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国立大学独立行政法人化問題 週報
Weekly Reports No.27 2000.10.23 Ver 1
独立行政法人化問題 週報 Weekly Reports No.27 2000.10.23 Ver. 1
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(ミラーサイト http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/wr/wr-27-00a23.html)
総目次:http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/all.html
===============================目次===================================
[27-1]調査検討会議(第1回人事制度委員会2000.9.6)議事要旨
[27-2]田中弘允鹿児島大学長「国立大学の独立行政法人化−行革の論理の暴走−」
[27-3]黒川清氏(日本学術会議副会長)「日本の科学研究のあり方への提言」
[27-3-1]【大学改革への具体的提案】「システムとしては、国立大学を廃止。
[27-3-2]【日本が国際杜会での信用を得る具体的方策】
[27-3-3]黒川提言への諸コメント
[27-4]小淵港氏「独法化と国立大学予算」
[27-4-1]国立学校特別会計について
[27-4-2]愛媛大学の場合の独法化後の財政シミュレーション
[27-5]藤井久雄氏「独立行政法人化(国立試験研究機関の準備状況から)」
[27-6]全院協ニュース第201号(2000年9月)夏の省庁交渉・政党要請の報告より
[27-6-1](文部省との交渉より抜粋)
[27-6-2]京都大学院生協議会1999年度総長交渉を中心に(抜粋)
[27-7]小野善康著「景気と経済政策」より
[27-7-1]景気に対する政府の反応
[27-7-2]財政構造改革のタイミング
[27-7-3]企業のリストラの社会的意味
=============================内容紹介==================================
[27-1]調査検討会議(第1回人事制度委員会2000.9.6)議事要旨
文部省の独立行政法人化推進の決意が強く表明されている。
[27-2]田中弘允鹿児島大学長「国立大学の独立行政法人化−行革の論理の暴走−」
学長の方々による、日本社会に向けた、こういった発信が続くことを願いたい。
[27-3]黒川清氏(日本学術会議副会長)「日本の科学研究のあり方への提言」
日本の大学のinbreeding 解消を最優先する提言。日本学術会議軽視政策は日本
の国際的信用を落としているという指摘。
[27-4]小淵港氏「独法化と国立大学予算」
国立大学財政の基本的解説。国立学校特別会計の概要を知ることができる。また
独立行政法人化後に財政的に何が起こるかを愛媛大学の場合を例にとり予測。
[27-5]藤井久雄氏「独立行政法人化(国立試験研究機関の準備状況から)」
来年4月独法化する国立研究所で、どのような現象が起きているかの一例。
[27-6]全院協ニュース第201号(2000年9月)夏の省庁交渉・政党要請の報告より
院生の方々の鋭い議論にいつも感銘を受ける。文部省が学生の大学運営への参加
について前向きの発言をしていることは意外。京大総長の独立行政法人化への底抜
けの「楽観」には不安を感じる。
[27-7]小野善康著「景気と経済政策」
公共部門の縮小は景気が良いときにすべきだという主張は意外性があると同時に
正論であると感じた。国は公共機関だけでなく国民全体に責任がある、という自明
な視点が政府から欠如していることが浮き彫りにされている。
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[27-1]調査検討会議(第1回人事制度委員会2000.9.6)議事要旨
http://www.monbu.go.jp/singi/chosa/00000463
(◇は事務局の発言)
◇「今回お願いする調査検討会議については、独立行政法人制度のもとで国立大
学の独立行政法人化をする場合の、制度設計を具体的に検討いただきたいと考
えており、この会議にとりまとめをお願いしたい。」
◇「独立行政法人制度をよく研究すると、今の国立大学にないメリットがあっ
て、そのことを十分に活用したい。そして、その独立行政法人制度の枠組みの
中で必要な修正等を行えば国立大学にふさわしい制度になるだろうということ
を考えている。
独立行政法人制度の枠組みの中で考えるとすれば、どういった設計図がで
きるのかということを検討いただきたい。」
◇「独法化のスキームから離れれば離れるほど、国からの支援というメリットが
薄れる危険性があるので、あまり議論を拡散しないで、まず独法化のスキーム
に乗れるだけ乗った時にどこが問題なのか、そこを探っていっていただきたい
と考えている。」
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[27-2]田中弘允鹿児島大学長「国立大学の独立行政法人化−行革の論理の暴走−」
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00a/20-tanaka.html
「私は、国の行政改革の一環として考案された独立行政法人制度をすべての国
立大学に適用することについて、依然として深い懸念と危惧を抱いている。こ
の問題は単に国立大学のみならず、日本の将来に極めて大きな影響を及ぼすこ
とは明らかである。ここでは現時点で最も危惧される3点について問題の所在
をまとめてみた。事はあまりにも大きく、しかもいまだ問題の全容はその姿を
現していない。したがって、私どもはあらかじめ結論を先取りすることなく、
まず虚心に問題の本質に目を向けるべきであると考える。
...
