通信ログ
Subject: [kd 03-05-22] 蓮實前国大協長への公開状
Date: Thu, 22 May 2003

国公立大学通信抄 2003.05.22(木)
全文:http://ac-net.org/kd/03/522.html

--[kd 03-05-22 目次]--------------------------------------------
[1] 蓮實重彦前国大協会長への公開状
  [1-1] 2000.7.28 共同意見書
  [1-2] 第106回総会の確認事項 平成12年6月14日
  [1-3] 2000.6.13 国立大学協会総会議事概要より
  [1-4] 2000.6.14蓮見会長記者会見
[2] 首都圏ネット声明:「国大協はただちに総会を開催し、・・・
[3] 投稿:「大学教員の存在価値は?」
[4] 議員への電子書簡:「全権委任法」への危惧(個人情報保護法案)
  [4-1]【国会議員諸氏よ、真正面から考えてほしい】
[5] 「米国大学の基金運用―財務担当責任者の真価が問われる」
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明日5月23日午後6時から、文部科学省記者クラブで、国立大学法人法案に
ついて、以下の団体の合同記者会見があります。

     国立大学法人法案に反対する意見広告の会
	     http://www.geocities.jp/houjinka/
     大学改革を考えるアピールの会
	     http://homepage2.nifty.com/~yuasaf/appeal/
     国立大学独法化阻止 全国ネットワーク
	     http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet.html
     独立行政法人反対 首都圏ネットワーク
	      http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nettop.html
     国立大学レファレンダム準備会
       http://ac-net.org/rfr
     国立大学協会への共同意見書 事務局
       http://ac-net.org/recall

国立大学協会への共同意見書事務局は国大協会長の辞任と臨時総会の開催を求
める共同意見書を発表します。現在、54国立大学の251の連署が集ってい
ます。まだ受けつけています。

国立大学レファレンダム準備会は、電子投票(http://ac-net.org/rfr 6月1
3日まで)の中間集計について発表します。現在の集計は以下の通りです。

	賛成:  88(国立学校小計   87)
	反対:3154(国立学校小計 3125)

                   □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 

独立行政法人化批判の声が国立大学内外から強まっていたとき、3年前の総会
において国立大学協会は、**独立行政法人化に反対するため**と称して、文部
大臣の私的諮問機関である「国立大学の独立行政法人化のための調査検討会議」
への参加を唐突に決めたことを御記憶の方は少なくないと思います。国立大学
協会で意見が割れている中での「全会一致」を実現したのは、当時の蓮實会長
が提案した4項目合意事項[1-2]の絶妙な説得力でした。判断を先送りされた
「責任」の一端を果して頂きたく、共同意見書の当時の世話人で相談し、蓮實
氏に公開状[1] を送付しました。

なお、3年前の総会議事録[1-3]に「国立大学法人法ができた暁には,国立大
学を通則法の下で法人化したことにはならないという解釈をとらなければ,今
後動けないと思っている。」という驚くべき発言が記録されています。法案を
批判しない国大協の不可解な動きは、一部の人たちには3年前からの既定路線
であったと推測されます。

                   □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ 

米国の私立大学全体の基金は2000億ドル(20兆円)だということが[4]
に記載されていますが、その運用にかなり依存は(2〜3割)している大学経
費が景気の悪化により、かなり厳しい大学財政に直面しつつある、ということ
が紹介されています。(編集人)

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[1] 蓮實重彦前国大協会長への公開状
 http://ac-net.org/dgh/03/521-to-hasumi.html
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#(「国大協への署名」の記録は http://ac-net.org/dgh/kdk-shomei にあり
ます。最終的な署名者数は69国立大学の818名、また、国立大学OB・ア
カデミズム界の98名から支持表明がありました。国立大学独法化阻止 全国
ネットワークhttp://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet.html 結成の契機の
一つとなった運動です。)
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                                             平成15年5月21日(水)

蓮實重彦  様

               辻下 徹(北海道大学 教授)
               (2000年7月「国大協への署名」提出代表)

                〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
                北海道大学大学院理学研究科
                Tel,Fax:011-706-3823(office)
                tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp

  謹啓

  惜春の候,ますますご清栄のこととおよろこび申し上げます.

  さて、5月16日の衆議院文部科学委員会で、国立大学法人関連法案が無修
正で可決され、国立大学の独立行政法人化問題は、重大な局面を迎えています。
この問題について国立大学協会が2000年6月に重要な決定をするとき、蓮
實様は会長として重要な役割を果されました。その決定に関して、私を含む国
立大学教員360名が、あるお願いをしたことはご記憶のことと思います。

  すなわち、私たちは同年7月27日付けの共同意見書(*1)において、
「国立大学の独立行政法人化に関する調査検討会議」は国立大学の独立行政法
人化を前提としたもので、正式に参加すれば、会議で決定されることを拒否す
ることは事実上不可能となり、独立行政法人通則法を骨格とする法人化を受け
いれざるを得なくなるであろうと警告し、参加決定の撤回を要求しました。

  その後の3年間は、残念ながら予想通りに事が進みました。それどころか、
国立大学協会の現執行部は、国立大学協会の主張の核心を否定した国立大学法
人法案が可決されるよう躍起になっています。

