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Weekly Reports No.39 2001.2.05 Ver 1
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/wr/wr-39-01205.html
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━━━━━━━━━━━━━━━目次━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[39-1]文部科学省第151回国会提出予定法律案について
[39-2]文部科学省調査検討会議組織業務委員会 第7回 (2001年1月30日)
[39-2-1]■組織業務委員会作業委員論点整理(PDFファイル)
[39-3]大学懇談会をわずか3回で打ち切りに(2/1)
[39-4]次期北大学長に中村睦男法学研究科教授選出
[39-5]全大教「独法化問題プロジェクト」中間的問題整理
[39-6]三輪定宣氏「国大独法化と「国立大学法人」問題」
[39-7]国大協署名運動への「国立大学OB・アカデミズム界からの支持」
[39-8]日本育英会奨学金制度を考える若手科学者の会署名運動
[39-9]おやじの会論説室「国立大学の独立行政法人化には反対だ」
[39-10]池田浩士氏「国立大学「独立行政法人化」がもたらすもの」
[39-11]高橋順一氏「混迷の大学改革論議を読みとく」
[39-12]学級崩壊について
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[39-1]文部科学省第151回国会提出予定法律案について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/01/010170.htm
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[39-2]文部科学省調査検討会議組織業務委員会 第7回 (2001年1月30日)
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/socho/agency/chosa-soshiki.htm#l07
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[39-2-1]■■■組織業務委員会作業委員論点整理(PDFファイル)■■■
http://www.hokudai.ac.jp/bureau/socho/agency/k130130-01.pdf
委3は「第3回組織業務委員会」での意見。数字は第何回委員会かを指す。
数字がないのは文書。委:委員、協:国大協、文:文部省、自:自民党
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4 法人化の意義
国立大の自主性・自律性の大幅拡大・個性化(文)
護送船団方式を脱却させ競争的環境に置く(自)
国立大学間の再編統合の推進(自)
教育機能の強化(自)
大学の自治の拡大(委1 )
大学の自治と自主性の拡大(文1 )
大学の活性化(文1 )
大学公社論などが昔からあった(文2 )
大学改革の一環(委2 文2 委5 )
国際競争力強化(自 委2 )
競争原理による研究・教育費配分で極端な場合は廃止となる国立
大もあり得る(委2 )
現在の自治には保障する条件が欠けている(委2 )
自主性・自律性確立(文2 )
自己責任(委2 委3 )
個性化(自委3 )
マネジメントの自律性(委4 )
法人格と大学の自律性・自主性は関係ない(委3 )
学問の自由は一国の存亡にかかわるほど重要(委5 )
大学の自治は研究の内容・教員人事・管理運営・財政の自治権を
持つこと(委5 )
【調整を必要としている意見】
■「競争的関係」の要・不要
【検討内容:次のようなことでよいか検討する】
国立大学の自主性と自己責任を拡大し個性化を進め国立大学の学術研究と高等
教育等における質の向上を図る。
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11 独立行政法人制度との関係
11-a
■閣議決定は独法化する結論を出せということではない(文1 )
■行革会議最終報告も独法は1つの選択肢といっておりこれがふさわしいとは
言っていない(委1 )
別途の法人を考えねばならないか(委1 )
通則法の修正では良い知恵がでない(委4 )
【調整を必要としている意見】
見解A1 国立大学法人は独立行政法人とは別の法人とする。国立大学法人法と
通則法は関係がないものとする。