およそ以上のように独法化問題は、日本の将来に深く関わる大問題であり、
しかもいまだ誰もその帰趨を見通せない段階にある。にもかかわらず、今の社
会で本質的議論の少ないことに大きな懸念を禁じ得ない。現行国立大学制は制
度疲労がきているので、独法化を使って大学改革を進めようといった考えがあ
る。もちろん国立大学には改革すべき点があるのは事実であるが、その不備な
点は何かを自覚的に明確化すること、次いでその不備な点は運営の工夫などに
よって改善できないのか、制度を変えなければならないとすれば、望ましい制
度設計は何かなどの諸点を検討しなければならない。これらの作業を省略して、
まず独法化の方向を決め、それから制度設計に入るといったことは、知の怠慢
と言われても仕方がないと思われる。私どもは、この重大な局面において、
ジャーナリスティックな風評に心理的に流されることなく事の本質をとことん
追求し、国民への説明責任を果たしつつ、未来の国民のために最善を尽くさね
ばならない。また、国立大学の制度設計の決定にあたっては、その重要性に鑑
み、密室での議論ではなく開かれた場における議論がなされ、政策決定の責任
の所在を明確にすることが必要であろう。何故なら大学の設置形態が一旦変更
されてしまえばその効果の判定に長い年月を要し、したがってその影響は永年
にわたって続くからである。私ども関係者全員が本質的に知的にかつ自覚的に
ねばり強くこの問題に取り組んでいくことが今求められていると思う。」
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[27-3]科学新聞(2000.10.13)黒川清氏(日本学術会議副会長・東海大学医学部長)
「日本の科学研究のあり方への提言−−国立大学の独立行政法人化を」より
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00a/13-kurokawa.html
[27-3-1]【大学改革への具体的提案】「システムとしては、国立大学を廃止。
三年以内に、学部、学科、研究科、組織編成、人事処遇、予算の自由化に向け
た規制を撤廃し、大学の自由とする。四年制カレッジシステムを導入し、教育
への責任を持たせる。その後、大学院GraduateSchoolへ進む。ただし、制度と
して必ず70-80%以上の学生を混ぜ、「inbreeding」ができないシステムとする。
大学に対して教育と研究それぞれを評価し、その結果を予算配分にも反映させ
る。
教「官」の給与は最大75%まで保証(米国の州立大学のシステム=休暇中は
授業がないため)し、残りは自分たちで努力、工夫する。例えぱ、研究費から
の自分の給与の取得、企業との兼業、社会人護座などの方法がある。そのため、
競争力のある大学ほど最低保証給与額パーセントは低く、例えばハーバード大
学は最高で10%程度である。年俸制とし退職金制度は廃止、国内外の年金制
度を再構築する。これによって、学長、学部長等の権限を保証する。
研究費は国公私の差別なくメリットのみで審査すべき。大学へは研究費に対し
てindirectcostを支給。国公立は既に税金で支援しているため支給率20〜3
0%と低く、私立は70〜100%と高くすべきである。このシステムこそが
米国の強さの秘密であり、フェアで競合的なこのシステムのもとで日本人も大
いに活躍している。国から独立している上で、競争力に墓づいた国の支援があ
るため、米国の一流大学はすべて私立である。
また、学生、大学院、ポスドク奨学金等を充実させ、自由にどこにでも移れる
システムを構築する。COEとなる国際的に開かれた競合的研究システムを構築
すべきで、そのとき日本人は50%以下とする。」
[27-3-2]【日本が国際杜会での信用を得る具体的方策】
「日本学術会議を真に日本の学術振興を図るための中心的機構にすべきである。
science councilの予算は、米国190億円、イギリス40億円、対して日本は
14億円弱である。しかも事務官以外の人件費はゼロ。こういった位置付けは
「国の国際的信用」の問題である。現在、科学技術振興調整費で検討している
「科学技術政策提言」などは日本学術会議に積極的な役割をさせるべきである。
また、日本学術会議自身も国の学術政策に積極的に貢献していく努力が必要で
ある。」
[27-3-3]コメント
、独立行政法人化が、黒川氏が批判するinbreeding問題を更に悪化させること
はほぼ確実であることは、[25-7]で紹介した益田氏の論説
http://www-masuda.cs.uec.ac.jp/‾masuda/etc/article0.html
