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国立大学独立行政法人化問題週報


Weekly Reports  No.111 2003.4.3 Ver 1
http://ac-net.org/wr/wr-111.html
総目次:http://ac-net.org/wr/all.html
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		    国立大学独立行政法人化問題週報

		  Weekly Reports  No.111 2003.4.5
		   http://ac-net.org/wr/wr-110.html
		総目次:http://ac-net.org/wr/all.html
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[111-1] 国立大学法人法案阻止・教育基本法改悪阻止 国会情勢速報No.6(03.4.4)
[111-2] 独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局声明2003年4月4日 
[111-3] 審議入り前の法案をあらかじめ「承認」することがメディアの仕事だろうか?
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各位

国立大学法人法案に対する具体的疑問点等を『交流連絡会』事務局
(renrakukai@u.email.ne.jp)に送付すると、国会で質問してもらえる可能性
が高いようです。締切は本日(4月5日)までになってます。

傍聴席が一杯のとき、議員の方々の審議も熱が籠ったものになります。当然の
ことです。4月16日、18日、23日の文部科学委員会には、関心のある
方はぜひ傍聴ください[111-2].                 (編集人)

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[111-1] 国立大学法人法案阻止・教育基本法改悪阻止 国会情勢速報No.6(03.4.4)
  独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局/独立行政法人問題千葉大学
  情報分析センター事務局:共同編集
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030403kokaijouhou6.htm
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4月3日本会議における質疑概要(速報)

 昨日衆議院本会議で行われた質疑の概要を以下にお知らせする。民主党の山
口壮(つよし)議員の質問は、法案の本質を鋭く批判するものであり、文部科
学省の関与が続き大学の独立性がそこなわれる危険性があると追及した。特に
「国家百年の計を誤りかねない悪法である」と断じたことが印象的である。自
由党の佐藤公治議員は、法人化が財政上・行政改革の観点からのものであると
指摘し、大学が経営に時間と手間をとられ、教育と研究がおろそかになるとの
懸念を表明した。共産党の石井郁子議員は、法人化の問題点を徹底して追及し
た。特に国立大学協会の同意をえていない点を質したが、これに対して遠山敦
子文部科学大臣がまともに答えられなかった点も注目したい。

 全体として、野党の質疑は法案の問題点を浮き彫りにするものであり、今後
も追及の論点を提示していくことが必要と思われる。

○山口つよし衆議院議員(民主党)

1. 90年代の政府の民営化路線の延長線上に国立大学法人法案がある。国立大
学「法人化」といい、あえて「独立行政法人化」と言わないことにより、予算
措置上の意味があるのか。

2. 法案は、大学における教育研究の活性化に対する解答になり得ていない。
中期目標は文部科学大臣ではなく国立大学が定めるよう、また、中期計画も文
部科学省による認可ではなく届出に改めるよう法案を修正すべき。

3. 国立大学法人評価委員会の委員の選出方法等は「政令で定める」となって
いるが、それでは透明性が確保できない。「法律で定める」ことに修正すべき。

4. 研究とは個人ないしグループによりなされるものなのに、法案では大学の
業務実績について評価することになっているのは無理がある。

5. 「産学連携の罠」に気をつけなければならない。すぐに役立つ研究や外部
資金を獲得しやすい重点課題研究が重視され、これが幅を利かせれば、例えば
京大のインド哲学科などは存亡の危機に立たされる。現にサッチャー時代の改
革の結果、伝統分野の学問が廃れてしまい、イギリスは何十年もかけてそのツ
ケを返さなければならなくなった。不況の打開策として産学連携に過度の期待
をすべきではない。米国の景気回復は産学連携の結果でなく、ドル安が進み国
際競争力が高まったためである。

6.役員が89大学に2〜8人ずつ。これに監事が2人ずつで、計681人もの役員が置
かれることになり、指定職が現在の何倍にも増える。天下り役員の増加は行政
改革に逆行する。