見解A2 国立大学法人は独立行政法人とは別の法人とし国立大学法人法で通則
法との関係は述べないが、実質的に準ずべき点は準ずる。
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11-b
通則法のままでは反対(協)
通則法調和型は問題・通則法修正型が最低必要(協)
通則法の基本的枠組みを踏まえた特例法または調整法(自文)
大学の特性に配慮しつつ独法の仕組みを活用することは適切(自)
運営費交付金は自立性を高める(文)
長の任免・教員人事・中期目標計画・評価・組織運営等で調整が必要(文)
文部省は独法化の検討を決めた(文1 )
独法でも研究者の自立性は尊重(文1 )
独法は運営の自主性自律性を高める仕組み(文1 )
通則法2 条の目的は上位概念たりうる(文2 )
財源を確保しながら手直しを(文2 )
独法と別形態には現実性がない(委3 )
中期目標等を前提にして手直し(文自)
現行の国立学校設置法とは別の法律独立行政法人通則法に基づく個別法または
特例法の中で組織運営を位置付けるべき(文4 )
組織については独立行政法人通則法を踏まえた法律である個別法または特例法
の位置付け(文4 )
通則法は大学になじまない点がある(協、文、自、委1 、文1 )
効率性目標は不適(協)
行政サービス向上・効率化は不適(委2 )
業務方法書は大学になじむか(文2 )
中期目標等通則法の規定によって議論するのは本末転倒(委3)
【調整を必要としている見解】
見解B1 :独法と関係
国立大学法人は独立行政法人の特例とする。法的には国立大学法人法を通則法
の特例法とする。あるいは国立大学法人特例法を作る。
見解B2 :独法と関係
国立大学法人を、法律に基づき自治権を有するところの、独立行政法人の特例
とする。国立大学法人法の1 つの条文で特例法であることにふれる。
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11-c
通則法との調整事項は個別法で規定できる可能性もある(文4 )
見解B3 :独法と関係通則法以外には、個別法を個別にまたは短冊で作る。
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11-d
■■■見解C:退路の可能性は否定しない(文1 、委1 )
【検討内容:次のようなことでよいか検討する】
現状通り
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[39-3]大学懇談会をわずか3回で打ち切りに(2/1)
発行者から北大学長への要望書(2001.2.3)
「 この度、「21世紀の大学を考える懇談会」が打ち切りになったとの毎日
新聞報道 (■1)がありました。懇談会打ち切りについて、文部科学省と国
立大学協会との間 でどのような話し合いがあったか、等の情報公開をお願い
致します。また、今回の措 置を新文部科学省の高等教育・学術研究軽視の姿
勢として抗議すると共に、新文部科学省を批判する声明を日本社会に向けて国
立大学協会として発表するよう、働きかけてください。
この懇談会は昨年6月の国立大学協会総会の合意事項第4項(■2)に呼応
して設置 されたものと了解していました。「省庁再編のあおりを受け、見直
しの対象」となる 程度の理由では、打ち切りには誰も納得がいかないと思い
ます。打ち切りを思いとどまるように文部科学省と交渉するようお願い致しま
す。
以下、関連する資料を添付します。資料は以下にあります。
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/21univ-kon/index.html
■1 毎日新聞報道2001.2.1
http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kinkyo/index.htm#2/01_2
「<特報・文部科学相>大学懇談会をわずか3回で打ち切りに(2/1)
昨年9月に発足したばかりの文部科学相の私的懇談会「21世紀の大学を考える懇談
会」が31日、わずか 3回の審議で突然打ち切りになった。今後の大学のあり方を
総合的に考える場として発足した大臣直轄の懇談 会だったが、省庁再編のあおりを
受け、見直しの対象になった。3回で中止になるのは極めて異例といえる。 [毎日
新聞 2月 1日] 」
■2 昨年6月の国立大学協会総会の合意事項第4項
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/006/14-kdk-giji.html#goui
「一国の高等教育政策は,国民,地域社会,人類社会の利益という視点から,長期的
な展望のもとに議論されねばならず,それには,国際的動向をもふまえた恒常的な政