が指摘している通りである。また、公立/私立の概念は日本と米国とでかなり
異なることは、国立学校財務センターの資料「大学の設置形態と管理・財務に
関する国際比較研究―第一次中間まとめ― (抜粋:
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00329-oosaki.html
)からわかる。
なお、「教「官」の給与は最大75%まで保証し、残りは自分たちで努力、
工夫する。」という部分について、少し違う見方をニューヨーク大学の原あき
子氏が、指摘している:
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp./forum/message/1737.html
また、Juniata Collegeの落合栄一郎氏は黒川氏の提言を吟味している:
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp./forum/message/1735.html
落合氏は「日本全国の大学学長殿」という投稿を高等教育フォーラムにしている:
http://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp./forum/message/1728.html
日本学術会議についての黒川氏の主張[27-]は重要。210名の日本学術会議
会員が、選出された分野の得失を越えて、戦後の設立時の原点に立ち戻り、高
い視野から日本の学術体制全体の向上に腐心して頂くことを願って止まない。
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[27-4]小淵港氏「独法化と国立大学予算」『経済』(新日本出版社)2000年9月号
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00a/22-kobuchi.html
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[27-4-1]国立学校特別会計について
「国立大学の財政は、戦後しばらくは一般会計において処理されていたが、1
964年(昭和39年)以降は一般会計から分離されて国立学校特別会計にお
いて行われてきた。特別会計とは、政府が特定の事業を営む場合、特定の資金
を保有し運用を行う場合、あるいは特定の収入を特定の支出にあてる場合など
に、一般会計と区別して設けられるものである。国立学校特別会計の場合には、
授業料収入、附属病院収入、財産処分収入などの自己調達財源と一般会計から
の受入金とを財源として、国立大学、附属学校、附属病院、研究所等の運営が
行われている。
特別会計への移行は当時余り大きな議論もなく、大蔵省主導で行われたよう
であるが、その主たる意図は理系学部増設等で予算の増加率と規模とが相対的
に大きかった国立大学予算を特別会計に移すことで、一般会計の膨張をみかけ
上抑制しようとする「財政合理化」にあったとされている。
また関係者の説明によると、国立学校の弾力的な運営、施設の急速な充実整
備が制度変更の目的であって、これにより、学校所属の不用財産の処分収入を
施設整備にあて、財政投融資資金の借入を大学付属病院等の整備に用い、決算
剰余金の一部を積立金として施設整備にあてるなど、従来はできなかった財政
運営を行いうるようにしたのである。
高度成長を背景に進められた理工系学部拡充や工業高等専門学校の新設に伴
う施設整備などが、一般財源だけではなく、借入や財産処分収入などをも財源
にして進められることとなったのである。特別会計移行後しばらくは、政治的
判断で授業料の値上げが押さえられたが、国立大学の施設の貧弱さは授業科が
安いからだという主張が政府によって行われ、あるいは私立大学との格差是正
を理由として、やがて授業科・入学金の大幅値上げの時代に移っていくことは
良く知られている通りである。」
#なお、平成15年から国立学校特別会計を廃止し、新しい会計ルールを作る
作業を平成14年中に行うことが決まっている、という情報がある(発行者)。
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[27-4-2]愛媛大学の場合の独立行政法人化後の財政シミュレーション
「愛媛大学の98年度の歳出総額は、(..医学部付属病院を除外して考えて
みると..)歳出206億8000万円に対し、歳入57億600万円で自己
財源率は27.6%にすぎなくなる。..自己財源の内訳を見てみると、授業
科・検定科が47憶6400万円、雑収入9億1500万円であり、財産収入
はゼロである。..