7.財務省が中期目標にも口を出せることになっているが、これまで財務省が国
立大学の研究・教育に関わることにまで口を出してきたことがあったか。度が
過ぎていないか。

8.この法案による改革はピントが外れている。現在の国立大学に問題があるの
は経営形態に問題があるからだろうか。もしそうなら、私立大学は国立大学よ
り優れていなければならないはずだが、実際にはほとんどの学問分野で国立大
学に遅れをとっている。過去20年間の科学論文の数では東大が世界の第2位、
京大・阪大・東北大など、50位以内に8つの国立大学が入っているが私大はゼ
ロである。わが国の文教費の対GNP比は3.55%で、欧米先進諸国より1〜2%低
い。韓国でも4.07%である。しかも、わが国の数字は近年落ちてきている。こ
れで小泉内閣が教育・研究に対する熱意をもっていると言えるのか。「米百俵」
ではなく、「嘘八百」だ。国立大学法人法案は国家百年の計を誤らせる悪法で
ある。

○遠山敦子文部科学大臣

1.今後とも国立大学法人に対する必要な財源措置を行う。

2.国が予算措置を行うため、中期目標の策定など最低限の関与は必要。作成に
あたっては大学の意見に配慮することになっている。

3.国立大学法人評価委員会は独立行政法人評価委員会とは別に設けるが、組織
の形態等は独立行政法人評価委員会にならっている。

4.評価委員会について関係法令を定める際には、広く社会に意見を求める。

5.基礎研究分野が衰退することはあってはならないことであり、各大学が見識
をもってのぞんでもらいたい。評価委員会や中期目標等でも目配りしていきた
い。

6.ひきつづき国立大学の再編統合を進めていくので役員数は結果的に適正化さ
れる。

○塩川正十郎財務大臣

7. 財務省が国立大学の教育・研究に直接クチバシを入れることはない。

8. 文教予算について、科学技術関連予算は増加している。義務教育国庫補助
が減ったので総額が減った。

○佐藤公治衆議院議員(自由党)

 六法案はそもそも必要であるのか。現行の国立大学の仕組みの中で、大学が
抱えている問題点を改正できなかった理由はなにか。

1.法案は、国立大学と私立大学の垣根をなくすことになるのではないか。大
学が経営に時間と手間をとられ、教育・学術研究がおろそかになる事態が生じ
るのではないか。

2.経営が失敗して大学単独では返済不可能な負債を抱えたり、医療裁判等で
巨額の賠償金を支払うようになった場合、だれが責任を、どのような範囲でと
るのか。

3.第三者評価の基準は明確になっていないのではないか。

4.教育改革は国の根幹にかかわる問題であり、政治と金に関する疑惑にまみ
れ、公約を平気で破り、国民の信頼を失っている内閣に教育改革を語る資格は
ない。

○遠山敦子文部科学大臣

 法人化は大学改革の一環であるという点は、政府の一貫した方針である。行
政組織としての一部であるため、教育研究の柔軟な展開に制約があるため、法
人化する必要がある。

1.法人化は国立大学の使命を前提としている。経営と教育、研究の職務内容
の適切な役割分担が大切である。

2.長期借入金は大臣の認可を要する。医療事故等に関しては損害賠償責任保
険への加入などが考えられる。

3.必要な事項は政令で定めることになっている。


○石井郁子衆議院議員(日本共産党)

憲法と教育基本法のもと、学問の自由と大学の自治を柱とした高等教育制度を
充実発展させること、高等教育に対する支出がGDP比で先進諸国の1/2以下とい
うわが国の貧困な大学政策を改めることが必要である。ところが政府は「小泉
構造改革」の名によって安上がりに、効率よく大学への統制を強めようとして
いる。