  3年前の決定について他の誰よりも重い責任を負う立場にあられる蓮實様は、
今のこの状況をどのような思いで見ておられるのでしょうか。

  総会直後の記者会見で蓮實様は記者の問い

     文部省が設置する予定の調査検討会議は独立行政法人化すること
     を前提にしている、それに参加されるということは、国大協として
     は独立行政法人という制度そのものを受け入れたのか

に対し,

     いやいや、まったく別のことです。まったく受け入れていないの
     で、それを 独立行政法人として実現させないために、そこに入っ
     ていく予定です。

と答えられました。しかし現実はそうなりませんでした。調査検討会議への参
加を会長の力で実現された蓮實様は、その結果責任を果すために今なすべきこ
とがある、とお考えになっておられると推察しております。と申しますのは、
同じ会見で

     最終的に全く理想的な形態がそこに成立しなければ、その後新た
     な問題が起こるだろう

とも述べておられますが、国立大学法人法案によって「理想的な形態」が実現
したとお考えのはずはないからです。事態を率直に見る限り,「国立大学法人」
は独立行政法人の一種であるだけでなく、国立大学協会が強く反対したはずの
「非公務員化」も盛り込まれています。

  「独立行政法人化を受け入れないために調査検討会議に参加する」という発
言は、会議における国立大学協会の立場を少しでも有利にしようという配慮か
らのものと推測しますが、法人化についての是非を判断する責任を回避し「先
送り」されたことは事実です。「先送り」されたその責任の一端を、この重要
な時点において、お引き受けいただけないでしょうか。すなわち、3年前の6
月の国立大学協会総会決定が今日の結果に到る重要な岐路の一つであると認識
されるのであれば,その決定について最も重い責任を担う個人として,この法
案の是非を吟味し、その結果を日本社会に向けて証言していただけないでしょ
うか。

   2年前、国立大学協会会長の任期を終えるとき、蓮實様は「生きものとし
ての大学には「改革」よりも「変化」がふさわしい」というメッセージを残さ
れました。その最後を

     外圧によって大学の「制度」について心を砕くあまり,刺激しだい
     ではいかようにも「変化」し,にわかに溌剌とした表情もおびれば,
     たちどころに衰退してしまいもする生きものとしての大学の真の健
     康を,どこかでないがしろにしていたのではなかったでしょうか。
     ことによると,それは,個人の資格で事態に対処することをおこたっ
     てきたわたくし自身の個人的な責任かもしれません。それが,会長
     を辞するにあたってのわたくしの心をいまなお悩ませている倫理的
     な気がかりにほかなりません。

と結ばれ、会長という存在にかかる外圧と個人的な信念との齟齬に悩まれたこ
とを告白されています。この問題について、自由な立場におられる今、蓮實様
には個人の資格でできる大きなことが種々おありです。どうぞ、日本の高等教
育全体の将来のために「学の独立性」を次世代に確実に継承させるために、沈
黙以外の選択肢というご決断をお願いします。

                                                                  敬具

追伸  これは公開状とさせて頂きました。

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[1-1] 2000.7.28 共同意見書
   http://ac-net.org/dgh/kdk-shomei
--(*1)------------------------------------------------------------
国立大学協会長 蓮實重彦殿

 国立大学協会会則第28条に基づき、国立大学教職員360名共同で以下の
要望書を提出いたしますので、会員に回付されますとともに、関係委員会にお
いてご検討くださいますようお願いいたします.


  要 望 書

 国立大学協会は、さる6月14日開催された総会において、文部省が設置を
予定している「国立大学の独立行政法人化に関する調査検討会議」に参加する
ことを決定しました。

 各大学内に、独立行政法人化に対する根強い反対意見があるなか、十分な審
議を尽くさないまま、文部省、自民党の圧力に屈する形で、独法化を前提とし
た「調査検討会議」への参加に踏み切ったことは、きわめて遺憾なことと言わ
ねばなりません。

 私たちが何よりも危惧することは、「調査検討会議」に正式に参加すれば、
そこにおいて決定されることを拒否することは事実上不可能であり、結局は独
立行政法人通則法を骨格とする法人化の受け入れに繋がらざるを得ないであろ
うということです。

 蓮實国大協会長は14日開かれた総会後の記者会見において、「調査検討会
議」への参加が独法化受け入れを意味するものでないことを強調し、さらに
「最終的に全く理想的な形態がそこに成立しなければ、その後新たな問題が起
こるだろう」とまで述べておられますが、これらは、何の担保・保障もない以
上、中味のない空証文に終わる恐れが強いのではないでしょうか。

 そもそも、文部省が独法化に向けて一方的に設置する「調査検討会議」への
参加の是非さえ余裕をもって判断できないようで、どうして今後、国大協の主
体性を期待できるのでしょうか。

 国大協が、6月14日の会長発表第一項にあるように、「国立大学の設置形
態に関して、これまで表明してきた態度を変更する必要があるとは認識してい
ない」というのであれば、「調査検討会議」への正式参加を取りやめる以外に
ありません。

 いま国大協にとって大切なことは,文部省の中の一組織に性急に加わること
ではなく,広く国民にこの問題の本質を理解してもらうための組織的努力を開
始することではないでしょうか。

 その一つは「独立行政法人」に代わる案を国民の前に提示することであると
考えます。ぜひ会長発表第二項にある「設置形態検討特別委員会」において、
全大学関係者の英知を集めて、真に大学の独立を確保する国大協独自の案づく
りを進めてください。そして本格的な選択肢を広く国民に提示し,その判断を
仰ぐべきです。私たちもそのための協力を惜しみません。

