通信ログ
[kd 03-07-07] 「国立大学とは何であったのか?」
Date: Mon, 07 Jul 2003

国公私立大学通信 2003.07.07(月)

--[kd 03-07-07 目次]--------------------------------------------
[1] 7/6 一国立大学教官より: 法案への5つの反対理由
 [1-1] 文教科学委員会6/3: 外部資金導入について

[2] 7/4 交流連絡会:連署のお願い(8日の採決に反対し徹底審議を求める要望書)

[3] 7/6 豊島耕一「10数名の街頭宣伝をテレビ3社が報道」

[4] 7/4 鬼界彰夫「小泉首相にも要請・抗議のメールを!」

[5] 7/3 佐藤清隆氏より文教科学委員への書簡

[6] 2001.6.21 藤田博美「国立大学とは何であったのか?」
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火曜日の文教科学委員会の議事について、本日、理事懇
談会で再度打合せがあります。引き続き、委員の方へ働
きかけることが重要です。また、本日は、国会前で以下
のような目に見える活動があります。

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国会前座り込み!多数の大学関係者、市民の参加を
◎法案廃案・8日採決強行阻止、7.7国会前座り込み:

呼びかけ団体:国立大学法人法案に反対する教職員交流連絡会
7月7日(月)午後0時〜1時まで

参議院議員面会所向かい、

参議院議員会館側を座り込みで埋め尽くそう
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        □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


「既得権益を遵守したいという気持ちは当然で、それを
守ろうとすることは、基本的人権の行使に他なりませ
ん。」というご意見[1]がありました。こういう発言に
はメディアが「既得権墨守」と言って批判するため、大
きな声が上がりにくいようですが、どの職業も「既得権」
なしに職務を遂行することはできません。問題はそれを
正しく使用されているかどうか、ということであって、
既得権そのものが悪であるかのような言説は信用できま
せん。教育と学問という遅効性効果を信じて進むしかな
い業務には身分の尊重が重要であることは世界的にも広
く認識されていることです。

人間であるよりは経営者であるエギュゼクティブアニマ
ルには、「使い勝手の悪い」使用人を自由に解雇できる
ことが夢です。国大協の学長集団が非公務員化を容認し
任期制の導入に熱心なのは、同じ夢を追っているからだ、
と言うのは、号外[kd 030706-ex]で紹介した調査検討会
議での議事録を読めば、言いすぎとは言えないように思
います。

        □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

「イラク特措法案」*に反対する数学者の声明への賛同
署名募集締切は7/9となっています(編集人)
* http://ac-net.org/doc/03/704-mathfp.html

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[1] 7/6 一国立大学教官より: 法案への5つの反対理由
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「法案への反対の理由(1):国立大学法人法案は、日本の学齢期
にある児童・青少年の学力を低下させることに繋がるのではないか、
との懸念がある。それは無論国力の低下に繋がる。

 法人化によって、国立大学への補助金が減額され、大
学側が外部資金の導入に血道を上げなければならないこ
とになると、当然入学者獲得にも甚大な「工夫」がなさ
れるであろうという事は明白です。「工夫」は、多数の
(或いは持参金付きの)志願者を集める為に、入試とい
うハードルを低くすることに集中されると思われます。
現に、筆記試験を主とする一般入試の中に、大幅にAO
入試(いわゆる一芸入試)を取り入れようとする動きが、
国立大学の中で目立って来ております。国立大学が、自
らの維持の為に資金の獲得が第一、という事態になりま
すと、入学者に阿ね、「受験し易い大学」、「入り易い
大学」に変わり、学力の低い者の闊歩するレジャーラン
ドに成り下がってしまうのでは、と懸念しております。
既に大学内では、学生による授業評価が横行し、どちら
が教育されているのかわからない、本末転倒の滑稽な現
象が起こっております。法人化は、文科省による「ゆと
り教育」の大学へのつけ回しなのだろうか、という疑念
も払拭できません。


反対の理由(2):教授会議決に優先する学長権限の肥大化は、民
主主義への冒涜ではないか?

