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独立行政法人大学について

国立大学法人について

2002.5.01

独立行政法人制度の概要

独立行政法人制度は、国家機関の単純業務効率化を目的として設計された新しい公的法人制度で、従来の特殊法人の持つ諸問題を克服するために作られたと言われています。主務省(大学の場合は文部科学省)が3〜5年の中期目標を示し、独立行政法人が作成した実施計画に応じて運営費を交付します。期末に主務省の評価委員会が専門的な見地から目標達成度を評価し、総務省評価委員会がさらに大局的見地から評価し、存続・民営化・廃止を含めて改善勧告することになっています。国民による国家機関直轄がこれで実現できると考えられています。


独立行政法人大学(別称:国立大学法人大学)の問題点

大学の独立行政法人化には種々のリスクがあることが広く認識されています。

国立大学法人(仮称)大学は6年毎に改廃審査され、大学の種別化・統廃合が進むことは確実と言われています。大学側が最も心配していることの一つは審査の方法です。それが学術的なものであっても適切なものを見出すのは極めて困難で、ある程度公平と思われるものが確立されるまでには多くの試行錯誤を必要とします。しかし、4段階の審査で最も力をもつのは、(それ自身、問題ある存在であるにせよ)学術的観点を主とする大学評価機構ではなく、2001年1月に新設された文部科学省と総務省です。文部科学省には科学技術政策に関して余り期待できないことはNature の1月号が指摘していることです。総務省は学術的・教育的観点だけでなく国への寄与の度合いを総合的に見て改廃を含めて判断することになっています。産学連携への寄与も重要な判断材料となる可能性もあります。こうして、行政と産業界が大学に直接的関与するシステムが実現し「学問の自由」が大幅に制限されることが予想されます。

もう一つの心配は、財務省を中心とした、高等教育費外部化の強い意向が政府内にあり、国立大学法人化も高等教育財政縮小の手段とみなされていることです。そのため、国からの「運営費交付金」は教育研究の基盤として不十分なものに意図的に設定され、大学は産業界との連携・人件費節約・学生納付金の新設等の経営努力が必要となります。過度の経営努力が、大学の研究・教育の活動を歪め劣化させる例は私立大学で少なくありません。私学助成金制度設立時の国会付帯決議を尊重し、国立大学と同様に国の人材を育成している私立大学に対する国の財政支援を高めることが国の責務なはずです。国立大学を現在の私立大学と同じ財政的状況に近づける政策に賛成する者は財務省の一部の人々以外にいるのでしょうか。

なお、国立大学教職員は非公務員化される方針が決まり、自動的に、教員任免を教学の判断に委ねる教育公務員特例法が廃止されことになりました。教学が経営に従属し教職員の違法解雇も少なくない私立大学と同じ条件に移り、国立大学においても経営陣への教職員の従順化が加速することが懸念されます。
 さらに、「非公務員型独立行政法人化」の方針を国立大学協会が認めたことにより、高等教育費外部化の最終目標である国立大学民営化を実現する際の難関である公務員身分剥奪問題が解決しました。これで、国立大学民営化の準備がほぼ終わったことになります。自民党の麻生議員が述べているように数年後には国立大学法人の民営化が始まるでしょう。学生が(例外的免除を除き)高等教育費をすべて担い、国ないし産業界の要請に従う研究以外は著しく困難になる、国立大学民営化ーーそれが日本社会にどういう影響を与えるか見極める必要があります。

独立行政法人化関連法案は来年の通常国会で審議される予定です。その時に、個人情報法案に対する反対の声に匹敵する反対の声が挙がるように社会に訴えて行く必要があります。


国立大学独立行政法人化政策の経緯

1997年に、行政改革推進本部が国立大学独立行政法人化を検討し始めたとき、文部省は強く反対しましたが、1999年初頭に当時の有馬文部大臣は太田総務庁長官に説得され独立行政法人化容認に方向転換し1999年9月20日に文部省は公式に国立大学の独立行政法人化の方針を公表しました。この制度変更には多くの問題点があり、国公立大学に留まらず学術セクター全体に深刻な影響を与え、ニュージーランドの場合のような惨状に陥れば、回復に多くの年月を要することが危惧されます。学問セクター・大学セクターからの強い懸念の声(日本学術会議会長,日本数学会理事会,nature,国立大学協会会長(99/11/18談話,00/2/11対談),大学教授会等,大学教職員組合,教員(池内氏,柏倉氏,丸山氏,辻下,),学生(団体[京大他],個人))が上がりました。

しかし、政治家・官僚間の交渉水面下で進み、2000年5月に独立行政法人通則法を「利用した」国立大学独立行政法人化の提言が出されました。文部省は2000年5月26日に国公立大学の独立行政法人化を進める意向を表明し制度設計のための調査検討会議へ国立大学が参画することを要請しました。これを受け、国立大学協会は2000年6月13・14日に開かれた定期総会で、独立行政法人化に反対しつつ調査検討会議に参加することを決めました。