 以上、要望いたします。
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[1-2] 第106回総会の確認事項 平成12年6月14日
http://www.kokudaikyo.gr.jp/iken/txt/h12_6_14.html
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「国立大学協会は,第106回総会において,次の4点を全会一致で確認した。

1. 5月26日の文部大臣の「説明」以後も,国立大学協会は,国立大学の設置
形態に関して,これまで表明してきた態度を変更する必要があるとは認識して
いない。すなわち,すでに法制化されている独立行政法人通則法を国立大学に
そのままの形で適用することに強く反対するという姿勢は維持され,今後も堅
持されるだろう。

2. 教育,研究の質のさらなる向上によって,国民の利益の増進と,地域社会,
人類社会の持続可能な発展に貢献することを目指し,その実現にふさわしい国
立大学の設置形態を検討するために,副会長を正副委員長とする「設置形態検
討特別委員会」を国立大学協会内部に新たに設置し,この委員会を中心に,文
部省をはじめ,内外の各方面への政策提言を積極的に行う。

3. 上記の二点を踏まえ,かつ,我が国の高等教育と学術研究の健全な発展に
資するために,国立大学協会として,文部省に設置される予定の「国立大学の
独立行政法人化に関する調査検討会議」に積極的に参加し,そこでの討議の方
向に,国立大学協会の意向を強く反映させるための努力を行う必要がある。

4. 一国の高等教育政策は,国民,地域社会,人類社会の利益という視点から,
長期的な展望のもとに議論されねばならず,それには,国際的動向をもふまえ
た恒常的な政策決定の機構が必要である。国立大学協会は,この際,科学技術
基本計画に対応する学術文化基本計画の策定を課題とする議論の場の設定を強
く訴えたい。
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[1-3] 2000.6.13 国立大学協会総会議事録より
http://ac-net.org/dgh/006/14-kdk-giji.html
http://www.kokudaikyo.gr.jp/katsudo/txt_soukai/h12_6_13.txt
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○[13]文部大臣説明は,「通則法にもとづく独立行政法人の制度設計」という
言い方をされている。通則法にもとづくとなると,通則法の下では反対と言っ
ている国大協の考え方とは相容れないということになるように思うが,どうか。

○[14]それは矛盾していないと思っている。たとえば,国家公務員法と教育公
務員特例法との関係でいえば,あとからできた方が強いと解釈されている。し
たがって仮に国立大学法人法が特例としてできた場合には,この方が通則法よ
りも強いということになるので,疑問の点は問題ないと思う。国立大学法人法
ができた暁には,国立大学を通則法の下で法人化したことにはならないという
解釈をとらなければ,今後動けないと思っている。
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[1-4] 2000.6.14蓮見会長記者会見
http://ac-net.org/dgh/006/14-hasumi.html

(記者)文部省が設置する予定の調査検討会議は独立行政法人化することを
前提にしている、それに参加されるということは、国大協としては独立行政法
人という制度そのものを受け入れたのか。

(会長)いやいや、まったく別のことです。まったく受け入れていないので、
それを独立行政法人として実現させないために、そこに入っていく予定です。

(記者)独立行政法人という制度のなかで要求していくことではないのですね。

(会長)おそらく、それは、最初からの話しになると思いますけれども、独立
行政法人通則法が適用できないことになりますと、当然のことながら、特例法
というものが生き返るということになるわけです。その特例法を、一部の政党
は5つほどと考えているようですが、5つほどでとても実現できるわけではな
いというのが、私どもがすでにおこなっている調査検討から出てきているわけ
で、それをさらに広げることによって、然るべき法人格を獲得できるのではな
いかと、私たちは思っています。したがって、繰り返しになりますけれども、
独立行政法人というものになることを前提とする参加ではまったくありません。

(記者)独立行政法人とは別形態の法人格を目指すということか。

(会長)独立行政法人と別形態というものが何であるのかということに関して
は、ここではっきりと申しあげられません。つまり、独立行政法人通則法はで
きていますけれども、通則法のなかの特例法というものがすでにできあがった
わけのものではございませんし、特例法というものがどのようなかたちでその
後新しい法律に収束していくかということも、これまたはっきりしているわけ
ではありません。したがいまして、その部分を拡大するというのが、私たちが
そこに参加するとまでは言っておりません、参加して努力をする用意があると
いうことでございますので、国立大学協会が、独立行政法人を受け入れたかた
ちでそこに参加するというのではまったくありません。

(記者)法人化そのものは是とするが、独立行政法人制度は好ましいものでは
 ないので、理想的な法人化を目指すために参加するという理解で良いのか。

(会長)かならずしも、そこまでいくのかもわかりません。私は個人的にはそ
のように考えるのが普通だと思いますが、しかし、最終的にまったく理想的な
形態がそこに成立しなければその後新たな問題が起こるだろうというふうに考
えます。

(記者)設置形態検討特別委員会は、独立法人としては理想像のようなものを
検討することになるのか。

(会長)理想像の追求と同時に、ひじょうに具体的なものをやっていただかな
ければいけないだろうと思っています。

(記者)具体的なものとしては。

(会長)例えば、法律化されていく、法律化が必要ないくつかの点について、
積極的にこちらから、この点は特例を設けないかぎり、国立大学の健全な発展
と国民にたいする貢献は保障できないだろうというかたちで、次々に問題を提
起していく。