 知と良識の発信地であるべき国立大学で、学長の裁量
が第一ということになりますと、「皆で話し合って決め
よう」という民主主義の原則が崩れ去るのではないでしょ
うか?


反対の理由(3):中期目標の、文部省による認可には、納得でき
ない。国立大学教官の能力とキャリアを、正当に評価して欲しい。

 大学を運営している教官達は皆、長年に亘り高度な教
育を受け、相当の学位を取り、機会あれば外国でも修練
を積み、厳格な審査を受けて任じられ、学内で教育・研
究に携わり、日々訓練を積んでいるスペシャリスト達、
つまり専門家集団です。(研究者は特に地味ですし、謙
譲の美徳というものが日本にはありますから、国立大学
教官達の業績・能力は、外にあまり知られてはいません
が、知られていないからといって、業績・能力が無い、
ということではありません。)どの教官を取ってみても、
現場での修練を受けていない方がたよりも、大学に関す
る判断能力が高いことは明らかです。


反対の理由(4):国立大学は、納税者への労いと更なる努力への
動機付けの場として、豊富で行き届いた知の享受を保障すべきもの
なのではないか?

 国立大学は、国民が、憲法に保障されている教育を等
しく受ける権利を享受するためにあるもので、そもそも
国民の税金で賄われているものです。それなのに何故、
当局は、法人法案の成立を画策し、その国民の血税を、
「運営交付金」という大仰な名前を付けて出し惜しみし、
大学側を、不必要・不安定な外部資金導入に走らせ、国
民が安定して教育を受ける権利を脅かそうとするかのよ
うに思わせることを企てているのでしょうか?税金を、
国立大学に配される素人理事の高額の給金に浪費するの
ではなくて、様々な教科をバランス良く盛り込んだカリ
キュラム整備の為に使うべきです。国立大学は、揺ぎ無
い知の殿堂であるべきです。直接利益に結びつかない教
科や、地方大学を廃止していくという、法人法により断
行されると考えられる蛮行は、納税者を愚弄するもので
あり、健全な知力の阻害を招来し、日本の未来に甚だ不
利益を齎すと考えます。

反対理由(5):非公務員化は困ります。

 私事で恐縮ですが、当方が国立大学教官という職を選
択しました大きな理由の一つは、公務員として安定して
研究ができるということです。今になって、非公務員に
なれ、というのでは正直実に困惑します。誰しも、既得
権を奪われる時は、抵抗するでしょう。既得権益を遵守
したいという気持ちは当然で、それを守ろうとすること
は、基本的人権の行使に他なりません。さる新聞記者に
よる「甘えている」という批判は、的外れも極まりない
と腹立たしく思っております。」

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[1-1] 文教科学委員会6/3: 外部資金導入について
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「○参考人(田端博邦君)・・・それから、高等教育の
財源について言いますと、国際比較的に見まして、アメ
リカを含めて欧米諸国の大学も、・・・やはり公財政の
部分が非常に圧倒的な部分を占めておりまして、産業界
からの財源の提供という割合はそれほど高くないですね。
ですから、余りにそちらの方に傾斜するように考えるの
は非現実的であると私は考えています。」


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[2] 7/4 交流連絡会:連署のお願い(8日の採決に反対し徹底審議を求める要望書)
http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030704kouryuukai.html
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「国立大学法人法案に反対する大学教職員交流連絡会」
(略称:「交流連絡会」)の事務局です。

すでに各所から報告されていますように、来週8日(火)
に予定されている参議院・文教科学委員会では、法人法
案など6法案の採決まで行われようとしています。

現在、法案をめぐる情勢は最も緊迫した局面にあるので
はないでしょうか。そこで「交流連絡会」事務局として、
下記のように、8日の委員会での採決に反対して徹底審
議を求める要望書を作成しました。この要望書に、全国
の大学および共同利用機関の教職員組合の代表者から賛
同の連署をしていただき、7日に文教科学委員会の委員
長へ提出することといたします。