調査検討会議が独立行政法人化のための具体的作業を目的としたものであるため、独立行政法人化を国立大学が容認したとの報道が流され大学内部でも問題が決着したと考える人も多くなりました。そのままでは灰色決着になることを危惧し、69国立大学818名の教員が連名で国立大学協会に要望書を出し、調査検討会議参加協力の撤回を求めましたが、国立大学協会は予定通り調査検討会議に協力すると共に、2001年5月に、通則法に基づく法人化案をまとめ6月の第108回国立大学協会定期総会に報告しました。総会では法人化案には多くの反対意見があり了承されたわけではありませんが、会長が了承されたと記者会見で述べたため、「国大協は法人化をほぼ了承した」と報道されました。しかし種々の批判があり7月の国立大学協会理事会で、総会では法人化案の報告を「受け取ることが了承された」だけであることが確認され公表されました

しかし、総会の前日6月11日に開催された臨時経済財政諮問会議に遠山文部科学大臣は大学の構造改革案を呈示しました。産学連携を国立大学の主要な使命とし、そのために国立大学の統廃合・法人化の推進・トップ30育成の政策を唐突に明言しました。そして、2001年7月には来年度概算要求の前提条件として統廃合計画提出を小規模国立大学に強要すると共に、トップ30育成政策で来年度210億円を100専攻・学科にばらまくことを決めたため大規模大学も浮き足立っており、独立行政法人化問題から大学社会の目を反らせる戦略は見事に効を奏しました。「トップ30」政策は余りに大きな批判が各方面からあったため、名称を「世界的教育研究拠点の形成のための重点的支援」と改め、審査も学術振興会に委ねたため、結局、大型の科研費のようになりました。

この間、調査検討会議は1年の検討を経て中間報告「新しい「国立大学法人」像について」を2001年9月27日に公表しパブリックコメントを求めました。科研費申請の忙しい時期であったにもかかわらず、国立大学協会・大学長・理学部長会議・農学系学部長会議・諸団体・大学学部等・組合・個人等よ138通のパブリックコメントがありました。国立大学法人と独立行政法人との違いはないと財務省が判断する中で大学予算削減への懸念と、「大学企業化」を露骨に進めることへの危惧を始めとして、膨大で広汎な批判が表明されました。また、2001年12月のNHK BS1 インターネットディベート「大学改革」では、視聴者からの大学政策批判意見も多く寄せられました。

しかし、最終的には産・官を中心とする小数意見だけを反映した報告が2002年3月26日に発表されました。新聞報道でも政府の関与が強化されることを危惧する意見が多く、日本社会の人々が納得する内容ではないと思われます。しかし、2002年4月19日に開催された国立大学協会臨時総会では、10名を超える学長が批判意見を述べる中で「強行採決」が行われ最終報告書を評価する会長談話を賛成多数で了承しました。議論を尽くさず反対意見を多数で押し切るまでに最終報告書了承を急ぐわけはなぜか?東大・京大などの大手大学と産業界・政府の間に、深い癒着が存在することをこれほど明確に日本社会に示したものはない、と私には思われます。また、「独立行政法人化か民営化」という藤田宙靖氏の「警告」が効を奏したのかも知れません。しかし、これは警告というよりは根拠のない脅しである、という指摘は妥当と思われます。民営化を避けるために、民営化の準備に他ならない独立行政法人化を受け入れることは、無責任あるいは無思慮と言うしかありません。

2001年5月に、国立大学独立行政法人化を国民的な運動で阻止することを使命とする「国立大学独法化阻止 全国ネットワーク」が結成され、大学教員以外の人達も参加し、7月の参議院選挙の際の候補者アンケート、10月5日の議員会館での討論集会「国立大の『独立』行政法人化は真に大学の独立性を高めるか」、文部科学省交渉、の運動を進めると共に、国会請願運動を展開しています。


このサイトの資料などを通し現在の大学政策をご自身で検討し、心配に思われることがありましたら、それを日本社会に伝えるようにしてください。新聞への投書、掲示板への書き込み、あるいは、マスメディアの編集部へ手紙を書くなど、いろいろな意見表明の方法があると思います。政策担当者へ直接意見を伝えることもできます。小泉首相は官邸ホームページに意見箱を設けています。国会議員の電話番号・メールアドレス一覧のページがJCAのウェブサイトにあります。文部科学省へはメールが送れます。また、大学への提言などは、近くの大学に直接気楽に意見を伝えることをお勧めします(大学電話番号簿が掌華房社のホームページにあります)。
Draxler, Alexandra, UNESCO. 2000.4.13
"It seems to me that mobilizing opinion to reflect on the future of universities in Japan, at a point in history that is important for the future of higher education everywhere, is a healthy reaction." (世界全域の高等教育の未来にとって重要なこの時期、意見を結集して日本の大学の未来に反映させようとすることは、健全な態度と私には思われます。)