策決定の機構が必要である。国立大学協会は,この際,科学技術基本計画に対応する
学術文化基本計画の策定を課題とする議論の場の設定を強く訴えたい。」
■3 文部大臣裁定「21世紀の大学を考える懇談会について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/002/gaiyou/000901.htm
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1.趣旨
我が国の大学の在り方を長期的な視点から展望し、学問分野のバランスなどを含め、
今後の大学を中心とする高等教育及び学術研究の振興の在り方について、学識経験者
による懇談を行うものである。
2.懇談事項
(1)今後の我が国の社会、経済及び文化の発展において大学を中心とする高等教育
及び学術研究の果たすべき役割
(2)学問分野の望ましいバランスの在り方及びその確保のための方策
(3)その他大学を中心とする高等教育及び学術研究の振興の在り方
3.実施方法
(1)別紙の学識経験者の参加を得て、上記2に掲げる事項について懇談を行う。
(2)必要に応じ、別紙以外の者の参加を得ることができる。
4.実施期間
平成12年9月7日から平成13年3月31日までとする。
5.その他
この調査研究に関する庶務は、学術国際局学術課の協力を得て、高等教育局企画課に
おいて処理する。
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■4 第一回の会合議事概要
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/002/gijiroku/001/000905.htm
によれば文部大臣は次のように述べている。
「私が考えているのは,全体論として21世紀の大学がどうあるべきかという
ことで ある。現実も踏まえながら,総論として日本の大学のあるべき姿を考
えるためにこの 懇談会を設置した。いただいた意見はしっかりと受け止め,
この会議を単なる議論の 場として終わらせない決意をもっている。初等中等
教育の改革については政府として 一定のスケジュールに乗っており,次は,
大学の問題である。2000年の初頭にお いてきちっとした方向付けをし,
今日までやってきた施策の中で更なる取組が必要な ものについてはしっかり
取り組んでいく覚悟で,みなさんに御議論をお願いしてい る。」
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[39-4]次期北大学長に中村睦男法学研究科教授選出
北大ネットアンケ−トへの回答より
http://www.ac-net.org/home/hokudai/gakuchousenkyo/kaitou.html
I. 国立大学の独立行政法人化について
【I-1】 国立大学の独立行政法人化問題は、国立大学の将来を規定する極め
て重要な問題です。 本来、設置形態のあり方は大学が自ら考えて自ら追究し
ていくべきと思われますが、現在の状況は必ずしもそのようになっていないよ
うです。この点に関して、どのようにお考えでしょうか。
国立大学は、これまで文部行政の附属機関と位置づけられ、大学総体として
国の学術・科学・高等教育全般について論議する場が極めて狭いのが実情でし
た。そのため国立大学の設置形態を左右する独立行政法人問題も、行政と議会
において基本的な方向づけがなされる結果となっております。現在、国立大学
協会と「調査検討会議」において「調整法(又は特例法)」に関する検討がな
されており、学問の自由と大学の自治を尊重したよりよい法律を作るため、本
学として、その場に積極的に参画し続ける必要があります。また、議会と行政
に対しても、「国立大学の教育研究の特性」を尊重するよう、あらゆる機会を
通じて、本学の意見を反映させたいと考えております。
【I-2】 独立行政法人化の諸問題についてのお考えを是非お聞かせ下さい。大
学改革 にとっての大学法人化の得失、国立大学協会・北大が各々取るべき方
針、最終的な決 断の方法、等々を含めてお答え下さい。
本学では、1997年10月に「国立大学の独立行政法人化」に反対の意思
を表明し、また、国立大学協会も「通則法はそのままの形で適用することはき
わめて困難である」という観点から反対してきました。通則法に基づく独立行
政法人化は、戦前より私たちの先人が営々と築いてきた学問の自由と大学の自
治の観点からみれば、問題をはらんでおります。学問の自由と大学の自治から
は、大学の判断とは独立した形で、国が一方的に大学の目標を定めることがあっ
てはならないと考えます。また、教官人事については、それが大学の自治の根
幹でありますから、外部からの影響によって左右されてはならないと考えます。