(記者)理想的なかちであれば、文部省がいう独立行政法人化を受け入れると
 いうふうに理解できるのではないかと思いますが。

(会長)それまでのコンセンサスはできていないと思っています、私は。その
ことを問うてはおりませんけれども。

(記者)そうなると、今回の総会では、どの程度までのコンセンサスができて
 いるのか。

(会長)全会一致で確認したこの4点につきております。

(記者)国大協の文書はよくわからないところが多いのですが、つきつめてい
うと、文部省の言った検討会議を設けるならば、その土俵にのりますよ、とい
うことだと理解してよいのか。

(会長)土俵というのが文学的な表現でございまして、かえってわかりにくい、
私は四股を踏むつもりもありませんし、裸になって全員に裸体をさらすつもり
もございませんので、文学的表現はなるべく謹んでいただきたいと思います。

(記者)文部省が呼びかけている議論に応じていくということか。

(会長)文部省はまだその形態を完全な形態で決めていないと思いますので、
我々は当然予想されるそのような委員会にたいして、強くわれわれの意思を伝
えるのを、こちらから先におこなえると思っています。この方をみて下さいと
言われて、さあどういたしましょうかというように考えたりする暇を向こうに
与えないようにしたい。

(記者)大学の学長としての立場としてではなく、国大協の代表として、今度
の委員会に参加するのか。

(会長)この委員会は、私が理解するかぎり、広く国民的な、さまざまな代表
をお願いするのだと思っております。文部省の会議ではあれ、文部省と我々と
が、そこでお話しし合う会議だとは思っておりません。

(記者)国民の代表の一人として、国大協の代表も参加したいという意思表明
をするのか。

(会長)当然参加するし、参加しないでは何もできないと思っておりますので、
当然そのような参加をする用意があるということを、ここで全員で確認し合っ
たわけであります。

(記者)国大協の代表は常置委員会の委員長か。

(会長)そういうケースもおおいにあろうかと思っております。

(記者)まだそれは決められてはいないのか。

(会長)まだどなたに行っていただくということを今日の総会で決めたことは
ございません。今日の総会は、国大協として、文部省に設置される予定の国立
大学独立行政法人調査検討会議に積極的に参加し、そこでの討議の方向に国立
大学協会の意向を強く反映させるための努力をおこなうとは書いておりません、
用意があるということでございます。これも文学的すぎるでしょうか。

(記者)何人ぐらい、国大協から参加することになるのでしょうか。

(会長)私は、この会議を国大協で独占するというのは、本来このような会議
の意図に反していると思いますので、全員99人出て行いくという気持ちはもっ
てはおりません。然るべき方に出ていただければというふうに思っております。

(記者)若干名ということで考えてよいのか。

(会長)これはまだはっきりしておりませんけれども、おそらく、10名以下
の数名ということになるのではないかと思っております。これはわかりません。

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[2] 「国大協はただちに総会を開催し、「国立大学法人法案」に明確な拒否を」
首都圏ネット声明:2003.5.21
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030521syutken-kokudaikyou.html
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「国立大学法人法案および関連5法案は、5月16日の衆議院文部科学委員会に
おいて、審議が不十分のまま委員長の職権によって採決が強行されました。

 しかし、以下に見るように、国会では法案に関して政府の説明が破綻してい
る点や、違法・脱法的行為が次々と明らかにされています。与党や政府の内部、
また文科省の中からも、法案への批判や疑問の声が上がりはじめているのです。

 こうした事態を招いた責任を国大協執行部も負わねばなりません。国大協が
法案の問題点を明確に指摘し、反対の態度を鮮明にすれば、政府内の矛盾がさ
らに顕在化し、「百年の計を誤る悪法」(民主党山口議員)を廃案にし、「百
年に一度の大失敗」(保守新党熊谷代表)を回避することができるのです。

1.国会審議での目に余る政府答弁のデタラメさ

 法人化された場合、私たちは労働安全衛生法や労働基準法の適用を受けるこ
とになります。16日の委員会では、そうした法律に対応するための予算措置が
全く考慮されていないことが明らかとなりました。文科省の河村副大臣は、後
に修正したものの、来年4月の法人化スタートに間に合わない場合は、「補正
予算を組んででも対応する」との発言までしています。

 また、施設改修などの具体的な計画や資料について、萩原文教施設部長は、
「今日、調査を開始し」「今月中には報告できるようにしたい」と述べました。
しかし、本来であれば調査の結果を待って委員会での審議がなされるべきで、
文部科学委員会は無責任な採決を行ってはならなかったのです。

 さらに、この日の委員会で遠山文科大臣は、来年4月までに対策が終わらな
い場合、法人法を凍結するか、という民主党鳩山議員の追及に対し、国立大学
は「現在でも人事院規則に違反している」と答えています。自ら法律違反の現
状とその放置を認めているのです。文科大臣としての責任が問われる重大な問
題発言と言わねばなりません。

2.政府や与党内部にも広がる批判、疑念

 こうした中で、保守新党の熊谷代表は、13日の定例記者会見で国立大学法人
化法案を取り上げ、「...結果としてこれら大学の自治や学問研究の自立を損
ない、官僚支配になってしまうのではないか」と述べています。また、「特に
これをこのままやると、天下り三倍増計画のような結果になってしまうのでは
ないだろうかと。現場の委員の意見等や、各党の議論に参加している方々の話
なども聞くと、皆さん、そういう感じを多少なりとも持っているようです。」
とも述べ、「百年に一度の大失敗」となるのではないかと危惧を表明していま
す。