緊急の提案で時間が限られており、まことに恐縮ですが、
ぜひともご協力くださいますよう、よろしくお願いしま
す。

なお、連署を希望される場合は、下記までご連絡ください。
電子メール:renrakukai@u.email.ne.jp

======================以下、連署を募る要望書======================

 参議院・文教科学委員会 委員長
   大野 つや子  殿

7月8日の参議院・文教科学委員会における「国立大学法人法案および関連5法
案」の採決に反対し、引き続き徹底した審議を求めます

 6月26日、約半月ぶりに再開された参議院・文教科学委員会は、遠山文部科
学大臣の「お詫び」で始まり、その後も4回にわたって「お詫び」と訂正が繰
り返される異常な事態となりました。続く7月1日の委員会でも、文部科学省は
幾度も実質的な答弁不能に陥りました。

 これが、文科大臣自らが「百年に一度の大改革」(今年2月10日の国立大学
長会議でのあいさつ)と位置づける法案の審議なのでしょうか。

 私たちは、衆議院・参議院を通じて「国立大学法人法案」の審議はまだまだ
積み残した問題点が多く、引き続き徹底した審議がぜひとも必要であると考え
ます。
 とりわけ、約13万人の国立大学教職員を一方的に「非公務員化」する問題は、
1日の委員会で西岡議員(国連)が取り上げられたばかりです。労働安全衛生
法に対応する施設整備や改善計画などについても、教職員と学生の安全や生命
を守る観点からは、きわめて不十分な審議に止まっています。また、大学の業
務を進める上で不可欠の存在となっている定員外(非常勤)職員の雇用承継に
ついては、まだ質疑もなされていません。こうした教職員の労働条件に関わる
重大な事柄については、これからが、ようやく本格的な審議が始まる段階だと
言えます。
 しかも、法人法案以外の関連5法案については、ほとんどまともな質疑さえ
行われていません。

 そもそも、本来の会期であった6月18日までに法案は成立しませんでした。
その点で、この法案は審議未了で廃案、少なくとも継続審議となってしかるべ
き「欠陥法案」であると言えます。延長した国会での審議も、法案の問題点が
さらに明らかとなり、立法府を無視する文科省の強引な「準備作業」の実態が
次々と暴露されているのが現状です。

 しかし、2日に行われた理事懇談会では、与党は8日の委員会での採決を提案
されています。
 これに対し、民主は「質疑時間をもっととり、しっかりした答弁であれば、
採決はやむをえない」、共産は「8日であってもまだ審議は尽くされておらず、
採決前提の日程は応じられない」、国連は「十分質疑を行ない、これまでの疑
問に答えたのなら、採決もやむをえない」と答えたと言われます。

 この法案は、わが国の将来を左右する高等教育と学術研究の未来に関わる重
要な法案であり、「国家百年の計」とも言われる教育問題でもあります。そし
て、委員会の審議で取り上げられていない問題点や未解明の課題もまだ数多く、
しかも、会期はまだ残されています。
 それにも関わらず、8日の委員会で採決を強行することは、きわめて拙速で
あり、立法機関の責任としても到底、許されるものではありません。

 参議院は「良識の府」とも呼ばれます。
 私たちは、教職員組合として国公私立大学・大学共同利用機関の発展を支え
てきた立場から、参議院が二院制の本来の役割を十二分に発揮し、「良識の府」
の名に恥じない慎重な委員会運営と徹底した審議を行い、多くの国民の声に応
えることを強く希望します。
 そして私たちは、この法案の逐条的な審議をはじめ、大学関係者の参考人招
致、中央・地方での公聴会の開催、総務・厚生労働・財務の各委員会との連合
審査、国政調査権の行使による各大学の実態調査など、あらゆる手段を尽くし、
今国会の会期にとらわれずに引き続き徹底した審議が行われることを、ここに
改めて強く要望するものです。