1.大学の中期目標を文部科学大臣が決める。中期目標において「教育研究の質
に関する事項、業務運営の改善及び効率化に関する事項、財務内容の改善に関
する事項秤w大臣が定めるのは教育研究の質にまで指示を与えること
であり、憲法23条の「学問の自由の保障」に反する。日本の大学で、これまで
政府・文部省が大学の学問研究の内容・計画を上から決めたことがあったか。

2.国による直接評価により教育研究に対する統制が行われる。国立大学評価委
員会による国立大学法人の業務実績評価は国による直接の評価であり、教育と
研究に対する国家統制である。しかも国立大学法人は総務省の政策評価・独立
行政法人評価委員会の評価も受ける。なぜ総務省が教育と研究について評価で
きるのか。この勧告権とはどんな権限なのか。数値化された評価や効率性など
が大学を支配するようになれば、産業に直接役に立つ研究や、国が重点投資す
る分野のみが偏重され、時間のかかる、すぐに成果が明らかにならない長期的・
基礎的研究分野は敬遠されるようになるのは必至である。

3.学長の専決体制がつくられる。法案では、強大な権限を与えられた学長と教
育・研究に直接タッチしない多数の学外者で大学運営が決められることになる。
教授会など大学の構成員の意見を反映する仕組みはどのようになるのか。

4.教職員の身分保障の問題がある。教職員の身分は非公務員とされ教育公務員
特例法の適用除外になる。大学の自治にとって大学教員の身分の保障が不可欠
である。教員選考における教授会の権限や教員等による学長選挙は保障される
のか。

5.国立高等専門学校の問題。全国55校の国立高等専門学校は一つの独立行政法
人国立高等専門学校機構にされる。高等専門学校には教育の自主性も自律性も
存在しなくていいというのか。自治機能を持つ高等専門学校へと制度設計すべ
きではなかったのか。

6.国の財政責任を法人に転嫁したため学費への影響が心配される。文部科学省
が昨年示した@人化後の学生納付金の標準額及び幅の設定方法A現行の
35%の値上げにあたる76万6千8百円を上限とした。これではお金のない人はま
すます大学に行けなくなる。

7.この法案提出にあたって大学の了解、合意は得られたのか。国立大学協会が
了承したとされる調査検討会議の最終報告「新しい『国立大学法人』像につい
て」と本法案には、大学の設置形態など決定的な相違点がある。法案に対して
の国立大学協会の見解は出されていない。

大学の法人化は、わが国の知的基盤である大学を掘り崩しわが国の発展にとっ
てとりかえしのつかない事態を招く。法案は廃案とすべきである。

○遠山敦子文部科学大臣

1.中期目標を作成する際に大学の意見に配慮する。政府が大学の研究・教育等
の目標を定めたことはこれまではない。国立大学法人は政府から独立した法人
だが、予算措置をともなうので、その根拠として中期目標の策定と中期計画の
認可が必要。

2.評価は有識者が行う。法人化自体により国立大学の役割が変わることはない。
従来の役割を自主的・自律的に発揮することが期待される。

3.重要事項に関しては、学長の決定に先立って役員会の議を経る。また審議機
関として教育研究評議会、経営協議会を設置し、慎重な制度設計となっている。

4.教員人事については、教育研究評議会の審議を踏まえて適切に行われると考
える。学長の選考方法は学長選考会議において決める。

5.高等専門学校は実践的技術者養成が目的であり、その制度設計は大学とは異
なる。

6.国立大学の授業料は文部科学省が設定する範囲内で定める。

7.これまで国大協とは意見を交わしてきており、十分な説明と理解を得ている。

○片山虎之介総務大臣

8.国立大学法人の業務実績評価については国立大学法人評価委員会が行うが、
主要な項目については総務省が勧告することになる。これはいわば2次評価で
あり、他の独立行政法人と同じ扱いとなることをご理解いただきたい。