さらに、大学人の主たる職務とする高等教育と学術研究の評価については、専
攻分野の教育研究者による相互評価(ピア・レビュー)による必要があると考
えております。
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[39-5]全大教「大学・高等教育研究会独法化問題プロジェクト・中間的問題整理
http://www.zendaikyo.or.jp/dokuhouka/zendaikyo/tyukanseiri.htm
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[39-6]三輪定宣氏「国立大学の独立行政法人化と「国立大学法人」問題」
http://www.ac-net.org/doc/01/131-miwa.html
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[39-7]国立大学協会署名運動への「国立大学OB・アカデミズム界からの支持」
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/kdk-shomei/meibo.html#OB-meibo
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[39-8]日本育英会奨学金制度を考える若手科学者の会署名運動
http://pfg.riken.go.jp/‾ikuei/index.shtml
「私は日本の科学技術の推進のため、日本育英会奨学金の免除制度の廃止に反
対し、同制度の抜本的な見直しと制度拡充を求めます。」
http://pfg.riken.go.jp/‾ikuei/list.html
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[39-9]おやじの会論説室「国立大学の独立行政法人化には反対だ」(2000.7.28)
http://oyaji.room.ne.jp/‾sam36/opinion/o_82.html
「もちろん日本の国立大学に多くの問題があることは否定しない。日本の大学
の問題点の一つは、大学間に格差はあっても競争がないことだろう。同時に、
大学教授の間にも競争はない。しかしこれは「国立であるから」というのが問
題でないことは、欧米では大学間競争が激しいことから明らかである。アメリ
カやドイツの大学では、優秀な学者を奪い合い、国からの研究費を取り合うと
いう激しい競争がある(これには「州」間に競争があるということも影響して
いるが)。・・・」
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[39-10]池田浩士氏(京都大学)対談「国立大学「独立行政法人化」がもたらすもの」
http://www.imadr.org/japan/interview/ikeda/hirosiikeda3.html
「これは、誤解しないで欲しいんですけれども、いわゆる(国立大学の)「独
立行政法人化」に反対するという脈絡でこれを聞かないで欲しいんですよね。
つまり、独立行政法人化になったら必ずこういうことが起こるから、だから独
立行政法人化にも反対しているんだ、そういうベクトルで聞いていただきたい、
独立行政法人化に反対するために今これを論じているのではない、ということ。
・・・
今の京都大学の場合、工学部が異様に肥大化してしまっていますね。学生だっ
て半分近く工学部です。教官でも半分近くがそうです。ハイテクノロジーに関
わる分野の発想が、さっき言った梵文学のような分野の領域を呑み込んでしま
う、という風になっているわけ。そうすると、本当にテンポが遅い人とか、テ
ンポが遅くならざるをえないような分野の研究者や学生がほとんどいる余地が
無くなってくるんですよね。
で、こんなことを言うと税金を払っている人に本当に失礼で、何ていうこと
を言うかって思われるかも知れないんだけれども、例えば小学校や中学校で
「落ちこぼれ」といわれる子供たちがいる、と言われていますよね。国立大学
に入って、大学の研究者になって、それで落ちこぼれなんてケシカラン、許せ
ないという見方もできるし、僕もある程度そう思います。そう思うんだけれど
も、やっぱり子供にしたって「落ちこぼれ」ても、人間として劣っているとい
うことでは決してない・・・つまり、あるシステムの中で効率とされているも
のを発揮できないということであるわけだから。
そうすると大学にも今の国策から見たときには、「落ちこぼれ」としか見え
ないやり方でのみ研究可能な分野と関わっている研究者や学生がいるセクショ
ンというものが当然あるわけです。で、そういうセクションを今や許容するこ