  また、文科省の若手官僚の中からも、この法人化法案に対する批判の声があ
がっていると聞きます。このことは、このまま来年4月に法人化すれば、大学
は極めて深刻な危機に陥るという認識が政府や与党の内部にも広まっているこ
とを意味します。

3.国大協はただちに総会を開き、「国立大学法人法案」に反対する意思決定を

 このように、法案について審議すればするほど、国の統制強化の問題や天下
り問題、財政措置や評価の不透明さ、などが次々と明らかになっています。な
により、事実上来年4月の法人化スタートはもはや不可能であることが明白に
なっています。

 5月7日に法人化特別委員会の石委員長の名で、各大学あてに送付された「国
立大学法人制度運用等に関する要請事項等について(検討案)」は、法人化以
降に適用される諸法律について適用の"配慮"を求めるなど、違法・脱法的行為
を国大協が率先して求めるというおよそ考えられない文書となっています。
 しかし、5月14日の文科委員会では、大石厚生労働省安全衛生部長が、「労
働安全衛生法が適用になれば、免除ということは、何らかの法定事項がない限
りはそういうことはない」と答弁しており、国大協が求める"配慮"は不可能で
あることが明らかとなっています。

 この国大協の文書については、日本国家公務員労働組合連合会や日本労働弁
護団の弁護士からも、一様に批判の声が上がっています。国大協の文書は、全
体としてみるなら、この法案が法として破綻していることを自ら明瞭に示して
いるのです。

  このように、違法・脱法的行為なしに来年4月から法人に移行することが不
可能となっている状況を踏まえて、国大協としての態度を早急に決定すること
が必要ではないでしょうか。
 また、北海道大学の辻下教授が呼びかけた「国大協会長・副会長の辞任と臨
時総会開催を求める国立大学教員共同意見書」には、54の国立大学から248名
の賛同署名が寄せられています。

 今からでも遅くはありません。
 国大協はこうした声にも応えて、ただちに総会を開催し、これまでの国会審
議で明らかにされた諸問題について真摯な検討を行うべきです。その上で、国
立大学の総意として、「国立大学法人法案」に対して拒否の意思を明確にすべ
きです。
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[3] 投稿:「大学教員の存在価値は?」
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	     科研費などの獲得額でしかアピールできない学長
		    「獲得外部資金至上主義」に走る
		  大学教員の存在価値はどこにあるか?

 大学全体の科研費の採択額が昨年を数%下回った、一大事である。過去何年
間かにわたり、科研費を申請していない教授の数は何%、それらの教授の氏名
を学部長に伝え、きちんと指導せよと命令する。科研費を申請しないことも不
思議であるが、それを学部長に「命令」して、何とかせよと言う学長の、学問
の府にそぐわない行動が、法人を目指すことの空しさを示していると思います。
それほど「金」を稼ぐことが大切なら、株でも先物取り引きでも、また近年電
話に出るのが嫌になるほどの老後の貯えのためのアパート経営などのエキスパー
トを高給で雇えば良いでしょう。

 先日、国大協石特別委員長が独断で発した「アンケート」も、我が学部長に
は、学長から一切降りてきていないようです。各学部の安全に関することを学
部長に話すことなしに、どのように現場の安全が確保できるというのでしょう
か。これは、学長の名をかたって、文部官僚がすべてを取り仕切ろうとしてい
ることの現れとも考えてしまいますが、考え過ぎでしょうか。

 私の研究室・実験室は、労働安全衛生法に間違いなく違反していると思うの
ですが、それを言って改修などが必要となった場合に、その費用を捻出できる
と考えられません。こんなにかかるのであれば、その類いの研究を止めてくれ、
と言われるのではないかと考え、じーっと静かに黙っていようかと考えていま
す。

 でも、本当に腹立たしいのは、このような法人化で、日本の科学が急速に進
展すると考えている方々が、どれだけ存在するかということです。育英会も営
利法人になり、学生の意気込みが減衰するでしょうし、黙することを前提とす
る有事法も大手をふりそうな様子です。私どもの子ども、そしてその子ども、
少なくとも彼等に恥じないような行動をとることが、現職の大学教員の当然あ
るべき行動だと思います。送りだす卒業生、子や孫、その子ども達に恥じない
ように、発言し行動することこそ大学教員の存在価値ではないでしょうか。

 特に、もう数年で定年を迎える大学教授の先生方、今こそ花道を作る絶好の
機会はないのではないのですか。願わくは、「科学者」として最後の花を咲か
せて下さることを期待いたします。
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[4] 議員への電子書簡:「全権委任法」への危惧
        http://ac-net.org/kjh/03/522-to-giin.php

「議員のみなさま

明日23日の参議院本会議での議決により、個人情報保護法案が決まります。
通常は、この会議は儀式のようなものかも知れません。しかし、参議院議員の
みなさまには、まだ、可能性が残されています。すなわち、将来の日本の多く
の人を必ずや苦しめる−−丁度、治安維持法が成立後十数年を経て私達の前世
代の人々を苦しめたように苦しめることになる法律の成立を留保する可能性が
残されています。もしも、まだ、この法案の全文を精査しておられない議員の
かたがおられましたら、是非いま一度、全文を精読してみてください。