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[111-2] 独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局声明2003年4月4日 
   「法案廃案に向けて審議の山場に全力で行動しよう
    −国立大学法人法案の国会審議の開始とわれわれのとりくみ−」
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/webnet-seimei-030404.htm
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○ 4月3日衆議院本会議において国立大学法人法案の趣旨説明がなされた後、
同法案に対する野党3党の代表質問が行われた。冒頭質問に立った民主・山口
壮議員は、法人法が憲法23条の保障する学問の自由を侵すものであることを
指摘し、産業政策としての大学改革になっているのではないか、と追及した。
そして最後に、国家百年の計を誤りかねない「悪法である」と断言して締めく
くった。自由・佐藤公治議員は、現在、法人法案を提出する根拠は何かと迫っ
た。また、大学が経営に時間と手間をとられ、教育・学術研究がおろそかにな
りかねないのではないかと指摘した。これらの質問に対して遠山文科相は事実
上回答を回避し、用意された答弁を棒読みするのみであった。最後に立った共
産・石井郁子議員は前二者の追及を引き継ぎつつ、さらに具体的に「なぜ総務
省が大学法人をチェックできるのか」と質問したところ、片山総務相は「大学
法人は独立行政法人と同様に二重にチェックする」と答弁、大学法人は結局独
立行政法人と同一視されることが明らかになった。また、「国大協総会の合意
はあるのか」との質問に遠山文科相は答えられず、「国大協には説明しており、
理解してもらっている」と強弁したのである。3日の本会議における質疑は、
多くの大学関係者が懸念してきた国立大学法人法案の危険な内実をいっそう浮
かび上がらせるものとなった。本会議での趣旨説明、代表質問に引き続いて、
文部科学委員会における審議は、16日(水)に開始される。政府与党は、国
立大学法人法案の本質が広く国民に明らかになる以前にわずか3日程度の委員
会で審議を終了させ、23日(水)には委員会通過を強行する可能性が高い。
数年間にわたって国立大学の独立行政法人化に反対してきた闘いは、今、きわ
めて重大な局面を迎えつつある。

○ 国立大学法人法案を廃案にするための闘いにおける第1の鍵は、教授会、
学部長(部局長)会議、評議会等、大学の正規の機関、国立大学協会、さらに
大学構成員の基本的組織である教職員組合、学生自治会、院生自治会(協議会)
などが法案に反対する明確な意思決定を行い、その決定を文部科学委員会での
審議の前に同委員会に送付するとともにマスメディア等を通じて社会に訴える
ことである。周知のように文部科学省は2月段階では各政党に対して「国大協
の意見が賛成でまとまったので国立大学法人法案を提出する」というデマゴギッ
シュな説明を行ってきたが、3日本会議での答弁では国大協の賛成を得ていな
いことを事実上認めざるをえなかった。国立大学法人法は、事実上国公私立、
すべての大学のあり方の全面的変更を迫るものである。すべての大学関係者の
明確な反対の意思表示が、世論を動かし、与党議員のなかにも深い影響を与え
て、国会議員諸氏の多数を、法案反対の立場に変えることを可能とする。なぜ
なら、ことは政治的な党派の問題ではなく、それとは独立した学問研究・教育
に関することがらだからである。国会での議論を稔りあるものにするためにも、
大学の現場から自らの見解を述べることは、大学関係者の民主主義的責務とい
えよう。

○ 第2の鍵は、国権の最高機関としての国会の機能を全面的に発揮させ、同
法案に関する徹底した審議を行うこと要求することである。そのために、我々
は、すべての大学関係者に対して以下の3つの行動を緊急に提起する。

1.国立大学法人法案の問題点を具体的に指摘し、それを質問形式にまとめて
16日の審議開始以前に文部科学委員に提出する。

2.広く国民の意見を聞くために地方公聴会開催、委員会への参考人招致など
を含めて徹底した審議を行うことを要求する。

3.文部科学委員会理事ならびに同委員、さらには国会議員諸氏に対して、与
野党の別を超えて、国立大学法人法案の危険な内実を訴える要請活動を展開す
る。

○ 第3の鍵は、国会に対して我々の関心の高さと強い反対の意思を行動によっ
て示すことである。具体的には以下の行動を提起する。

1.全大教の呼びかけに応え、16日以降、18日、23日、25日(この日
のみ未定)に予定されるすべての文部科学委員会の審議に対する傍聴活動に参
加し、問題の重要性を訴える。また、審議の内容とその問題点をただちに大学
内および社会に広く発表する。

