経緯

国立大学を独立行政法人化する方針が政府内で「決まっ て」からまもなく4年が経過します。

 独立行政法人制度は「小さい政府」を目指す行財政 改革の中で、国家機関外部化の過渡形態として設計されたもので、3〜5年毎に 各独立行政法人の存続・民営化・廃止を主務省総務省 が判断することになっています。定型業務を担う国家機関を想定して設計さ れた独立行政法人制度を大学に適用することについては関係者の多くが疑念を持 ち、旧文部省は2000年7月に調査検討会議を設け60名の「協力者」と共に、大学向けに独立行政法 人制度を修正することを検討し、同会議は2002年3月に、国立大学法人制度 設計の大枠を示す最終報告をまとめました。 国大協は同年4月19日、臨時総会において法人化を異例の強行採決で了承し、 それを受け文部科学省は2004年4月法人化を目指して準備を進め、2003 年2月28日に、国立大学法人法案の閣議決定に到りました。しかし、法案は 閣議決定前日まで国立大学に開示されていなかったため、国大協はいまだ法案の 了承を留保しており、法案を全国立大学で検討後に臨時総会を開催し「法案」に 対する態度を審議する予定です。

公表された法案によれば、「国立大学法人」制度は独立行政法人制度との違い は微小に留まる一方、学外理事を含む少人数の役員会を最高意思決定機関とするトッ プダウンの経営体制を義務付け、さらに学外者を過半数含む経営協議会を経営に 関する中核的審議機関としました。また、国が国立大学法人を設立し、国立大学 法人が国立大学を設置するという法形式となり、さらに、全教職員が非公務員化 となりましたので、学校法人との違いは、政府補助金が最初は多い点と、政府に よる徹底した管理と学外者経営による大学自治の抹消、の2点だけと言えます。 国立大学法人発足時は国が現状のまま 6割程度は出資すると予想されますが、それ以外の点では、経営形態にとど まらず債券の発行も可能になるなど、 非営利法人である学校法人を越えて、営利大学に近づけるものとなっていま す。 国立大学が国立大学法人となれば「評価」に基づく改廃や予算額の増減が制度化 され経営基盤が不安定になるため、役員会は、即効的成果が確実に期待できる研 究活動や人目を引く教育活動を最優先するしかなくなります。結局、学長も構成 員も、真に創造的な経営・教育・研究活動 の 持つリスクをとることは不可能となり、確実に成果が上るステレオタイプな活動 が大学全体を覆い尽すことは明らかです。サバイバル的競争的環境で活性化する 活動は創造的活動ではなくロビー活動や政治的闘争であり、そこでの「勝者」に 必要な要素は抜け目なさと体力であり、創造力はマイナスの要素となることは自 明なことです。政府は、日本が知的 社会となることをなにゆえか妨害しようとしている、と言えるでしょう。

独立行政法人化により、政府によ る大学の直接的コントロール強化や財界・産業界からの「使途限定出資」へ の依存度増大がもたらす教育・研究活動の「寡占化」・矮小化のデメリットより は、大学教職員に意識改革をもたらすことのメリットの方が大きい、という考え が政治家・官僚・企業人・ジャーナリストの一部に見受けられます。現在の国立 大学は無数の問題を抱えています。しかし、それは失職・降格への不安をかりた てたり高い報酬への欲望を募らせることによる意識改革では、現在の問題を悪化 させるものでしかありません。教育や研究などの 創造的な精神活動を支えているものに関心がない人達が行う外科手術が心配 です。

投票されるかたにお願いしたいことは、国立大学法人法案を吟味し、 この政策にど ういうメリットが一体あるのか、よく考えて頂くことです。現在の国策に近 い分野の人達も含め、ほとんどの大学関係者は、「国立大学法人」化により大学 の基本的機能が損われるだけでなく、本当に必要な大学改革 への道が閉ざされることを再三再四警告してきました。こういった警告を 日本社会に伝える機会として、この投票をご活用ください。