いところを学び、悪い部分は正すというような話で終わってはつまらない。国際化の恩恵は、有益な情報の入手などではなく、慣れ親しんだ世界観を見直す契機が与えられることだと私は思う。真の国際化とは、異質な生き様への包容力を高め、世界の多様性を受け留めることではないのか。正しいことなど、本当はどこにもない。この事実が素直に受け入れられた時、各自の個性を活かす世界が生まれてくる。対立や矛盾は否定的角度だけから見てはならない。異質性がもたらす豊かさを信じよう。
少子化がまた話題に上っている。国連の分析によると、日本における就労者と年金受給者の比率を二〇五〇年まで今の水準で維持するためには、毎年一〇〇〇万人、合計で五億五〇〇〇万人の外国人労働者を受け入れる必要があるという。その場合は日本総人口の八七%が外国出身者によって占められるという途方もない予測だ。むろん、このような単純な計算どおりに現実は進行しない。しかし移民にまつわる問題は今後まちがいなく深刻さを増してゆく。そのとき日本社会はどのような態度で異質性に立ち向かうのか。
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NHK World (2011.2.1) Real Life Lessons
(日本・イラク間の小学校交流)
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Radio Japan 2010.12.23
Saleem visits Kouda family
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画家Maurice Loirand (1922-2008)(同夫人の詩人霜鳥和絵さんは「眠る詩人の木」の著者)のコレクションより:

La grande ferme