独立法人化された場合、政府は独立採算制ではなく連営費交付金で措置され
ると言っているが、運営の効率化と自己財源の調達努力を求められることは火
を見るより明らかだと言ってよい。そこで最悪のケース、公費負担が無くなっ
た場合を想定してみると次のようになる(病院を除外して計算)。歳出206
億8000万円を自己財源で賄おうとすると、何らかの方法で158億250
0万円の増収をはからなければならない。これを授業科のみで行おうとすると、
大学院を含む在籍者数9828人で計算して一人当り約161万円の投業料値
上げが必要となる。外部資金の獲得に努めて、雑収入を30億円まで増やした
としても、授業科は約140万円の引き上げが必要である。このような授業科
の徴収は不可能であり、公費負担無しで行おうとすると教職員の大幅削滅が必
要となろう。
もう少し現実的に、公費負担が歳出の二分の一まで引き下げられたとしよう。
この場合には103億4000万円を自己調達する必要があり、外部研究費を
15億円集めたとしても、授業科は89.9万円(計算上入学金は無視する)
となり現在の約二倍に引き上げることが必要となる。また、この場合には学部
格差授業科を設けることが避けがたくなるが、格差の設定の仕方によっては医
学部の授業科は現在の五倍にする必要がある。
今日の財政状況と政府の政策動向からする時、独立法人化されれば、従来同
様の財源が保障されるとは考えられず、授業科の引き上げ、外部資金の獲得、
経常的経費の削減などが強く求められることになるであろう。しかし、景気の
長期停滞の中、外部資金は、特に地方国立大学では大幅な増収を期待すること
はできない。大学財政の構造は人件費の比重が高く、財政の効率化を備品や消
耗品の節約で達成することは困難である。行きつくところは、授業料の引き上
げと教職員の人員削減という最悪の方向である。」
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[27-5]藤井久雄氏(森林総合研究所・森林NGO緑友会事務局)
「独立行政法人化(国立試験研究機関の準備状況から)」
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/00a/22-ryokuyuu.html
「独立行政法人化についての大きな危惧の一つに、独立行政法人化の「独立」
とは名ばかりで実際は研究の国家管理やトップダウンが強まり、学問の自由や
社会的に必要な研究が損なわれるのではないかということが、従来より言われ
てきています(今まで独立性の強かった大学では、一層強く危惧されていると
思います)。実際の独立行政法人化準備の経過を見ますと、従来から上意下達
性の強かった国立試験研究機関でさえ、その様な危惧は非常に大きくなりつつ
有ります。
例えば、現在の森林総合研究所の独立行政法人化案では、殆どの研究課題のプ
ロジェクト化・チーム化(従来経常研究と言われていたものを廃止し、チーム長
の元でのプロジェクト推進体制をつくる)、研究室を大研究室化する(現在1研
究室平均4人足らず程度のものを倍程度にするという未経験の改革)等の方針が、
一方的に進められつつあります。他方で、従来より行政監察等ですら指摘されて
いた、‘研究しない管理職(科長等)が多すぎる’といった真の問題点はなんら
改善されることなく、既存の管理職数を維持できるような組織作りが進められて
います。しかもこうした組織案作りが、殆ど職員の全所的討議なしに、管理職と
管理職によりつくられた閉鎖的委員会および行政主導で一方的に作成・決定され
ている状況にあります。
それのみならず...
...
結局研究費重点化の結果生じたのは、研究者が利己主義化し、国民のため・
人類のための研究ではなく自分の研究費・給料のための研究が増え、研究結果
が間違っていようと国民のためにならなかろうと研究費・給料が得られれば良
いという風潮です」
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[27-6]全院協ニュース第201号(2000年9月)夏の省庁交渉・政党要請の報告より
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/8324/001018news.html
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[27-6-1](文部省との交渉より抜粋)
全院協:大学院生の就職状況が厳しい。また、就職活動も野ざらしにされ、あ
る大学ではマスターの1年の秋までに就職が決まるのが普通といわれるところ
もある。研究ができない。何らかの措置・保障が必要だ。実態把握も圧倒的に
遅れている。
文部省:就職活動の早期化・長期化は、文部省も日経連に出向いて要請を行っ
ている。また、各大学での就職支援をお願いしている。進路状況の把握は、学
校基本調査で行っている。
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全院協:大学院生の声を大学運営に繁栄させるような仕組みを。大学の自治を
尊重してほしい。
文部省:大切なことだ。アンケートや学生代表との話し合いをやりたい。各大
学の取り組みに期待している。一般経費についても、国立では積算公費を、私
立では私学助成をそれぞれ増やしてきている。
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[27-6-2]京都大学院生協議会(京と略)1999年度総長交渉を中心に(抜粋)
京:通則法のもとでの独立行政法人化がなぜ学問の発展にとって問題なのかと
いうと、学問の自由が制限され、人事と予算を監督省庁に握られてしまうこと
だと考えている。特例法ではこれが避けられるのか。
総長:そういう危険性がないように、特例法を一生懸命つくらなくてはならない。
文部省の中で調査・検討の会議をつくり、特例法の詳細な内容を決めたい。こ
こで、大学としてのしっかりとした意見を反映させていく。「引けない線」だ。
...