みなさまは、この法律を通して本当にいいのですか?所属されている政党の判
断ではなく、御自身で判断してください。これは、「個人情報」のコントロー
ルについての行政への白紙委任状ではないとお考えですか?このような委任立
法をすることは、行政の暴走への安全装置を守ることを使命とする国会議員と
しての責務を放棄することにはならないですか?これらの問について選挙区の
人たちに胸をはって答えられるのでしょうか。

あらゆる分野で行政の裁量に委ねられる事柄が日増しに止処なく増大していま
す。多くの法律が委任立法の様相を強めつつあります。最近の重要法案の多く
は、行政への全権委任に近い様相すら持ちはじめています。小さなものですが、
国立大学法人法案も、大学改革を行政に白紙委任する点では、例外ではありま
せん。1933年のドイツの「全権委任法」がもたらした災厄はよく御存知の
通りです。どうか、そのことを考えて頂きたいと思います。

まだ、一日あります。法案が行政の権限を止処なく増大させること、そして、
それは、今の行政ですぐに問題にならないとしても、今後の行政のありように
よって時限爆弾の危険性を持つこと、そのことを理解されましたら、この法案
の成立を中止させてください。城山三郎氏が命を賭けて法案の危険性を警告さ
れておられるのを、みなさまは知らん顔をされるのでしょうか。「仕方がない」
という言葉をみなさまも使われるのですか?

辻下 徹(国立大学教員)

PS. 個人情報保護法案拒否!共同アピールの会という団体が4月に出したメッ
セージをご参考までに添付いたします。」

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[4-1]【国会議員諸氏よ、真正面から考えてほしい】
個人情報保護法案拒否!共同アピールの会
http://bustersjapan.org/documents/appeal5.html
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国会議員諸氏よ、
あなたたちはいま、
どんな法律を作ろうとしているか――ほんとうにわかっているか?

それが目の前にある。
個人情報保護法案という。

「個人情報は守らなければいかん」
と、あなたは言う。
私たちもそう思う。
「そのためには法律が必要だろう」
と、あなたは言う。
私たちもそう思う。

「じゃあ、今度の政府案を通せばいいじゃないか」
と、あなたは言うかもしれない。
だが、私たちはそうは思わない。
理由はふたつある。
ひとつ――この法案では、個人情報が保護されないからだ。
ふたつ――この法案が、個人と個々人の暮らしを破壊してしまうからだ。

国会議員諸氏よ、
政府案をよく読んでほしい。
要旨を斜め読みしたり、官僚の説明だけでわかったつもりになるのではなく、
立法府に身を置く一人として、
自分で読み、自身で判断してほしい。

個人情報保護法の政府案は二種類ある。
一方は、行政部門対象の法案であり、
もう一方は、民間部門対象の法案だ。
政府与党と官僚たちは、昨年末に廃案となった旧法案の「修正案」と呼んでいる。
批判を汲んで、修正したと彼らは言う。
よろしい。
あらためて、問題点を指摘しておこう。

行政部門対象の法案の修正は一カ所のみだ。
法案末尾に「罰則規定」が付け加えられたことである。
これまでなかったことがそもそも自分勝手な「官尊」だが、
修正案の中身もひどい。
小遣い銭欲しさに個人情報を密売したなどという利己的な事犯を罰するだけで、
官庁ぐるみ、組織ぐるみの事犯にはいっさい対処できない仕組みなのだ。
トカゲの尻尾切りに使われるだけの条文でしかない。
民間部門対象の法案では当該従業員の社長まで罰することになっているのに、だ。
こういうものを、立法府では「修正案」と呼ぶのだろうか。

行政部門対象の法案には、「センシティブ情報の収集制限」が盛り込まれていない。
センシティブとは、微妙、繊細、取り扱い注意の意味だ。
門地、人種、思想信条、性的指向など、人間のアイデンティティーに深くかかわり、
ときとして社会的差別を生じさせもする個人情報のことである。
ほぼすべての都道府県条例が、センシティブ情報の収集制限をしているのに、
なぜかこの法案だけが避けている。
おわかりだろう。
この法案が通ってしまえば、各地の自治体が積み上げてきた条例は紙くずとなる。

行政部門対象の法案は、「第三者機関」が不在だ。
行政機関は全国民の基本的な個人情報を、
もっとも網羅的に、もっとも継続的に、もっとも大量に収集・蓄積・利用している。
個人情報保護先進地域の欧米では第三者機関を設置して、
行政機関の個人情報取り扱いをたえずチェックしているのに、
どうして日本の政府行政だけがいやがるのか。

「政府や行政には外交や犯罪捜査という特殊な仕事があるから、一概に言えない」
などと、早合点しないでほしい。
外交や刑事事件にかかわる個人情報は、最初からこの法律の対象外なのだ。
ここで指摘しているのは、その他の行政機関の個人情報取り扱いをめぐってである。

一般的な個人情報の取り扱いをめぐって、日本の中央行政機関は、
どうしてこうも頑ななのか。
どうしてこんなにも秘密主義なのか。
どうしてこれほど傲岸不遜なのか。
収集・蓄積・利用されているのは、私たち一人ひとりの個人情報だということ、
もとをただせば、私自身のもの、あなた自身のものだということ、
それを忘れてもらっては困る。

