2004年10月31日(日) |1729033 visits since 2004.10.31 |AcNet Project

香田証生さんを偲ぶメッセージ集

[134] フェア−にお願いします(神奈川)2005-01-23 16:30:52

 NHKでも朝日でも、その他どこでもいいのですが、主要なテレビ局が伝えた過去の放送内容を確認する手段はあるのでしょうか。

 香田さん拉致事件が発生し、悲劇の結末を迎えるまでの10月27日から31日までの間、TVがどういう内容を伝えていたか、ここ最近、特に放送の検閲問題が出てきてから、ずっと気になっています。

 私は香田さん事件が起きた時期は、地震の続報も気になって、夜はTVばかり見ていました。この事件に限らず、色々な出来事の正確な情報を知ろうとすれば、大抵はNHKや大手の局で確認しようとします。新聞でも同じです。でも、あの時流れたあちこちのニュースで、香田さんのことがどれだけ正確に伝えられていたのか、今改めて気になっています。

 今年になって、香田さん事件はとなんだったんだろうと考え、事件発生当時に色々な人達がネットで語った内容などを少しずつチェックし始めました。その過程で、“あれ、こんなのあったっけ?”という情報に度々ぶつかり、更なる疑問を抱え込んでしまいました。

 特に香田さん本人の発言に関して、TVでは全く知らされなかった英語版のメッセージがあったとか、それはアメリカに(?)向けて発信するためのものだといった情報があちこちに載っていて、海外メディアのどこが発信源かも明らかにされていました。でも、インターネットを使わない人はこういう情報に触れることはできません。地方では民放もわずかしか映らない場所さえあります。彼に関する情報の選別基準はなんだったのでしょう。

 あの時、尋常ならざる事態の発生を告げるニュースの中で、救出を求めた香田さんの言葉を、多くの人に可能な限り正確に伝えることが、なぜ叶わなかったのでしょうか。メッセージが長すぎて、放送時間内に収まらなかったからか。地震関連情報の方が優先順位が高かったからか。でも、緊急性からいえば、彼は殺されかけていたのだから、本気で助けようという気持ちがあったなら、SOS信号をできる限り漏らさず伝えようという姿勢があってもよかったのではないでしょうか。
 あの時の香田さんは、自分の考えを言葉に託す以外に、助かる方法を見つけることはできなかったはずです。彼が生きて帰る為には、政府が撤退を自ら決断するか、あるいは世論が動いて政府に決断を迫るかの2つしか方法がなかった。その状況なら、メッセージは日本の一般市民にも向けられていたと考えるのが自然だと思います。彼があの短い2種類の言葉の中に、なんとか伝わってくれ、と込められるだけの意味を込めたとしても不思議ではありません。彼の言葉が(日本語しか聞いていませんが)非常にクリアーだったのは、そのためではないかと私は思ったのですが…。

 しかし、そうした命がけのやり取りが行なわれる、当の窓口となっている場所で、担当者の都合で発言が短くされたり、隠されたりしたら、死の危機に瀕している人間は、一体どうしたらいいのでしょう?
 仮に香田さんのメッセージが細かく正確に伝えられていたとしても、バッシングがむしろネット中心に起こっていることを見れば、必ずしも撤退・救出世論が沸き上がったとは、残念ながら考えにくいです。ただ、「すみませんでした。また、日本に戻りたいです。」は、英語にはないようで(彼はアメリカ人ではないのだから、当然かもしれませんが)、私にはそれが、同じ日本人ならなんとか助けてくれるのではないか、と彼がすがるような思いをかけていたようにも聞こえて、切ないです。全部聞かなければ理解できないこともあったはずです。

 自衛隊派遣延長を決定するか否かの議論が高まると予想されたあの時期のこと。コイズミ純ちゃん総理&ニッポン政府プロデュースの「自衛隊、サマワのさわやか復興人道支援」劇場の真最中に、突如、舞台の書き割りをバリバリと破って乱入してきた証生クン+狂気の武装集団は、舞台を滅茶苦茶にした許しがたい連中だったことでしょう。ふとどき者は“みなさま劇場”の観客たちに向って、大立ち回りで「こんなのは大ウソ!」と言い放ったも同然です。戦争ゴッコに本物の戦争を持ち込んでしまったのですから。こともあろうに公共の電波を独占して…。

「They asked me why japanese government broke the law and sent troops to Iraq.
They want Japanese government and Koizumi, prime minister, to withdraw the Japanese troops from Iraq, or cut my head.」
 
   これが英語の発言だそうです。常日頃から日本で聞かされている、“自衛隊は武器を持っていても軍隊じゃありません。あれは戦争をするためではなく、自衛の為のSelf -Defence Forces なのです!”との言説を、香田さんは図らずもあっさりと否定してくれました。イラクにいる現実の自衛隊を「japanese troops(日本の軍隊、軍勢)」と呼ぶことで。“自衛隊”という言葉自体の自己矛盾。英語で言えば軍隊としか言いようがないのだと分かってしまいます。
 そして、日本のSelf-Defenceのための部隊なら、なぜアメリカと戦争をしているイラクに送り込まれるのか、その矛盾を突く、「なぜ法を破てイラクに自衛隊を派遣したのかと尋ねています」の一言。実際に攻撃を受けていた側の人間の声として、ダイレクトに憲法違反を指摘したという意味では、この表現はダメ押しに近いものだったのではないでしょうか。

   各国の人質は、ひたすら「死にたくない!」と叫ぶ人もいたりして、好き勝手にものを言っていた様子なので、香田さんが「法を破った」や「japanese troops」という表現をあえて使ったのも、ご自分の意志だったと思います。自衛隊派遣応援団にとって、これは強烈なカウンターパンチだったかもしれません。きちんと伝えられていればですが…。
 残念なことに彼のメッセージが切られ、家族へのバッシングが起こり、最後に冷たく見捨てられたのは、この辺りの事情によるのでしょうか。どこかの政治家の方の表現を真似れば、こんな非国民もいないでしょう。時の総理に真正面から呼びかけて、「王サマ、アナタは裸!」と断言したに等しいのですから。その意味では、この青年は確かに無謀でおバカさんだったかもしれませんが、私にはとても勇気ある、心ある人に見えました。

 “皆様のため”や“公正で中立”を謳い文句にしたり、報道の自由を振り回したりするなら、都合の悪い者を事前に排除するのではなく、香田さんのような何の肩書きもない若者でも、そしてあの時、彼と武装勢力のその後ろに存在したであろう、これから殺されるのを待つばかりだった弱い人達をも、せめてフェア−(公正)に扱って、“最低限リングには上げてやれよ”と言いたいです。
 イラクで犠牲になられた方達の声が、きちんと届く日が来て欲しいと願うばかりです。

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画家Maurice Loirand (1922-2008)(同夫人の詩人霜鳥和絵さんは「眠る詩人の木」の著者)のコレクションより:

La grande ferme