微積分を通観すればその場しのぎの積み重ねであることに気づく。それは「背に腹は替えられない」事情によるものではあったのだが、一貫性のない発展過程ゆえに十分な結論は得られていない。たとえば「長さをもつ」曲線という概念が出てきたのに「広さをもつ」曲面という概念は姿を見せない。非負値連続関数列の極限と広義積分の交換は不自由だがルベーグ積分であればうまくいくという説明がある。実際には「積分可能な優関数をもつ」という唐突な条件下でしかそれは保証されない。100年来改良されていないこの条件こそルベーグ積分の限界を示すものといわざるを得ない。
ルベーグ積分の目玉として挙げられているものに可算加法があるが、それはまた「直積の広さ=広さの積」を埋め込む空間よりも低次元の広さに適用するには妨げとなっている。こういった問題点の克服について詳しくは別の機会に述べることにするが、小手先でできるような改善策は出尽くしたと言っても過言ではあるまい。あとは基本概念自体を洗い直してみるしかない。基本概念は我々の生活感覚を反映したものでなければならないが、それと同時に生活感覚を標榜する抽象概念の操作は文言どおりに裏付けられるものであって欲しい。
このことを「実数」に当てはめてみよう。実数には本当に「全順序」がつくのか?我々が正当化する対象の中に閉区間上の連続関数の定積分値が含まれている以上、2つの積分値を比較する必要が生じる。両値の関係は本当に等・大・小のいずれかに判別がつくのだろうか?「等しくないものを精密に比較していくといつかは大小がつく」という陳述は「いつ?」に対する返答を持ち合わせておらず、操作を文言どおりに裏付けるものとはいえない。
実数は基本的にいつも誤差を伴って認識されるものである。この講演では誤差を伴った判断の下で実数の順序について論じ、その叩き台として新たな「切断論」を提唱する。
- 2006年12月7日(木)16:00-18:00
場所:立命館大学理工学部第3会議室
- 春名 太一也氏(神戸大学)
「随伴函手による理論生物学に関する一考察」1950年代後半に創始されたR. Rosen流 の理論生物学では対象をその機能へと分解して機能を単位としてシ ステムを捉える.一方ごく最近2000年代になって,R. Patonは機能 への分解の逆,つまり,機能を貼り合せて対象を構成する操作の重 要性を指摘した.前者は有向グラフの圏Grphで考えると与えられた 有向グラフのline-graphをとる操作に相当し,これはGrphからGrph への函手となっている.後者の操作もGrphからGrphへの函手として 定式化できる.今回の発表では後者が前者の左随伴函手となること を示し,その理論生物学的意義について議論したい(この随伴に関 してはPultr(1979)にほぼ同様の結果がある."ほぼ"というのは考 えている圏が少し異なるからである.しかしながら,ここでは左随 伴函手の具体的構成に関して理論生物学的観点からより突っ込んだ 考察を行う).さらにline-graphをとる操作をGrphから二次元有向 グラフの圏への函手とみたときもこれが左随伴を持つことについて も述べたい.
- 2006年11月8日(水)16:20-18:20
場所:奈良女子大学C棟4階 数学大講義室C432
- 上江洌 達也氏(奈良女子大学)
「レプリカ法の不思議」ランダムな系の統計力学的解析に際して、レプリカ法という強力な方法がある。この方法は、数学的に厳密な定式化はまだなされていないが、いかなる数値シミュレーションによる結果とも矛盾しない結果を与える。簡単にいうと、まったく同一の系(レプリカ)をn個用意して、統計和を計算し,最後に n → 0の極限を取ることにより、目的とする物理量を得る方法である。問題となるのは、nを自然数として計算した結果の式で、n→0 の極限を取る操作である。
談話会では、レプリカ法によって導かれる結果について主に述べる。また,レプリカ法が妥当となる数学的な条件の研究についても簡単に述べる。
- 2006年11月1日(水)16:20-18:20
場所:奈良女子大学 C棟4階 数学大講義室C432
- 塩沢由典氏(大阪市立大学)
「多面体論の新領域/国際貿易理論」リカードの国際貿易理論は、比較優位の理論として有名であるが、2国2財の場合を超えることは難しく、一般理論といえる成果はこれまでほとんど得られていない。本報告は、最小価格定理をうまく用いることにより、多数国・多数財で中間財の貿易と技術選択がある場合にも、リカードの理論が一般に拡張できること、賃金率・価格他体系と生産可能集合のファセットとの間に双対的な関係があることを示す。この結果は、数学的には、多次元空間における多面体を非負の方向から見た場合の分析にあたるが、これまでそのような応用の観点からは考察されていない。この理論は、数学としては古典的であるが、経済学の理論としては主流の経済学(貿易理論ではヘクシャー&オリーンの理論)に対する代替的理論である。資料:塩沢由典「リカード貿易理論の新構成--国際価値論によせてII」(未定稿 2006.11.11,PDF 636KB )(『経済学雑誌』(大阪市立大学) 掲載予定)
- 2006年10月11日(水)16:00-18:00
場所:エポック立命21 会議室 310
(立命館大学BKC: アクセス, キャンパスマップ(PDF))
- 藤尾 光彦 氏(九州工業大学)
「数理形態学からみた非古典論理」 (講演資料(ppt 1MB))