2003年7月7日(提出予定)

以下、教職員組合の代表者による連署
(現在までに連署していただいた方々)

北見工業大学教職員組合 執行委員長  原田 康浩
北海道大学教職員組合 執行委員長  藤本 正行
室蘭工業大学職員組合 執行委員長  橋本 忠雄
全大教北海道地区教職員組合 執行委員長  増子 捷二
秋田大学教職員組合 執行委員長  佐藤 修司
山形大学職員組合 執行委員長  我妻 忠雄
茨城大学教職員組合 執行委員長代行  深谷 信夫
筑波大学教職員組合 執行委員長  丸浜 昭
中西 弘 (高エネルギー加速器研究機構職員組合 委員長)
千葉大学教職員組合 執行委員長  伊藤 谷生
東京大学職員組合 委員長  小林 正彦
三輪 忠義 (東京大学法学部職員組合 執行委員長)
東京外語大学教職員組合 執行委員長  岩崎 稔
東京工業大学職員組合 執行委員長  山崎 正勝
東京地区大学教職員組合協議会 議長  鈴木 亨
横浜国立大学教職員組合 委員長  土井 日出夫
新潟大学職員組合 中央執行委員長  成嶋 隆
信州大学教職員組合連合会 書記長  公文 富士夫
福井大学教職員組合 執行委員長  森 透
名古屋大学職員組合 中央執行委員長  植田 健男
島根大学教職員組合 中央執行委員長  伊藤 光雄
徳島大学教職員組合 執行委員長  中嶋 信
熊本大学教職員組合 執行委員長  万羽 晴夫
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[3] 7/6 豊島耕一「10数名の街頭宣伝をテレビ3社が報道」
      Date: Sun, 6 Jul 2003 20:39:44 +0900
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「佐賀大学・全国ネットの豊島です.

 本日の佐賀市街頭での宣伝活動の報告です.佐賀大学
教職組と全国ネットとで実施しました.大学教職員とOB
ら10名以上が参加し,道行く人にチラシ約400枚を
配りました.(配布物のpdfを全国ネットサイト*に
置いています.)なかには,ファクスに書く文面をどう
したらいいかと質問される方もありました.写真2葉を
次に掲示しています.

 http://www.geocities.jp/chikushijiro2002/tamayamae.html

 サガテレビとNHK佐賀が夕方のニュースで放映しまし
た.福岡RKBも深夜0時8分または明朝放映予定とのこ
とです.

 事前の案内をしていたとはいえ,わずか十名程度のビ
ラ配布に取材テレビカメラが3台,新聞2紙が来ました.
さすがに切迫した状況下でメディアも関心を持っている
ようです.そのような状況は全国にあると思われますの
で,どうか月曜日も各地で宣伝行動をしていただきたい
と思います.テレビにこれだけの秒数の広告を出すとし
たらいくらかかるでしょうか?

*  http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet.html

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[4] 7/4 鬼界彰夫「小泉首相にも要請・抗議のメールを!」
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「緊迫した情勢の中でそれぞれに出来ることにお忙しい
と思いますが、一つ提案です。現在の情勢の中で、参議
院文教科学委員会の委員へ訴えを集中することが第一だ
と思います。

と同時に今の段階で小泉総理大臣にしかるべき訴えを集
中することも重要と思います。

(ファックスが無いのでメールになります、首相官邸ホー
ムページのご意見コーナーのURLは次の通りです  
http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html )

私自身は、小泉改革が官僚への国の売り渡しでないのな
ら、この法案を何とかしてほしい、という趣旨のメール
を送りました。今小泉首相にメールを集中することには
次の二つの意義があると思います。