とができなくなっているし、独立行政法人化されたら完全に無くなります。あ
る意味で、生き残るために大学が自主規制で先取りしていますよね。効率を上
げるということで。
京都大学は解体された方がいいし、日本という国家は滅びた方がいい・・・
国家が滅びる、これは夢ですけれども、実は僕はそう思っているんですが、そ
ういうためには逆にいいと思っています。京都大学も日本も「りっぱ」になる
必要はないからね。効率、効率とか言ってて、そのうち「あっ!」って気が付
いたときにはもう手遅れになって後戻りがきかない。何十年もの蓄積が必要な
ものを潰してしまうわけだから。丁度一度田んぼを潰したらまた米を作るのが
大変なようにね。取り返しのつかないところに日本という国家は行っているん
だなぁと思うので、これはメデタイことだと思うんですけれども、でもちょっ
と寒いですね、本当にね。
大学の中から見るとそう見えるんだけれども、実は社会全体がそうなってい
ると思うんですよ。効率と結びつかないものをすぐに切り捨てる、そういうも
のがもう生きられないようになってしまっている。これはもう誰もが実感して
いることですよね。さっき僕がIT革命云々が怖いと言ったのは、そういうこと
でもあるんですけれども。
...」
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[39-11]高橋順一氏「混迷の大学改革論議を読みとく」
(「情況−岐路に立つ大学−」1993年6月号)
http://www.awave.or.jp/home/seki1785/uni/takahashi.html
「(結語)かなりランダムなかたちで今回の大学改革論議を取り巻く状況につ
いて見てきた。率直にいって大学の現状はかなり絶望的である。たとえ善意か
らであるにせよ大学改革に棹さそうとする姿勢が結果的に大学の擬似「市場」
化の促進につながることを、大部分の大学人は理解していないのではなかろう
か。とするならばとにかく一度「市場」論理にたいする強迫観念を捨ててみる
ことが、教員の側にとっても学生の側にとっても必要なのではなかろうか。大
学にはどこかで悪場所めくが「いかがわしさ」が存在していなければならない。
それは言い換えれば、大学が社会的現実にたいしてけっして完全には透明にな
りえないし、なってはならないということである。こうした不透明な領域にし
か生息しえないであろうようなものを大学は放棄してはならないのだ。」
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[39-12]学級崩壊について
岩波新書686 ISBN 4-00-430686-8 2000年8月刊
尾木直樹著「子どもの危機をどう見るか」より
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/common-sense/ogi.html
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p109
中学三年の女子生徒が書いた次の手紙は、現在の学校の評価がいかに「よい子
競争」を強い、大人好みの人間を形の上で求めているのかということをよく示
しています。
「先生が自分のことをどう見てるとか、今日は手を五回あげたぞ、とか、そう
じばっちり、とか、そういう型にはまるのは、結構いごこちいいんですよ、私
はね。その型にはまることで、先生によく見られるし、まあ、それなりのクラ
スの中での地位みたいなものが得られるような感じで、安心できるんです。一
日が終わって、「やることはやった」みたいな満足感もあるし−−」
この中学生が感している心地よさには、二つの側面があります。その一つは、
学習から生活まで、教師に身ぐるみ評価されることに対する心地よさです。も
う一つは、そのことによってクラスにおける自分の位置や存在感を実感、確認
できるという喜びです。つまり、教師だけでなく、クラスの仲間から自分はど
う見られているのかによって、自分のポジションを確認するという一種の依存
関係に陥っているといってよいでしょう。自分の素直な要求や実感にもとづく
行為を自己抑制し、自分らしさを少しも育むことができずに自己を空洞化させ
ているのです。アイデンティティの透明化といってもよいでしょう。これほど
個性化・多様化が叫ばれる今日の学校教育が、一皮めくれば、実態は本人自身
に自己決定させたかのように錯覚させて一定の型にはめる教育でしかないので
す。以前のような一斉主義的な人間づくり以上に巧妙です。
それにしても、大人や社会に反発しながら自己を形成するという思春期の特性
を正面から否定するような評価、教師は意識していなくても、教師による生徒
コントロールと言ってもよいような評価法が、なぜこんなに大手を振ってまか