総長:特例法のもとで研究の自由が失われる心配があるようだが、この研究をし
ろというような指示が上から来るとは考えられない。産学連携についても、今
以上には進まないと思う。文系理系の間の配分も、大学内部の議論の結果、行
われるようになるだろう。
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[27-7]小野善康著「景気と経済政策」岩波新書576(1998) 4-00-430576-4より
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/common-sense/00a-ono.html
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[27-7-1]景気に対する政府の反応
p71:社会にとって望ましいことと、個々の企業や銀行の行動とのギャップ
を埋めることのできる唯一の主体は政府である。ところが、実際には政府も不
況期には〈供給側〉の考え方である「小さな政府」論にのって、行財政改革、
省庁の整理、公共事業費の削減を推進し、民間の内向きの効率化に同調してい
る。公共部門は効率が悪いから、縮小してなるべく民間に任せようというわげ
である。
これは、政府が責任を持つ範囲は公共部門であり、あたかも経営者が自分の
企業の効率だけを考えるがごとく、政府も公共部門の効率化だけを考えていれ
ばよい、という発想から来る。しかし、民間企業との対比でいえば、株主や社
員は公務員だけではなく、国民全体なのだ。公共部門や公共事業の縮小によっ
て失業者を増やし、効率化したと満足するのは、企業内の労働力の一部(公共
部門)を整理し、窓際族(失業者)を増やして満足するようなものである。政
府は、失業者をどの部門で効率的に吸収するのかまで、責任を負うべきである。
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[27-7-2]財政構造改革のタイミング
p108:財政構造改革を行うならば、次のような原則に基づいて行うべきである。
(1)不況期には躊躇せずに国債を発行し、公共事業を増やして、金の無駄遣
いではなく、労働資源の無駄遣いを最小限に抑える。
(2)好況が来たら、直ちに公共事業を減らすとともに、増税して国債を償還
する。また、国庫金を黒字にして、次の不況期のための準備金にしてもいい。
そうすれば、不況期には思い切った財政出動ができる。
(3)以上の点を明確にするために、財政構造改革法では、有効需要と潜在生
産力との乖離によって、歳出規模や国債発行規模を決めることを、明文化すべ
きである。その指標としては、完全失業率や稼働率が考えられよう。
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[27-7-3]企業のリストラの社会的意味
ここで筆者は、各企業や各個人が効率化努力をしなくてもいいから、彼らを
支えるようにしろといっているのではない。各企業の効率化努力や、各個人の
能力開発の誘因は維持しなければならないが、失敗した者に対しては、政府は
受け皿を作るべきだといっているのである。好況時には民間が自分で受け皿を
用意しているが、不況時には政府が受け皿を用意しなければならない。
こういうと、受け皿があれば効率化努力をしないという意見もあるかもしれ
ない。しかし、そうであれば、好況時には効率化努力はもっとしないであろう。
なぜなら、失業しても人手不足で職がすぐに見つかるからである。不況期に努
力しないで職を失っても政府が雇ってくれるから何とかなると考える程度と、
好況期に職を失っても人手不足だからすぐ次の職が見つかるさと考える程度と
では、明らかに好況期の方が楽観的になるであろう。そのため、不況期よりも
好況期のほうが危機感は小さく、効率化努力や勤労意欲は低いはずである。と
ころが、つい10年前の好況期には、日本企業の生産効率や労働者の勤労意欲、
日本的経営システムや社会システムは世界一だと誇っていた。逆に現在の不況
期には、日本的構造は甘えの構造であり、そのため目本の生産効率は低く、失
業する人や倒産する企業は甘やかすとさらに努力を怠るから、もっと厳しくし
ないといけないといっている。まったくあべこべである。」
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発行者: 辻下 徹
homepage: http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst/
e-mail: tujisita@geocities.co.jp
総目次:http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/all.html
登録http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/mg2.html
発行部数 1024 (2000.10.15現在)
内訳:Mag2:579 / CocodeMail:319 / Pubzine:60 /Macky!:33 / emaga:21 / melma:12
その他直送 約 200 /ダイジェスト版直送 約 2000
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End of Weekly Reports No.27 2000-10-23
**この週報は発行者の個人的な意思で行っています**
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