(1)綿貫衆院議長への抗議のメールを振りかざしたこ
とに現れているように、彼は大衆の反応に極端に敏感で
すから、この週末「法人法」の反社会性に関する抗議の
メールが集中すれば、平静ではいられず、何らかの効果
が期待できないともいえません

(2)(考えたくないことですが)、万が一数の力に押
し切られ法案が成立した場合、その反国民性・反社会性
はいずれ広く明らかにならざるを得ません。そして多分
それは小泉改革の本質に国民が気づき始めるきっかけと
なるでしょう。法人法による国立大学の死を無駄にする
ことなく、その上に日本再生の若木が芽生えるためには、
この事件が出たら目な「改革」の明確な終わりの始まり
になる必要があります。そのためには「法人法」に関し
ていかなるデナイアビリティー(「私が直接関与したの
ではないから、よく知らなかった」)をも彼に与えない
ことが重要です。この法案に関してすべての責任が政権
の最高責任者である彼にあることを今確認しておくこと
は重要と思います。出来ればマスコミにも確認させれば
いいと思いますが。

こうした点で有益と判断されましたら、是非首相官邸に
メールを!」

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[5] 7/3 佐藤清隆氏より文教科学委員への書簡
      http://ac-net.org/dgh/03/703-sato.php
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参議院文教委員会委員各位、      平成15年7月3日
                 広島大学大学院生物圏科学研究科教授
                 広島大学教職員組合副委員長
                               佐藤清隆

問題山積みの国立大学法人化法案を採決するのは止めて下さい。その理由は以下の通
りです。

(1) 法案通りの大学を想像しました。

 先進国で最低水準の高等教育費をさらに削り、日本育英会の独立行政法人化で世界
で極めて貧困な水準の奨学金制度がさらに悪くなり、学費が世界で最高水準という前
提の上で、「国の定める分野で、国の指導のもとで、大きな成果を出せ」という国立
大学法人化の基本思想から考えると、

授業料はあがり、
土地建物使用代を大学法人から請求されたあおりで、
大学生協などの商品の値段があがり、
ほとんどの学生の生活は苦しくなり、
奨学金返済免除制度が基本的には廃止され、
とくに博士課程に進んだ学生は、
就職の見通しもなく膨大な借財を背負わされ、
その一方で教育業績を教員の給与に反映する方式を導入したことによって、
学生は、先生達によって「自分の給料をあげるための道具」とみなされ、
有名企業に就職しなくともゆったりと自分なりの生き方を模索したい学生や、
環境破壊の真因や原発問題や過労死など、
社会の矛盾を解きあかす学問をしたいと思う学生たちは、
「大学のネームバリューを上げるため」とか、
「大学のスポンサーにまずいから」として疎まれ、

独裁的な権限を付与された学長や、
大学の実態を殆ど知らない天下り官僚や民間派遣の役員は、
目標設定・業績評価・学長の解雇という権限をもつ監督官庁の評価を第一に優先し、
教育も研究もしないで受け取る「1700万円以上の年収」に見合った、
「輝かしい管理運営業績」を求められるため、
配下のスタッフたち(教員や事務員)にトップダウンで指示を連発し、

使いまくられた教職員は相互の競争も加わって疲れ果て、
「他人より仕事が優秀だから昇給間違いなし」と期待しても、
もっと優秀な人が現れて叶わず、
結局はお互いによる小さなパイの奪い合いの坩堝に放り込まれて、
エンドレスな競争に駆り立てられた教職員の誇りと自尊心は傷つけられ、
任期制による解雇への恐怖で「その日暮らし」の研究が最優先され、
本質的に新しいことにチャレンジしたいという気概は、
心の箪笥にしまわれたままでひからびて、

堅実な教育研究で地歩を固めてきた地方・中堅大学から、
優秀な教員達が有名大学がさらに強力になるための戦力として引き抜かれ、
その逆は決して起こり得ず、
引き抜かれた側は元気がなくなり、
やがて学問を支える広い裾野は崩壊を始め、