自分の個人情報を自分で管理する権限を持つ。
これを、自己情報管理権という。
自分の部屋は自分で、自分の仕事は自分で、自分の生活と人生は自分で取り仕切る。
この当たり前のことが、自分の個人情報についてだけは、認められない。
それが、行政部門対象の政府案が言っていることである。
これをおかしいと思わないとしたら、立法府の一員としての資質を疑われる。

言いたいことは、まだいくつかある。
一年以内に消去される個人情報ファイルには、この法律全体の効力が及ばないこと。
各所に散在する個人情報を統合し、参照するデータ・マッチングの制限がないこと。
使い終わった個人情報を破棄する条項がないこと。
個人情報の目的外使用について、明確に禁止していないこと。
民間部門に対しては、いちいち当該個人に通知せよ、としているにもかかわら
ず、である
。
要するに、行政機関と官僚と公務員だけは誰の個人情報も使いたいように使える、
どう利用しようとも、誰にも指図させないし、されたくもない。
行政部門対象の政府案は、ただそう言っているだけの法案なのだ。

私たちの言っていることがでたらめや誇張だと思ったら、
どうかじかに法案に当たってもらいたい。
そこに、第三者機関やそれに類する言葉があるかどうか。
個人が自己情報を管理できる権利を認めているかどうか。
センシティブ情報に関する規定があるかどうか。
その他、ここに掲げた事項について、ないないづくしだということに気づくだろう。

それにしてもどうして、政府と行政は私たちの個人情報を勝手に集め、使いたが
るのか。
国会議員諸氏よ、
あなたはどう考えるだろう。

私たちの判断が間違っていないとしたら、
それは、戦後的政府、戦後的行政が終わりを迎えたからだ。
戦後日本は経済復興と経済拡大の道をひた走ってきた。
中央官庁が「行政指導」を通じて企業社会を動かし、
地方自治体が「地域振興」を謳って地域社会を動かす。
このふたつが車の両輪となって、経済中心の戦後日本を駆動してきた。
その意味で、戦後半世紀の統治手法はみごとなまでに一貫していた。
ところが、このふたつともが、「失われた十年」のあいだにずたずたになってし
まった。

地域社会は空洞化し、
企業社会は求心力を失った。
こうして私たちは、個々ばらばらに暮らしはじめた。
言い換えればそれは、
個人が社会とじかにつながり、
人間が世界と直接に向き合って生きる、ということだ。

それはまた、政府と行政の統治手法が変わらざるを得なくなったことでもある。
これから先は、個々人をじかに掌握・統治する――
おりしも電子技術が台頭し、コンピュータがそれを可能にした。
住基ネットが、その基礎となる。
個人情報の取り扱いが、その主要な業務となる。
だが、かつての経済拡大にかわる統治テーマはどこにあるか。

国会議員諸氏よ、
思い起こしてほしい。
一九九〇年代なかば、
住基ネットと個人情報保護法制の問題が持ち上がったとき、
担当官僚たちは何と言っていたか。
「大規模災害時に救援活動に役立つ」
「朝鮮半島有事の際の難民大量流入に備える」
彼らはそう説明していたのではなかったか。

危機管理と治安維持。
そのために全国民、全市民の個人情報を網羅し、たえず監視すること。
ここに、これからの政府と行政の新しい統治テーマがある。
これが、個人情報保護法制の政府案を支える思想となった。

しかし――
政府と行政が危機管理と治安維持と監視を統治課題とするとき、
近現代の歴史が教えるのは、
民主主義が危機にさらされる、ということだ。

危機管理と治安維持には強制力がともなっている。
政府と行政が強制力をもってふるまうとき、それははっきりとした、
「権力」になる。
私たちが目の当たりにしているのは、
戦後的政府と戦後的行政が権力へと姿を変えていく過程である。

だが、国会議員諸氏よ、
もうひとつ思い起こしてほしい。
民主主義はどのように始まったか。
民主主義はどのような仕組みを持つことによって生き延びてきたか。
権力の暴走を防ぐこと、
権力のふるまいを制御する仕組みを幾重にも作り上げること。
このことなしに、民主主義的な社会も世界も成り立たなかったのではなかったか。
行政部門対象の政府案には、この歴史の教訓が欠けている。

政府と行政が権力としてふるまおうとする野心は、
民間部門対象の個人情報保護法案にも露骨に表われている。
それは、
「包括法」という法形式、
「主務大臣」の権限の強大さ、
このふたつに端的に示されている。

「個人情報取扱事業者」は……と、政府案は言う。
個人情報を取り扱っている者すべてだ、と。
年齢にも、事業内容にも、営利か非営利かにもかかわらず、
個人情報を取り扱っている者すべてが、この法律の対象となる、と。
いったんそう定めた上で、数千件以下の小規模事業者を除外し、
報道機関や学術研究機関、政治団体や宗教団体がその目的の用に供する分野に関
しては、

「義務規定」を適用しないとする。
このように、まず全体に法網をかぶせ、
そのあとで部分的に引き算していく法形式を、
包括法という。

包括法は、強固な中央集権国家の形成には向いていて、
政府や行政が万民を捕捉し、管理・支配するには使いやすい法形式である。
しかし、個人情報の保護という目的にとって、
この法形式がふさわしいのかどうか。