2.審議の山場に対しては、請願権にもとづく国会請願行動を全国規模で行う。
とりわけ、委員会冒頭の16日、政府が審議打ち切りを策する危険のある23
日においては、大量の傍聴活動とともに国会への請願行進等多彩な行動によっ
て要請行動を行う。さらに25日にもそうした行動を継続する態勢をとる。

○ 国立大学法人法案反対闘争が、連休明けにも提出が予想される教育基本法
改悪の反対闘争と結合し、初等中等教育から高等教育までの全面的改悪に反対
する国民的闘いへと発展するならば、国立大学法人法案も教育基本法改悪も共
に打破することができる。政府は法案の危険な本質が明らかになる前に、国立
大学法人法案を連休前にも委員会を通過させ、諸悪法を強行する突破口にしよ
うとしている。諸悪法に反対する全ての勢力と連係し、共同の力で国立大学法
人法案反対闘争を進めよう。

○ 上記の行動を様々な団体が進めるために、「3.27教育基本法と国立大
学の法人化を考える集い」を準備した諸団体は、国立大学法人法案反対・教育
基本法改悪反対の共同行動委員会を結成した。同委員会からの行動提起に多く
の方々が参加されることを期待する。

補足1:

 4月16日文部科学委員会の日程は以下の通り。
   午前  9:00〜11:30
   午後 13:00〜14:45

 なお、4月18日、23日も同様の時刻です。25日にも開催される可能性が
あります。

補足2:

 国立大学法人法案に対する質問項目の集約を行います。

『「国立大学法人法案」に反対する大学教職員交流連絡会』の事務局アドレス
renrakukai@u.email.ne.jpまでお送り下さい。

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[111-3] 豊島耕一 全国ネット事務局長:3月27日付け朝日新聞社説批判
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030403zenkokanet.html
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審議入り前の法案をあらかじめ「承認」することがメディアの仕事だろうか?

           国立大学独法化阻止全国ネットワーク事務局長
                       豊島耕一
          http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znet.html
          http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet.html
              佐賀大学理工学部物理科学科

 朝日新聞は,国立大学法人法案の国会審議を控えて,「国立大学法人――自
己責任の時代だ」と題する社説を出した.しかしこれには法案そのものを第三
者的立場から分析しようという態度は全く見られず,審議に入る前からこれを
盲目的に「承認」するものとなっている.つまり,単にその実施方法などにつ
いて注文を付けているに過ぎず,法案そのものに対する批判や疑念などは一言
も書かれていない.前回1月16日付け社説同様,あるいは読売の3月1日付
社説にも負けず劣らず,同紙が独立したジャーナリズムであるのかどうかを疑
わせるのに十分である.

 今日だれでも法案をネットで閲覧することが出来るので,それがいかに異常
なものであるかということはすぐに確かめることができる.例えば,法案では,
「大学」とその設置者となる「法人」とがそれぞれの大学ごとに作られるので
あるが,これらの二つの組織の相互関係を規定する条文が見られない.という
より,「大学」そのものの規定が全くないのである.しかも法人の長と大学の
長とが同一人(学長)とされており,私学に喩えれば「ワンマン経営」を法律
で定めるに等しいのである.これ以外にも,異常な学長への権限集中と,これ
をチェックする仕組みの欠如など,およそ,それこそ今流行の「民主化」とは
正反対である.これに比べられるのは独裁国家の諸制度であろう.独裁国家の
政治体制の批判はよく見られるが,自らの国で同様の事が行われようとしてい
るのになぜ気付かないのだろうか.