り通っているのでしょうか。
この経緯ははっきりしています。1992年までは、学力偏差値一辺倒による
高校への選抜制度が、とかく批判を浴びながらも続いていました。全国の多く
の中学校では、受験業者が学校の授業時間中にくい込んで偏差値試験を実施し
ていたのです。評価ということからすれば、この偏差値試験は生徒の人柄や授
業中の態度や意欲、あるいはクラブ活動や委員会活動への参加状況とか、日曜
日のボランティア活動等とは一切無関係でした。要は、ペーパー上で高得点さ
え獲得できれば高い評価を得ることができたのです。その意味では、極めて単
純明快で私情や演技などの入る余地はまったくありませんでした。しかし、単
純明快なだけに、やがて偏差値の数字だけが一人歩きを始めたのです。社会的
な批判も大きくなり、文部省は93年からその放逐を始め、2年間で業者テス
トや偏差値は中学校からほぼ完全になくなりました。その後は、「偏差値より
も人柄を」などといわれ、学習だけでなく、日常の出欠遅刻の状況など、生活
ぶりや授業中の挙手回数まで「正」の字で記録し、態度や人柄までも相対評価
するような現在の内申システムへと転換したのです。
先ほど紹介した中学生の文章は、あるテレビ番組で私が内申システムについて
「子どもに人柄競争まで強いるので良くない、すぐに止めるべきだ」と発言し
たことへの反論として、番組直後にFAXで送ってきたものです。いかにも真面
自そうなその文字を目で追いながら私は絶句しました。絶対的な評価権を掌握
している教師の視線の中でしか、自己実現できなくなっている少女を発見した
からです。
中学校における子どもの教師への向き合い方はいまや、ここまで屈折した状況
になっているのです。これでは、教育を成立させる基盤や前提がないに等しい
でしょう。これらの評価のまなざしそのものが、子どもの発達権への侵害であ
り抑圧といってもよいと私は考えています。
なぜなら、子どもは本来、失敗や問題行動、友達とのトラブルをくり返し、そ
のつど親や教師の叱責や深い愛情、支援を受けながら、ものごとの本質を体験
的に理解し、感性豊かな人間に成長するからです。その意味では、失敗も問題
行動も子どもにとっては成長への大切な素材であるといってよいでしょう。そ
れを学校という安全なワクの中でくぐり抜けることは、子どもにとっては豊か
な人格に成長するための当然の権利でもあるはずです。
ところが、今日の評価制度ではこの「くぐり抜け」のブロセスが許されないの
です。自分の感情のままに表現することを我慢せざるを得ないばかりか、学校
や教師が求める「よい子」を演じることさえ求められます。
───────────────────────────────────
p118
まず第一にすべきことは、中学校で現在多くなされているような、生徒をがん
じがらめにしている実践を即刻廃止することです。授業中の挙手の回数をカウ
ントすること、つぶやきや忘れ物チェック、出欠席状態からあいさつの様子、
部活動への参加、委員会活動から休日におけるボランティア活動まで申告させ
点数化し評価すること、そして、それらを入試に影響させるという内申書重視
路線は、すぐに改めなくてはなりません。
───────────────────────────────────
p240
大人であっても自己決定を問われることが少ない日本社会では、これは、きわ
めて厳しい意識の転換を迫られていることを意味します。しかし、21世紀が
国際化・情報化社会として進むことが避けられない以上、日本社会も自己決定
能力に優れた市民社会に生まれ変わらざるを得ないのではないでしょうか。そ
れだけでなく、民主主義の熟成した社会を築くためには、いつまでも集団や組
織に寄りかかるのではなく、完全に個として自立することが不可欠です。
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発行者: 辻下 徹
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst/
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/
e-mail: tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
発行部数 1143 (2001.2.05現在)
Mag2:660|CocodeMail:349|Pubzine:56|Macky!:42|emaga:21|melma:15
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End of Weekly Reports 39
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