数理形態学(Mathematical Morphology)は元来、画像に対する非線形解析手法として 開発されたものであるが、理論的には完備束の間の随伴演算対として基礎付けられ る。本講演では、(必ずしも完備ではない)束としての論理の代数に数理形態学の手 法を当てはめたときに何ができる/わかるのかについて紹介する。この結果、数理形 態学(およびそのヴァリアントとしてのGalois接続)は様相・時相・直観主義・(直 観主義およびただの)線形論理の非古典論理の意味論に明確な描像を与える。還元主 義の立場からは、見易くなるだけならつまらないこととされるのであるが、この解析 を通した洞察から、正規様相論理の時相拡大の問題についての実質的な結果も得られ たので、これについても報告したい。関連資料:□M.Fujio, Temporalization of Modal Logic--Morphological Analysis for Logic-- (PDF 149KB)
□M.Fujio and I.Bloch, Non-Clasical Logic via Mathematical Morphology (PDF 530KB)
- 2006年5月9日(火)16:30-18:30
場所:立命館大学理工学部会議室(ウェストウィング1階)
- 矢田部 俊介 氏(神戸大学工学部)
「包括原理と自然数」 (講演資料(PDF))数学を古典論理の下で包括原理 (the comprehension principle) のある集合論によって基礎づけようとするフレーゲの試みは、ラッセルのパラドックスの発見によって挫折した。しかし古典論理より証明力が弱いいくつかの論理では、包括原理を仮定しても矛盾が起こらないことが知られている。このような包括原理を持つ集合論の上では古典的数学のかなりの部分が展開できるのではないか、そしてその集合論は古典数学と整合的である(つまり古典数学では証明できない定理がその集合論で証明されることはない)のではないかという希望がいだかれた。
しかし今回の発表では、Lukasiewicz 無限値述語論理の上で包括原理を仮定した集合論では、自然数の集合ωが必ず超準的な元を含む、ということが証明できることを示す。つまり包括原理を持つ集合論の下で定義されたωが、古典論理の下で定義されたωと大きく違う性質を持つということであり、我々の希望に否定的な結論を与えるものである。
- 2005年12月20日(火)16:00-18:00
場所:立命館大学理工学部会議室(ウェストウィング1階)
- 北林伸英 氏(富山大学 大学院医学系研究科 システム情動科学)
「Swan task: ヒト脳波にみる、前頭葉両側間の長距離coherenceを引き出す、創発タスクの実現」
- 講演資料,Quicktime 音声クリップ (1.8MB)
- 講演記録 (Quick Time 形式 202MB)
- 2005年11月24日(木)16:00-18:00
場所: エポック立命21 会議室 310( 立命館大学BKC)
- 下川信祐 氏(NTTサービスインテグレーション基盤研究所)
主題:可逆で反対称的な行動対と偏りの予測について
副題:情報通信サービスデバイド性評価の立場からの行為への視線
- 2005年6月28日(火)16:30-18:30
場所:立命館大学理工学部会議室(ウェストウィング1階)
- 郡司ペギオ幸夫氏(神戸大学)
「痛み=未来への糊代、をいかに理解するか:スケルトンという媒介者」
- 2005年6月3日(金)16:00-18:00
立命館大学理工学部 数学第一研究室 ( BKCウェストウィング7階)
- 2005年4月26日(火)16:00-18:00
エポック立命21 会議室 310(立命館大学びわこくさつキャンパス)
- 辻下 徹(立命館大学)趣旨説明
- 角田秀一郎氏(奈良女子大学)
レプリカ法と線型計画法に見る無限小と無限大
関連情報ログ
- 2012.6.14 集中講義(神戸大学 2012: 6/14,6/21,6/28)
- 2008.11.18(火) 研究集会「数学を複雑システムとしてとらえる」(於 広島大学 工学研究科複雑システム工学専攻 A3棟8F841講義室)(プログラム(PDF)) )
- 2008.12.6(土) 14:00-: 「灘連関東部会」於学習院大学計算機センター会議 室
- 郡司ペギオ幸夫「潜在性VS可能性:潜在性の数理的表現」
可能性は個物の列挙であり、潜在性は強度である。 生命は通約不可能な両者の間を自由に行き来する。 可能性は自然科学の得意とするところである。では 可能性への行き来を自由とする潜在性はいかに表現されるべきか。 ここでは粘菌モデルを通して、空と個物化された「空」 の両義性が、形体の多様性に寄与していること、 ならびに、ラフ集合における上近似(位相空間の閉包に似た概念) 下近似(同じく内点集合に似た概念)のずれによって、 潜在性を束として表現する方法を議論する。 実際ラフ集合は解釈の同値関係を用いるため、 二つの近似描像を用意しても、その二重性はつぶれて 役に立たない。二重性を有効にするには、 異なる観測装置の二重性が必要となり、これが逆に 一対多の表現となる。ここでは解釈(観測装置)が二重に なることで多様な束が出現することなどを論じる。- 他
- 2009.3.14-17 第三回内部観測研究会 (沖縄青年会館)
- 2010.3.5-7第4回内部観測研究会(東京理科大学) (プログラム)
- 2010.9.6-7第21回代数, 論理, 幾何と情報科学研究集会 ALGI21(立命館大学琵琶湖草津キャンパス) (プログラム)