 もちろん何よりも重大なのは,欧米にも例がなく,また戦前のわが国にさえ
存在しなかった,文部科学省から大学への命令制度,すなわち「中期目標」制
度の創設である.同紙は,2001年6月24日付の社説では,「こうした仕組みは、
時々の政府と一線を画して自由に真理を探求すべき大学にはふさわしくない、
という大学人が多い。同感である」としてこれを批判していた.さらに当時の
国大協の「対案」をも批判し,次のようにも述べていたのである.

 「期待外れなのは、代わる仕組みとして国大協が6月半ばの総会でまとめ
 た案だ。『中期目標は大学が申請し、文部科学大臣が認可する。もしくは、
 大学の申請を踏まえて大臣が定める』としている。中期計画も『大学がつ
 くって申請し、大臣が審査して認可する』という。これで果たして大学が
 「自主性・自律性さらには柔軟性を拡大する」ことになるだろうか。」

 もちろん同じ新聞社の中でも多様な意見があってよい.しかし同じ問題で全
く反対の見解を示す場合は,相互に何らかの言及がなされるべきだろうし,そ
れなしには読者は戸惑ってしまう.あるいはもしこのような懸念が解消された
のであれば,なぜそれが解消されるに至ったかを説明すべきだろう.

 このような,かつては同じ社説が指摘したはずの根本的な“規制強化”に目
を瞑って,「自立性の高い法人」とか「自由度が増す」などとどうして言える
のだろうか.自由になる部分があるとしても,それは箸の上げ下ろしについて
だけである.

 このように,行法化で独立性が高まるという見方の背景には,これまでの大
学が文部科学省の強い規制の下に置かれていたという認識があるのかも知れな
い.「調査検討会議」の発端となる2000年5月26日の学長会議の席上での文部
大臣の発言に,「現状では国立大学が文部大臣の広範な指揮監督権の下に置か
れる」というのがある.あるいは,社説の筆者もこれをそのまま信じたのだろ
うか.しかし文部科学省の権限を規定する「文部科学省設置法」にあるのは,
たかだか「指導・助言」であり,「指揮」という言葉も「監督」という言葉も
一切存在しない.つまり,現実に「指揮監督」が行われているとすればそれは
違法なのである.

 つまり,「文部科学省の強い規制」というものが,法制度の上でそうなって
いるのか,それとも法を無視してそれが行われているのか,ということが問題
なのである.現実は後者なのであり,法を守ることで大学は政府から相当自由
になれるのである.

 社説には明かに不正確な記述も見られる.中程より少し後に,「各大学が評
価委と話し合って、研究や教育、運営について6年間の中期計画を決める」と
あるが,これは法案の事を言っているのか,それとも何か裏情報のことなのだ
ろうか.法案に書かれているのは,大学は中期計画を作るが,文部科学大臣の
認可を要すること,文部科学大臣は認可に際し評価委員会の意見を聴かなけれ
ばならないとということである.これらを混同して,「大学が評価委と話し合っ
て決める」と誤解したのだろうか. 中期目標についても,「最終報告」では
各大学が原案を作るとされていたのが,法案では単に文部科学省が大学の「意
見を聴く」だけになり,また,「最終報告」が大臣は原案を「尊重する」とし
ていたのが法案では意見に「配慮する」だけになった.

 もともと社説とは,どちらかというと当たり障りのないことが書かれるもの
と思われており,普通の記事ほどには読まれないのかも知れない.しかしこの
件に関しては多くの大学関係者が注目していることは間違いない.その視線を
十分意識されるよう要望したい.記者クラブ制度という「護送船団」制度に守
られ続けたいために,当局批判に手心を加えるというのであれば,新聞は多く
の読者から見放されるであろう.(2003.4.3)

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編集発行人:辻下 徹 e-mail: tjst@ac-net.org