ヨーロッパ諸国の個人情報保護法制の多くも包括法である。
だが、大きなちがいがある。
個人情報取り扱い上の不正・不当があったとき、
第三者機関が当事者間の調整・調停に当たることを原則にしているからだ。

日本の政府案はそうなっていない。
いきなり「主務大臣」が前面に出てくるからだ。
主務大臣が「報告の徴収」「助言」「勧告」「命令」の権限を持つ、とある。
総理大臣は国家公安委員会を主務大臣に指名することもできる、とあるから、
具体的には、警察が出てくる、ということである。
個人情報の取り扱いをめぐって、政府と行政がこれほど大きな権限を持つ法律は、
世界中を見渡しても、たぶん日本だけだろう。

政府与党は旧法案を修正したと言う。
旧法案にあった五つの基本原則を削除し、
義務規定の適用除外に、報道に携わる個人や著述家をふくめ、
マスコミなどへの内部情報の提供者を罰しないようにした、という。
だから、言論表現の自由に干渉することはないのだという。

国会議員諸氏よ、
日本国憲法にはどうあるか、思い出してほしい。
表現の自由は報道機関や専門家だけに付与された権利ではないだろう。
表現の自由は万民が享受する権利ではなかったか。
政府案は、表現の自由を報道機関と専門家の自由にのみ切り縮めている、
そう思わないか。

私たちは、個人情報保護のためには、
「個別法」を作るべきだと言ってきた。
各分野、各業界によって、集める個人情報もちがえば、収集・蓄積・利用の仕方
もちがう。
それぞれの実情に応じた法律を作るのでなかったら、何の役にも立たないと主張
してきた。
役に立たないばかりか、個々一人ひとりの、生きることそれ自体にある表現行為を、
萎縮させ、窒息させる危険すらある。

じつは、各個別分野の当事者たちも、
「こんな包括的な法律ができても、個人情報を守るルールにならない」
と、言っている。
「官僚たちが権力を手に入れたいだけなんだろう」 と、冷ややかに眺めている。
あなたたちはこの現実を知っているだろうか。
彼らは言っている。
「ほんとうは個別法を作ってもらったほうが、自分たちにもいいのだが」

たとえば、医療分野だ。 疾病を、生活習慣と遺伝子との関連でとらえようとす
る研究が始まって以来、
医者たちは患者の生活環境や遺伝子サンプルなどの個人情報を重視するように
なった。
しかし、患者は採取される個人情報がほんとうに自分の治療に使われるかどうか、
疑いを持ってもいる。
「医療不信を払拭するためにも、臨床の実情に合わせた個別法が必要だ」
と、多くの医者たちが言っている。

私たちは電気通信事業者に言ってきた。
「人と人のコミュニケーションを媒介する仕事は、
表現の自由の根幹にかかわっている。
あなたたちがいま、表現と通信の自由の理想を語らかったら、
たんに金儲けにしか興味のない連中と思われても仕方がない。
政府と行政に足下を見透かされるぞ」と。
案の定プロバイダー法などが作られようとし、彼らはユーザーの信頼を失おうと
している。
この業界でも、個別法への関心が急速に高まっている。

しばしば問題が指摘されるサラ金業界では、
「個別法でなければ与信情報は守れない」
という意見がもともと強かった。
たとえば警察から、ある人物の借入返済情報を見せろ、と要請されても、
この業界は裁判所の決定を条件としてきた。
しかし、いまの政府案が通ってしまえば、警察官は勝手に立ち入ることができる。
「包括法は役立たないだけでなく、危険な法律だ」
と、彼らは言っている。

私たちは、
各業界の個人情報取り扱いの実情に合わせた個別法を作るべきだ、
と、再度言う。
何度でも主張する。

政府案を押し通そうとする官僚たちが、要所要所に見せ歩いている資料がある。
「民間事業者による個人情報漏洩の事例」
なる資料である。
これだけいろんな分野で情報漏洩が起きているのだから、個別法ではダメだ、
包括法で全事業者、全国民に法網をかける必要がある、と説得するための資料だ。

国会議員諸氏、
よく見てほしい。
そこに一例でも、個々人が、非営利の個人や事業者が、
他者の個人情報を不正・不当に扱った事例があるかどうか。
ひとつの事例もないのに、あらゆる個人に法網をかぶせる意図がどこにあるのか、
国会議員諸氏よ、
よく考えてほしい。

私たちはいま、一人ひとりがばらばらに生きはじめた。
電子テクノロジーは、
その一人ひとりを電子データに分解し、流通させることを可能にした。
かつて人類が自我や個性という言葉で語ってきたことが、いまやデータになった。
そして、私たち一人ひとりが、
自己の個人情報の保護を求める者でもあれば、
他者の個人情報を利用して生きる者でもある。
この複雑な両義性に耐えられる保護法制とは何なのか、
どうか真剣に考えてほしい。

私たちは、あらゆる個人を法網でからめとる政府案に反対し、
廃案を求める。

2003年4月8日
個人情報保護法案拒否!共同アピールの会
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[5] 「米国大学の基金運用―財務担当責任者の真価が問われる」
船戸高樹(桜美林大学新宿キャンパス長) 
Arcadia 学報 No.114、  教育学術新聞 2003-04-09
http://www3.ocn.ne.jp/~riihe/arcadia/arcadia114.html
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
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