片方で外部資金を潤沢に稼ぐ人々が、
「これが我が大学の代表分野だ」と威張り、
法人化でただ一つ認められた「自由裁量権」を使って、
学内のヒトとモノとカネを奪ってゆき、
文学・哲学・歴史学・語学・経済学・法学・芸術学・天文学、
地学・基礎物理学・基礎化学・基礎生物学・人類学など、
外部資金に疎い分野の先生達は、
年ごとに肩身の狭い思いをさせられ、
一方で大学の自治と学問の自由を維持して、
幅広く息長く学問を追究するほかの国々の研究者には、
ますます差をつけられ、
諸外国にひろまっている「日本人研究者は疲れているねえ」という噂は、
確実に現実のものとなり、

高度医療の推進のために設備投資がされてきた医学系分野と附属病院では、
その投資額がいつの間にか莫大な借金として背負わされ、
収入優先の経営原理が医学教育研究と診療活動に暗い影を落し、
ただでさえ過酷な看護師など支援職員の労働がさらに強化され、

効率的な大学運営に適合する特定の分野と、
法人役員が指揮するトップダウンのラインの教職員達が学内を闊歩して、
批判的な意見は「自分や自分が属する組織に迷惑がかかる」と、
人々の心の奥にひっそりと隠され、
さまざまな問題点に気が付いても、
批判意見を出せば睨まれるし、
建設意見を出せば仕事が回ってきて、
せっかくの教育研究時間が奪われるからと口には出さず、
人々の間で心を開いた会話はめっきり減って、
いつの間にか人々は口籠るようになり、

結局は最初に定めた6年間の中期計画の達成が、
金科玉条のごとく全てに優先し、
外面的に目に見える成果を誇る情報が、
法人役員たちの口から得意げに発信され、

その結果として、
「外面的には成果は莫大、内面的には渦巻く矛盾」、
そういう大学になるでしょう。

そしてそのような大学からは、
裕福なために高学費を払えて、
状況をめざとく有利に判断できて、
使い勝手の良い、
素直で従順な学生が
大量に排出されるでしょう。

何故なら、
彼等を教える教職員が、
まさにそのような環境に放り込まれるからです。
そのような「法人化大学」で育てられた大多数の学生諸君に、
真の意味での学力や知力がついているかどうかは、
わかりません。

(2)審議は不十分である
 しかし、上に述べた問題を含む法人化法案は、大学の教員によって認知されたもの
ではありません。圧倒的多数の教員には、法案を読み問題点を明らかにし、意見を述
べる暇も与えられなかったのです。私の周りで、たとえば「業績の悪い学長は、文部
科学大臣がクビに出来る」と意味する条文のある法案を読んだという人は、20人に
1人もおりません。また国会における政府の答弁は誠実さを欠き、理念的には教員達
の理解を得ることは出来ませんでした。しかし、急速に法案への懸念が高まり、6月
には、日本経済新聞、朝日新聞などのマスコミも、この法案を批判しています。

(3)このような法人ではうまく行かない
 この法人化法案を推進されている人たちが、「大いなる成功」と評した過去の例は、
イギリスのサッチャー改革やニュージーランドの改革です。
 それを論じる時間はありませんが、ニュージーランドの改革を分析したレポート
(国立環境研究所大井玄氏と東京大学大塚柳太郎氏によるもの、2000年12月)
の中から抜粋すれば、その改革のもたらしたものとして、「社会的コストが、所得格
差の拡大と貧困層の増加、失業率の上昇、犯罪件数の増加、共同体の破壊」となり、
「高等教育は、自己利益追求の一手段と定義されたため、大学生における経済的利益
を追求する傾向が顕著になり、科学研究を含め経済的利益とは関係の薄い分野の衰退
する可能性が憂慮され」、「利用者負担の原則が適用されたため大学生の経済的負担
が増え、負債の支払い条件が厳しく、さらに国内の労働市場が狭いこともあり、若者
の国外流出が増えている」などが指摘されています。
 肝心なこととして、そのような「改革」を推進した2つの国の政府は、その後まも
なく選挙で惨敗し、政権は転覆したのです。

 大学改革は必要ですし、私達も数多くの努力を行ってきております。それは不十分
かも知れませんが、現在、審議されているような法人では、短期的には少しの成果が
あがるかも知れませんが、長期的には教育研究の衰退を招きます。さらに「行政改革」
の理念にも反します。

 委員諸氏の良識を発揮されることを、心からお願い申し上げます。
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[6] 2001.6.21 藤田博美「国立大学とは何であったのか?」
       http://ac-net.org/wr/voices/01621-fujita.html
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#(「遠山プラン」直後に「国立大学独立行政法人問題
週報」に掲載。)

「世に「独立法人化をすれば大学は良くなる」という風
潮があるらしい。我々個人個人が変わらない限り制度な
どいじっても良くなる訳ないなどと考えている自分が居
る。に、しても国立大学はその使命を終えたと一方的に
宣言されたときに、うまい反論の言葉が出てこない。
(いや、これは国立大学でなくてもいい。日本の大学は
使命を終えたという宣言であったとしても、やはり反論
の言葉がうまく出てこない。)

  そもそも、国立大学とは何であったのか、が、実は不
勉強な私には判らない。戦後、焼け跡の何もない時期に、
物質的に何もないがゆえに抽象的な文化をこれからの日
本の生き残る道にしようと考えた人が居たのかもしれな
い。それを象徴するのが各々の都道府県に一つづつ設置
された国立大学であったのかもしれない。かつて、ある
田舎町の国立大学の古びた体育館に古びたプレートがは
め込まれていた。ブラジル在住の県人達が、故郷に大学
が出来ると聞いて資金を応援してくれて建設されたのが
この体育館であると。古びたプレートと体育館は故郷に
文化の中心をと期待する遠く離れた人々の心があるゆえ
に輝いて見えた。そういう時期があったらしい。

  68年という時代があった。それまで、まがりなりにも
エリートでありえた大学生に、一般大衆としての未来し
か準備されていない、しかしながら大学の教員はその大
衆化した現実から離れたところにしかいない、そのよう
なことへの若者のプロテストであった、と結論した本を
見かけたことがある。歴史として正しいかどうか、私は
知らない。

  そして、もしそれが歴史に対する正しい見方の一つで
あるとするならば、学生の問いかけに対して大学は何を
答えたのだろうか?恐らくは答えなかった。あるいは答
えられなかった。政府の主導した機動隊を使った正常化
に載っかっただけではなかったのだろうか?

  70年代、受益者負担論による国立大学の授業料値上げ
が始まった。多分、それにも載ってしまった。今、国立
大学は受益者負担論の毒が全身に廻ってしまっているの
ではないだろうか?受益者負担の向こうには抽象的な文
化の輝きも何もなく、あるのは就職に有利、社会で役に
立つ、だから授業料を払っているのだ、そういう「社会」
からの目しか残っていなかったのではないだろうか。

  さて、あの頃から30年ほど過ぎて、大衆化社会では受
益者負担が当然と認識されるようになったこの日本で、
我々に文化の重要性、抽象的な思考の大切さを社会に対
して説得できるだけの言葉が残っているのだろうか、30
年の沈黙の後で?

  研究についてなら幾らでも語ることは出来る。あるべ
き研究システムについても語ることは出来る。しかしな
がら、文化装置としての大学についての理想を社会にど
う語りかければよいのか、ひたすらにおろおろするばか
りである。」
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編集発行人:辻下 徹 tjst@ac-net.org
国公立大学通信ログ:http://ac-net.org/kd
転載・転送歓迎。ただし URL "http://ac-net.org/kd" を併記してください。
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